仮面ライダー滅炎   作:熊澤しょーへい

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劇場版もよろしく




 夜が明けて翌日、源氏の屋敷にて三人の人間が対面していた。

 

「芦屋道満・・・まさか生きていたとは」

 

 上座に座る大男が口を開く。

 彼こそが源氏武士団の現頭領にして、従四位下左馬権頭に任じられている男、源頼光である。

 最も家督は既に息子である源頼国に譲られてはいるが、それでも自身は怪異討伐の最前線に身を投じるなどまさに武人の鏡のような男だ。

 

 その隣では頼光四天王筆頭、渡辺源次綱が神妙な顔つきで控えていた。

 

「四の姫殿、この報告は真なので?」

 

 頼光は下座に控える少女に問いかけた。

 

 蘆屋道満―――最悪の陰陽師にして、安部家最大の汚点。

 安倍晴明の弟子として数多の人間を助けてきたが、貞元四年に突如乱心。

 大規模な呪術を京の都で発動しようとしたところを寸前で晴明が駆け付け、壮絶な一騎打ちの末に打ち取られた男だ。

 その戦いは百戦錬磨の頼光をして、「生き残ることが出来たのは幸運」と言わせるほどのものだったという。

 

「ええ。今朝占いさせていただきました。それも四度。全ての結果が蘆屋道満の存在を認めました」

 

 稀代の陰陽師、安倍晴明の力を継承したと言われるのが目の前にいる娘。

 勿論占いの精度も凄まじく、生まれてすぐに母親の寿命を占い、的中させたという噂さえあるほどだ。

 そんな彼女が断言するのだ。芦屋道満の復活は確定と言っていい。

 

「それで、人払いをしたということは話はこれだけではないのでしょう?」

 

 頼光は鋭い眼光で四の姫を睨み据える。

 流石は視線を何度も潜り抜けた男、含まれている殺気が桁違いだ。自分が対象で無いのにも関わらず、綱の額には僅かに冷や汗が流れている。

 しかし目の前の少女は動じない。殺気を感じていないのか、或いは感じた上でこの態度か―――真相を知るのは本人だけだ。

 

「はい、本日は安部家の決定を伝達すべく参上いたしました」

 

 普段の活発さはなりを潜め、厳かな雰囲気のまま話し始める。

 

「・・・聞きましょう」

 

 空気が更に重くなったのを感じ、二人の男も居住まいを正した。

 

「本日深夜、我々は蘆屋道満が潜伏していると思われる屋敷を叩きます。援助は不要、源氏の皆様方には普段通りに都の警護に当たって頂きたい」

 

「・・・恐れながら申し上げる。安部家の方々は我々源氏の力を侮っておられるのか」

 

 蘆屋道満は怪物だ。それこそ安倍晴明(チート野郎)でしか相手にならないほどに。

 その晴明は既にこの世に居ない。老いによって相手が幾分か弱体化しているとはいえ、晴明のいない安部家が相手にするには荷が重いのではないか。

 目の前に居る少女も晴明に匹敵する天才と謳われているが、まだまだ発展途上。単独であの怪物を相手にできるとは思えない。

 そんな状況下での実質的な待機命令。家格で貴族に侮られるのは仕方がない。しかし武威が侮られることを許容するわけにはいかない。

 幾分かのいら立ちを含めた言葉だったが、四の姫は怯む様子無く頭を横に振った。

 

「蘆屋道満は安部家の汚点である。故に彼の者を討伐するのもまた安部家の責務である。・・・これが安部家の決定です」

 

 蘆屋道満はかつて安倍晴明の弟子―――即ち安部家の管轄内の人間であった。

 だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・四の姫の言葉はこのような意味に受け取れた。

 わざわざこちらに伝えるほどだ、安部家は当主である安部陰陽助の下に一本化したとみてよい。

 武士と比べて貴族が親族もろとも纏まるのは困難を極める。位で見れば下に位置する安部家でも同じこと。

 その安部家の意思が一本化されたのだ。覆すのは困難だ。

 

 ふう、と頼光が一つ息を吐く。

 討伐に参加できないのはもどかしい。しかし彼らが覚悟を決めている以上、正面からの反対は安部氏との対立を意味する。陰陽師は数は少ないが対妖魔の技術に長けている。関係を簡単に切ることは出来ない。

 しかし源氏の頭領として安易な妥協は許されない。

 

「・・・いいでしょう。襲撃を掛けるのは陰陽師の方々にお任せしましょう。ですが代わりに警護の人数は増員させていただきます。()()()()()()()()()()()

 

 頼光の言葉に四の姫は頷く。

 万が一襲撃部隊が蘆屋道満を取り逃がせば、その魔の手は京の都そのものに伸びかねない。

 お前たちがしくじったなら源氏が蘆屋道満を殺す―――頼光は言外にこう言っている。

 

 四の姫もそれを認可する。

 陰陽助からの指示は第一に源氏の介入を最小限とすること。完全な排除は命じられていない。

 源氏との関係悪化は安部氏としても御免だ。だからこそここは譲歩するべきだと見た。

 

「それからもう一つ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこの状況・・・」

 

 西市で買い物を終え、食料を両手に抱えた五郎はつい言葉を漏らした。

 平民に変装した四の姫が(とお)を背後から抱きしめ、首元に顔をうずめて深呼吸を繰り返していた。

 そして四の姫の頭の上では火の玉が何か喚きながら飛び跳ねている。

 

「すぅ~~~はぁ~~~」

「・・・」

 

 もしもしポリスメン?ここに不審者がいます。

 二人が親しいと知っていなければ間違いなく事案だ。

 渦中の中心である(とお)は表情を変えず、淡々と刀を手入れをしている点も混沌に拍車をかけている。

 

「・・・(あ、五郎さん。お邪魔してます)」

「何言ってるか分からん。せめて口を離してからしゃべってくれ」

 

 先ほどまでの真面目な雰囲気は何処へやら。

 

 四の姫から敬語禁止を言い渡されて数日、多少の混乱はあったが今では五郎も気楽に話している。

 教養はあるが貴族からは程遠い。五郎にとって砕けた口調の方が気楽だった。

 一方の四の姫からは敬語が抜けきっていない。

 育ちの良さを実感するね。

 

「・・・なんでそのままにしてるんだ?」

 

 五郎は成すがままになっている(とお)に疑問を投げかける。

 (とお)に言うことを聞かせるのはかなり難しい。先日は魚の干物で釣ったが、何度も使える手ではない。万が一のために手札を持つことは大切だ。

 

「今度削り()を食べさせてくれるから」

 

 その答えは無常。五郎には到底真似できないものであった。

 削り()とはその名の通り氷を削ったもの、現代風に言えばかき氷である。

 しかし口にする難易度は現代のそれと比べてはるかに高い。

 氷自体がまず貴重。平民にとって氷とは冬の間に発生する自然現象にすぎず、真夏に、食用にするなどという発想には至らない。

 そして氷の上にかけられたシロップも高価な代物。

 「枕草子」には「あてなるもの。(中略)削り氷にあまづら入れて、新しき金椀に入れたる」とある。

 ここに記載されている「あまづら」とは甘味料のこと。平安時代に甘味料は非常に少なく、その最たる例である蜂蜜や水飴は貴族にしか口にできない高価な代物。

 

 五郎には一生をかけても用意できそうにない。悲しいね。

 このような代物を用意するとさらりと言うあたり、安部家の家格がうかがい知れる。

 

「・・・で、お前は何をそんなに喚いてるんだよ」

 

 誰も突っ込まないようなので、渋々五郎が妲己に問いかける。

 妲己は顔を―――火の玉なので顔はないが―――五郎の方に向け、しばらく見つめた後に深くため息を吐いた。

 失礼が過ぎるその態度に、五郎の額に青筋が浮かぶのも致し方のないことだ。

 

「おい、切り捨ててやろうか」 

 

「いや、貴様には分かるまいよ。こやつの着物から小娘(四の姫)の気配が漂ってきた余の心象など」

 

「知るか」

 

「知るかとはなんじゃ!浮ついた話一つない貴様には言われとうないわ!」

 

 無視しとけばよかった。

 五郎の後悔も他所に、(とお)は満足したように刀を鞘に納めた。

 

 要は(とお)を寝取られているような感覚に陥っているようだ。

 お前は(コイツ)のなんなんだ、というツッコミを抑え込んだ五郎は偉い。口にしていれば火の玉の癇癪はもっと長く続いただろう。

 

 因みに作者はNTRやBSSは苦手だよ。とはいえ苦手なだけで嫌いじゃないからそこは履き違えないでね。

 逆に好みなのは純愛系。どろっどろに相互依存していればなお良し。歪んでるね。

 

 

 

 

 

 ・・・あの、待ってください作者さん。ど、どうしたんですか包丁なんて取り出して。

 ちょ、あの、顔がマジ。謝ります、謝りますからその凶器をこちらに向けるのはやm

 ギャーッ!!!

 

 

 

 

 

 閑話休題(この話は置いといて)

 

 妲己がどれだけ脳破壊されようが別に構わないが、名誉のために一つだけ訂正せねばなるまい。

 

「おい、俺にも許嫁の一人ぐらいいるぞ」

 

「―――は?」

「―――へ?」

「?」

 

 まさかのカミングアウトに四の姫も顔を上げ、妲己と共に間の抜けた声を放つ。

 (とお)は言葉の意味が分からなかったようで首を傾げている。可愛いね。

 

 三者三様の反応を見せる女性陣だったが、この反応に不服だったのは言うまでもなく五郎だろう。

 

「何だよその反応」

 

「いやなに、貴様のような男でも番を作れるとは思わなんでな。家柄は中の下、五男、15にもなって元服せず、加えて武家と来た。余であればこのような泥船は選ばんな」

 

「グハァッ!」

 

 まさしく言葉は刃。妲己の遠慮のない言葉に五郎の身体は地に沈んだ。

 気のせいか、口元から血が流れているような気がする。

 

 しかし悲しいかな、妲己の言葉は正論だった。

 許嫁とあれば家格を保つため、又は上げるための婚約だ。だがそれならば五郎は間違いなく不適だ。

 「役目」もあって源氏の上層部に顔は覚えられているが、家格としては低い地位にある。

 加えて五男であり、長男は元服していて体調も問題がない。五郎が後継者にのし上がることはないと見て良い。つまり相手の狙いは家格以外の何か。

 

 相手がよっぽど変わり者か、或いは厄ネタか。

 妲己はつい勘ぐってしまう。ここで政治の話しか出てこないあたり、自由恋愛のじの字もないことが分かる。 

 

「それでそれでそれで!お二人はどのように出会ったのですか?!」

 

 四の姫は猛スピードで駆け寄り、未だに地に伏せている五郎の身体をこれでもかと揺さぶる。

 その目は怪しく光り、狂気を感じるものだった。

 「ぐぇ」と鳥が潰れたような声を出す五郎に、ほんの少し、小さじ一杯分の同情を向ける妲己であった。

 

「そんな面白い話は無いぞ・・・」

「いえいえそんなはずは!あるはずですよ、彼女が恋に堕ちた物語が!」

 

 何を隠そう四の姫は源氏物語の大ファンであった。

 そんな彼女がコイバナという大好物を目にして正気でいられるはずがない。

 

(とお)、助け―――」

 

 もはや頼れる人間は一人しかいない。

 藁にも縋る思いで視線を向けた先には―――

 

「おやすみ」

 

 そう言って布に包まる(とお)の姿が!

 彼女が昼間から寝るのは普段のことだ。しかし隣で問い詰められている五郎を見てなおそのルーティンを優先させるとは、まさに血も涙もない所業だ。

 

 妲己も興味が失せたのか、(とお)の周りでプカプカと浮かんでいる。

 

「ちょ、嘘だろ!」

「ん、うるさい」

 

 思わず叫んだのも仕方のないことだ。

 帰ってきた返答は絶対零度より冷たいものだったが。

 

 だが(とお)の行動は巡り巡って五郎を助けることとなった。

 

「ああ、そう言えば五郎さんにも休んでもらわないとですね」

 

 そう呟いて四の姫は五郎を解放した。

 唐突の出来事に五郎は唖然とするしかなかった。

 

「・・・ドユコト?」

 

「おや、左馬権頭(さまのけんのかみ)殿から聞いませんでしたか?今日の芦屋道満の襲撃に五郎さんも参加するのですよ」

 

「・・・ドユコト?」

 

 完全に頭がフリーズしている五郎。

 片言で聞き返す度に四の姫が懇切丁寧に繰り返す。

 正気に戻ったのはやり取りが10に届こうとした時だった。

 

「は、何で俺が!?」

 

「知りませんよ、それが左馬権頭(さまのけんのかみ)殿からの条件でしたので」

 

「ファッ!?」

 

 四の姫の口から二度出た大物の名前に再び五郎がフリーズする。

 彼が再び意識を取り戻すのは更に10分経ってからのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふむ、流石に勘づかれたかの」

 

 呟いたのは皺かれた老人。

 即身仏を想起させる細い腕は少し力を加えれば容易く折れてしまいそうなほど。

 しかしその身に纏わりつく醜悪な呪いが生者を悉く跳ねのける。

 

 ここは平安京からほど近く、山沿いに建てられた小さな竪穴住居。

 村群から孤立したそれは見るものに言い知れぬ不快感を与え、必然的に訪れる者は僅かだ。

 「入っていった子供が戻ってこない」といった噂もそれを助長している。

 

「へえ、人間ごときがオイラたちの網を潜り抜けた、って言いたいわけ?」

 

 小生意気な口調が小さな室内に響き渡る。

 しかし発生源を探ろうと見渡してもそれと思わしき影は見当たらない。

 そもそも人影は二つしかない。

 一つは老人、もう一つは隻腕の鬼。双方とも口を開いていない。

 

 否、よく見ると足元に小さな影が一つ。

 茶色い毛むくじゃらの動物がちょこんと座っている。

 一般人が見れば微笑ましい一場面。しかし霊力を視認できるものが見れば戦慄するだろう。その身に蓄えた呪いの大きさに。

 

 彼こそが人を化かす獣の長。天智の帝の時代より語られる808の化け狸の首領。

 ―――名を、隠神刑部

 

 老人の檄に応えた大妖が一柱である。

 

「人間を甘く見てはなりませんよ」

 

 隠神刑部の言葉に待ったをかけたのは隻腕の鬼、茨木童子である。

 弱音とも言動に、隠神刑部は鋭い歯を剝き出しにした。

 

「へえ、最近の鬼は人間を恐れるようになったんだ。そう言えば君の腕も人間に―――」

 

 ドゴォッ!

 

 言い終えぬうちに目前の地面が無残にもえぐり取られる。

 いつ生成したか、彼女の手には黒く光る金棒が握られていた。

 

「夕飯になりたいのなら言ってくださればよかったのに。これでも料理には自信がありまして、美味しい狸汁に仕上げて差し上げましょう」

 

「・・・へえ、やる気なんだ」

 

 二色の妖気が狭い部屋の中でぶつかり合う。

 一人は優し気な、一匹は獰猛な笑みを浮かべ、その身に内包する妖気を徐々に開放してゆく。

 妖気の奔流は住居の外まで及び、僅かに残っていた雑草を悉く死滅させた。

 これより行われるは戯れではなく命の削り合い。双方ともに先手を打つべく駆け出す―――

 

 パンッ!

 

 ―――寸前で老人の柏手が響く。

 途端に臨界間近だった妖気は霧散し、さっきも綺麗さっぱりに消えていた。

 

「これ、常日頃ならばともかく今の我らは同志。死合えども敵に利を与えるだけよ、違うかの?」

 

 まさに!正論!

 茨木童子は恥じるように視線を落とし、隠神刑部はちぇっと不貞腐れる。

 嫌々ながらも大妖怪が従ったことから老人―――蘆屋道満の実力が分かるというものである。

 事実、彼らを以てして敵に回すのは面倒と思わせるほどだ。

 

「それで、人間たちはどういたしますの?」

 

 茨木童子の言葉に、老人は魂相応の醜悪な笑みを浮かべた。

 

「歓迎しよう。我々が何者であるか、知ろしめすにはいい機会よ」

 

 そうして大妖らは闇に潜る。

 (きた)る獲物を待ちわびながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで夜。

 芦屋道満が隠れ家が一つは総勢30名からなる陰陽師に囲まれていた。

 その全てが一騎当千。安倍晴明の死後、都の安寧を守り続けていた歴戦の術師たちだ。

 それを率いるは晴明が長子、安部陰陽助の第四の姫。安部晴明の生まれ変わりとも称される彼女は20に届かぬ身でありながら、既にこの陰陽師らの中で最強の力を手にしている。

 加えて晴明が晩年に作成した(とお)の姿もある。

 蘆屋道満を葬るには十分、そう思わせる布陣である。

 

(肩身が狭い・・・)

 

 陰陽師の集団の中、ただ一人甲冑姿の五郎は向けられる視線に参っていた。

 明らかに歓迎されていない。そう思わせるには十分な冷たい視線。

 隠そうという意思は見られるが、戦場という常に全神経を尖らせなければならない場所に身を置いてきた五郎からすれば、そんなものは隠しているとは言わない。

 

 気を紛らわせるように、視線を集団の中心に向ける。

 

(こう見ると、ちゃんと姫様なんだな)

 

 視線の先には巫女服に身を包んだ四の姫の姿が。

 瞳を閉じ、集中する彼女は正しく姫と呼ぶに相応しい。

 

 四の姫の腰には短刀が納まっている。

 妖気を捉えられない五郎をして圧倒されるほどの霊力(エネルギー)。対怪異用に打たれた武器などと言うチンケなものではなく、神聖さを帯びた、それこそ御神体として神社に祀られていても可笑しくない代物だ。

 

 一通り陰陽師らの様子を眺めた五郎が視線を戻すと、先ほどとまるで変わらない光景がそこにはあった。

 

「離せ、離すのじゃー!」

 

「うるさい」

 

 紫色の火の玉を握りしめる(とお)と、その手の中で叫びながら暴れまわる妲己の姿が。

 本当にこれが大妖怪なのか、さっきまで出てた二人とタメを張れるのか、などと言う指摘はご勘弁願いたい。またうるさく喚かれてしまうので。

 

「・・・で、お前らは何やってんだよ」

 

 突っ込みたくはなかった、が四の姫がここに居ない以上自分がやらざるを得ない。

 

「これが逃げようとする」

 

 まさかの妲己を「これ」呼び。人どころか生物認定すらされていない。

 しかしこれまでの所業を考えれば当然である。残当というやつだ。

 

 しかし妲己は挫けない。必死になって理由(いいわけ)を口にする。

 

「余はアレと対面しとうないのじゃ!あんな気色悪い気配と戦えるか!」

「は?ついさっきまで『安倍晴明の元弟子など余の敵ではないわ!』とか言ってただろ。とっとと殺っちまえよ」

「ああもう、蒸し返す出ない!良いか、主らが蘆屋道満と言うてる男は―――」

「“呪い在れ()”」

 

 妲己の言葉を遮るように、皺かれた声があたりに響く。

 途端に振り撒かれる厄災。あるものは顔が焼け爛れ、ある者は咳き込んだまま呼吸も出来ずに地に伏せ、またある者は黒い斑点が全身に浮かび上がった。

 

 抵抗出来たのは四の姫と(とお)を含めた僅かな人数。

 五郎も含めたその多くが地に沈んだ。

 

「―――ッ!“呪い去れ()”!」

 

 対抗するように四の姫が叫び返す。

 充満する呪いとは真反対の、清浄な空気が一面を満たす。

 すると彼らの症状は何事もなかったかのように全快した。

 

 彼らが繰り出したのが言葉に妖気、或いは霊力を乗せる「呪言」という高等技術である。

 声を媒介とするため札や印といった手間が必要ないのが大きなメリット。

 しかし声という形のないものを用いるため、危険性は他の方法よりも大きく、また耳にしたもの全てに影響を与えるため、おいそれと使うことのできない術である。

 

 困惑しながらもなんとか立ち上がる陰陽師たちを余所に、パチパチと間の抜けた音が響き渡る。

 

「流石は安倍晴明(我が師)の後継者。この年で呪言を使いこなすとはの」

 

 現れた枯れ木のような老人。

 討伐対象である芦屋道満その人である。

 

『―――ッ!』

 

 彼の気配に一部を除く人間の額に冷や汗が溢れる。

 老人からあふれ出るのは圧倒的なまでの濃度の妖気。

 それは平安の都を騒がせた酒呑童子すら優に超えるほどであった。

 

「・・・一つ、質問を。貴殿は本当に人間ですか?」

 

 四の姫が問いかける。

 妖気は人間にとって猛毒である。

 耐性がある陰陽師でさえも、下級の小鬼一匹分の妖気を取り込むだけで死に至るほどだ。

 

「・・・」

「言い方を変えましょうか・・・お前は誰だ?」

 

 沈黙を保つ老人に対し、四の姫はワザと荒っぽい口調で尋ねる。

 老人は親指で額をグリグリと押し、ふと(とお)の方を指さす。

 

「何じゃ、そこまでは視えておらんだか・・・儂の正体ならばそ奴が知っておるわ。のう?妲己よ」

 

 否、指名されたのは(とお)ではなく妲己の方。

 (とお)の背後に隠れていた妲己だったが、観念したように浮かび上がった。

 

「久しいのう、1000・・・いや2000年ぶりか?最後にあったのはお主が大陸に居たころであったかの」

「余は会いたくなかったわ。空亡(くうぼう)―――原初にして最凶の怪異よ」




食べ物に釣られる系主人公
 今回はちょっと影が薄かった。
 本人は自覚していないが食べ物に簡単に釣られる。
 陰陽師からは「安倍晴明が死の間際に手掛けた妖怪殺戮人形」みたいな認識をされている。人権のじの字もないね。





嫌な予感がしていた系狐
 「そんな訳ないやろ~」と甘く見た結果、死んでも会いたくない知り合いに出くわしてしまった。
 ドンマイ(日頃の行いやぞ)





右に左にと奮闘した姫様
 今回のMVP。居なかったらBAD END確定してた。
 充電のため(とお)を吸うのが日課になってる。嗅いでみろ、トぶぞ。
 でもその度に妲己が脳破壊されてる。奴は犠牲になったのだ。





実は許嫁がいる武士
 元服後に正式に婚約する予定。
 実際に顔を合わせたことは一度しかなく、あとは文のやり取りを何度かしてるだけ。必死になって読み書きを覚えた。
 なんで自分が指名されたのか分からない。
 恋バナを求めて四の姫に付きまとわれることになる。





中ボスその2
 狸。可愛いと言ったら殺されるので要注意。
 可愛い。





ラスボス
 真 名 熔 解
 詳細は次回。





ナレーター
 翌日死体が川で発見される。
 死因は刺殺。
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