〇年後に死ぬジオン士官ちゃん   作:むにゃ枕

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06.ルウム戦役

 反ジオンを表立って主張するコロニー群は、残り一つである。サイド5。通称ルウムだ。これが失われれば、連邦の足場はルナツーだけになるだろう。

 

 ジオンがルウムを同時多発的に攻撃しなかった理由は、幾つかある。

 一つ目が地理的な遠さだ。これは最大の理由である。

 二つ目の理由が釣り餌としての有用性だ。地球連邦艦隊が艦隊決戦を避け、徹底的にゲリラ戦を行ってきた場合、ジオン軍は手を焼くことになるだろう。そうならないための、餌なのだ。

 ルウムがジオン側に転ぶ可能性があったこと、これが三つ目の理由だ。しかし、サイド6のようにはならなかった。

 

 ルウムのテレビ局が、首都バンチでの暴動の様子を放映している。ジオンの放送局もその映像を買い、電波に乗せている。

 ノイアー・ガイスト隊の本部が有るグラナダでも、その映像は流れていた。

 

「ご苦労だったラグナス中尉。シーマ中佐と揉めたという報告が入っている。彼女を逆撫でするような発言をしたらしいな」

「いえ、それは誤解です。シーマ中佐は錯乱しており、冷静でなかったのです」

「まあ、それはどうでもいい。あの中佐はアサクラ大佐の駒だ。海兵隊がどう喚こうと、何も変わらん。

 では、本題に移ろう。君たち、ノイアー・ガイストは目立った戦果を出せていない。これは由々しき事態だ。親衛隊が現場を荒らし、後方から観戦していたという話まで、宇宙攻撃軍では上がっている」

 

 宇宙攻撃軍は、私たちに思うところがあるようだ。ブリティッシュ作戦の指揮を執ったキリング・ダニガン中将が、作戦の失敗を悔やみ自殺したからだろうか。

 私はレテクト少佐への報告書で、阻止限界点で宇宙攻撃軍艦隊がコロニー防衛戦闘から離れたことを指摘した。それが、ギレン総帥の下まで届いたとしたら……

 コロニー落としで生じた死者への罪悪感から自殺したのだろうか。もしくは、ギレン親衛隊に消されたのか。判然としないが、詳しく知りたいとも思わなかった。

 

「あの配置は、最適解でした。私に後悔は有りません」

「そうだろうな」

「ええそうです。では、これにて」

「待ちたまえ、中尉。本題がまだだ。ノイアー・ガイストは親衛隊きってのエース部隊にならなければならない。内外に君たちの力を示す必要があるんだ。一連の戦闘での君たちの戦果は貧弱だ。四人でセイバーフィッシュを3機落としただけだ。

 たった、それだけだ。総帥は結果を出すことを要求している。次の戦闘での多大な戦果を期待しているよ」

 

 うへ~。派閥抗争は嫌だねぇ。敵は連邦軍なのに、どうしてジオン同士で戦おうとするか理解に苦しむ。

 レテクト少佐も上からいろいろと言われたのだろう。そもそも論として、教導機動大隊のライバルとなるのが無理なのだ。

 

 プレッシャーを掛けられたが、部隊の技能が急激に上がるわけではない。訓練で出来ないことが実戦で出来るわけないのだ。普段通りの状態で、私たちはルウムへと赴くこととなった。

 

 ルウムで予想される戦闘は、艦船同士の砲撃戦と、MSや戦闘機の空戦だ。砲撃戦では、連邦軍に分があるが、空戦ではジオンに分がある。

 MSは強力な兵器だ。しかし無敵ではない。幾ばくかの犠牲は出るだろう。それでも、軍上層部は勝てると踏んだのだ。

 

「ノイアー・ガイスト隊指揮官イリス・ラグナス中尉だ。よろしく頼む」

 

 見覚えがある赤いザク。シャア・アズナブルだろう。私と縁があるということで、部隊が協働することになったに違いない。

 

「こちらシャア・アズナブル。久しぶりだなイリス中尉」

「久しぶり。調子はどう?」

「悪くはない。少し緊張しているよ」

 

 嘘つけ、絶対緊張してないだろ。余裕綽々といった態度だ。こっちは上からプレッシャーを掛けられているというのに……

 

「ヴォルフ曹長は私に追随しろ。ハルトマン准尉とディック軍曹も、相互支援を絶やすな。敵艦は小隊単位で潰す。独走するな」

「了解」

 

 私のザクはR型なので、他の小隊メンバーのものよりも速い。しかし1人で突出するわけにはいかない。せっかく成長させた小隊員だ、これからも私の部下だろうから無駄に損耗させたくない。

 

「消極的では? レテクト少佐からも戦果を出すよう言われているでしょう?」

「命令だ。4対1で潰した方が良いだろう。確実性を重視するべきだ」

 

 シャアは、連携というものをガン無視している。個人プレーだ。うちはうち他所は他所だ。

 

「セイバーフイッシュ4機! エンゲージ! ペアを崩すなよ」

 

 セイバーフイッシュの強みは高い直進性とミサイルである。これを崩せば、狩りやすい獲物になる。

 直線的な軌道を避け、巴戦に移行しようとするタイミングで、対艦ライフルをぶっ放す。

 

「中尉…! いきなり撃たないでください」

「当たったから良いだろ?」

 

 射撃のタイミングで一瞬だけ硬直したが、ペアを崩すようなヘマはしない。

 止まると機動兵器の意味がなくなるからな。動かない砲台なんて単なる的だ。

 

「ハルトマン准尉、援護は要るか?」

「不要です! 落とせディック!」

 

 セイバーフィッシュのシグナルが消える。向こうも上手く行ったようだ。

 

「損害は?」

「有りません」

「コイツらの母艦が有るはずだ。潰すぞ」

 

 シャアの小隊は連邦艦隊の前方へ向かったようだ。戦艦や巡洋艦を狙うのだろう。私たちは後方へ向かい空母を叩く。

 後方に浸透するのだ。下手したら袋のネズミになる。しかし、虎穴に潜らんば虎子を得ずと言うように、リスクを取らなければ、リターンは得られない。

 

「後方ですか?」

「なんだ、准尉は戦果に拘る割に不安なのか?」

「まさか。そんなことは有りませんよ」

 

 サラミス級巡洋艦や、レパント級フリゲートが前衛となり、コロンブス級が奥で構えている。美しい輪形陣だ。索敵に優れているようで、レパント級がこちらに砲門を向けた。

 

「沈めるぞ」

「は? 中尉、これは無茶です。敵が多すぎます!」

「黙れ曹長! 行くぞ!」

 

 対艦ライフルは火力が有って良い。レパント級のスラスターをぶち抜き、砲塔を潰す。轟沈してはいないが、ほぼ無力化されているしそのままで良いだろう。

 後方にいたもう一隻も、対艦ライフルでぶち抜く。今度は綺麗に爆発した。

 

「次、サラミスを狙う」

「そっちは、ハルトマンが取り付いてます!」

「なら、空母をやる!」

 

 私はどうも視野が狭いようだ。AWACSが欲しい。状況の把握と、ターゲットの振り分け、そして高機動戦闘。この3つを熟すのはなかなか難題だ。

 

 空母は、艦載機を吐き出してしまっているのだろう。ちまちまと対空砲火を撃って来ている。対空砲は口径も小さいし、面制圧能力もない。護衛を失った空母は単なるデカい的だ。

 開いた格納庫を狙うべく、機動すると、ギリギリのタイミングでセイバーフィッシュが飛び出してきた。めちゃくちゃな機動で、どこかへ飛び出していく。

 逃げていくセイバーフイッシュには構わずに撃ち尽くす。空母は内側から膨張するように爆発した。

 

「こちらは終わったぞ。准尉、どうだ?」

「サラミス2隻きっかり沈めました。被弾も有りません。残弾は半分程度です」

「戦果はコロンブス1、サラミス2、レパント2の5隻か。十分だろう。撤退する」

「まだやれます! 推進剤も十分です」

「私たちはリスクを取って、リターンを得た。次はローリスク、ハイリターンを狙うべきだ」

「どういうことです?」

「帰還する敵航宙機を狙う。敵機は弾薬も推進剤も心もとないだろう。被弾していることも考えられる。手ごろな獲物だ」

 

 先程接敵した4機のセイバーフィッシュは、艦隊の護衛機か攻撃に出た機体だ。空母機動艦隊の予想進路上に居座れば、手負いの獲物が勝手に戻ってくるはずである。

 入れ食い状態になるに違いない。

 

「ヴォルフ曹長、沈没した敵空母の進路予想ベクトルを出せ。友軍機の位置も確認しろ。孤立するのは避けたい」

「はっ。了解しました」

「准尉と軍曹は陰になるデブリを作れ」

 

 私がやるのは、戦闘機能を失ったレパント級のデブリを活用することだ。通信機能が生きていれば使うし、死んでいたら弾避けになってもらう。

 

「こちらジオン公国軍、イリス・ラグナス中尉だ。連邦軍の戦闘艦艇に告ぐ。回線が機能するようであれば、通信を行われたし」

「………………こちら、レパント級アイアス。ルース大尉だ。降伏する。生存者59名を捕虜として扱ってほしい」

 

 しめた。通信機能が生きている。これで、餌に使える。

 

「降伏は認めよう。ただし条件が有る。オープンチャンネルで平文を流せ。内容はそうだな。空母ヒリュウは健在なり。それでいい」

「…貴様、我々を囮にするつもりか…!」 

「条件に応じない場合、捕虜は取らない。猶予は10秒だ。10、9、8、7、6、5、」

 

 破損していた砲塔にライフルを撃ち込む。爆発はしなかった。真剣味が足りない。何人か死ぬくらいでなければ本気にならないだろう。

 

「4、3、2、」

「分かった条件を呑む。頼む、殺さないでくれ」

「オーケー。協力に感謝する」

 

 口約束だし、こいつらを捕虜にするメリットは薄い。面倒だから、後で始末しておこう。

 

「……地獄に落ちますよ、イリス中尉」

「それがどうした?」

「報いが恐ろしくはないんですか? 人を殺し、命を奪うという意味が分かっています」

「この戦争では、一人の命は数字になる。1万人が死んだとして、その1万人それぞれの大事な人や、友人、愛する人。そんなものを気にしても仕方がないだろう?」

「理解できませんね」

「そりゃどうも、仕事の時間だ。潰すぞ」

 

 片翼飛行しているセイバーフィッシュや、明らかに被弾しているパブリク突撃艇などが、五月雨式にやってくる。レパント級を盾にして、狙撃すれば簡単にスコアを稼げる。

 すごい。めっちゃ楽。 

 

「こちら、ムサイ級トルン。艦長のベン・リー大尉だ。そこのザク。貴様のやり方は、明らかに人道に反している。欺瞞した広域通信をやめろ」

「こちら親衛隊イリス・ラグナス中尉です。一般部隊には関係のないことです。黙っていてもらいたい」

「中尉、命令だ。やめろ!」

「親衛隊の階級は、一般部隊の階級の二段階上です。私は、少佐に相当します。あなたに命令できる権利は有りません。どうします? 軍事法廷で親衛隊相手に裁判でもしますか?」

「貴様! ジオン軍人としての誇りはないのか!」

 

 対艦ライフルを構える。ムサイの護衛機であろうザクが反応した。

 

「貴様、味方に銃を向けるか!!」

「バカ! 後ろだ!!」

 

 物凄い勢いでセイバーフィッシュが突っ込んでくる。操縦不能に陥っているのではないだろうか。

 

「止まらない!! 助けて!!! ああああああああ!!!! 神様あああああ!!!」

「回避!! 回避しろ!!」

「あああああ!! ろっくおん!!!???? なにこれ!!?? よくわかんないけど、なんとかなれえええ!!!」

「駄目だァ!!」

「ぎゃああ!」

 

 二機のザクは、セイバーフィッシュが撃ったミサイルにより爆散した。セイバーフィッシュも、速度に耐えかねたのか自壊していく。機体番号に見覚えがある。さっき沈めたコロンブスから逃げていった奴だ。

 

 キャノピーを開いて、操縦士が飛び出してきた。方向は、こっちだ。流石に機体が血まみれになるのは嫌だったので、掌で受け止める。

 

「助かったあああああああ!!!! 神様ありがとうございます。なむなむ。あーめんらーめんスパゲッティ」

 

 うるせぇ! 握りつぶそうかと思ったが、そういうのに五月蠅そうな大尉の前だし、機体が汚れるからやめた。

 

「広域通信を止めます。捕虜もそちらに預けましょう」

「分かった」

 

 ムサイ級トルンは、危険な前線の遭難者を救助しにきたようだ。遭難者は敵味方問わずというのだから頭が上がらない。

 民間から徴用されたベン・リー艦長は、海難事故で遭難したところを、救助された経験が有るようだ。そのため、救助は当然の行動だと語っていた。

 人間の鑑じゃん。めっちゃ偉い。

 

「救助の手伝いですか? イリス中尉、変なもの食べました? それとも点数稼ぎですか?」

「負傷は有りますか? ノーマルスーツの空気漏れは?」

「男でも出来ました?? いないなら俺とデートしましょうよ」

 

 私が、救助の手伝いを申し出た時の部下の反応がこれである。上からハルトマン准尉、ヴォルフ曹長、ディック軍曹の反応だ。こいつら……

 戦果は出したし、いい人の手伝いくらいしてもいいじゃないか。

 まあ、宇宙攻撃軍の間で、親衛隊の評判が悪いし、媚びを売っておかないとマズイという事情もある。

 

 それに、シーマ中佐が言いふらしたのか、海兵隊を中心に突撃機動軍でも、アウェイな感じになっている。

 おかしい。アイランドイフィッシュの制圧を手伝って、コロニー落としに協力しただけなのに…… 

 

 連邦軍にも素性が割れているようで、親衛隊の悪魔呼ばわりされているようだ。レテクト少佐が面白がって私に話してきた。

 少額ながら、サイド2出身者が私の首に賞金を掛けているらしい。めっちゃ憎まれている。 

 

 敵に狙われるのも嫌だ。味方とギスるのも嫌である。好感度を稼がなければ、そのうち味方に後ろから撃たれそうだ。

 

 ベン・リー艦長と一緒に掃海作業をしながら、生存者を探して回った。意外と生き残っている。72時間がレッドラインと言われているが、100時間経っても生存者が見つかったのには驚いた。

 

 ルウム戦役を勝利したことで、ジオンは終戦への切符を手に入れた。はずなのだ。そうに違いない。

 南極での終戦交渉が間もなく始まる。以前ほど自信を持って、勝利したと思えなくなっている。それでも、勝ったと信じたかった。

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