分割すればよかったかな~と思いつつ書いていました。
むかしむかし そのむかし
あるところに さむらいに なりたい しょうねんが いました
しょうねんは とのさまに つかえるため まいにち けいこに あけくれて いました
ですが けいこは とても きびしく あるとき しょうねんは にげだして しまいました
「ここは どこだろう?」
しょうねんは ひっこしてきた ばかりで たちまち まいごに なってしまいました
しょうねんが いまにも なきそうに なっていると どこからか うたごえが きこえてきました
「きれいな うたごえだ。どこから きこえてくるのだろう?」
しょうねんは うたごえが きこえるほうへ あるいて いきました
やがて おおきな へいの おやしきの まえに たどりつきました
どうやら うたごえは ここから きこえてくる ようです
「どうやって はいろう?」
しょうねんは ちいさいので へいは こえられません
それでも しょうねんは うたの あるじを ひとめ みたいので なんとかして こえられないかと あたりを さがしました
「あ、あった!」
おやしきの いちばんはし ざっそうに かくれて ちいさな あなが あいていました
しょうねんは さっそく あなをとおって おやしきのなかへと はいっていきました
おやしきの なかには ちいさな おんなのこが すわっていました
「あなた だあれ?」
うたごえ そのままの かわいらしい こえで おんなのこは たずねました
そうして さむらいと おには であったのでした
大江山 北東
「ふん!」
大江山の四方では激戦が繰り広げられていた。
人対怪異。令和の世では物語の上でしか語られない一幕。
同時に大江山へと侵攻した武士団と陰陽師たち。しかしその速度は同じではなかった。
ここ北東側は二刻ほどで目的の場所へ辿り着いた。
「浦辺様、こちらでございます!」
「応、今行こう」
あたりを偵察していた武士の一人が、この方面を引き受けていた浦辺坂上季武を呼んだ。
坂上は安和年間に祖先である坂上田村麻呂を祀った将軍宮松尾丸社を建立しており、その縁で源氏武士であるのにも関わらず、陰陽道にも精通しているのだ。
「こちらでございます」
「うむ、ご苦労」
案内されたのは中腹あたりに建てられた山小屋。
山道から外れたそれは余りにも不自然。
人が住むには狭すぎるそれ。地面に妖しげな陣が描かれている。
紫色に発光しており、知識のない人間でも忌避するだろう。
だがそれよりも目を引くのは、陣の上に配置された物。
触媒か、あるいは捧げものか。
推察するしかないが、式の中枢を担っているのは確実だろう。
「フゥ―――」
坂上は取り出した札に霊力を込める。
使用されている紙は西洋で言うところの「聖別」が成された特別な品。でなければ彼の霊力に紙が耐えることができない。
その札を陣に投擲。触れた瞬間に甲高い音を上げて忽ち崩壊してしまった。
だが、坂上は油断しない。最後っ屁に怪異を呼び寄せるくらいはやりかねない。
刀に手を掛け、警戒すること四刻半。異変が起きないことを確認し、地面に落ちた、陣の上に置かれた物を拾い上げる。
「これは―――野槌の遺骸かのう?」
野槌。現代ではツチノコと呼んだ方が通りがいいだろう。
人類がツチノコを目撃した痕跡は遥か古代、縄文の時代にまで遡る。彼の時代の石器、或いは土器にツチノコらしき文様が描かれているのだ。
文章で触れられたのは奈良時代。古事記や日本書紀内に神の一柱に名を連ねている。
現代では例えツチノコの遺骸を見つけたとしても、忽ち分類分けがなされ、「UMA」から「ありふれた蛇の一種」へと堕とされてしまうだろう。
しかし、この時代は未だに神秘のヴェールが支配している。この類の物体には多大な霊力・妖力が込められている。術の中枢に置くにはもってこいだ。
しかも、これは一つだけではない。
同じく妖力の込められた遺物が計五つも配置されていたのだ。
「陛下や殿、安部の姫の懸念は正しかったか・・・」
これらの遺物は多大な力を持つと共に、入手の難易度が非常に高い。この筋の情報をかなり握っていると自負している坂上でさえ、これまでに一つしか見たことが無かった。
そんなものを単純計算で二十、一つの術式で使用している。
成立させてしまえばどれほどの災厄を振り撒くか分かったものではない。
坂上は家臣を呼び、半分ほどの兵を以てこの小屋を守ることを命じた。
呪物を持ちながら戦うことは出来ない。この小屋の中に放置するほかない。
後詰めとして麓に待機した部隊に預けようとも考えた。だがその隊には左衛門尉が指揮している。
後継者が十分に育っているとは言えず、また朝廷との橋渡し役である彼を討ち死にさせるわけにはいかない。
これは彼らの総意であり、渋る頭領を総員で何とか説得したのだ。
呪物を押し付け、怪異を誘導するなど以ての外だ。
「はっ。では坂上様はどうなさいますか?」
この家臣は優秀だ。指揮を任せても問題はない。
彼の問いかけに、暫し間を置いて答えた。
「残りを率いて北西の援護に向かう」
北西の部隊を率いるのは源左馬権頭頼光。
そこらの怪異に後れを取るとは思わないが、あの方も既に御年。無茶をすれば或いは、ということもある。
自分のことを棚に上げてそう考えた坂上。
戦いはまだ、始まったばかり。
おんなのこは おに でした
つのが はえていて きょうぼう
おんなのこは そんなうわさとは まぎゃくでした
「おかあさんに おしえてもらったの みやこで にんきなんだって」
おんなのこは そういいました
どうやら しょうねんとおなじで どこかから ひっこしてきた みたいです
しょうねんは おんなのこに ひとめぼれ してしまいました
きぬのように しろいはだ
どこまでも すきとおる きれいな こえ
よぞらのような ふかい くろい かみ
ちのような まっかな め
そして あたまに ちょこんとのった ちいさな つの
「ねえ いっしょに あそぼうよ」
きがつけば しょうねんは おんなのこに てを のばしていました
「・・・いいの?」
「うん!」
おずおずと むけられた てを しょうねんは しっかりと にぎりました
おんなのこは おどろいて でも どこか うれしそうでした
大江山 西方
木の枝、血の槍、土の剣―――数多の投擲物が雨のように降り注ぐ。
一つ一つに妖力が込められており、その威力は鉄の壁でさえも容易く貫いてしまうほど。
そのような攻撃を何度も繰り返すと、妖怪の方の負担も大きい。だが無理を押さねばアレに対して時間稼ぎすらできない。隠神刑部は彼女に対面して改めてそう覚悟した。
当然生半可な術では防ぐことすら出来ない。が、相対するは
「“結”!」
札に霊力をこめると、刻まれた術式が即座に展開される。
周囲一帯、百を優に超える人間を一纏めに保護する結界。大規模な結界であるほどその強度が低下してしまうものだが、四の姫が展開した結界は隠神刑部の攻撃を余すことなく受け止めた。
役割を終えた札は灰となって消滅し、同時に結界も消失する。
その間を縫って、木々に向けて一条の矢が放たれる。
「「―――ッ」」
放ったものと、放たれたもの。両者ともに舌打ちをする。
隠神刑部は完全に木々に紛れている。その小柄な体は、夜という環境もあって見つけ出すのは困難だ。
しかし五郎は、寸前まで彼がいた枝を的確に射抜いたのだ。少しでも動くのが遅ければ、大きな傷を負っていただろう。
彼の矢には四の姫の霊力が込められている。当たり所によれば、例え大妖怪と言えども致命傷足りえる。
逃がしてたまるかと二射、三射と続けて放たれる。
その全てが暗闇へと吸い込まれたが、黙ってやられる隠神刑部ではない。
回避行動をとりつつ辺りへ妖力を張り巡らせる。あたりに散らかる怪異の残骸や武士・陰陽師の遺体を操作、槍へと加工し次々と投擲する。
「“結”!」
血肉をまき散らしながら迫る槍。しかし悉く空中で弾かれてしまう。
隠神刑部の妖力が尽きるのが先か、それとも四の姫の札が切れるのが先か。彼らの戦いは長期戦の様相を見せていた。
「姫さん、札はどれだけ残ってる?」
「十のうち七、といったところです」
背中合わせに二人が会話する。
帰ってきた言葉に五郎が眉を顰める。後に控える空亡は間違いなく隠神刑部よりも強敵。それを考えるとこれ以上の札の消費は避けなければならない。
相手の流れに乗せられている。五郎は肌でそう感じていた。
相手の攻撃はこちらの結界によって悉く無力化されている。しかし隠神刑部はそれを乗り越えようとするでなく、ただ同じ攻撃を繰り返している。
なにより相手から焦りの感情が見えてこない。まるでこの状況を望んでいるかのように、酷く落ち着いている。
四の姫が防御に回されているのもその一因だろう。
乱れるような攻撃は、しかし彼女にしか満足に防ぐことができないでいた。彼女の結界の範囲内に含まれなかったものは、次なる武器として加工されることとなる。
五郎は思わずあたりを見回す。
しかし他の武士や陰陽師らは押し寄せる怪異たちの対処に手一杯で、こちらを援護する余裕はないようだ。
四の姫は焦りのあまり札を投擲する。
しかし札は隠神刑部に掠りもせず、貴重な武器が一つ無駄になるだけに終わった。
(これ以上時間を取られれば―――!)
彼女は何故これほど焦っているのか。
それは以前見た悪夢に空亡が関与しているのではと疑っているためだ。
もし空亡の策略を止められなかった場合の景色がアレならば、正に地獄が顕現することとなる。
彼女は腰の短刀へと手を伸ばす。
神の依り代である神秘の短剣、家の意向によって装備させられていたのだ。
これを用いれば瞬きの間に隠神刑部を弑せる。しかし彼女の身体が耐えられる保証は無い。
だがやむを得ない。これ以上人命を失うわけにはいかない。
意を決して鍔にかけた手は、隣から伸びた雄々しい手によって妨げられた。
「―――五郎さん」
「まだ使う時じゃねえだろ、それは」
でも―――。次なる言葉は五郎によって遮られた。
「身体張んのには順番ってものがあんだよ。―――術で俺を強化してくれ。それでアレを仕留める」
四の姫は息を飲んだ。
確かに他人を強化する術はある。自らの霊力を分け与え、鬼人のごとき力を発揮させる術。
しかしその代償はあまりに大きい。二度と刀を持てぬ体になった人間も大勢いる。
「―――分かりました」
制止、翻意、懇願―――全てを飲み込んで四の姫は同意した。
現状これ以外の手段は思いつかない。そして躊躇っているうちにも犠牲が出、着々と空亡の企みが進行する。
そして何よりも、五郎の目が彼女の言葉を失わせた。
その覚悟を踏みにじることは、四の姫にはできなかった。
何度目か、隠神刑部の攻撃が降り注ぐ。
四の姫は三枚の札に霊力を注ぎ、結界を展開する。
自身の術が阻害されることが無いように。
「数えて二十、それが術の限界です。それまでに、」
「ああ、任せときな」
五郎の背中に札を張る。
印を結ぶと札は僅かに光を放ち、五郎の身体へ霊力が注ぎ込まれる。
「“天元行躰神変神通力―――力を望む者よ、鬼人の如き武を以て邪悪なる者を滅し給へ”」
結界が、その役割を終える。
と同時に一つの塊が、弾丸の如く射出される。
手榴弾が爆発したかのような音と跡地、それだけを残して。
「なっ―――」
白刃が、煌めく。
隠神刑部の身体が突然浮遊感に包まれる。
先ほどまでと同じく槍を形成していた。しかしそれは急遽中止せざるを得なかった。
足場にしていた木の倒壊。その異変を前にして。
足場にしていたブナの木は2尺から3尺の間。熟練の木こりでも一苦労する大きさだ。
しかし、どうだ。盤石であった足場は一瞬にして崩壊してしまった。
根本には綺麗な断面だけが残っていた。
なにか、まずい
本能の警告に従い、妖力で強化した腕で防御の態勢を取る。
長くは生きているが積極的に死地へと赴くことが無かった隠神刑部は、他の大妖怪と比べても妖力を操る練度が低い。しかしながら蓄えられた妖力の質は一級品で、凄腕の陰陽師でも彼の防御を抜けるのは簡単ではない。
ガギィィィン!
押し負けたのは隠神刑部の方であった。
怪我は無い。しかしボールのように遠方まで吹き飛ばされてしまった。
「お前―――」
彼が見たのは正しく鬼人。
凡人であると見下していた男は
透き通るような、透明な霊力。それは彼が隠神刑部ら大妖怪に匹敵する力を手に入れたことを意味する。
「よう。やっと俺を見てくれたな」
男は、嗤っていた。
力を手に入れた自分自身を。それとも一度苦汁を舐めさせられたにも拘らず、彼を「ただの人間」であると見下していた愚かな隠神刑部を。
無意識に口角が吊り上がる。
傲慢で、無慈悲で、自己中心。
狸が最も嫌っていた、
瞬きの間に両者の距離が詰まる。
二度目の轟音。大地が容易く抉れるほどの力で走り出したのだ。
こうして、20秒間の地獄の鬼ごっこが始まった。
機動性は隠神刑部が若干勝る。その小柄な体を駆使して木から木へと飛び移り、五郎の攻撃から何とかして逃げ回る。あたりに散らばる残骸から槍を生み出し、五郎を攻撃するのも忘れない。
しかしそれらは五郎の追跡を振りほどくには至らない。
隠神刑部からの攻撃は当たらない、或いは悉く切り落とされて有効に働いているとは言い難い。
そして隠神刑部が木々の中に隠れようとしても、目についた木々を次々と伐採してしまい、身を隠す暇すら与えられない。
第三者からは五郎が一方的に隠神刑部を追い詰めているように見える。
その状況とは真反対に、五郎の内心は焦りに支配されている。
(
心の中で悪態をつく。
五郎は霊力に適性を持っていない。そんな彼が短時間とはいえ、他人の霊力を身に宿して戦っているのだ。手綱を持たずに暴れ馬を制御しようとしている状況に近い。
初手で爆散しなかったのは、彼の強靭な精神力と術者である四の姫の卓越した霊力コントロールがあってこそ。今戦えているのは奇跡と言ってもいい。
全神経を力の抑制に注いでいる。じわじわと精神力が削られているのを嫌でも感じてしまう。
双方ともに10から数えるのは止めた。
周囲の怪異を巻き込んで、二人の鬼ごっこは佳境を迎える。
「―――ッ!」
無事だった木の枝に飛び乗り、隠神刑部は一つ息を吐く。
一手でも間違えがあれば、今頃首と胴が感動の別れを果たしていただろう。
慣れ親しんだ足の感触に、どこか安堵感を覚える。
先ほどまでの攻防は刹那が無限の時間に思えるほどの濃密さで、かいたことのない場所から汗が噴き出していると錯覚してしまう。
だがその安堵感は目の前の光景で、一瞬にして掻き消えてしまう。
「―――
首元に刃が迫る。
恐ろしい跳躍力で五郎は王手をかけていた。
この木が残ったのも偶然ではなく囮。隠神刑部が木の上から攻撃するのを好むことを読み取った五郎は、何とか力を制御して幾つか木を残していたのだ。
切羽詰まっていた隠神刑部に彼の思惑は読み切れず、急な接近を許してしまったのだ。
斬られる、そう思う暇すらない。
防御は当然間に合わず、死神の冷たい鎌は今に隠神刑部の魂を刈り取らんと首に刃を添えている。
正に、絶体絶命。
しかし勝利の女神は隠神刑部に微笑んだ。
ブシャァ!
「は―――」
漏れたのは誰の声だっただろうか。
五郎が全身から血を噴き出し、地面に落下してしまったのだ。
地面に叩きつけられた彼の身体からは、あの圧倒的な霊力は見る影も無くなっていた。
「く、そ・・・」
何とか息はある。しかし全身に力は入らず、立ち上がる力すら残されていなかった。
これが、代償。力なき者がその過程を飛ばして力を手に入れるには、それ相応の危険が伴う。
命があるだけ儲けものだ。
「よくも―――」
しかし安心できる状況では決してない。
彼の真上には殺気を纏った大妖怪が鎮座しているのだから。
「よくもここまで追いつめてくれたね、人間ごときが―――!」
先に訪れたのは安堵。少し経って憤怒が心を支配した。
大妖怪たる自分が、二度も只の人間に恥をかかされた。内一度に至っては危うく殺されかけた。
槍を何本も形成する。二度も殺り損ねないように、徹底的に殺しつくすために。
幸い材料には困らない。何なら生きたまま加工してやるのもいいかもしれない。
「死―――は?」
動こうとして、異変に気が付いた。
蔦に絡まったかのように、身体が動かなくなってしまった。
それどころか、妖力を体外へ放出することも出来ない。
唯一動かせる首を動かし、置かれた状況を目にする。
隠神刑部が足場にしている木の枝には札が張られており、そこから霊力の荊が生え、彼の身体に絡みついているのだ。
「いえ、詰みなのは貴方です」
やられた、隠神刑部はそう思った。
この20秒、どうしても四の姫への警戒心を下げざるを得なかった。
その結果が、これだ。
「“絶界”」
パン、と言う拍手の音と共に、札から霊力が一層解き放たれる。
芸術品のような美しい術式。それを最後に隠神刑部の視界は暗闇に包まれた。
「わたし いみご なんだって」
あるとき おんなのこは いいました
「うまれちゃ いけなかったんだって」
おんなのこの ことばに しょうねんは おこりました
「そんなことない!」
「そんなことを いうやつは ぼくが たおしてやる!」
そういうと しょうねんは てにもっていた しないを たからかに かかげました
そんな しょうねんを おんなのこは びっくりしたようすで みつめました
「ど どうしたの?」
しょうねんが どうようしていると しょうじょは くすりと わらいました
「ありがと ■■■」
しょうじょは ほおを あかく そめました
そんなことを いってくれるひとは これまで いなかったのです
大江山 東方
他の三方以上に、激戦が繰り広げられていた。
自然豊かな森林は影も形も無くなり、無骨な岩肌が露出している。
介入しようとした愚かな怪異は一瞬で消し飛ばされ、その妖気の残り香も残らない。
金属同士がぶつかり合う、甲高い音があたりに響く。
それは刀と金棒がぶつかり合う音。
ぶつかり合うと共に衝撃波が広がり、切り裂くような風が容赦なく木々に襲い掛かる。
一瞬だけ両者は拮抗するが、徐々に金棒の方へと優位が傾いてゆく。
刀は衝撃に弱く、金棒のような頑丈なものに打ち付けるものではない。妖力によって強化しているとはいえ、その関係からは逃れられない。
無理をしてしまえば砕かれてしまうだろう。鍔迫り合いを早々に切り上げ、少し距離を取る。
両者、隙を伺う。
風が土を少し巻き上げる。
普段は気にも留めない自然の声が、やけに煩く耳に残る。
張り詰める緊張の中、先に動いたのは茨木童子。その場で金棒を大きく振り上げた。
左腕が無いにも拘らず、その動きはその枷を全く感じさせない。
金棒の動きに合わせて大地が隆起し、巨大な岩の棘が滅炎に迫る。
その全てが妖力を纏っており、一つ一つが必殺の威力を纏っている。
だが、速度はそれほどだ。滅炎は岩棘を難なく回避する。
しかし油断の二文字はない。
走りながら金棒を投擲。滅炎は蜘蛛斬りで咄嗟に防ぐ。
しかしそれは悪手であった。態勢を崩した滅炎の懐に茨木童子は潜り込む。
その手の中に武器はない。金棒ではどうしても大ぶりな攻撃にならざるを得ず、自身より小柄な滅炎に対しては不利に働くと考えたためだ。
茨木童子の拳が迫る。眩しい色の妖力を放つそれは、武士たちが身に纏う大鎧であっても容易く砕くほど。
滅炎は蜘蛛斬りを手放し、両手で拳を受け止める。
先ほども述べたが、刀は衝撃に弱い。ここをしのぐには、刀は不適当であると考えた。
茨木童子の攻撃は終わらない。
彼女の拳、蹴りを滅炎の拳、蹴りが相殺する。
嫌な流れだ、滅炎は冷静に思考する。
防戦一方となっており、その攻撃も防ぎきれているというわけではなく、現にかち合った右足の鎧は砕け、真紅の血液が飛び散っている。
彼女は防御よりも攻撃の方が得手だ。
一度流れをこちらに引き寄せるため、意識を一部地面に向ける。
数秒としないうちに両者の間の地面に妖力の塊が出現し、噴き出した炎が二人を分断する。
距離は取らせない。態勢を立て直す隙を与えないため、被弾上等で炎の中に茨木童子は身を投じる。
数百度に達する滅炎の炎。しかし彼女の身体に焦げ目一つ付けることは出来なかった。
しかし滅炎の目的は達せられた。
「なっ・・・」
炎の先には滅炎は居なかった。
唖然とする茨木童子の背後、刀を鞘に納めた滅炎が構えていた。
狙うは脇。血管が集中する部位の一つだ。
一撃必殺ならば首狙い一択だが、相手はそれほど甘くはない。現に反射的に首周辺に妖力を集中し始めている。
抜刀し、加速させた刀が茨木童子に迫る。
しかし、次は滅炎が息を吞む番であった。
「―――」
振りぬいた刀はいともたやすく弾かれた。
当然蜘蛛斬りには妖力を纏わせていた。にも拘らず茨木童子の身体には傷一つ付いていなかった。
何故、思考するよりも早く滅炎の身体が吹っ飛んだ。
振り向きざまの拳一撃。腹に吸い込まれたそれは咄嗟の防御を容易く砕いた。
肋骨、いや内臓も幾らか持っていかれたか。口の中に鉄分が広がる。
頭の中に鳴り響く警鐘を無理やり黙らせ、滅炎は立ち上がる。
妲己の声がどこか鬱陶しい。
金棒を形成し、茨木童子が追い打ちをかける。
傷の再生を二の次に、負けじと滅炎も走り出す。
技量では滅炎が勝っている。現にこの攻防では滅炎は傷を負わず、隙間を縫って茨木童子に刃を届かせていた。
しかし、その全てが彼女にとってのダメージとはならない。
滅炎の妖力量に比べて、茨木童子の総妖力量は勝っているとは言えない。しかし滅炎は茨木童子に傷を与えることができていない。
何故か?
それは妖力の方向性に理由がある。
獣と炎の畏怖から生まれた妲己の妖力は『破壊』『熱』『再生』など多くの性質を持っている。幅広い攻撃に補正がかかるが、その性質の多さから一つ一つの比率は決して大きくない。
一方の茨木童子は『暴力』『防御』の二つに集中している。それ以外に比重を全くおいていない、と言っていいほどに。
バランスタイプの滅炎
特化型の茨木童子
攻め切れないのも納得である。
左腕が無いにも拘らず、不利なのは滅炎。
睨み合い、膠着する二人。
しかし唐突に、茨木童子の意識が遠方に向けられる。
高速で接近する一つの影。振り向いた茨木童子の身体に白刃が迫る。
しかし、甲高い音と共に刃は弾かれる。
無粋な乱入者に向けて金棒が振るわれるが、滅炎の刀が優しくそれを受け止めた。
「―――綱」
茨木童子から冷たい声が漏れる。
乱入者は渡辺源次綱。頼光四天王の一角である。
鎧には無数の傷がついており、無事とは言い難かった。
それもそのはず、茨木童子によって他方面と比べて多く配置された怪異の群れを無理やりに突破してきたのだ。
むしろこれほどの傷に収まっていることから、彼の力が衰えていないことが分かる。
「
「・・・もうすぐ勝てた」
「貴殿、以前から思っていたが負けず嫌いか?」
「違う。いつも源次は美味しいところだけ持っていく」
「不満か?」
「不満」
「もう少し歯に布を着せないか?」
そんな器用なことができれば、余も苦労せんわ!
妲己は叫んだが、滅炎は華麗に無視した。
そんな両者のやり取りを見て、茨木童子は憤慨したように叫ぶ。
「貴様は!どこまでも
「徒花―――否、茨木童子。これまで二度見逃した。三度目を許すほど私は甘くないぞ?」
三者の戦いは佳境を迎えようとしていた。
しょうねんと おんなのこは なんども いっしょに あそびました
しゅぎょうの あいまを ぬって しょうねんは なんども おんなのこに あいに いきました
おんなのこは いつも しょうねんを かんげいしました
しょうねんは ふたりで あそぶ じかんが とても たのしみでした
しかし そのひびは ながくは つづきません でした
「なにか あったのかな?」
あるよる しょうねんは めを さましました
なにやら そとが さわがしかったのです
きになって そとにでると むらびとが さわいでいました
「おにだ!」
「おにが でたぞ!」
「おにを たおせ!」
むらびとたちは ぶきをもって はしりだしました
そのさきは おんなんこが いた おやしきでした
「たすけないと!」
しょうねんは はしりだしました
おやしきに ちかづくと なにやら あかいものが うごいていました
ほのおが おやしきを つつんで いたのです
しょうねんは なんとか おやしきに はいりました
「やっぱり あなた だったの」
おんなのこは いつものところに いました
ですが まわりには したいが ころがって いました
おんなのこの くちもとと ては あかく そまって いました
「はやく にげよう!」
いつかの ように しょうねんは てを のばしました
ですが そのては はじかれ ました
「さわらないで!」
おんなのこの くちから でたのは きょぜつ でした
しょうねんは しょうげきを うけました
おんなのこは ふるえる こえで いいました
「あなたが みんなに いったの ここに おにが いるって」
たしかに ともだちが できたと みんなに いいました
しかし かのじょの ひみつは ひとことも いって いなかったのです
しょうねんは ひっしに ひていしました
「このひとたちが いってたよ わかさまから はなれろ って」
おんなのこの あしもとの したいは しょうねんの かしんでした
しょうねんの あとをつけて いたのです
しょうねんは こうかい しました
おんなのこの つのは おおきく なっていました
「さようなら にどと あなたと あいませんように」
きがついたときには おんなのこは どこにも みあたりませんでした
少年と女の子のお話は、これでおしまい
少年は成長し武士となり、女の子は悪逆非道の悪鬼となる。
10年以上の時が流れ、二人は京の都で再開する。
これからは、武士と悪鬼のお話。
流れが、変わった
滅炎と茨木童子、双方が嫌でも思ってしまう。
戦況は滅炎側にかなり傾いている。
まず、単純に手数が増えたこと。
ただでさえ2対1を捌くのは厳しい。人数差によって「左腕が無い」という茨木童子の不利要素が、戦況に明確に影響を与え始めていた。
その証拠に茨木童子に刃が届く回数が増え、滅炎は妖力を傷の回復に回す余裕が出てきたほどだ。
そして、茨木童子の
過去に二人に何があったのか、滅炎は知らないし興味もない。
ただ目の前の敵を討つことに集中する、それだけだ。
先ほどまでの構図は一変した。
二人の武士が悪鬼を追い詰めてゆく。
驚愕すべきは源次の動き。人外である二人の動きに問題なくついていっている。
全盛期を過ぎているとはいえ、後世にもその名を轟かせる頼光四天王の名前は伊達ではない。
しかし、傷を与えられている訳ではない。
完全に防御に回った茨木童子の身体は、以前に増して強固だ。
傷を負わせることができなかったとしても、攻撃を繰り返すことで反撃を防いでいるのが現状だ。
硬い、源次はそう思った。
長徳元年の戦い時点でも難敵であったが、これほどのものでは無かった。
自身が衰えたということもあるのだろうが、この20年以上、相手も鍛錬を続けていたのだろう。
一方の茨木童子も、傷を負わないことに完全に安心している訳ではない。
それは妖力の絶対値。
一度の戦闘に使える妖力は限られる。怪異によって蓄えられる妖気には限界があるのだ。
その点、茨木童子は滅炎に及ばない。このまま戦闘が続けば先にガス欠するのは茨木童子の方。
何処かで起死回生の一手を打たねばならない。
そして二人はその起死回生の一手を待ちわびている。
やがて、拮抗が崩れる。
動いたのは茨木童子の方。
ここから武士の掃討戦も控えている。頼光や他の四天王、四の姫などの有力者との戦いも待ち受けている以上、これ以上の消耗は避けなければならなかったためだ。
二人の隙を見て後ろに跳ぶ。
それと同時に大量の金棒を生成。追撃せんとする二人に投擲し、牽制する。
即席且つ一度に大量に形成したためにその性能はお粗末。しかしダメージが目的でない以上、それで十分だ。
「―――」
「分かってる」
二人は慌てない。
勝負は一瞬。時を逃すわけにはいかない。
茨木童子は地面に拳を打ち込んだ。
先ず行ったのは退路を断つこと。金棒を形成するときの要領で、あたり一帯を岩の壁で囲い込む。
次に、攻撃性を持った妖力を一気に地面に流し込んだ。
大地の妖力の許容量はそれほど多くない。そこへ容赦なく橙色の妖力を送り込んでゆく。
結果、地面が崩壊する。
大地は茨木童子が立つ一部を除いて荒れ狂い、あらゆる生物がその恩恵に預かることのできない魔境と化す。『暴力』の指向性を持った妖力により、今後100年は植物の生育にも影響するだろう。
そして被害はこれでは終わらない。
許容量を超えた妖力は次々と地面から放出される。
純粋なる暴力の塊が次々と襲い来るのだ。
地面より巻き上げられた
暴力の波はその対象を選ばない。
まさしく
その激流を前に滅炎と源次は行動を起こす。
逃走?―――否。
防御?―――否。
求めるは茨木童子の
虎穴に入らずんば虎子を得ず。妖力が大地を飽和する前に二人は同時に駆け出した。
先へ!もっと先へ!
彼女に大技を放たせるため、どうしても距離を取らせる必要があった。それがどうしても足を引っ張ってしまっている。
妖力の荒波はすぐそこまで迫っている。
刀を鞘に納め、両者共に必死に足を動かす。
その間、僅か三つ。しかし二人にとっては永劫とも呼べる時間であった。
後一足、しかし無情にも運命の女神は微笑まなかった。
目の前の大地が崩壊し、妖力の荒波が顔を覗かせたのだ。
一つ数えるだけで暴力の渦は二人に押し寄せるだろう。その先に待っているのは死、ただ一つだ。
「「―――否」」
絶望的な状況の中、二人の炎は消えていない。
方や自身のため、方や贖罪のため。
ここで何としても茨木童子を打ち取るのだ!
茨木童子か、それとも滅炎と源次の二人か。
勝者はどちらか一方だけ。両雄が並び立つことは許されない。
やがて妖力の奔流が収まり、視界が明瞭となる。
勝者は―――
「なっ―――」
滅炎と源次の二人であった。
茨木童子の胸には十字の傷が深々と刻まれ、その体は地面へと吸い込まれていく。
傷を中心に変化が解けつつあり、致命症であることは誰の目にも明らかだった。
一方の傷は紫の炎が爛々と輝いており、茨木童子の身体を侵食している。
もう一方の傷はそれと言って特徴が無いか、こちらの方が深刻だ。何故ならば傷を与えたのは鬼切丸の異名を持つ髭切。坂上田村麻呂による鈴鹿御前の退治伝説を筆頭に、多くの怪異退治伝説を誇るこの刀は鬼にとって劇薬そのものであった。
妖力の奔流が二人を包み込む寸前、何とか茨木童子の正面、台風の目の中に飛び込むことができたのだ。
一拍でも遅れていれば勝者は異なっていた。現に安全地帯に入りきらなかった二人の鞘は、その先が綺麗に消し飛んでいる。
諸君らの中には、何故あれほどの頑強さを誇った茨木童子の身体が、これほど容易く切り裂かれたのか疑問を持っている方も多くいるだろう。
是非答えよう。簡潔に述べれば「意識が切り替わっていなかった」この一言に尽きる。
妖力に限らず霊力にも言えることだが、二つ以上の効果を並列することは困難を極める。
例えるなら、滅炎の炎。『破壊』『再生』という相反する側面を同時に表にすることは出来ない。
それと同様に、先ほどの攻撃の最中茨木童子の妖力の指向性は『暴力』に偏っていた。その隙をつくことで何とか刃を届かせたのだ。
紙一重であっても、勝利は勝利。
二人は拳を突き合せた。
大江山 西方
「あー、死ぬかと思った」
「本当、無茶が過ぎます。帰ったら静殿にも報告しますからね」
「それは止めてくれ。ただでさえ今回の従軍にも説得に骨が折れたんだからよ。何日かけたと思ってんだ」
術式の反動によって死にかけた五郎は、四の姫による治癒を受けていた。
その手際は見事なもので、いつものやり取りを交わせるほどまで回復していた。
立ち上がることができるようになるのも、時間の問題だろう。
霊力のちからってすげー。
隠神刑部という大物を封印したことにより、怪異の掃討は順調に進んでいる。
目的の陣へ辿り着くのも、時間の問題だろう。
とここで、東方向から爆音が轟いた。
それを聞いて五郎は笑みを浮かべる。
「
「そうですね―――」
五郎の予想に反して、四の姫の反応は芳しくない。
五郎の懸念は深くなった。
「なあ姫さん、何をそんなに焦ってんだ?」
「―――」
図星だったのだろう、四の姫は息を呑んだ。
普段の彼女であれば、隠神刑部には後れを取らなかっただろう。
例の短刀を使うという選択肢を迫られるよりも早く、この状況に持っていけた可能性が高い。
「―――嫌な予感がするのです。何か取り返しのつかない出来事が進んでいるような、防ぎようのない天変地異が間近に迫っているような、そんな感覚が」
それは余程のものなのだろう。顔色が優れない。
五郎が口を開きかけた瞬間、
「―――ッ!なんだ!」
「あれです!」
山頂から妖力の渦が巻き起こったのだ。
吐き気を催すほどどす黒い
否、四の姫は一度だけ出会ったことがある。
「空、亡・・・」
悪夢は今、現実になる。
戦いはまだ、終わっていない。
激戦を制した主人公ちゃん
ギリギリ。でも勝てたのでヨシ!(現〇猫風)
死闘を制したのでちょっとレベルアップ。
これ以上成長してどうすんだ、と言うコメントは無視。
因みにこの時代の滅炎は肉体変異型。(クウガやアギトに近い感じ)
なのでマスク割れとかはないです。
このまま逆らう奴ら全員ブッ殺していこうぜ!
戦いを見守っていた狐
結構喋っている。外に聞こえないだけで。
野次を飛ばしたり、絶叫を上げたり。
そんなことしてるからいつもの扱いになるんだぜ
覚醒した侍
貴様は何を持ちえないのだ、とクレームを入れるレベルの有能。
ミスターパーフェクトヒューマン
一家に一五郎、如何ですか?
フラグを立てた姫
自分のせいで五郎が傷ついた、と思っている。
曇らせ要因
でもまだまだ序章
ゆっくり曇っていってね!
退場した中ボスたち
惜しかったよ。ドンマイ
次に登場するときはもっといい出番があるかも?
そもそも登場するんですか?という質問はNG。
頼光四天王が二人
ちょっと活躍が偏り過ぎでは?と思わんでもない。
というかそもそも綱以外登場させる予定では無かったので、仕方ない面もあったりなかったり
ラスボス
マジでお前大概にしろよ
作者からコメント
次からは文字数もとに戻ります(予定)
あと二話で終わります(断定)