ちんちんないなった   作:ワンシャフト館長

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弐、じゃ、服脱ごっか

「じゃ、服脱ごっか」

 

「頭おかしいんじゃねぇか??」

 

 一旦帰宅してから最初にした提案に、海千代が両目を血走らせながら中指を立てた。

 

「は? なんだ? お前、もしかしてそっち系? それとも人形趣味か何かか? あのな、いくら見た目が最っ高にプリティなパーフェクト美少女でも、オレは男なんだぞ?」

 

「そもそも、中身が海千代な時点で男とか女とか関係なしに興奮は無理だって」

 

「ファァァァァァック!!」

 

「ぐふっ」

 

海千代が渾身のボディブローを放つ。拳が木製なせいか、結構痛かった。

 

「酷いなーもー」

 

「相変わらず復活はえぇな」

 

「ジムに通ってるからね」

 

「なに? もしかして、ボクシングか何かでも始めたのか?」

 

「んーん。どっちかって言うと、ボクシングに対しては“こうか は ばつぐん”な方かな」

 

「エスパータイプ乙」

 

「ちなみにジムリーダーはなぜか毒虫を使うよ」

 

「ナツメじゃねえか」

 

「リメイクで可愛くなったよね。変更前も変更前でよかったけどさ」

 

「それは分かる」

 

頷いた海千代は「んで?」と首を傾げた。

 

「実際のところはどういうつもりなんだ? まさか、本気でオレに欲情したとかそんなんじゃねぇだろ?」

 

「分からないよ? ぼくも普通に健全な男子学生だし」

 

「わざわざ混ぜっ返すんじゃねぇよ。いくら美少女でも、この顔がお前のストライクゾーンから外れてんのは分かってんだよ」

 

「はっはっは」

 

ま、海千代からしたらそうか。つか、ぼくの性癖を根拠にすんなと。……別にいいけど。

 

「海千代の身体に興味があるってのはホント」

 

「そのこころは?」

 

「海千代の手や足は完全に人形の物になってるけど、口の中なんかは完全に人間のものだったでしょ? それに、味覚だけじゃなくて痛覚もちゃんとあったし」

 

「ああ、そういやぁそうだったな」

 

「で、ただでさえそんな人間なのか人形なのかも曖昧な状況じゃ、医者に掛かれるかも怪しい訳じゃん」

 

「ま、そうなるな」

 

「なら、今後の動きがどうであれ、せめて分かる範囲で身体の点検をして、少しでも自力でどうにか出来る範囲を増やすしかない……でしょ?」

 

「理解した」

 

こくこくと頷いた海千代。

 

「じゃあ」

 

「おう」

 

「服を脱げ」

 

「だから、言い方ぁ!!!」

 

「ぐふっ」

 

今度は海千代の左拳が突き刺さってきた。

 

 

 

 

で、数分後

 

 

 

 

「準備はいい?」

 

「おう、いつでも良いぜ」

 

 解かれた幅広の帯と、その一端を握るぼく。

 やんややんやと揉めた末、ぼくと海千代はなぜか時代劇の悪代官スタイルで対峙していたのだった。いや、ほんとどうしてこうなった。まあ、原因は頭を冷やすために始めた、まんま“悪代官”というタイトルのゲームのせいなんだろうけど。

 

「いくよ」

 

「カモンッ!」

 

 無駄に真剣にバンザイをして待ち構える海千代に、ぼくはその腰から伸びる帯を一気に引き手繰ったのだった。

 

「あぁれぇぇぇ!!」

 

「ふははははーよいではないかーよいではないかー」

 

白足袋の爪先を立てて、クルクルと器用に独楽の様なターンを見せる海千代。極力抵抗が無いようにという相手側(海千代)の協力ありでも意外と重労働だった帯回しは、当然ながら物理的制約のある現実世界ではものの数秒でお開きとなるのだった。

 

で、

 

「っと」

 

巻かれた帯が全部解けて、着物の合わせ目から露出する海千代のボディ。それは案の定と言うべきか胸部と腰部が楕円状の腹部で接続されたマネキン人形そのものの姿をしていて、唯一股下だけが深紅の褌で覆われている。ただ、

 

「うん……うん?」

 

膨らみ細やかな胸元を見ると、その中心には桜色の乳首が備わっていて、明らかにただのマネキンでは有り得ない、人らしさを感じる温かさが見て取れた。つまりはだ、

 

「これ、人? いや、人形なのか?」

 

「うーん……どっちでもあり、どっちでもなし?」

 

「だよなあ……」

 

自分の身体を見下ろしながら首をひねる海千代の言葉通り、半分人形で半分人間といった塩梅なのだった。っていうかさ、

 

「これ、何となく既視感があったんだけどあれだ」

 

「あん?」

 

「昔見た、薔薇乙女のエロ同人に近いんだ」

 

「くそったれ!!!」

 

「ぐふっ」

 

その場で跳躍した海千代の白足袋がぼくの頬に突き刺さる。その手の趣味の人ならお金を払ってでもくらいたいであろう人形のドロップキックに吹き飛ばされたぼくは散らかしたままの帯の海に沈んだのだった。

 

 

 

 

「そんで、どうするよ」

 

 ぼくが復活してから数秒、白足袋に赤褌一丁という無駄にマニアックな格好で胡座をかいた海千代が難しい顔をして首をひねった。

 

「取り敢えず、服でも買う? 流石にそれ(和服)のままじゃ動き辛すぎるでしょ」

 

「あー、そりゃ確かに……」

 

同意するように頷いた海千代だったけど、すぐに「あ……」と気不味そうに言い淀む様子を見せた。何かあった?

 

「いや、月雪の言う通りではあるんだけどな? 一つ大きな問題が……」

 

「うん? 何かあったっけ?」

 

「オレ、今は金が無いんだよ」

 

「ああ、なんだそんなこと?」

 

「そんなことって、割と大事だぞ」

 

「それくらい、全然出すけど? 後で返してくれればいいし」

 

「いや、でもな。ただでさえ住居の時点で迷惑掛けてんのに……」

 

「困ってる時にまで気に病まないでよ。ただでさえピンチなんだからさ」

 

「でも……」

 

「どうしてもっていうなら、余裕が出来た時にでも返してよ……ぼくだって、今の海千代に何も出来ない方が気分良くないしさ。仮に立場が逆なら海千代だってそう思うでしょ?」

 

「それは……まあな」

 

「じゃ、この話は終わり。さっさと準備して、服を買いに行こ」

 

「おう……月雪」

 

「んー?」

 

「サンキュな」

 

「あいあい」

 

どうやら、言いたいことは色々ありつつも呑み込むことはできたらしく静かに脱ぎ散らかした和服の所に向かうと、そこで何かを思いついたかの様に、海千代はハタと立ち止まった。……なんだろう、何か凄く嫌な予感がするんだけど。

 

「なあ、月雪」

 

「なに?」

 

「さっきはああ言ったけど、一つ返せるもんを思いついたわ」

 

「……無理に返そうとしなくても良いんだよ?」

 

「無理に返すつもりはねぇよ。むしろ、今のオレだからこそ返せるもんだ」

 

「……それは?」

 

「ほれ」

 

振り向いた海千代はムニッと自分の胸元を持ち上げて、ぼくに見せ付けるように強めに握った。

 

「揉まないか? 好きだろ?」

 

「おっぱいが好きなのは認めるけど、それが海千代に付いてるものって考えるとなー……」

 

「遠慮すんなって。ちゃんと柔らかいぞ。ほれほれ♪」

 

興が乗ってきたのか、持ち上げたおっぱいをふるふると振ってからかってくる海千代。その言葉の通り、本来人形のはずの海千代の程良く膨らんだおっぱいは、その木造関節の掌に弄ばれてプルプルと弾んだ。いや、まあ、視覚効果は認めるけどさあ。

 

「いいから、さっさと準備して」

 

中身が海千代なので、対象外です。

 

「あいよ」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべつつも、その辺は心得ている海千代はそれ以上は何を言うこともなく、いそいそと服を着に向かう。何ていうか、

 

「前途多難だなー……」

 

「うん? 何か言ったか?」

 

「なんでもないよー」

 

ぼくがそう返すと、「そうか?」とだけ言って、海千代はいそいそと着替えに戻ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 朝食を終えてやって来た、近所にある衣料品の量販店。

 

「「……」」

 

その通路で、ぼくと海千代は無言のまま見詰め合っていた。

 

 

 

 

ただし、海千代は両拳を口元に構(ピーカブー)えて頭を振り(スタイル)、ぼくはL字に曲げた左腕をゆっ(ヒットマン)くりと振っている(スタイル)けれど。

 

 

 

 

「ねえ、海千代」

 

「……なんだ、月雪」

 

「いい加減、諦めない?」

 

「絶対にイヤだ!!!」

 

 ぼくがの提案に、断固として首を横に振る海千代。その視線は一貫して、ぼくの左腕(振り子)の下で揺れる灰色下着―有り体に言えばブラジャー―に釘付けになっている。

 

「大体! なんで、ブラジャーなんだよ!」

 

「嫌いだった?」

 

「嫌いじゃねぇけど、それはあくまでオレ以外が着用したものであって、自分で着る趣味はねぇんだよ!」

 

「けど、そのおっぱいじゃブラジャー無しは色々と無理がない? それとも、一生和服でいくつもり?」

 

「うぐっ……」

 

ぼくの詰問に、海千代が言葉に詰まった。実際、巨乳!爆乳!とまでは行かずとも、程々に大きいおっぱいが付いているせいで、海千代はさっきから自分の身体を若干持て余してるきらいがあった。ぼくからでもそう見える以上、当の本人も当然その自覚はあって、それゆえに気まずげにしながら視線を泳がせたのだった。一応、代案として和服をこれまで通り着用し続けるという選択肢もあるけど、流石に一学生でしかないぼくや海千代が2着目の和服を用意するというのは無理があるし、今の半人半人形の海千代は代謝やら何やらがどうなっているのかも不透明だ。もちろん、海千代の気持ちは分かるし、下着選びで真っ先にトランクスに手を伸ばしたのにも何も言わなかったんだけど……ねえ?

 

「だから、ギリ男が着ててもバレなさそうなスポブラを見付けてきたんだよ?」

 

「それでもブラジャーには変わりがねぇじゃねぇか! ギリセーフなら、お前も着けろよ!」

 

「え、嫌に決まってんじゃん。何言ってんの?」

 

「お前は! それを! オレに! させようとしてんだよ!!」

 

「はっはっは」

 

「! 隙ありっ!」

 

笑うぼくの呼吸に合せて、左右に頭を振っていた海千代が一気にダッシュを試みる。

 

「あまい」

 

けれど、その動きは予想済みだ。

 ぼくの横を抜けて店の入口に逃げようとした海千代の前にフリッカーで余裕を持たせたブラを置く。そして、素早く腕を抜き取れば、後は逃走のためのダッシュを仕掛けた海千代がスッポリとブラジャーに収まるという寸法だった。

 

「しまっ!?」

 

「よっ」

 

瞠目した海千代の腕を左右から引っ張って、強制的に袖を通させれば、海千代のブラ着用ミッションは無事に完了したのだった。

 

「うぅ……くそぅ……ちくしょう……オレ、汚されちまった……」

 

「もー。海千代ったら、そんなに喜ばないでよ」

 

「泣いてんだよバカヤロウ!!」

 

「ブフッ」

 

涙目でキレた海千代のドロップキックが顎先に直撃した。

 その手のマニアならお金を出してでも食らいたいと思うであろう一撃に天井を見上げながら仰向けに倒れたところで、ふと視界の端に青筋を浮かべたエプロンのおじさんの姿が映った。

 

「……」

 

どうやら、海千代も気付いたらしく、ぼくの隣でスポブラを着けたままツーッと冷や汗を垂らしている。

 

「……お客様」

 

「あ、今の海千代にも汗腺はあるんだ……」なんて、どーでもいいことを考えている上で、“店長”という名札を付けたおじさんが微かに声を震わせた。

 

 

「他のお客様のご迷惑になりますので、店内でのはじめの一歩ごっこはご遠慮いただけますでしょうか??」

 

「「すんませんしたぁ!!!」」

 

普段ストレスでも溜まってるのか、蟀谷をひくつかせる店長の姿に、ぼくと海千代は即座に土下座を選んだのだった。

 

 

 

 

「うあぁ、ひどい目に会ったな」

 

「そうだねー……」

 

 あの後、何とか泣き落としで会計をしてもらったぼく達は紙袋を片手に店を出た。

 

「んで、これからどうする?」

 

「んー、そうだね……」

 

一先ずブラジャーを無事に着用して外に出てもギリ問題にならない格好になった海千代にぼくも少し首を傾げる。正直、ウィンドショッピングって感じでもないからな―……。あー、

 

「あそことか?」

 

「ん? おお、ゲーセンか」

 

ぼくが指差した先にあるのは最近あるあるのクレーンゲーム屋とは違う、昔ながらのビデオゲームをそこそこに設置したゲームセンターだった。

 

「久しぶりに入ってみる?」

 

「そうすっか」

 

「いいぜ」と頷いた海千代と一緒に、特に目的も無くゲームセンターに入ると、真っ先に目に飛び込んできた骸骨の見た目のヒーローとガスマスクをしたサイコ軍人が殴り合うゲームに硬貨を入れて、1セット目を開始したのだった。なお、

 

―世界の平和は私が守る!―

 

「っしゃおら!!!」

 

「……」

 

「お? 連コとはやる気だなおい!!」

 

「負けっ放しは性に合わないからね」

 

「ふーん、オレのスカロヘッドの錆になりてぇとはな」

 

「言ってなよ。今度は負けないから」

 

「はんっ、今宵のスカロヘッドは血に飢えてるぜ!」

 

「肉弾戦同士ならインドラ橋の方が有利ってね……っていうかさ、海千代」

 

「あん?」

 

「今更だけど、そのキャラ使ったのって、もしかして自分と似てるから?」

 

「は? 何言って……あ」

 

「……」

 

「……」

 

「……ぷ」

 

「わ、笑うんじゃねええええええええええ!!!」

 

この様子だと単なる偶然なんだろうけど、海千代の使用キャラはどういう訳か過去に一度女体化を経験しているキャラなのだった。

 

 

 

 

 




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