仮面ライダー滅炎   作:熊澤しょーへい

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始めましての方は初めまして。そうでない方はよっ!(どこぞの地球外生命体風)
完全に見切り発車ですが、どうかお付き合いください。




第一章:平安事変


 寛仁元年旧暦二月、後に1017年と呼ばれる時代。平安京、宇多小路の一角にて。

 

 街灯などと言うものは存在せず、また深夜にもなって油に火をつける者はいない。現代よりも更に一段回濃く闇夜が支配する通りを一つの影が疾走する。

 

 それは人間のようで、しかし異なる点が幾つか。

 最初に目に着くのは頭についている大きな角。

 月光に照らされて、明るみになる真紅の肌。

 一般に鬼、と呼称される怪異である。

 

 今より12年前、寛弘2年に安部従四位下天文博士晴明の死と同時に平安京に張られていた結界が消滅。京を護っている源美濃守頼光率いる武士団の活躍によって強力な怪異は退けられていたものの、彼らの監視の目を搔い潜って侵入する怪異は後を絶たない。

 

 そんな怪異の一匹がこの鬼だった。

 酒吞や茨木など名のある鬼とは比べるもないが、これでも鬼の端くれだ。人間に比べて圧倒的と言える力を持っているが、ほうぼうの体で逃げるという無様を晒している。

 

 鬼の背後を小柄な黒ずくめの人影が追跡する。人外である鬼に振り切られることなく追い続けるその影は間違いなく只の人間では無い。

 

「クソ、源氏の奴らか!」

 

 鬼が悪態をつく。

 もしも怪異の予測が正しいのであれば相手は簡単に勝てる存在ではない。ひとまずは都の外にいる仲間たちを呼んで・・・

 

「―――ッ!」

 

 そう思考を続けながらも通りを曲がると、そこは行き止まりであった。

 平安京は碁盤のような作りであるが、複数の町に跨る邸宅によって小路が防がれていることがある。

 

 正面は建物、後方には追手。建物を破壊すれば十中八九源氏が飛んでくる。

 幸運なことに追手は小柄だ。鬼は迎え撃つべく自分の身長ほどもある金棒を形成する。

 下級とはいえ、武器の一つや二つ生成するのは容易い。

 

「妲己」

 

 向けられる殺気に怯まず、黒ずくめの少女は虚空に向けて呟く。

 その呟きに応えるように少女の隣に小さな紫炎が浮かび上がる。

 

「はあ、全く嫌になるの。あのクソ陰陽師に負けたせいでこんな小娘に使われるとは、余も落ちたものよな」

 

 紫炎から声が放たれる。尋常ではないその現象と微かに感じる力から、自分と同じ人外であると鬼は判断する。

 しかしその微弱すぎる力と何よりも少女が口にした名前が()()()()()()()()()()()()ため、自分の敵ではないと判断した。

 

「貴様、余を甘く見とるな!ええい(とお)よ、疾くコヤツを片付けい!」

 

「うるさい」

 

 鬼の気配を察知して紫炎はワアワアと喚き散らす。

 それを(とお)と呼ばれた少女はバッサリと切って捨て、一つの道具を取り出した。

 

《調伏之具・・・!》

 

 数多の漢字が刻まれた、黒い長方形の物体。中央部はガラス玉のように透明になっている。

 後の世に変身ベルト、あるいはドライバーと呼称されるそれを腰に当てると、側面から一本の帯が飛び出し(とお)の腰に装着された。

 

「妲己」

「分かっておるわ!」

 

 少しだけ苛立ちを込めて―――最も、声のトーンは全く同じだが―――(とお)が急かすと、めんどくさそうに呟いて火の玉が調伏之具に入ってゆく。

 

 ガラス玉の部分が紫色に光る。同時に(とお)は小さな手で九字を切る。

 

 独鈷印、大金剛輪印、外獅子印、内獅子印、外縛、内縛、智拳印、日輪印、隠形印。

 以て「臨兵闘者皆陣烈在前」を形づくる。

 

 一つ印を結ぶたびに(とお)の身体から紫色の妖力が吹き出る。

 過剰な妖力はやがて狐の姿を形どり、(とお)を守るように抱きしめる。

 

「なっ―――」

 

 鬼は息を呑んだ。

 人間が妖力を出して見せたこともそうだが、あまりにも濃い妖力に圧倒される。

 

 鬼の首魁である()()()に匹敵するほどに―――

 

 心構えは済んだ。(とお)は小さな口から必要な合言葉を紡いだ。

 

「変身」

 

 紫の妖力が炎のように揺らめき、(とお)の姿を完全に覆い隠す。

 やがて炎が収まり、一つの人影があらわになる。

 

《急急如律令紫炎退魔!滅炎!》

 

 一言で言い表すとするなら、紫色の人型の狐。

 それだけなら妖怪の類と思われるが、それを否定するように源氏の武者が身に着けているような大鎧を纏っている。

 何かに焼かれたように焦げ黒い甲冑。相当な重さがあるはずだが見掛け倒しなのか、あるいは身体能力が優れているのか。狐は何事も無いように自分の身体を確かめるように軽く飛び跳ねている。

 

 これこそが京の都を悪しきものから守護する者。そして後の世で「仮面ライダー滅炎(めつえん)」として語られることとなる戦士の()()()姿()である。

 

 滅炎は挑発するように手招きする。誇り高い鬼はそれだけで罠にかかると知っているからだ。

 

「くそったれが、舐めるなよ!」

 

 畏れるような表情の鬼は一転、激高して滅炎に向かって走る。

 力の強い彼ら鬼族は根底では人間を矮小な者として下に見ている。しかしそのプライドの高さは往々にして欠点になりうる。

 

 鬼の剛腕を以て振り下ろされた棍棒を、滅炎は片手で容易く受け止める。

 

「―――なっ」

 

 絶大な妖力を前にしても滅炎を「人間の小娘」と侮っていた鬼は、自慢の攻撃を平然と受け止められて思わず絶句してしまった。

 

「ふっ―――」

 

 隙だらけの鬼の腕を蹴り上げる。予想外の一撃、そして余りの威力に鬼は金棒を手放してしまう。

 音を立てて大地に沈む金棒。あまりの重さに地面にヒビが入っている。

 そんな金棒をを軽々と扱っていた鬼の腕力も、そして簡単にそれを受け止めた滅炎も人間の枠組みから外れている。

 

 しかし金棒を失った程度では鬼は止まらない。自慢の腕力で捻りつぶそうと掴みかかってくるが、滅炎はバックステップでそれを華麗に避けた。

 幾ら滅炎が力に優れていると言えど鬼の十八番で張り合う気は更々ない。

 避けられた鬼は意固地になってなおも滅炎を掴もうと手を伸ばしてくるが、狐を想起させる瞬発力で華麗にかわしてゆく。

 

「ちょこまかと―――がはっ」

 

 避けるだけではない。隙を見て鬼の身体に蹴りを喰らわせる。

 面白いように吸い込まれた蹴りは鬼を怯ませるには十分で、更にそこで生まれた隙を縫って次々と蹴りを入れてゆく。

 

「舐めるなよ、小娘が!」

「舐めてない」

 

 下級とはいえ流石は戦闘種族の鬼。滅炎の蹴りにすぐさま対応し、身体の前で交差した腕で滅炎の蹴りを受け止める。

 反撃する隙は無く時間稼ぎにしかなっていないが、鬼にとってはそれで充分。先ほど負った傷は徐々に癒えいる。

 

 これこそ妖魔の厄介な点。妖気によって存在している彼らは空気中に漂う微弱な妖気を取り込むことで傷をいやすことが出来るのだ。

 下級の鬼とは言えそれは変わらず、このまま長期戦を続けると敗北するのは滅炎の方だ。

 

 しかしそのことは彼女も十分に知っている。

 

 滅炎は「調伏之具」の中心に灯る紫の輝きに手を翳す。すると輝きは一層増し、呼応するように滅炎の右足に紫色の炎が燃え上がる。

 

 滅炎は一拍テンポをずらして鬼を蹴り上げる。

 これまで一定の間隔で蹴りを加えていたこと、そして紫炎で強化されたことにより鬼は上手く対応することが出来ず、その体を上空に打ち上げられた。

 

「蜘蛛斬り」

 

 滅炎が短く告げると、どこからともなく一振りの太刀が現れる。

 これこそが源頼光が呪いを退け、大蜘蛛を切り伏せたとせれる宝刀蜘蛛斬り。源氏伝来の刀だが京の警備を行うにあたって一時的に譲渡されたのだ。

 二尺七寸の刀を扱うのは少女である滅炎にとってかなりの負担のはずだが、それがどうしたと蜘蛛斬りを担いで鬼に向かって跳躍する。

 

 鬼を超えた高さに到達した滅炎は、月を背にして抜刀した蜘蛛斬りを天高く振りぬく。

 そして「調伏之具」の中心に二回手を翳す。紫の炎が起こり、蜘蛛斬りの刀身に集中する。

 

「人間の分際で―――!」

 

 冷たく見下ろす狐に鬼は激高するも、滅炎の心には響かない。

 大上段から蜘蛛斬りを振り下ろし、自由落下と共に地面に叩きつける。

 

「ぐっ―――」

 

 余りの衝撃に地面が少し陥没する。

 鬼は辛うじて生きているが満身創痍だ。いくら待とうとも傷が癒える様子はない。

 妖魔に傷を与える条件。一つは大きな妖力を纏った一撃を与える、いわばゴリ押し。もう一つは宝刀などの神秘を持った武器を用いること。これらによる傷は下級の妖魔であれば致命になりうるし、上級の妖魔であっても回復に手こずるだろう。

 

 鬼は這って逃げようとする。

 しかし目の前には冷たい視線の―――仮面で見えないが―――滅炎がいた。

 

「終わり」

 

 感情を感じさせない声で告げると、「調伏之具」の中心に三度手を翳す。

 これまでで一番の輝きが周囲を照らし、滅炎の背後で紫の炎が狐を形作っている。

 

「ま、待って―――」

「待たない」

 

 鬼の命乞いを一刀両断し、右足をその場で振り上げた。

 背後にいた炎の狐は九つに分かれ、滅炎の左足に集中する。

 

「さよなら」

 

 そう言い放ち、滅炎はギロチンの刃のように右足を振り下ろす。

 その衝撃は地面を伝い、数センチの深さになる地割れを形成するほどだった。

 そんな一撃を受けて無事で済むはずもなく、鬼は跡形もなくこの世から消滅した。

 

 それを見届けると「調伏之具」から紫の火の玉が慌ただしく飛び出る。

 同時に変身が解除され、少女の姿に戻った。

 

 火の玉―――妲己と名乗る妖怪―――は機嫌よく(とお)に話しかける。

 

「流石は我が臣下、余を愚弄したものをよくぞ弑した!余が日ノ本を統一した暁には貴様を重臣に取り立てようぞ。さあ、この勢いで内裏に乗り込んで―――」

 

「行かない」

 

 素っ気なく両断され、妲己は出鼻を挫かれる。

 呆れることはあっても不快に思うことはない。そもそもこの程度で怒っているなら(とお)と一日居るだけで消滅を選ぶだろう。

 

(小娘め・・・この恨み忘れぬぞ)

 

 しかしそれはそれなのでしっかりと心の日記帳にこの恨みを刻み込む。

 妲己は抱いた恨みは忘れない系妖怪なのだ。

 

「って、どこに行くんじゃ。家はこっちじゃぞ」

 

 (とお)は都の外へ足を向けており、妲己は慌てて彼女を呼び止める。

 振り返った(とお)は無表情のまま妲己に告げる。

 

「仲間、倒しに行く」

 

 どうやら先ほど倒した鬼の仲間を倒しに行くようだ。

 既に満月は真南を超えて西に向かいつつある。

 妲己は無い顔を顰めたが、それを察知したのか(とお)は火の玉を掴んだ。

 

「・・・何をするつもりじゃ」

 

 嫌な予感がして妲己が訊ねると、(とお)は無表情のまま告げた。

 

「沈める」

 

 一瞬何のことか分からなかったが、平安京の脳内地図を見てその意味を察知した。

 (とお)が向かう先には池があるのだ。

 

「だあぁぁぁ!分かった、行っていいから!池に沈めるのは勘弁じゃ!ちょ、やめっ、消滅するぅ~!」

 

 後にその池は「夜な夜な叫び声を上げる人魂と、それを見つめる幽霊が出る池」として有名になったそうな。




はい。というわけで第一話でした。
あらすじでもあったように一章は平安時代が舞台です。なので「これはこの時代には無かった」などミスを見つけた場合、報告お願いします。(自分でも気を付けているのですが、どうしてもミスはしてしまうので・・・)

それではまた次回お会いしましょう。チャオ!(どこぞの地球外生命体風)
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