昼休みの時間、学食の片隅で俺は先輩と向かい合って座っていた。先輩はカフェテリアで買ったサンドイッチを手に取り、ゆっくりと包装を剥がしている。
「藤宮くん、最近なんだか元気ないよね?」
何気ない会話の中で、先輩がふとそんなことを言った。
「...そうでしょうか?」
できる限り平静を装うが、やはり隠しきれないのだろうか。先輩は俺の顔をじっと見つめたまま、心配そうに首をかしげる。
「うん。なんていうか、ちょっと疲れてる感じがするし、考えごとが多いみたいに見えるよ」
俺は少し口ごもる。まさか「義務が嫌で悩んでいる」とは言えない。こんな話をしたところで、先輩がどう思うか分からないし、余計な心配をかけたくない。
「まあ、いろいろと...考えることがありまして」
「そっか...。よかったら、相談に乗るよ?」
先輩は柔らかく微笑みながら、コーヒーを一口飲む。その仕草に少し気を緩めてしまう。
「ありがとうございます。でも、大したことではないので...」
「本当に?」
疑うようにじっと見つめられ、思わず目を逸らしてしまう。その仕草を見て、先輩はクスッと笑った。
「なんだか、藤宮くんって分かりやすいよね」
「そんなことはないと思いますが...」
「でも、隠しごとがあるときの顔してる」
図星だった。先輩は俺の様子をよく見ている。適当にはぐらかそうとしても、なかなかうまくいかない。
「別に無理に話してとは言わないけど...私は藤宮くんのこと、もっと知りたいな」
その言葉に、不意に心臓が跳ねる。
「...先輩?」
「最近、なんとなく距離を感じるというか。前みたいにもっと気楽に話してくれたらいいのになって思って」
先輩の声は冗談めいていたが、その瞳はどこか真剣だった。
俺は答えに詰まる。先輩は優しいし、頼りになるし、俺にとっては憧れのような存在だった。でも、その好意にどう応えていいか分からない。
「...すみません、気を遣わせてしまって」
「ううん、別に気にしなくていいよ。でも、私は藤宮くんともっと話したいなって思ってる。だから、もし悩みがあるなら、いつでも話してほしいな」
先輩の声は穏やかで、どこか温かい。こんなふうに気にかけてくれる人がいるのに、俺はずっと自分のことで手一杯で、まともに向き合えていなかった気がする。
「...ありがとうございます、先輩」
「うん!」
先輩は嬉しそうに微笑む。その笑顔を見て、俺の胸の奥で何かがふわりと溶けていくような感覚がした。
その後も他愛のない話をしながら昼食を終えたが、俺の心には先輩の言葉がずっと残っていた。
昼食を終えたあとも、先輩はどこか俺のことを気にかけているようだった。
「午後の講義、一緒に行こうか?」
「えっ?」
俺が驚いた顔をすると、先輩は少し笑って「最近、藤宮くんがどこか遠くにいる気がするから」と付け足した。
「そんなことは...」
「じゃあ、たまには先輩のわがままに付き合ってくれる?」
先輩は楽しげに言うが、その目は優しさに満ちていた。俺は少し迷ったが、結局うなずくことしかできなかった。
講義のあとも、先輩は自然な流れで俺の隣にいた。歩くスピードを合わせたり、ふとしたことで話しかけてくれたり。その一つ一つが、どこか安心感を与えてくれた。
「ねえ、藤宮くん」
帰り道、先輩がふと足を止める。
「はい?」
「今度、空いてる日ある? ちょっと気分転換に付き合ってほしいな」
不意打ちだった。俺は言葉を詰まらせる。
「えっと...それは?」
「別に深い意味はないよ。ただ、元気なさそうだし、リフレッシュできたらいいなって」
先輩は笑っていたが、その表情の奥にはどこか俺を気遣う思いがにじんでいるように見えた。
俺は、ゆっくりと息を吐き出した。
「...わかりました」
「本当? よかった!」
先輩は嬉しそうに微笑む。その笑顔を見て、俺の心はまた少しだけ軽くなった気がした。
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