朝、目覚めるとすでに窓の外は明るかった。カーテンの隙間から差し込む陽光が、ベッドに横たわる俺の顔を優しく照らす。枕元に置かれたスマートフォンを手に取ると、そこには今日の予定が通知されていた。
「午前十時、面談」
そうだった。今日は月に一度の「男性フォロー面談」がある日だ。俺は軽く伸びをしてから、ゆっくりとベッドを抜け出した。
この世界では、男は慎ましく、女性に守られるべき存在とされている。社会的な役割も、女性が主導することが当然とされ、企業の経営者や政治家、警察官や軍人など、責任のある職務はほぼ全て女性が担っている。
それに対して、男性は家庭を支え、良き伴侶となるための義務を果たさなければならない。その一環として設けられたのが、「搾精義務」だった。
成人した男性には、この義務が正式に課せられる。俺も十八歳になったとき、政府からの通知を受け取った。それは、俺が社会の一員として果たすべき責務を示すものであり、逃れることは許されない。
搾精義務とは、国が定めた精液提供制度であり、適齢期の男性は定期的に精液を提供することが求められる。国の人口維持のための重要な役割とされ、未達成が続くと社会的な信用を失う可能性もある。
しかし、俺はずっとこの義務を先延ばしにしていた。
大学生という立場を理由に、学業が忙しいとか、研究があるとか、それらしい理由を並べては義務の履行を後回しにしてきた。だが、そろそろ限界が近づいている。
シャワーを浴び、身だしなみを整える。学生とはいえ、男性は清潔感を保ち、適度に運動し、魅力的でいることが求められる。服装も派手すぎず、女性が好む上品なスタイルを選ぶことが望ましい。
着替えを終えると、スマートフォンが再び振動した。ディスプレイには
「送迎車到着」の文字が浮かんでいる。時計を見ると、ちょうど九時四十五分。俺は急いで玄関を出た。
外には、スーツ姿の女性が待っていた。彼女は政府の役人であり、俺の面談を担当する職員だ。
「おはようございます、藤宮さん。準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
俺は軽く頷くと、彼女の示した車に乗り込んだ。車内は静かで、目的地までの時間はわずか二十分ほど。だが、その短い時間の間に、俺の頭の中では様々な思考が巡っていた。
やがて車が目的の建物へ到着する。俺は車を降りると、
案内された部屋へと向かった。
室内には、面談官の女性が一人、書類を手にして座っていた。彼女は俺を見ると、微笑みながら促した。
「おかけください、藤宮さん。さっそくですが、先月からの生活の変化についてお聞かせください」
俺は頷き、決められた通りの報告をする。学業は順調で、健康管理も怠っていない。毎週のエステとフィットネスも欠かしていない。
「なるほど、良い傾向ですね。しかし...」
彼女は書類をめくりながら、俺に視線を向けた。
「搾精義務についてですが、これで三ヶ月未達成ですね?」
俺は少し身を固くした。確かに、研究室の課題が忙しかったとはいえ、三ヶ月連続で義務を果たせていない。
「申し訳ありません。論文執筆や実験が立て込んでいて...」
「お気持ちは理解できますが、これは国の義務です。学生とはいえ、成人男性としての責務は変わりません。次回までに最低でも一回の提供をお願いします」
「...はい」
俺は適当に返事をしたものの、正直なところ気が進まない。義務として処理されること自体が、自分の存在を機械のように感じさせるのだ。面談官はなおも続けた。
「大学を卒業すれば、さらに義務の履行が求められます。いまのうちに慣れておいたほうがいいですよ」
それが分かっていても、簡単に踏み切れない。
「ちなみに、来月になりますと、未達成期間が四ヶ月となりますので、督促状が送付されます。その場合、義務の未履行が記録に残ることになりますので、注意してください」
俺の胸の奥がざわついた。督促状──つまり、正式な警告。今までは適当な理由で誤魔化せていたが、もう逃げられないのかもしれない。
面談が終わり、俺は車に乗り込む。
搾精義務...。
義務とはいえ、自分の意志がそこにあるのか分からなくなる。
この先、社会に出れば、ますます選択肢は狭まるのかもしれない。
俺は窓の外を見ながら、ぼんやりと未来について考え続けた。
読んでくださりありがとうございます、
フォローやご感想、応援いただければ励みになりますので
ぜひよろしくお願いいたします。