ジオン公国軍は、戦争を終わらせるための決定打を持てなかった。短期で終わるはずの戦争はずるずると続くこととなった。
連邦の継戦能力を奪わなければ戦争は終わらない。継戦能力を奪うためにジオンが行ったのが、地球降下作戦だった。
「少佐。意見具申します」
「聞こう」
若干面倒くさそうに、私の相手をするレテクト少佐。何故面倒くさそうにする。ジオンの一大事じゃないか。
「地球降下作戦についてです! 親衛隊の一将校として、この作戦に反対します!」
「決まったことだ。君たちはこの作戦に参加しない。故に意見する権利を持たない。分かったか?」
全然分からない。地球に兵力を突っ込んだら負けるに決まっている。
「私たちノイアー・ガイストには余裕があります。コロニーを再度落とす。質量物や小惑星を落とす。マスドライバーでピンポイント攻撃など、取れる手段は有ります。このままでは負けます! それを見逃せと言うのですか!?」
「残念ながら、マスドライバーについては突撃機動軍のインビジブルナイツが進めている。コロニーや小惑星といったものは、艦隊決戦になる。地球に落とす質量物を護衛する兵力がない」
兵力が無いだと? 地球に人員を突っ込むのであれば、艦隊決戦をするべきだ。損耗を考えず戦えば2回目のコロニー落としが出来るはずなのだ!
「総帥にお目通りを…! 地球降下作戦などするのなら、艦隊決戦を行い、連邦軍を潰すべきなのです!」
「イリス大尉。君の鈍感さにはいつも驚かされるよ。地球方面軍の構成は知っているだろう??」
「突撃機動軍が主体となるそう…!? ま、まさか、この期に及んで政争ですか…!!」
バカ野郎が!! 阿呆すぎる! なんで内ゲバしてるんだよ!!
「突撃機動軍は地球方面軍に多数の兵員を供出するだろう。宇宙攻撃軍は、本国から地球への輸送を担わねばならなくなる。その隙を連邦は見逃さないはずだ。
突撃機動軍と、宇宙攻撃軍、地球連邦軍が潰しあい疲弊すれば、数に劣る親衛隊でも御せるようになると思わないか?」
「全く思いません!! 非効率過ぎます!」
クソクソクソクソクソ!
「軍事的には非効率だが、政治的には効率的だ。総帥は、この戦争に勝てると踏んでいる。最後に立っているのは我々親衛隊だ。くれぐれも暴発するなよ。ノイアー・ガイストには役割が有るからな」
「役割!! こんなクソッタレな親衛隊のですか!」
「ああ。君たちはジョーカーだからな」
「失礼します!!!!」
腸が煮えくり返りそうだ。政治的な効率を求めるだと!
戦争相手である地球連邦軍と、
だが、私の敵は地球連邦を構成するアースノイドと、連邦に味方するクソスペースノイドだ。サイド3の仲間を陰謀の犠牲にすることは許容出来ない。
そう思っていても、何も出来ないので酒を飲むことでストレスを晴らすことにした。
「大尉、外出ですか? アタシも行きます!」
「ああ。構わない。着いてこい」
「えぇ!? デレ期ですか! ツンツンしてる大尉が可愛くなったぁ!!」
レーカがアホなことを言っている。人並みには付き合いがあるし、人並みには気を遣っているんだよ。お前以外には。
「どこ行くんです!! どこ行くんです!?」
「自棄酒だ」
「お酒ですか!! アタシもお酒好きです!! やったぁ! 大尉とお酒飲めてうれしいぃ!」
飲み食べ放題の大衆店に入る。レーカ少尉を連れているので高級店に行くわけには行かない。アホの少尉が高級店で痛飲できる金を持っているはずがない。
「かんぱーい! イリスちゃん奢りありがとー!」
「奢るとは言ってない……」
「アタシの財布です。どうぞ〜」
ひっくり返すが何も入っていなかった。ここまで来ると呆れてしまう。
「給料はどうした?」
「自分自身の保釈金で消えました!」
「そうか」
案外、世知辛い事情があったようだ。ここは奢ってやろう。
「もう、おかしいよジオン軍、なんで味方同士でギスギスしてんの!! みんなで一体となって連邦という悪を潰さないと! でしょ! レーカ!」
「そうでしゅ! みんな仲良くしましょう! お酒飲めばハッピー! いえー!」
「そうだ! そうだぁ!」
良い感じに酔ってきたので、グラナダの飲み屋を全部飲み歩くぞ!!! まずは二軒目だぁ!
「れんぽーはクソです。じおんもくそです。アタシに優しくしてくれた子が、ジオンに殺されたんですぅ〜」
「そんな、許せない! 連邦もジオンも潰すべきた!!」
「そーですよ〜! こんな世界、お酒で溺れちゃえばよいんですよ! うぇぇーん! ユリンちゃ〜ん。なんで死んじゃったの〜! うぇぇーん」
「そうだー! ザビ家のバカヤロー!」
「おしっこ」
「待て、ここでするな! 服を脱げ! あー!!」
「ぬれたー。あはははははは」
「なんで漏らすんだよ! バカー。あはっ、あはははは」
「あっ、おまわりさん違うんです〜」
「公権力の狗か。失せろ。キシリアと寝たんだろ? あのババアのおっぱいは美味かったか?」
「ちょっ、イリスちゃん。やめなよ」
「警察は嫌いなんだよ! お父さんとお母さんを守れなかった! 無能の集まり! ゴミが! 死ねぇぇ!!」
「あっ、おまわりさんがきぜつしてる……」
「何だぁ? やろうって言うのか? 私はジオン軍の大尉だぞ!」
「0212、現行犯逮捕!」
頭が痛いし、お腹が痛い。撃たれたような痛みがお腹からする。自分から吐瀉物とアンモニアの臭いがする。尻と背中が濡れていて不快だ。多分、飲み過ぎて漏らした。あと、撃たれたような??
背中の下はコンクリートの床だった。全身がガチガチで痛い。凍死していないで良かった。
「イリス・ラグナス大尉? 申し開きは有るかな? 私は非常に失望しているし、怒っている。私は、君に暴発するなと忠告したはずだが?」
「……有りません。自分の不明です」
「グラナダ市警4名に重軽傷を与え、大立ち回りを行った上で、テーザーガンで撃たれたと。
栄誉有る親衛隊の軍服を反吐と尿で汚したんだ。処罰を与えなければならない」
回収された私は、着替えさせられ、少佐の前に立たせられた。レーカも一緒に立っている。
不名誉除隊だろうか? やらかしてしまった。まぁ、別に良い。多分、死ぬわけじゃないし……
「貴様の喧嘩は既に広められた。これにより、月面でのジオン軍のイメージは大いに低下した。
失点が大きすぎる。私諸共、親衛隊から追放だ。地球降下作戦に懲罰部隊として最前線で参加できるぞ」
「寛大な処置に感謝します」
「ノイアー・ガイストは一応存続出来るそうだ。懲罰部隊となり、親衛隊の特権は無くなったがな!!」
グラナダの基地からも追い出されるようだ。荷物を纏めて出ていくように通達された。
テクナ・レテクト少佐は、前線指揮官となった。私はMS部隊の部隊長だ。MS2個小隊と、整備兵、そして歩兵戦闘車とそれに乗る随伴歩兵。元親衛隊だからか、なかなか豪華な部隊である。
ベン・リー大尉のムサイ級ウラルからHLVで降下する。一番槍だ。HLVの操縦桿を他人に委ねたくないので、私が握っている。私が一番操縦が上手いからな。
レテクト少佐とレーカ少尉、そしてナヴィ伍長が操縦室に詰め掛けている。
「ラグナス大尉。頼んだぞ。君はニュータイプなんだ。僕はまだこんなところで死にたくない」
「ニュータイプ? そんなの単なる理論ですよ」
「君たちがそうなんだ。そうでなければ僕が困る! まだ死にたくないんだ!」
地上からミサイルがバンバン飛んでくる。ジェット戦闘機も迎撃に来たようだ。
唐突に隣のHLVが爆散した。
「やられましたね。なむなむ。らーめん」
「……アーメンじゃない?」
「そうかも!」
「うるさいぞ…! 僕は初めての前線なんだぞ!」
モノクルがずり落ちている。少佐の糸目が開いており、露骨に慌てている。
「よし、残り1000ftだ! 頼む大尉! 無事に降ろしてくれぇ」
実は、部隊規模が大きいためHLVは2つに分けている。ハルトマン准尉が乗っている方のHLVは、無事に先に降下していた。レテクト少佐は騒ぎすぎなのだ。
「騒ぎ過ぎですよ。部隊指揮官なんですからもっとじっくり構えてください」
「これが落ち着いていられるか! 総帥からも見放されたんだぞ! 大尉のせいだからな、地球なんて汚くて嫌いなんだよ!」
その後、HLVは着陸。私たちは無事に北米の大地を踏むことが出来た。
重力下にセッティングしたMS-06Rは好調だ。他のMS-06Gも調子が良さそうである。
ひいひい言っている少佐を指揮車に収めると、私たちは、街道の威力偵察に向かった。
「ナヴィ伍長! 君は目が良い。上手く敵を見つけてくれ」
「は、はい。頑張りましゅ!」
地球には、重力がある。両親に連れられて地球には来たことは有るが、その時よりも重力が重い。
「こ、攻撃されてます!! きゃああぁぁ!!」
「ハルトマン隊は待機。本部の守備を行え。救援は不要だ。ヴォルフ軍曹、レーカ少尉は私に続け!」
単独偵察なんてさせるんじゃなかった。連邦軍など大したことはないと侮っていたかもしれない。
「ナヴィ機無事です! ナヴィ機は地雷原に突っ込んだようです。さらに対戦車ミサイルを喰らってますね。キルゾーンに追い込まれているはずなのに、無傷なようです」
変なところで器用だな。普通なら死んでいる。そもそもMSによる偵察が無謀だったのかもしれない。
「敵の地雷原を啓開しつつ、伏兵を排除する。マシンガンを連射しつつ吶喊する。用意しろ」
「了解」
「あの、伍長はどうするんですか?」
「死にはしないだろう。囮役をしてもらう」
伍長はパニックになっているのだろう。反撃もせずに一方的に追い込まれている。
「連中、ドローンを使ってるな」
「ミノフスキー粒子を散布してないですからね。そりゃあ使えるでしょう」
しかし、偵察の段階でミノフスキー粒子を散布するべきだったのだろうか? 宇宙戦闘の常識だと、ミノフスキー粒子濃度の上昇は敵の接近を意味する。
「ミノフスキー粒子を散布する。データリンクの消失に備えろ」
制御を失ったドローンがバタバタと落ちる。対戦車地雷は、感圧式ではなく、ドローンの映像から爆破させていたのだろう。だが、それも出来なくなった。
「敵、歩兵露見しました。戸惑っているようです」
「突撃する!」
「了解、突撃!」
「はいはーい。突撃しまーす」
120mmという戦車砲と同等の口径を持つザクマシンガンは、敵兵を一瞬で粉々にし、地雷原を啓開した。
「攻撃やめろ」
敵のキルゾーンが構築されていた辺りは、消え去っていた。もしかして、ザクって陸戦でめちゃくちゃ強いんじゃないか??
戦車砲と同等の口径を持ち、戦車以上の機動が出来る。さらにミノフスキー粒子により、戦車の弱点である歩兵から連携が失われている。
冷静に考えたら、ザクとは別でマゼラ・アイン空挺戦車も欲しい。マゼラ・アタックよりも正当派のマゼラ・アインなら、連邦軍の61式ともやりあえるだろう。何より車高が低い。ザクは平地ではデカすぎて良い的になる。
サクラメントからロサンゼルスにかけての都市を制圧するのが、ノイアー・ガイストの役目である。しかし、北米大陸は広すぎる。しかも、ノイアー・ガイストの歩兵は1個中隊程度しかいない。
「レテクト少佐、街道の地雷原の啓開と、敵兵を排除したとの報告が」
「よし。サクラメントに向け南下しろ。敵の捕虜は取るな」
「しかし、補給が足りなくなりますよ。歩兵戦闘車の燃料が不足します」
「現地調達を行え。略奪しても良い。ハルトマン准尉は主計上がりだったな。調達もしくは略奪した燃料や食料は後ほど集計し軍票で払っておけ」
司令部がヤバい会話をしてる。そもそも私たちには占領統治のノウハウがない。
宇宙攻撃軍は、生き残ったコロニーに向けて支援や占領統治を行っている。突撃機動軍も、地球方面軍に向けて占領統治のマニュアルを作成している。
しかしこちらは、ギレン親衛隊上がりの懲罰部隊だ。マニュアルも無ければノウハウもない。
「レテクト少佐、頑張ってください。私は戦闘しか出来ませんので」
「ラグナス大尉! 貴様がグラナダで酔って喧嘩をしなければこうはならなかったんだぞ!」
サクラメントへ向けて南下を続けているのだが、問題が生じた。撤退した連邦軍が、市街戦に持ち込もうと街に入りはじめたのだ。
市街戦をすれば、多大な犠牲が出る。懲罰部隊なので、碌な補充が来ないだろう。マトモに市街戦をすれば、味方の被害も甚大だ。これは困った。
「こちらラグナス大尉です。レテクト少佐、どうしますか? 市街戦になれば犠牲が出ます。後続を待ち、補給を充足させてから市街戦を行うべきです」
「街が問題なんだろう? 焼けばどうだ?」
「は? 国際法違反ですよ?」
「ラグナス大尉、コロニーにGGガスを注入し、コロニーを落とした君がそれを言うのか? 奪ったガソリンなら有るだろう。それで、焼けば良いじゃないか」
倫理の是非は棚上げするとして、技術的に可能なのだろうか? 歩兵士官や、技術士官を交え、可能であるかを検討した結果、出来そうということになった。
「ほら、言っただろう。ラグナス大尉。出来るんだ。やりたまえ」
「はい! アタシは反対です! なんかお肉が食べられなく成りそうです。それに子供とかお母さんとか可哀想じゃないですか」
「ふむ。分かった。勧告は出そう。連邦が応じなければ街を焼く。それで良いな? ラグナス大尉?」
「まあ、構いませんよ。良い案だとは思いませんけどね」
やっちゃって良いのかなぁ?? ちょっと心配だ。まあ、コロニーにGGガスを注入したり、コロニー落としたりしてもお咎めなしだったから大丈夫だろう。
グラナダの件? あれは、利用価値が有るっぽいルナリアンと外交問題になっちゃったから……
「連邦は勧告に応じないな」
「本当にやるんですか?」
「やるしかないだろう。仕方がない、焼くぞ」
即席の火炎放射器で、街を焼いていく。火災旋風が生じて良い感じに焼けるはずだ。
地獄もかくやという状況が生じている。火が収まってから、街に入った。
炭化した両親の遺体に縋り付いて泣いている少女が私の印象に残った。あれは、
「ヴォルフ曹長。最悪な気分だよ。街の奴らは私たちを許さないだろう。核について忠告してくれたことが有っただろう。ようやく実感を伴って、理解できた。虐殺とか非道なことは、余りやらない方が良いのかもしれないな」
「もう手遅れですよ。ジオンはやりすぎました。俺たちも同じです」
ジオンはやり過ぎたかもしれない。連邦政府が瓦解しようが、悲劇に直面した彼ら彼女らは、是が非でも復讐を行うだろう。
本当の意味でスペースノイドの独立は達成できないし、憎しみの連鎖が終わることもない。
ちょっとヤバいかもしれない。このままでは、戦後に処刑されてしまう……! もう、こうなったら戦果を上げまくって影響力を稼ぐしかないのではないか!
私はまだ死にたくないのだ! 焼け跡で豚串を食ってるレーカ少尉ほど私は図太くない。肉、食えてるじゃないか。