貞操逆転世界で悩む大学生の話   作:すこマロ

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約束の日、俺は少し早めに家を出た。先輩と出かけることを考えると、なんとなく落ち着かなくて、予定より早く準備を終えてしまった。

待ち合わせ場所は駅前のショッピングモール。その途中、少し寄り道してカフェで時間を潰そうかとも思ったが、結局まっすぐ向かうことにした。

外に出ると、春の陽気が心地よかった。しかし、それと同時に、なんとなく肌に突き刺さるような視線も感じる。

(...また、か)

俺は何気なく周囲を見回した。道行く女性たちが、ちらちらと俺の方を見ているのがわかる。露骨に見つめてくるわけではないが、何か物珍しそうに視線を向けてくることは、よくあることだった。

男の数が少ないこの社会では、男というだけで注目されることが珍しくない。特に俺のように一人で歩いていると、余計に目を引くのだろう。

(まあ、仕方ないか...)

ため息をつきそうになったが、ぐっとこらえる。この程度ならまだいい。俺に直接何かしてくるわけじゃないのだから。

昔、ばあちゃんがこんなことを言っていた。

 

「男が減って、女が増えたことで、みんな色々な考え方を持つようになった。でもね、世の中にはいい子もたくさんいるんだよ」

 

ばあちゃんは、男を道具のように扱う女性たちがいることを知っていた。でも、それと同じくらい、相手を尊重できる人たちもいることを教えてくれた。

 

「そういう人に出会えたら、大事にしなさい」

 

そして、もう一つ。

 

「でもね、悪いことをする人は、きちんと裁かれる世の中になってる。特に男に危害を加えたら、重い罰が下るのよ」

 

その言葉通り、法律は厳格になった。男に対する暴力や強制行為は、厳しく処罰される。表向きには男女平等を掲げているが、実際には女性側の行動が厳しく制限されることも多い。だが、それでも、トラブルは完全になくなるわけではなかった。

ばあちゃんの言葉を思い出しながら歩いていると、不意に声をかけられた。

 

「ねえ、君、今一人?」

 

聞き慣れない女性の声に足を止める。振り返ると、二人の女性が立っていた。どちらも派手な格好をしていて、髪を明るく染め、濃いめの化粧を施している。いかにも遊び慣れていそうな雰囲気だった。

 

「えっと...」

 

思わず距離を取ろうとするが、向こうはこちらの警戒などお構いなしに一歩近づいてくる。

 

「今からどこか行くの? よかったら一緒に遊ばない?」

「ねえねえ、カフェでもどう?」

 

軽い調子で話しかけてくる二人に、俺は内心ため息をついた。こういうことはたまにある。男が少ないこの社会では、特に珍しいことではない。

だが、だからといって、気軽に応じるわけにもいかない。

 

「すみません、待ち合わせがあるので...」

 

できるだけ丁寧に断る。しかし、相手は諦める気配がない。

 

「えー、そんなつれないこと言わないでさ、ちょっとくらいならいいでしょ?」

「ね、別にすぐ行かせないなんて言ってないし」

 

ぐいっと腕を掴まれそうになったその瞬間。

「藤宮くん!」

 

聞き慣れた声が響いた。

振り向くと、先輩がこちらに向かって早足で歩いてくる。先輩の視線は明らかに険しく、俺に絡んでいた二人を鋭く睨みつけていた。

 

「...何してるの?」

 

先輩の声は落ち着いていたが、その内側に怒りを滲ませているのがわかる。明るいはずの空気が、一気に冷え込んだように感じた。

 

「え、別に? ちょっと話しかけてただけだけど」

「そう。でも、藤宮くんが迷惑そうだったよね?」

「...は?」

 

ナンパしていた女性たちは、先輩の鋭い視線に少し気圧されたように一歩引いた。それでも納得がいかないのか、強がるように口を尖らせる。

 

「何よ、彼女?」

「それが関係ある?」

 

先輩は少し眉をひそめたまま、俺の方に歩み寄る。そして、何のためらいもなく俺の手首を取った。

 

「行こ、藤宮くん」

「あ、はい」

 

強引にというわけではなかったが、その手にははっきりとした意志がこもっていた。俺は抵抗することなく、そのまあ歩き出す。

ナンパしてきた女性たちは何か言いたげだったが、先輩の態度に気圧されたのか、それ以上何も言わずに立ち尽くしていた。

しばらく無言のまま歩いたあと、先輩がようやく口を開いた。

 

「...大丈夫だった?」

 

俺は小さく息をついて頷く。

 

「ええ、まあ。よくあることなので」

「よくある、ね...」

 

先輩は少し眉をひそめたまま、何か考え込むように視線を落とす。

 

「藤宮くん、嫌じゃないの?」

「...まあ、慣れましたから」

 

本音を言えば、不快に思うことはある。でも、こういうことが日常的にある世界で、いちいち気にしていたらキリがないとも思っていた。

しかし、先輩は納得できない様子だった

「慣れたから、我慢するっていうのは、違うと思う」

 

俺の手首を握る力が、ほんの少しだけ強くなる。

 

「藤宮くんが嫌な思いをするなら、ちゃんと嫌って言っていいんだよ」

「...先輩」

 

少し驚いて顔を上げると、先輩はまっすぐに俺を見ていた。その瞳は、どこまでも真剣だった。

 

「...ありがとうございます」

「いいよ、別に。私が勝手に怒ってるだけだから」

 

気恥ずかしくなって目をそらすと、先輩はふっと微笑んだ。




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