貞操逆転世界で悩む大学生の話   作:すこマロ

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回覧板を手に持ちながら、俺はばあちゃんの家を出た。夕方の空気は少しひんやりしていて、歩くたびに靴の音が静かな閑静な住宅街に響く。

 

回覧板を回すために訪れるのは幼馴染の家だった。彼女とは昔からの付き合いだけど、最近はほとんど顔を合わせていない。大学に進学してから、地元に戻ることが少なくなったせいかもしれない。

 

(今も大学に行ってるんだろうな)

 

そう思いながら、幼馴染の家の前に立つ。インターホンを押そうと手を伸ばしかけたが、結局そのまま回覧板を郵便受けにそっと入れるだけにした。今さら何を話すわけでもないし、わざわざ呼び出すのも気が引ける。

 

(まあ、また今度会う機会もあるか)

 

そう考えながら踵を返し、ばあちゃんの家へと戻った。

 

玄関を開けると、先輩とばあちゃんの笑い声が聞こえてきた。最初は緊張していたかもしれないが、どうやら打ち解けたようだ。

 

「回覧板、回してきたよ。」

 

声をかけながら居間に入ると、先輩が笑顔でこちらを見た。

 

「おかえりなさい、藤宮くん」

「おかえり、蓮。ちょうど今、先輩さんと楽しく話していたところだよ」

 

ばあちゃんも穏やかな表情で言う。どうやら俺の知らない間に、二人の間に何かしらの交流が生まれていたらしい。

 

「じゃあ、まずは夕飯にしようかね」

 

ばあちゃんの言葉に、俺たちは揃って頷いた。

 

 

夕食はばあちゃんの手料理だった。久しぶりに食べるその味は、変わらず温かくて懐かしい。先輩も「すごく美味しいです」と嬉しそうに箸を進めている。

 

食事中は特に重たい話はせず、大学のことを軽く話す程度だった。穏やかな時間が流れる中で、俺は徐々に心の準備を整えていった。

 

そして、食事が終わった頃。

 

ばあちゃんが静かにお茶を淹れながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうかね」

 

その言葉に、俺は自然と背筋を伸ばす。

 

「蓮、お前が聞きたいのは両親のことなんだろう?」

 

俺は静かに頷いた。

 

ばあちゃんは一度、視線を遠くへやり、ゆっくりと過去を振り返るように言葉を選んだ。

 

「お前の父さんと母さんのことを話すのは、正直、少し迷ったんだけどね。でも、蓮がこうして尋ねてきたってことは、もう話してもいい頃なんだろう。」

 

静かな部屋に、お茶の湯気がゆらゆらと揺れる。

 

俺と先輩は姿勢を正し、ばあちゃんの言葉に耳を傾けた。

ばあちゃんは湯飲みを手にしながら静かに口を開いた。

 

「蓮、お父さんとお母さんがどんな人だったか、どれくらい覚えてる?」

 

ばあちゃんの問いに、俺は少し考え込んだ。母の顔はかすかに覚えている。けれど、父の記憶はほとんど残っていない。

 

「母さんは...よく働いてた気がする。」

 

「そうだね。あの子は優秀だったからね。大学でも、研究室でも、とてもよくできる子だった。でもね、男の人にはあまり慣れていなかったんだよ」

「え?」

 

「成績が良くて、研究に熱心でね。周りの男子学生たちとも邪険にされながら必要な会話はこなせていたみたいだね、ただ色恋にはどうにも疎かったみたいだったよ。だから、私の息子...お父さんに優しくされたとき、すぐに心を許したんだろうね」

 

ばあちゃんは懐かしむように目を細めた。

 

「お父さんはね、この時代の男性にしては穏やかで、とても優しい子だったよ。真面目で、人に優しくて、誠実な子だった。勉強もそこそこできたけど、お母さんほどじゃなかったねぇ。でも、気配りができる子だったからね。研究室で困っているお母さんを手助けすることが多かったんだ」

「それで、母さんが父さんに...?」

 

「そうさ。研究で行き詰まったときに相談に乗ってくれたり、重たい資料をさりげなく持ってくれたり、そんな小さな優しさが積み重なって、あの子はお父さんに惹かれていったんだって。」

 

俺は想像してみる。若いころの母が、研究室で忙しくしている姿。そして、そんな母をそっと支えていた父の姿。

 

「...なんだか、わかるかも」

「ふふ、そうかい?」

「母さんって、父さんにはずっと甘えてる感じだったけど、近所の人とかにはきっちり対応してる感じだったから」

「それは、あの子が強くならなきゃいけない場面が多かったからだろうね。でも、本当は甘えるのが下手なだけだったのかもしれないよ」

 

ばあちゃんは静かにお茶をすすった。

 

「当時からもう既に一夫多妻制が敷かれていたけれど、あの二人はお互いしか見えていなかった。それくらい、強く惹かれ合っていたんだよ」

「...そっか」

 

それが、二人の始まりだったんだ——。

 

「二人が結婚してからはうちの子もあの子も本当に幸せそうだったね...蓮のこと、もうすこしちゃんと見てやりなとお母さんに言ったことはあったけど、親であることを忘れるほどにお父さんに入れ込んでいたんだろうね」

「...虐待されていたわけではないんだけどね...」

「それでも、自分の子を第一に考えられない時点で親失格さ」

「ばあちゃんがいたから寂しくはなかったよ。」

「それはお互い様だねぇ...私も蓮と一緒で今も楽しいものねぇ」

 

ばあちゃんがいてくれて本当に良かったと改めて感じ、心が温かくなる。

 

「おっと、話を進めるね...蓮がもう6歳の時だったかね、ある事件が起こってね、二人は一緒に暮らせなくなってしまったんだ...」

 

ここだ、俺が忘れてしまっているもの、悩みの種と対面するときが訪れた。

 




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