仮面ライダー滅炎   作:熊澤しょーへい

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「~~~~♪」

 

 地下洞窟内に鼻歌が響き渡る。

 リズムが絶妙にあっておらず、かといって不協和音と言えるほどには崩れてはいない。

 聞き手には不快感しか残らない。更に質が悪いのは意図的にその音程を取っていることだ。

 

 洞窟内にはどす黒い妖気が漂っている。

 耐性のない人間であれば即座に絶命し、武士や陰陽師であってもこの領域で長時間活動することはできない。

 それどころか、人間の悪しき感情を糧にしている怪異でさえも、思わず眉を顰めてしまう。

 

 ミイラのようにやせ細った老人が地面に魔法陣を描いている。

 老人の年齢を見た目と同じであると見誤ってはいけない。それは■にとってはガワでしかないのだから。

 目は爛々と妖しく輝いており、好奇心と悪意がごちゃ混ぜになった感情が見え隠れしている。

 

「さあ、四方の陣はこれで完成した」

 

 悪意の増幅は留まるところを知らない。

 そう、人類がいる限り。

 ならば■の暗躍は決して終わらない。

 

「ああ楽しみだ。エンディングを迎えたとき、君たちはどんな顔をしてくれるのかな」

 

 

 

 

 

「―――気に喰わないねぇ」

「どうしたの?頭領」

 

 ただ一人、否一匹、その悪意を知る者がいた。

 自分の考えを部下に話すと、彼らは一斉に声を荒らげた。

 

「えー!?つまり僕たちは捨て駒ってこと!?」

「怪しいったぁ思っちゃいたが、まさか俺たちを使い潰す気だったとはな」

「どうする?処す?処す?」

「落ち着きなって。空亡(あれ)はオイラだって敵わないんだ。皆が束になっても殺しきれるとは思えないね」

 

 血気盛んな部下たちを落ち着かせる。

 全員生き延びるために一致団結して本土へと渡ってきた仲間だ。

 頭領として勝てない戦いで命を散らせるわけにはいかない。

 

 しばし考えて、一人の部下へ指示を出す。

 

太三郎(たさぶろう)、都でこの場所の噂を流して欲しい。但し深追いはしないように」

 「へえ。ですがそれは源氏の奴らと共闘するってことですかい?」

「まさか」

 

 太三郎の懸念を一笑に返す。

 そんなもの一考にも値しない。

 自分たちの生き方はそんな愚直なものではない。

 

「武士と空亡。両者とも共倒れになってもらおう。そしてオイラたちが総取り、これがオイラたちのやり方だろう?」

「流石です、頭領。では自分は早速動かせてもらいやす」

 

 別の思惑を抱いて怪異たちは動き出す。

 決戦の時は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE:四の姫

 

 私の邸宅は土御門西洞院の北東―――よりも少しだけ離れたところにあります。

 内裏にほど近い本家には滅多に寄り付きません。行きたくもありませんし、相手も来てほしいとは思っていないでしょう。

 私を遠ざけつつも、離れたとは思わせたくない。そんな思惑が隠しきれていません。

 

 何故突然邸宅の話を始めたか?それは―――

 

「難しい。・・・これであってる?」

「もちろんです。凄い上手ですよ!」

 

 我が家に天女が舞い降りたからです!!!!!

 やったー!!!

 

 ・・・おっと、失礼。少々昂ぶりすぎてしまったようです。

 冷静沈着。でなければ貴族なんてやってられません。

 

「・・・」

 

 筆を墨に付け、慎重に紙の上を進ませています。

 途中ふと手を止め、何やら困ったように見本と睨み合っています。

 

 無表情ですが、(とお)ちゃんの感情は結構わかりやすいです。

 今回みたく困ってるときなんかは特に、です。

 まあそんなところが可愛いんですけどね!

 (とお)ちゃんを実際に見ると、清少納言様も思わず枕草子に加えてしまうでしょう。

 というか何で書かれていないんでしょうね、ほんと。

 

「むう・・・線がうねうねしてる・・・」

 

 今日の朝、唐突に「字を教えてほしい」と押しかけてきました。

 これが本家の人間であったなら半殺しにして叩きだすのですが、相手が(とお)ちゃんなら話は別。

 大喜びで上げましたとも、ええ。

 

「失礼いたします」

 

 廊下に女中が控えています。

 私が頼んだものを持ってきたのでしょう。

 置いて下がるように言うと、待ってましたと言わんばかりに去っていきました。

 

 この家の女中たちは本家から派遣されてきた人たちです。

 私たちに直接害をなそうとはしませんが、何を吹き込まれているか分かったものではありません。

 そんなものを(とお)ちゃんの視界に入れるわけにはいきません。

 というわけで廊下に置かれた物を拾い、部屋へと引き入れます。

 

「そろそろ休憩しましょう?」

「ん・・・これは?」

「先日約束した削り()です」

 

 夏場の()は驚くほど値が張る―――というか値が付けられないほど高価です。

 御爺様は陰陽師として帝から信任を得ていましたが、安部家の家格は従四位に過ぎません。

 夏期の()はなかなか手に入りませんが、この時期のものであれば何とか確保することができました。

 

 (とお)ちゃんの表情が目に見えて―――まあ私や五郎さん以外には無表情のままに見えるのでしょうけど―――変わりました。

 こう見えて(とお)ちゃんは食べ物に目がありません。

 まあそんなところが可愛いんですけどね!

 

 我が家の料理人の腕はかなり良く、固形であるはずの氷がまるで雪のようです。

 上には甘葛(あまづら)から作られた蜜がかかっています。

 こちらもかなり値が張るものですが・・・まあこれで(とお)ちゃんの笑顔が買えるなら安いものです。

 どうせ痛むのは本家の懐ですし。

 

「ささ、溶けてしまわないうちに食べてください」

 

 私が促すと氷を掴み、ゆっくりと口の中に運びました。

 その瞬間、(とお)ちゃんの表情が綻びました。

 

「凄い、甘い。口の中で溶けた」

 

 淡々としていますが、すごく感動しているのが分かります。

 その証拠に、彼女の傍らに紫色の火の玉が出現しました。

 

「ふぉーーーっ!キタのじゃあ!これほどの甘味、口にするのは何十年ぶりかのう!」

 

 興奮したようで、あちらこちらに跳ねる妲己。

 封印してやろうかとも思いましたが、私以上に苛立っている人物の殺気によってその考えは霧散しました。

 

「―――妲己」

「・・・(とお)よ、目がマジではないかの?」

「今日は出てこないって言った。早く戻る」

「・・・仕方ないのう」

 

 (とお)ちゃんの言葉に、妲己は大人しくその場から消えました。

 敵ながら、その判断には流石、と言わざるを得ません。

 (とお)ちゃんの敵に対する眼差しは歴戦の武士のそれと比べても遜色ないほどの冷たさです。今も幸せそうに削り()を噛みしめている彼女とは、同一の人物には到底見えません。

 まあそんなところも(以下略)

 

 削り()を完食した(とお)ちゃんは満足気で、どこか寂し気でした。

 そんな(とお)ちゃんに何故、急に字を教わりに来たのか問いかけてみました。

 

「・・・なんでもいいから知るべきだと思ったから」

 

 その言葉を切り口に、先日五郎さんと交わした会話を教えてくれました。

 知らないうちに(とお)ちゃんは成長したようです。その切欠が自分ではないのが悔やまれますが・・・

 淡々と話し終えると、私の目をしっかりと見据えました。

 

「だから教える。四の姫の戦う理由」

 

 ・・・戦う理由、ですか。正直私自身あまり考えたことがありません。

 安部家の人間として、そして御爺様に次ぐ霊力の持ち主として、私は生まれながらに陰陽師として生きることを決定づけられていました。

 ―――いえ、実際は人間としても見られていなかったかもしれません。でなければ娘を「四の姫」などとは呼ばないでしょう。

 私には名前がありません。「四番目の姫」なので気が付いた時には四の姫と呼ばれていましたが、父と母(あれら)からは一度も名を呼ばれたことがありません。

 

 ですが、あえて言うなら―――

 

(とお)ちゃんや五郎さんがいるから、ですかね」

「―――?」

 

 私の回答が意外だったのか、(とお)ちゃんは首を傾げています。

 ええ、正直安部家だの使命だのはどうでもいいのです。

 友達が命を張って怪異と戦う。そんな時に私も隣にいて、手を取り合いながら怪異を討ち滅ぼす。

 古事記や日本書紀にしか描かれていないような一場面。

 現実にはそううまくはいかないでしょう。

 それでも―――

 

 ―――ええ、それでも、私は魅せられてしまったから。

 あの夜、貴女の刃に、貴女の炎に。

 貴女の為なら命を捧げてもいい。そう思ってしまうほどに。

 

 勿論、五郎さんだって大切ですよ?

 私を「四の姫」という一人の人間として扱ってくれる人は、そう多くはありませんから。

 

「・・・」

「どうかしました?」

「理由になってない」

「まあ、他の人から見ればそう見えるかもしれません。ですが理由というものはそういうものだと思いますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてから(とお)は四の姫の屋敷を離れ、先日訪れた丘へと足を向けていた。

 当然、離れる際には四の姫が泣いて惜しがったのは言うまでもない。

 

「これは山吹じゃな」

「これは桜?」

「梅じゃな。桜に比べて梅の花弁は丸いのじゃ」

 

 道中、妲己に見かけた花について質問してみた。

 長い時間を生きているというのはあながち嘘では無いようで、大妖怪とは思えない博識ぶりを披露して見せた。

 久方ぶりに甘味を口にしたためか、妙に機嫌がよかったのも一因だろう。

 

 丘が見え始めたところで、(とお)が唐突に本題を切り出した。

 

「妲己は大陸の王様だったって聞いた」

「何じゃ、ようやく余の偉大さに気が付いたかの?そう!姓は己、字は妲。殷の帝辛が妃とは余のことよ!本来であれば貴様のような小童が目にすることすら出来ぬ至高の存在よ!」

「・・・」

「―――自分で話を振っておいてその無言はどうかと思うぞ、(とお)よ」

 

 やがて目的地に到着すると、(とお)はその縁に腰かけた。

 それに合わせて紫色の火の玉が出現し、プカプカと浮かぶ。

 火の玉は何処かリラックスしている様であった。

 

「妲己はもともと妖怪だった?」

「当然じゃ」

「じゃあ何で人間の王になった?」

 

 そこまで(とお)が口にすると、流石の妲己も思惑に気が付いたようで、空中で漂っていた火の玉の動きがピタリと停止した。

 

「―――それを聞くのが目的か」

「誰かがいる場所だったら、きっと話さない」

「ふん。多少は知恵が回るではないか」

 

 妲己は試しに少し(とお)から距離を取ってみる。

 しかし即座に詰められる。その瞳は獲物を捉えた鷹のようで、無いはずの背筋が冷たくなるのを感じる。

 だがここで諦めては大妖怪のなが廃れるというもの。

 ―――まあ、もう既にかなり廃れているような気がしないでもないが。

 

「一応聞くが、拒否した場合はど」

「池にぶち込む」

「(絶句)」

 

 食い気味どころじゃない速度で死刑宣告がなされ、妲己は思わず言葉を失う。

 因みに現在の妲己が霊験あらたかな池に放り込まれると、トラウマもあって消滅―――とはいかないがかなりの力を消耗させられる。

 そのことは(とお)も良く知っており、相手が嫌がることをノータイムで選択するところに妲己は改めて恐怖を感じた。

 

「―――」

 

 妲己はたっぷり葛藤した後、「面白い話ではないぞ」と前置きして口―――火の玉にはないが―――を嫌々開いた。

 

「余は古い妖怪じゃ。それこそ空亡と競えるほどの」

「人間にとって最も古く、身近な脅威は獣であった。それに対抗するため、数多ある人類の発明で原初に生み出されたのが炎であった」

「しかし炎は諸刃の剣であった。炎は人を照らし温めるが、人を容易く焼き殺す」

「この二つの恐れから生み出たのが余じゃ」

「余は長き時間人類の営みを眺めてきた。群れが村を起こし、都市となって国を興す。そうして生まれた国も年月と共に容易く滅びた」

「人の営みとは畢竟、その繰り返しよ。余はそれを飽きるほど見てきた」

「そんな折に思いついたのじゃ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とな」

 

「・・・」

 

「余は人ではない。人が同じもの以外を排斥するというのは知っていた。じゃから自分が王となるのではなく、殷王に取り入り、女王となって国を統治するという手段を取った」

「結果は知っての通りじゃ。余は正体を看破した姜子牙に敗れ、各地を放浪し、数年前にこの地に流れ着いたのじゃ」

 

 「これで終わりじゃ」と言って妲己は(とお)の頭上に乗りかかる。

 (とお)はそれを咎めることはなく、都の方を見つめていた。

 虚ろな瞳から何かを読み取るのは難しい。

 しかしただ聞き流していただけではないことは妲己にもわかる。

 

「妲己」

「・・・何じゃ」

「国を造るのは諦めてない?」

 

 (とお)の問いかけに、妲己は「フン!」と声を上げる。

 

「当然じゃ!当時の余は人間に対する知識が足りなんだ。それは認めよう。ならばそれを補えばよいだけの話よ!」

 

 気力を取り戻したのか妲己は浮かび上がり、(とお)の周りを旋回する。

 

「そしてこの国を掌握した暁には!貴様には望む地位を与えてやろう!宰相位でも将軍位でも意のままじゃ!」

 

 笑い声を上げながら高速で空中を浮遊する。

 いつもなら不快になるはず、でもなぜか今日は心地よかった。

 妲己はこうあるべきだ、心のどこかでそう思ったのを、(とお)は自覚しない。

 

「ちょっと見てみたい。妲己の作った国」

「そうじゃろう!ならば早速帝とやらを蹴散らしに―――」

「駄目」

「なぜじゃ!そこは嬉々として向かうところじゃろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀を取ることのない、穏やかな時間。

 しかし世は怪異全盛の平安時代。

 そんな時間は長くは続かない。

 

「―――空亡の居場所が判明いたしました」

 

 四の姫が厳かに告げる。

 都の片隅で流れた小さな噂。

 先の失態で源氏に後れを取ることとなった陰陽寮は藁にも縋る思いで、安部家の第四の姫を()()()遠目の術で真偽を確かめたのだ。

 

 ―――果たして、陰陽寮は賭けに勝った。

 判明した空亡らの居場所は、

 

「大江山」

 

 かつて鬼の首魁らが縄張りとし、数年前に源氏武士団との一大決戦が行われた因縁の地。

 その頂上で新たな首魁が座しているという。

 

 ―――決戦の時は、近い




休暇を満喫中の主人公
 美味しいものを食べて、友達と遊んで、友情を深めた。
 理想的な休暇を過ごしている。羨ましい。
 このまま幸せになってくれ
 ―――なったらいいね





過去を吐露した狐
 殷から叩きだされた後は世界を放浪していた。
 姜子牙こと太公望にはそこまで悪い感情を抱いていない。
 目指すは「皆が平等な国」。(とお)みたいに捨てられる人間がいない国造りを目指しています。
 
 



主人公に脳を焼かれた姫
 約束通りかき氷をあげた。
 そのうち宗教でも立ち上げるんじゃないか、と不安になるレベルで(とお)に心酔している。
 ぺろぺろしたい。でも我慢してる。嫌われたくないからね。





悪だくみしているラスボス
 コイツが出てくると本当にロクなことにならない
 とっとと倒してもろて





漁夫の利を狙っている中ボス
 果たしてそんなにうまくいくのか





チート野郎その2
 安部晴明と同レベルでやべー奴
 パワーMAXの妲己を正面からぶん殴った。つよい
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