ほのぼのした二人の日常が見たかったので書きました。
もしかすると口調等の部分で解釈違いがあるかもしれませんが、ご了承ください。
まだ太陽が明るく地上を照らしている時間帯、アビドス高等学校の生徒会室には一人の少女の姿があった。
アビドスの制服の上にはきっちりとしたベストを身に纏っており、髪はピンク色のショートヘア、椅子に座る彼女の傍にはいつでも取り出せる様にショットガンが立てかけられている。
そんなどこかお堅い印象を受ける少女...小鳥遊ホシノは今、机に並べられた書類を真剣な眼差しで読み込んでいる真っ最中だった。
黙々と作業を続けている為生徒会室は酷く静まり返っており、僅かに聞こえてくる音も壁にかけられた時計の針が動く音や、砂漠から飛んできた砂が窓に吹き付けられて時折カタカタと揺れる音くらいのものだ。
そんな静かな空間に変化が訪れたのはホシノが数枚目の書類に目を通そうとしていた頃、パタパタと部屋の外の廊下から何者かが走ってくる音が聞こえてきた。
徐々にホシノの元に近づくその足音が入り口の前で静止すると同時に勢いよく扉が開かれ、そこからもう一人の少女が姿を現した。
「ホシノちゃん、おはよう!」
自身の名を呼ぶ声にホシノが振り返ると、そこに立っていたのは彼女よりも背が高く、ホシノと違いアイスグリーン色の髪を膝裏まで伸ばしている少女...梔子ユメ。
ニコニコとどこか楽しそうな笑顔を浮かべるユメを見たホシノは、手に取っていた書類をテーブルに置くとそこでようやく口を開いた。
「おはようございますユメ先輩、相変わらず元気ですね。何かいい事でもありましたか?」
「ううん、特に変わった事は無かったけど、ホシノちゃんに会えたから!」
「そりゃあ同じ学校に通ってるんですから居るのは当たり前じゃないですか」
相変わらず能天気な先輩の態度に呆れる様に溜息をつくホシノ、生徒会に入り改めて思った事だがこの人は楽観的すぎる...だがそれをいつの間にかどこか心地よいと内心考えている事に彼女はまだ気づいてはいなかった。
件のユメはやがてトコトコと歩きながら右肩にかけてあったアタッシュケースを床に置き、そのままホシノの隣の椅子に座ると何故かソワソワと身体を揺らし始めた。
どうせまたくだらない事でも考えているのだろうと思い最初は無視しようと決めていたホシノだったが、結局彼女から溢れ出る”話を聞いて!”オーラにとうとう耐えきれなくなったホシノは渋々尋ねる事に。
「...今度は何を企んでいるんです?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれたねホシノちゃん。ほら、ホシノちゃんが生徒会に入ってくれて暫く経ったでしょ?」
「そうですね」
「それで昨日の夜考えてたんだけど...じゃーん!ホシノちゃん、モモトークって知ってる?」
無駄に勿体ぶった動きでユメが制服のポケットから取り出したのは彼女の携帯、そこにはモモトークと呼ばれるメッセージアプリの画面が表示されていた。
「まあ一応知ってますけど、それがどうかしたんですか?」
「うん、良かったらホシノちゃんとモモトークを交換しようと思って!どう?いい考えでしょ!」
「いや、突然過ぎて意味がわからないんですが....何故急にそんな事を?」
「だってモモトークならお互い離れてても色々お話しできるでしょ?ほら、生徒会の連絡だったり、遅刻の連絡だったり、他にも色々出来るかなって!」
「連絡手段が増えるのは便利ではありますけど...別に生徒会には私達しか居ないんですし、仕事の事なら直接こうして話せば良いだけなのでは?」
現に今日まで連絡手段が無くとも困った事は特に起こらなかった。
先輩の言う通り確かに便利ではあるがどうせ彼女の事だ、気づいたら仕事に関係のない余計な話ばかりで通知が埋まる様になるだろう。
「そ、それはそうかもしれないけど...」
ホシノの指摘に何も反論が出てこなかったのか、ユメはあわあわと行き場のない手を動かしている。
そんな何とも情けない先輩の姿に再度溜息を溢したホシノは、仕方ないと肩をすくめると口を開いた。
「わかりました、別にあって困る事は無いですし」
「本当!?やった!ホシノちゃんありがとう!」
ホシノの言葉に満面の笑みを浮かべるユメ、それから携帯を取り出しIDを交換すると、それぞれのモモトーク画面にお互いのアイコンが表示される。
殆どリストにいなかったトーク欄に『ユメ』という名前が刻まれる、その瞬間をホシノは何だか不思議な気持ちで見つめていた。
すると不意に隣に座るユメの方からタタタッと素早く画面をタップする音が聞こえたかと思えば、早速ホシノのモモトークに通知が届く。
《ホシノちゃん、見えてる?》
「はい、見えてますよ」
「駄目だよ!こういう時はホシノちゃんもモモトークで返さなきゃ!」
「ええ.....」
わざわざその無駄な一手間を加える必要はいったい何処にあるのか、思わずツッコみたくなる気持ちを抑えてホシノは画面を触ると文字を打ち込んでいく。
《見えてます》
「良かった♪これでホシノちゃんと好きな時に連絡し合えるね!」
「一応仕事の連絡がメインですからね、忘れないでくださいよ」
「大丈夫!ふふっ、どんな事送ろうかなー」
本来の目的からいきなり脱線しかけている事に釘を刺すホシノだが、そんな彼女の指摘にユメはエヘヘと頬を緩めるばかり。
「ほら、やる事が終わったなら手伝ってください!この前うちにちょっかいかけて来た不良達のせいで新しい物資の補充について考えないといけないんですから」
「ひぃん...ホシノちゃんが厳しい....」
それから暫く経ち、学校から自室へ戻ったホシノはふぅと息をついてベッドに寝転がっていた。
「全く、あの人は...」
あの後も結局大した計画は思いつかず、『また明日になれば思いつくよ!』と根拠のない自信に満ち溢れた言葉を告げるユメに従いホシノも帰ることとなった。
あんな調子で本当に借金返済が出来るのだろうか...いや、そんな先輩に何だかんだでホイホイ付き添っている自分も大概なのかもしれない。
そんな事を頭の片隅で考えながら横を向くと不意に自身の携帯が視界に入る、それを見たホシノは無意識の内に画面を操作し気付けば先輩とのモモトークを開いていた
そこにはあの生徒会室で何度か先輩との些細なやり取りを行った形跡が、目の前の画面に記録として残っている。
《今日は何を食べて来たの?》だったり、《ホシノちゃんの好きな色は?》、《そういえばこの前可愛いぬいぐるみ見つけたんだよ!》...等々早くも関係のない事だらけで埋まっているトーク欄。
「.....」
その履歴を何となくぼーっと見ていたホシノだったが、暫くしてそろそろ寝る為に携帯を机に置こうとした瞬間不意にポンッと小さく通知音が聞こえてきた。
その音の正体にある程度想像がついていたホシノが電源ボタンを押すと、画面に写っていたのはやはりモモトーク...先輩からの通知。
アプリを開き、変な鳥の様なアイコンと『ユメ』の名前が表示された場所をタップすると、先程見た履歴の一番下に新たな文面が追加されていた。
《今日も楽しかったね、じゃあまた明日も学校で!》
《ホシノちゃんおやすみ!》
そんな子供っぽい文章と共に謎の変な生き物のスタンプが貼られている画面を見て、何度目かわからない溜息をついてしまうホシノ。
「全く...少しは生徒会長らしさを出してくださいよ」
そう呆れつつも、彼女の口元はどこか嬉しそうに緩んでいた。
ユメからの連絡を見たホシノはそのまま机に放置して寝ようとするが、一瞬何かを考える様な素振りを見せると徐に携帯を再び手に取り画面をタップしていく。
《おやすみなさい》
その一言を打ち込み送信ボタンを押したホシノは布団を被り目を瞑ると、今度こそ夢の中へと意識を移していったのだった。