貞操逆転世界で悩む大学生の話   作:すこマロ

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「おっと、話を進めるね...蓮がもう6歳の時だったかね、ある事件が起こってね、二人は一緒に暮らせなくなってしまったんだ...」

 

「あの頃、国の方針が迷走していてね。男の子が極端に生まれにくくなっていたから、政府はその原因を突き止めようとしていたんだよ。その一環として、自然妊娠で男の子が生まれた家庭に対して、親子そろっての検査がほぼ強制されるようになった」

 

息をのんだ。

 

「うちの子...お父さんは、お前が幼すぎることを理由に何とか検査から遠ざけようとしたんだよ。繰り返し行われる検査にお前が耐えられないってね。その代わりに、自分が検査に積極的にに出向くことで、蓮を守ろうとしたのさ。」

 

父が、自分の代わりに...?

 

「最初は普通の検査だったんだけどね...要求がどんどんエスカレートしていったのさ。」

「日に日にやつれていくお父さんを見て、お母さんは不安になっていったんだろうね。

最初は気丈に振る舞っていたけど、会えない時間が増えるたびに、だんだんと元気がなくなっていたよ...。」

 

ばあちゃんの言葉とともに、蓮の頭の奥で何かが軋む。

 

 

——お父さんが、家に帰らなくなった。

 

母さんが、どんどん元気をなくしていった。

 

 

「そして、ある日——決定的な出来事が起こった。」

 

 

俺は、無意識のうちに歯を食いしばっていた、ドロドロとしたものが頭の中で渦巻く。

 

 

「検査の一環として、お前の父さんにある提案がされたんだ。複数の女性への精液提供、もしくは性交による妊娠協力——。」

 

 

瞬間、心臓が跳ねた。

目を閉じると、忘れていたはずの記憶が鮮明に蘇る。

 

——鋭い怒声、荒々しい足音、そして、自分の名前を何度も叫ぶ母の声。

 

『蓮...!蓮...!あの子さえいなければ...!』

『やめろ!蓮は関係ないだろう!』

 

父の声が、かばうように響く。しかし、母の怒りは収まらなかった。

 

『関係なくなんかない!この子が生まれたせいで、あなたは...私たちは...!』

『蓮のせいじゃない!僕が決めたことだ!』

『どうして、そんなことが許されるの!?』

『あなたと二人で幸せだったのに!!』

 

母の泣き叫ぶ声が、鮮明に蘇る。

 

『蓮が...蓮が生まれたせいで...!!』

『蓮...蓮...蓮...蓮!!』

 

母の鋭い視線、苦悶の表情、叫びとともに連呼される自分の名前。ただ震えながら両親を見つめうずくまっている自分。

 

目の前がぐにゃりと歪んだ。

名前を呼ぶという行為に狂気的なイメージが刷り込まれる。

 

——だめだ、ここで逃げるな、全部思い出すために来たんだろう。

 

息が詰まり、胃の奥からこみ上げてくるものがあった。手が震える。

 

「当然、お母さんは激しく拒否したよ。仕方ない部分もあるんだろうね、幸せの絶頂から無理やり引きはがされて、愛する夫が他の女性と関係を持つことを受け入れろなんて...そんなこと、できるはずがないだろう?」

「蓮、大丈夫かい?」

 

ばあちゃんの声が遠くに聞こえる。

先輩も目を潤ませながら心配するようににこちらを見ていた。

どうにかして冷静にならなければ。そう思うのに、息苦しさは増していく。

 

「ごめん、大丈夫...」

 

震える声でそう言うのが精一杯だった。

ばあちゃんは少し悲しげに目を伏せ、それでも続ける。

 

「激しい口論になったようだね。お母さんにとって、お父さんはすべてだったんだ。でも、お父さんは...蓮を守ることを優先した。」

 

あの日聞いた父さんの声が再びよみがえる

 

『俺は蓮を守る。父親としてどんなことをしてでも、あの子を...!』

 

記憶の中の母の顔が歪んでいく。

 

『どうして...どうして蓮ばっかり...!』

 

「...その瞬間、お母さんは耐えられなくなってしまったんだよ。」

「...母さんは?」

「姿を消したよ。失踪したのさ。」

 

目の前が暗くなるような感覚。

 

「あの子は、お母さんを止められなかった。そして、お前を私のところに預ける決断をしたんだよ。」

「...父さんが?」

「事情を聞かせてくれた後にあの子が言ったんだよ『蓮は今ショックで記憶があいまいになってるみたいなんだ、今回のことを黙っておいてあげてほしい』ってね。」

 

静寂が降りる。

 

「その後しばらくして、この強制検査は全国各地で家庭内の不和を引き起こしたとして糾弾され、検査機関は解体。当時のお国は大打撃を受けることになってたね。

今残っている義務はその名残であり、国を維持するのための苦肉の策といった感じがするね」

 

話が終わったころ、俺はひどく息苦しさを覚えていた。呼吸を整えるように深呼吸を繰り返す。

 

「蓮...無理に思い出さなくてもいいんだよ。」

 

ばあちゃんの優しい声に、俺はゆっくりと息を吐く。

 

「...ありがとう、でも、ちゃんと向き合うって決めたから。」

 

握り締めた拳に、じんわりと汗が滲んでいた。

 

「ばあちゃん、教えてほしい、父さんは今どこにいるの?」

 




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