完璧なRPができる魔法使い系Vtuberになりたいです! ~え、実際に異世界攻略してこい? 無理ですってば!~ 作:しらほし
自分でも不思議なことに、熟睡しているはずの私は小さな音で目覚めた。
のそりと布団から体を起こして、寝ぼけ眼のまま音のするほうに顔を向ける。眠さに目を閉じては開いてを繰り返しているが、耳から入る情報は強烈な危機感と違和感を示していた。
カチリ……カチャカチャカチャ……カリ、カチリ……。
賊だ。異世界でも宿屋に泊まっているときには何度か来たことがある。馬小屋に泊まっているような旅人からははした金しか期待できないけど、宿屋に泊まるような客なら狙う価値がある。
マンションにどのように入り込んだのか、もしくは賊こそが建物の住人なのか、……ゲーム配信が終わって寝静まったところを狙ったのだとしたら、住人のほうかもしれない。もしくはこんな時間まで外から部屋の明かりが消えるのを見張って待っていた変態か。どちらにせよここには先輩が寝ている。守らないと。
なるべく音を立てないように眠い頭を叩いて覚醒を促す。鍵を突破出来なければそれでいい。金属音を鳴らして手こずっているようだから、こじ開けようとした痕跡が残るはず。明日の朝にでも大家さんに報告して鍵を変えるなり、別の空き部屋に住ませてもらうなりを頼もう。それができないなら、最悪貴重品だけ持ってきて私の家に来てもらおう。そのときはパソコンを持ち出すのが難しそうだけど。
ロロ先輩の家は玄関からのびるちょっとした廊下を歩いてくると、リビングダイニングや私たちが寝ている部屋の方に繋がっている。廊下からリビングダイニングに入るところの角で身を隠して待ち、手のひらに魔力を込めてみる。
異世界で魔法を使っていた時と何ら遜色ない密度で魔力を生成できる。これなら魔法が使えるはずだ。相手はゴブリンではないから手加減はしないと。一撃で命を奪うほどの威力では火事になりかねない。上手く無力化できるか分からないけど、まずは弱い魔法を試してみよう。ダメなら、容赦する暇はない。異世界で学んだんだ。人間相手でもモンスター相手でも、やらないとやられるんだから。
賊の武器は何だ? 狭い空間に長物は持ち込まないだろう。手に入れやすいものはバットか、ホームセンターで売っているような農耕具か……。
ガチャン。無慈悲に鍵の開く音がした。
「……んえ?」
奥の部屋から声がした。そして掛布団が動く音。先輩も起きてしまった!? まずいかもしれない! もしこちらに来て侵入者に見られたら真っ先に狙われるかもしれない。そして、恐怖で錯乱した人はパニックで予想外の行動を起こすことがある!
「リーナちゃん、出かけるの……?」
そう言って奥の部屋から先輩が出てくるのと、玄関のドアが開いたのはほぼ同時だった。
「奥に逃げて!」
大声で指示を出したけど、まだ眠そうな先輩には伝わらなかった。ドカドカと靴も脱がずに入ってくる無礼者の足音が響く。
それから数瞬の間が開いて、ようやく侵入者の姿と危険を認識できた先輩が悲鳴を上げる。
「キャー!!!!」
しかしそのときには私が先輩と侵入者の間に立ちふさがった。男一人、背は高いか。
入り込んできた男は若干驚いたようにスピードをゆるめるが、割り込んできたのもか弱そうな女性だと分かると、再びズンズンと歩いてきた。
得物はナイフ。右手だけ。左手を伸ばして私を掴もうとしてくる。まずは左手と私の間の空間に火の玉を生成。勢いを止められなかった男は火の玉に掌を押し当ててしまう。
「ぃぎゃっ!?」
予想外のことに男が声を上げる。自分の手の中で何が起きたか理解してはいないだろう。
そのまま何も分からず倒れてほしい……!
驚きでのけぞり気味の姿勢をしている男のアゴに目掛けて、炸裂魔法を飛ばす。炎魔法から派生する魔法だけど、これは燃やさないで済む魔法だ。着弾したら割と大きな音とともに、魔力が破裂するだけ。その衝撃でいい感じに無力化させたい。
至近距離で避けられるわけもなく、男は破裂音とともに頭を爆風に打ち上げられる。次の魔法も準備していたけど、背中から倒れた男は指や膝をピクピクさせて動けないでいる。おそらく脳震盪を起こしている。
念のため右手を踏みつぶして、倒れたときに落とされたナイフを回収。踏みつぶされた痛みに体は反応していたので起き上がってくるかもしれない。
念には念を入れ再び炸裂魔法を至近距離で撃ってやる。かなり大きな音が鳴ってしまった。ご近所迷惑かもしれないけど、こちらの身の安全が最優先だ。
今度こそ動かなくなった男の呼吸があることを確認し、一安心。どっとたまった緊張疲れとともに息を吐きだす。
……さて、どうすれば先輩を怖がらせなくて済むか。たぶん、何も言わずに先輩の方を振り向いても怖いだろうし、何て言い訳しても怖いものは怖いよね。
そう悩み始めた私のもとに、なんと先輩が近づいてきた。
どう思われたかな。
恐る恐る先輩の方を向いた瞬間、小柄な先輩の体がトンと当たった。──いや、背中に手を回されている。つまり、抱きしめられている。
「……リーナちゃん、……怖かった」
泣きそうなのか泣いているのか、昨日から聞いていた声が嘘だったかのように今の声は弱々しい。
「…………すみません、そうですよね。いきなりこんなの見せて怖かったですよね」
玄関を破ってズカズカと近づく侵入者だけでもトラウマものな上に、人間離れしたナニカを操って一瞬で男をのしてしまう私のことも怖かっただろう。それはもう、先輩から見れば疑いようもなくバケモノだ。
「…………怪我はしてない?」
私の胸に顔をうずめていた先輩がこちらを見た。怖さに震える泣き顔、でも、こわばった顔の中でも、視線が心配の色をしている。怖かったのはあくまでも侵入者の男だけで、私は心配してもらっているってことでいいのかな?
心の中で大きく安堵のため息をつく。
「……ええ。私はノーダメージですよ。大丈夫です。こんなの慣れっ──」
「大丈夫だったならよかった!! けどアカンよ!! 危ないよ!! ナイフで刺されてたら死んでたかもしれへん!!」
慣れっこですから。と言おうとしたのが遮られた。
先輩に腕ごと抱きしめられて動かせなくなった手元には、男が持ち込んだナイフがある。あちらの世界では護身用にもならないくらい頼りない武器だが、たしかに凶器としては十分な威力がある。そのあたりの感覚はマヒしていたのかもしれない。そして、今更思い至って、私はどっと冷や汗をかき始めた。あれ? 私ってこっちでは普通に死んじゃうかもしれないのか。と。
「……ほんとうにごめんなさい。もう無茶はしません」
生死の瀬戸際だったと自覚が芽生え、無茶をやった実感たっぷりに謝る。
この後、警察を呼んだり、ご近所さんで起きてきた人が野次馬をしに来たり、色々と大変だった。魔法ではなく殴って気絶させたことにしたけど、過剰な防衛をこっぴどく叱られたので誠心誠意謝ってきた。犯人が持ち込んだナイフを素手でがっつり握ってしまったことも大層怒られた。
それでも、犯人の左手の火傷については
数日間そういったことへの対処に時間を取られてしまったが、なんとか色んなことがまとまりかけたと思ったある日。
一人で寝るのが怖くなったとのことで、先輩が私の家に泊まることになった。一緒にご飯やお菓子を食べて、配信はせずに一緒にゲームで遊んで、眠りにつこうとするとき、先輩がまた一人で寝るのは怖いと主張し、同じ部屋で寝るだけでは許してくれなかったので同じ布団に入れてあげた。
「……やっぱり、二人じゃベッド狭いですよ。落ちますよ?」
「しっかりリーナちゃん抱きしめて寝るから大丈夫やって。抱き枕になって」
抱き枕にされると、いざという時に動けなくて本末転倒なんだけど、それで先輩が安心して寝てくれるなら仕方ないか。私がごろんと寝返りを打って横向きに寝ると、先輩が私の胸に顔をうずめた。これをされるのは侵入者を倒した直後ぶりだ。
「……なぁ、リーナちゃん」
「なんですか?」
先輩の顔はどんなに頑張っても見えない。
「リーナちゃんは本当に魔法使いだったりするん?」
私の胸の中でくぐもった声に、どう答えるのが正解だったかは分からない。
「さぁ……」
誤魔化しにもならない返事に、先輩はフフと笑って「まぁええわ。おやすみ」と答えた。
相変わらず抱きしめられたままで私は眠れる気がしないけど、しばらくしたら先輩の寝息が聞こえてきた。
起こさないよう慎重に体勢を変えたり抱きしめられていた腕をはがしたりして、先輩をベッドに残し、布団に移動してようやく就寝した。魔法のことはこれ以上ばれないようにしたい。けど、同じようにこのチカラでないと救えない誰かがいたのなら、私はまた使うことになるだろう。
その結論を自問自答的に肯定しながら、私は眠りに落ちた。
百合の香りがようやく香ってくるところまで来ました……でも香るくらいでとどめたい。
4/25 1:40 炸裂重視の炎魔法、のあたりが分かりにくかったので、おとなしく炸裂するだけの魔法に書き換えました。