SIDE:茨木童子
強い。
最後にこの感情を抱いたのは何時でしょうか?酒吞様と本気で殺しあったとき?源氏の頭領とぶつかったとき?それとも―――
―――
ともかく、殺戮でない戦いは随分久しぶりのように感じる。
何せ協力者は
かと言って血肉を忌避するわけではありません。人が恐れる悪鬼として、闘争も人肉も大の好物です。これは気分、好みの問題です。
血を浴びるなら強い人間の血の方が良い。
傷つけ、傷つけられ、死闘の末に食す人間の方が美味いに決まっています。
『鬼子』
『化け物』
『悪鬼』
・・・貴族は別として、ですが。
殺したとしても口に入れることはありません。首は腰にぶら下げ、胴は適当に野ざらしにしておいて差し上げましょう。
思考が逸れました。
その隙を縫って少女の小さな拳が
子供の見た目に惑わされてはいけません。怪異の力関係は妖力量によってほぼ決定される。見た目で侮るなど三流以下です。
少女は刀を腰に収めています。
紫と橙、それぞれの色を纏った拳が交差し合う。
力は
殴る、防ぐ、受け止める、殴る、蹴る、避ける。
互いに決定打を与えられず、千日手の様相を見せつつあります。
時間が味方するのは少女の方です。
あの男を殺せるならそれでも良い、寧ろ好都合とすら感じますが、今日の
「・・・」
「―――」
隙が無い、ならば作ればよい。
右足に妖力を集中させ、地面を踏みしめて拳を構える。
左手はあの男に切り落とされています。なので必然的に、少女の視線は
そう、それでいい。
少女の足元から金棒が勢いよく飛び出す。
「!」
鬼は金棒を持つもの、人間の間ではそう語られています。どの鬼が発端となったのかは知る由もありませんが、気が付いた時には我々の主な武装は金棒になりました。
これはその応用。右足を介して地面に妖力を注ぎ、その先で金棒を作成して見せたのです。
死角からの攻撃であるにもかかわらず、少女はとっさに金棒を回避して見せました。
しかしそれも想定内。急造であるので、この金棒の耐久性は下級の鬼が使っているものと遜色ありません。
少女が回避する数秒前、彼女の意識が逸れたのを確認した
少女に向けて大きく腕を振りかざす。大ぶりすぎるこの攻撃は恐らく回避されるでしょう。
だがそれでいい。
不安定な姿勢で更に回避したならば、隙が生まれるのは必然。そこに本命の攻撃を叩きこむ。
―――その魂胆ははかなく散ることとなったが。
「―――な」
彼女が選んだのは回避ではなく迎撃。
拳と拳がぶつかり合う。
勝ったのは当然
判断を間違えた?・・・否、今は思考している暇はありません。
少女は家屋に叩きつけられました。静寂な夜には一層響き渡る轟音を伴って。
彼女の姿は煙で完全に覆われています。
長引けば聞きつけた武士が集結するでしょう。
初めて掴んだ隙。気が付けば
狙うは腹の右側。勿論急所ではありません。
残り三町ほどの距離まで近づいて、煙の中の少女の姿を捉えました。
正直、
「―――」
ですから彼女の姿を目にしたとき、我ながら圧倒されてしまいました。
右腕はひしゃけ、骨まで見えている。
にもかかわらず表情は何一つ変化がない。
しかし彼女の目、深淵のように何も移さないかのように見えたその目には、戦意と歓喜の感情が爛々と燃えている。
その姿は、まるで、ああ。
今にも尽きてしまいそうな炎のようで―――。
瓦礫の中から這い出た
腰には闇に完全に溶け込むほど暗い色をした法具を身に着けている。
《調伏之具!》
茨城童子という強敵の前に、いちいちドライバーを身に着ける時間などありはしない。
しかしながら彼女は変身せずとも倒せるような生半可な怪異ではない。
―――隙が無い?なら作ればいい。
判断ミスを装って距離を取り、吹き飛ばされると同時にドライバーを装着。
建物が崩れる煙を利用して体制を整えた。
腕に走る痛みには目を向けない。
一分一秒の隙が致命となる戦いでは
―――言わずもがな、その在り方は人間とはかけ離れたもの。痛覚など切り捨てようとしてできるものでは断じてない。
砕けた腕が再生してゆく。
欠けた細胞を生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け、生み出し、貼り付け・・・
拾《じゅう》どころか千でも万でもまだ足りない。
億を持ってきてようやく始まりに立てるほど。
その回数分、無理やりに細胞同士を繋ぎ合わせるたびに刺すような痛みが走る。
それも不要だ。
痛みなどまるでないかのように
「妲己」
「やれやれ、仕方ないのう」
ドライバーの中心に紫色の炎が灯る。
月光に次いで、二つ目の明かりがあたりを照らす。
既に印は結んである。
臨兵闘者皆陳列在前、これは密教における災いを退けるための言葉。
そして中世では戦勝祈願―――即ち、人殺しの際に用いられることとなる言葉だ。
臨む兵よ、闘う者よ、皆 陳列べて前に在れ―――
その言葉に沿うように、少女は修羅と化す。
「変身」
《急々如律令紫炎退魔!滅炎!》
全身が紫炎に包まれ、現れるは人外の戦士。
仮面ライダー滅炎、数話ぶりに見参。
野をかける獣の如く、地面に着くほどの前傾姿勢のままに茨木童子へと急接近する。
いつの間に抜刀したのか、手には抜き身の蜘蛛斬りが握られている。
ギン!
甲高い金属音と共に、二色の妖気が激しくぶつかり合う。
先ほどとは異なり武器同士のぶつかり合い。
両者一歩も引くことなく、何度も何度も打ち合う。
茨木童子は妖力の鎧に、滅炎は物理的な鎧にそれぞれ守られているため無傷、しかし他はそうはいかない。
滅炎が大上段から刀を振り下ろす。茨木童子は金棒でその一撃を受け止める。
茨木童子に比べて重装であるはずなのに、滅炎の攻撃速度は茨木童子のそれと遜色ない。
この一連の攻防だけでも周辺の被害は凄まじい。
踏み込み、受け止めた影響で地面は陥没し、二種の武器が衝突した際の妖気の余波は他の建造物までに及んでいる。
互角のようで双方には余裕がない。
滅炎は変身することでようやく茨木童子と妖力出力が互角。腕力に関しても相手は左腕を失っているにも関わらず、滅炎の両手を用いた剣と互角以上に打ち合っている。
一方の茨木童子には滅炎を生け捕りにするような余裕がない。少しでも手加減などと言うことを考えると、あっという間に首を跳ねられてしまうだろう。
しかし二人ともそんな状況はおくびにも出さない。
茨木童子の口元は三日月のように歪み、殺気に満ちた目は鬼というに相応しい。
再び茨木童子は地面に妖力を注ぎ込む。
滅炎の足元が橙色に怪しく光る。しかし先ほどのように金棒が出現することは無かった。
対抗するように滅炎の足から紫炎が噴出し、茨木童子の妖力ごと地面を焼いてゆく。
蜘蛛斬りを返すのと同時に、滅炎が調伏之具の中心に手を翳す。
増幅した紫炎が地面を走り、茨木童子を焼けつくさんと殺到する。
茨木童子は金棒を思い切り振り、蜘蛛斬りを弾き、その勢いのまま後方へと後退してしまう。
―――それが滅炎が誘導した罠とは気付かずに。
気が付いたときには既に後退し始めていた。
滅炎は調伏之具の中心に二度手を翳し、紫炎を纏った蜘蛛斬りを横一文字に大きく振りぬいた。
「―――ッ!」
蜘蛛斬りから射出されたのは紫炎の斬撃。
速度は和弓から放たれた矢と比べるもないが、それほど離れていない茨木童子が回避できるような速度ではない。威力も十分だ。
「―――ッ!」
しかし茨木童子は壮健。
寸前で右腕に妖気を集中させることで難を逃れたのだ。
しかし無傷というわけではない。
妖力が含まれた糸で編まれ、人間が扱う鎧などよりは遥かに頑丈な衣服はところどころ黒く焦げており、それは守られていない素肌も同様だった。
先ずは、一撃。
一歩優位に立った滅炎だが、身に纏う戦意は全く油断していないことを示している。
「フ―――」
否、むしろ警戒度は指数関数的に上昇してゆく。
「ウフフフフフフフフ!」
茨木童子は右手で必死に表情を押さえつけようとする。
しかしその甲斐なく、指の隙間から狂気的な笑みが漏れ出る。
「良い、好いですわ滅炎!
静寂な平安京に茨木童子の嗤い声が木霊する。
同時に彼女の容姿も変化してゆく。
白い玉のような肌から、黒い岩のような皮膚へ。
容姿が人間からかけ離れるほど、彼女の妖力も増大してゆく。
浸食は顔まで到達する。美しい顔の半分は醜く歪み、目は肉食獣のように瞳孔が開き切る。
―――まるで、正真正銘の鬼に成るかのように。
『フハ―――ハハハハハハハ!』
膨れ上がる妖力によって大気が振動する。
圧倒的な殺気を前にしても滅炎は怯まない。蜘蛛斬りを構えたまま集中力を研ぎ澄ませてゆく。
しかし二人がぶつかることは無かった。
茨木童子の妖力が臨界点に達する直前、どこからともなく声が響いた。
『止めよ、茨木』
その声はしわがれており、覇気がなく、弱弱しいものであった。
しかしその声に従うように茨木童子は動きをピタリと止め、元の人間に似た姿へと戻っていった。
滅炎は声の主を探ろうと意識を傾けるが、周辺一帯には滅炎と茨木童子以外の妖力・霊力は感じられない。
それどころか気配すら感じられず、思わず首を傾げてしまう。
『・・・それで良い。役割を忘れるな』
それを最後に再び声が響くことは無かった。
平安京はもとの静寂を取り戻す。
冷や水を浴びせられたように二人の間の殺気が消失する。
両者共に戦う意思はなく、その証拠に滅炎は変身を解除した。
「・・・お見苦しいところをお見せしました」
耳元を赤くして―――最も暗闇で
例えるなら場の雰囲気によってはっちゃけ、帰宅した後に正気に戻り「俺、何であんなことを・・・」と後悔する作者のよう。
うーん、これは恥ずかしい。
「あの声は誰?」
そんな茨木童子の心境を
別に口止めされている訳でもなく、冷や水を浴びせられた意趣返しを兼ねて、茨木童子は
「
「彼はこう名乗りました」
「―――蘆屋道満、と」
そう言い終えると、茨木童子は身を翻した。
「逃げる?」
「何挑発してるのじゃー!?」
円満に終わりそうだったのに、何挑発してんだコイツ。
しかし幸運にも
「本日はお暇させて頂きます。しかし―――」
戦いの最中の
彼女の在り方は非常に不安定だ。普通なら戦場で真っ先に死んでしまう人種。にも関わらずその身に宿す身の丈に合わない力で、強引に彼女を現世に留めている。
人間どころか怪異も―――否、純粋な怪異であるほど彼女の存在を忌避するだろう。
それでも人間に使い潰されるよりもよっぽどマシだ。
「―――またいずれ、お会いすることになるでしょう」
そう言い残し、茨木童子は闇夜に溶けていった。
ヤベー奴な主人公
意図的に痛みを知覚しないことで疑似的に痛覚をなくしている。
要するに脳の「痛みを痛みとして認識する部分」をシャットダウンさせている感じ。
ヤバいね。(小並感)
地面タイプの中ボス
まだまだ働いてもらいまっせ。
ある登場人物とすげー因縁を持ってる。
貴族が嫌い。
名前が判明した黒幕
かの有名な陰陽師。
「ンンンンンン」とは言わないし、ワラビでもないし、壺に封印されたりしないし、肉食獣でもないし、クイック全体宝具は撃たない。
裏方の人達
戦いには出ず、裏方をこなす人たち。
半泣きで夜通し復旧作業をする。
久しぶりの変身ベルト
実は木製。
霊験あらたかな神木から作られている。