貞操逆転世界で悩む大学生の話   作:すこマロ

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待ち合わせ場所に着いたのは約束の時間より少し早かった。俺はスマホを取り出し、時刻を確認しながら落ち着かない気持ちを誤魔化すように画面を眺めた。

 

数分後、先輩の姿が遠くに見えた。ゆっくりと歩いてくる姿はどこか慎重で、俺の姿を見つけると一瞬足を止めたように思えた。しかし、すぐに歩みを再開し、俺の前に立つ。

 

「待たせちゃった?」

「いえ、俺が早く来すぎただけです」

 

先輩はほっとしたように小さく息をつく。けれど、どこかぎこちない。俺たちの間には、今朝の出来事が確かに影を落としていた。

 

「改めて...すみませんでした。先輩に迷惑をかけてしまって」

 

先輩は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに視線を落として小さく息をついた。

 

「...気にしてないよ」

 

そうは言いながらも、どこかぎこちない表情のままの先輩を見て、俺の中にまた後悔が広がる。

 

「それでも、やっぱり気まずいのは嫌だったんです。だから、ちゃんと謝りたくて...。あと...」

「...あと?」

 

先輩が小さく首を傾げる。その表情はどこか不安げで、けれど真剣だった。

 

「その...先輩に会いたかったんです」

 

言葉にしてしまった瞬間、自分でも驚くくらい胸が高鳴る。先輩は一瞬目を見開いたあと、視線を泳がせながら頬を染めた。

 

「...っ、そ、そうなんだ」

 

ちょっと緊張したような、戸惑いの混じった声だった。顔を伏せがちにしながらも、どこか嬉しそうな色がにじんでいるように見えたのは、きっと気のせいじゃないはずだ。

 

俺は今までずっと自分に言い訳をしてきた。先輩に惹かれるのは、単なる性欲かもしれない。あるいは、この人を好きでいれば提供義務を回避できるからなのかもしれない。そんなふうに、自分の気持ちをはっきりさせずにいた。

でも、こうして目の前に立つ先輩を見たとき、ただ「会いたい」と思った。おそらく、それだけでは説明できないものが、まちがいなく俺の中にある。

 

「藤宮くん...」

 

不意に呼ばれて顔を上げると、先輩はまっすぐ俺を見つめていた。その目はどこか揺れていて、けれど真剣だった。

 

「どうして...会いたいって思ったの?」

 

——それに、俺はどう答えればいいのか。

俺たちはしばらく沈黙した。

まずは伝えるべきだ、俺の抱えている問題について。

 

「...あの、先輩に話しておきたいことがあるんです」

 

沈黙を破ったのは俺の方だった。少し驚いたように先輩がまばたきをする。

 

「話しておきたいこと?」

 

「はい。俺の精子提供義務...搾精義務なんて呼ばれている制度のことです」

 

先輩が少し目を見開く。

 

「精子提供義務...?」

「はい、男性は成人したら提供義務を果たさなきゃいけないって決まってるんです。でも、俺...ずっとそれが嫌で、逃げてきました」

 

言葉にすることで、改めて自分の気持ちが明確になる。俺はずっとこの義務を避け続けてきた。嫌悪感と、不安と...そして、何より理由の分からない恐怖があった。

 

「それで、最近考えてたんです。俺がなんでこんなにこの義務に嫌悪感を抱いてるのか。義務そのものが嫌っていうのもあるんですけど...多分、それだけじゃないんだと思います」

 

先輩は静かに俺の言葉を待ってくれている。俺は少し息を整えて、続けた。

 

「俺の両親...母は俺が子供のころにいなくなって、父も何も言わずに消えてしまったんです。ずっと気にしてなかったんですけど、もしかしたら俺のこの気持ち、そこに原因があるんじゃないかって」

 

自分でも気づいていなかった感情を吐き出すように、俺は言葉を続ける。

 

「だから、祖母のところに行こうと思ってるんです。母のこと、父のこと、もっと知るために」

 

先輩はしばらく考えるように視線を落とし、それから俺を見つめた。

 

「...私も、一緒に行ってもいい?」

 

意外な申し出に、俺は思わず目を丸くする。

 

「先輩が...?」

「うん。藤宮くんが何を知ろうとしてるのか、私もちゃんと知りたいから」

 

俺はその言葉を噛みしめるように、一瞬黙った。

 

「...ありがとう、でも、無理しないでください。俺の個人的なことなので」

「無理なんかしてないよ。ただ...藤宮くんが一人で抱え込むの、嫌だから」

 

先輩の真剣な言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

 

「...今度の休みに行く予定なんです。詳細は明日、研究室で話しますね」

「分かった。待ってる」

 

ふっと、先輩が小さく笑う。その笑顔に、俺の心の中の迷いが少しだけ薄れていくような気がした。

 

「せっかく会えたし、このまま帰るのもったいないですね」

「うん...じゃあ、どこかでお茶でもしようか」

「はい、ぜひ」

 

俺たちは自然と並んで歩き出した。少し冷たい夜風が吹き抜ける中、並んで歩くこの時間が、今はただ心地よかった。

 

 




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