完璧なRPができる魔法使い系Vtuberになりたいです! ~え、実際に異世界攻略してこい? 無理ですってば!~   作:しらほし

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私、デビュー前の新人Vtuber! 異世界で経験積んでます! ……なんで!?

 

 

 

ぬかるんだ泥で滑り、地面から顔を出した木の根に足をとられ、転がりながら逃げ惑う。

 

 

()()らの足音は近い。ビチャビチャと足音を殺しもせずに迫ってくる。

群れに対し、たった一人で逃げる私は、圧倒的に弱者だと思われている。

 

 

息の音を可能な限り抑えながら深呼吸。運よく見つからない間に呼吸が整った。

再度逃げ出そうと足に力を入れると、足元の砂利が鳴ってしまった。

 

 

「ギギィッ!」

 

 

まずいと思って走り出したが、遅かった。

横の木の陰から緑色の肌の小人、ゴブリンが飛び掛かる。

腕に抱きつかれた重みで足をとめられた。このままでは二匹目以降にも対処できない。

 

 

「……! ええい!」

 

 

意を決してつかまれた腕ごと炎魔法で焼き尽くす。どうせゴブリンに()()()()()()()()()()地獄だ。死ぬまで()()()()()

腕の激痛で、自分の意志とは関係なく全身の動きが止まってしまう。その間に背中から何匹か近づいている。痛みをこらえながら振り向きざまに炎魔法、遠くの一匹に直撃。

ナマクラな刃を振りかざしてきた近くの三匹には自爆魔法を食らわせてやる。まだ遠くには六、七匹くらいの姿が見えている。群れを全滅はさせられないけど、自爆で数は減らすのが今の最善手だと思う。

 

 

死ぬほどの痛みとともに視界が光に包まれたかと思えば、次の瞬間なのか実際にはいくらか時間がたっているのか、ともかく私は村の馬小屋で目を覚ました。

 

 

「はぁ~~~、また経験値ロスったーーー」

 

 

私はこの世界で死んでも前に眠った場所で目が覚める。ちょうどマイ〇クラフトのような感じだ。死んでしまったときに、ため込んでいた経験値がリセットされるところまで同じにしないでほしかった。

けれど、一度レベルを上げたらレベルはそのままだし、そのときに育った能力値まで下がるわけではない。それが救いだ。その仕組みでなければゴブリンを一撃で倒せるほどの魔法は一生習得できなかった。

 

 

馬小屋のワラを手で払いながら立ち上がる。フードやスカートに入り込んだワラは丁寧に取り除く。リスポーン地点に戻っても衣服はきちんと着たまま蘇るのだ。

 

 

私、小原日向子(ひなこ)は、Vtuber〝ナイ・カテリーナ〟としてデビュー間近だった。もっと詳しく言うとデビューの前の日の夜にこの世界に飛ばされてきた。

 

 

そして今の私の姿は、小原日向子ではなくナイ・カテリーナの姿になっている。

黒のローブは裏地が紫色になっていて、魔女っ子のとんがり帽子の代わりにフードがある。インナーはクリーム色のブラウスで、下半身は薄い紺色のロングスカートがふわりと広がるデザインだ。

 

 

異世界に来ていることもバーチャルの姿になっていることも、全ては神頼みなんていう何が起きるか分からないことをしてしまったからだ。

 

 

今、Vtuber業界では勢いのある企業からデビュー出来ることになったものの、初配信の用意はありきたり。ドカンと一発かませるような個性もなく、不安で不安で仕方なかった私は、神様に祈ってしまったのだ。

 

 

「神様! 私を理想のVtuberになれるようにしてください!」

「あいよ」

 

 

あまりにも気の抜けた返事とは裏腹に、放り出された異世界は過酷だった。

Vtuberとしてのアバターがあまりにも小綺麗すぎて、盗賊に狙われるわ、買い物や宿では値段を吹っ掛けられるわ。モンスターとの戦闘は、魔法の使い方に気づくまで何度もあっさり殺された。

 

 

おそらく私がぼんやりと、「せめて魔法使いらしく、RP(ロールプレイ)だけはしっかりとやっていきたい」と思っていたのをくみ取られたからこの姿になったのだろうけど、この生きにくさになるのはちょっとあんまりではないかな?

 

 

人間、モンスター合わせて百回以上の死を経験してからは数えなくなったけど、おそらく三百回程度は死にながら、なんとかゴブリン程度なら一撃で焼殺できるまでになった。

 

 

おかげ様で異世界魔法使いとしての経験は嫌というほどに積むことができた。デビュー配信は「ゴブリンと戦ったことはありますか?」というトークテーマが使えるはず。……いや、ゴブリンと戦うのが主題のアニメが少し前に放送されてたっけ? 別のモンスターの話をした方がいいかな?

 

 

そんなことを考えつつ、軽く柔軟体操をしてから再びゴブリンが住処を作ってしまった森へと歩き出す。

 

 

この体では食事や水分補給、そして排泄の必要はないみたい。そこに関しては神様に感謝してもいい。水や保存食を抱えて旅をしなければならなかったなら、そのために稼がないといけなかっただろうし、単に荷物としても重い。戦いに向かう効率が悪くなり、レベルアップがもっと先のことになっていただろう。

 

 

さて、そんなことはともかくとして、私が元の現代日本に帰るための条件について。

 

 

「君が一区切りついたなと思ったら一旦戻れるよ。デビュー前日に戻るからね」

 

 

神様はそう言っていた。つまり、私が何らかの区切りをつけるまでは帰れないということ。

 

 

区切りとして真っ先に思い浮かんだのは、ロールプレイに必要な経験を十分にすることだった。魔法使いVとしてデビューするのが不安だったから神に祈ったわけで、その不安が取り払われたならそれはもう一区切りついたといっても過言ではないのでは? と。

 

 

でも、今もまだこの世界に縛られている。ならきっと、そういう気持ちの問題ではなく、具体的な出来事で区切りをつけないといけないのかもしれない。

 

 

だとしたら、おそらく今受けている依頼、村近くに住み着いたゴブリンの群れの退治が()()になる。

ゴブリンたちは村の食糧や家畜を奪うだけでなく、女性をさらって繁殖のために使っている。私が勝手に区切りをつけていなくなってしまったら、この村は次の冒険者が来るまでに甚大な被害を受けるだろう。村が滅びずなんとか生き残ったとしても、家畜が減ってしまっては稼ぐに困り、結局は野垂れ死んでしまうかもしれない。そんなことは許されない。

 

 

……きちんとキャラ設定や世界観に合った発言をするロールプレイ重視のVtuberになりたいとは思っていたけど、ここまで重い体験をすることになるとは思わなかったな。

 

 

私が最初に理想とした『お話しできるアニメキャラみたいに可愛い子』というVtuber像は、私が思っていたよりも過酷な道だったのかもしれない。……いや、ロールプレイ重視の子たちがみんなこんなことしてるわけはないけどね!

 

 

ともかく、今回の依頼のことだ。私は死んだら宿に戻るという特性を生かし、普通の冒険者ではありえないスピードで経験を積んだ。冒険者にとってのセオリーや禁忌、その理由を身をもって体験した。ベテラン級の失敗と改善の経験を無理やり詰め込んだ。

 

 

そうして一人でも群れの討伐依頼を受けることが許されるランクまで上り詰め、これが初めての群れ討伐だ。初めてだからと甘えず、ゴブリンは一匹残らず駆除しないといけない。たとえ、さらわれた女性のお腹にいるゴブリンだとしても。

 

 

「おそらくあと二十~三十匹の巣だ。頑張れ、私」

 

 

ゴブリンの新しい個体が産まれる前に再攻略するため、私は駆け出した。

 







※4/20 少々加筆

前置きというか導入というかが長くなりましたが、あくまでもVtuberもののつもりなので次回はもう初配信です。

万が一需要が出てきたら番外編にして書き加えます。
そもそも書き続けられるかな

異世界戦闘のシーンはまた本編でいつか出てきます。
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