砂混じりの風が吹き付ける中、午前の見回りを終えたホシノは若干立て付けの悪くなっている校舎の玄関で靴を履き替えていた。
慣れた手つきでショットガンの調子を確認し、階段を上がって先輩の待つ生徒会室へ。
「ユメ先輩、ただいま戻りました」
「あ、ホシノちゃんおかえり!」
扉を開けた瞬間アイスグリーンの髪を揺らして元気よく振り返るユメ、ホシノは相変わらず笑顔浮かべる彼女の姿を見て内心息をつく。
「大丈夫だった?怪我とかしてない?」
「ええ、特にこれといって問題ありませんでしたよ...ところで先輩は先程から何を?」
心配そうに駆け寄ってくるユメに答えながら彼女の背後に目を配ると、そこには棚がやけに中途半端に開かれていたり資料が床に散らばっていたりと明らかに何かをしようとしていた形跡が広がっていた。
「ちょっと棚の整理をしようかなって色々イジってたの」
「...それにしては余計に散らかっている様な気がするんですが」
「大丈夫!ちゃんと元に戻すから、それよりほら!見てこれ、じゃじゃーん!」
「今度は何ですか?」
そう言って何かを主張してくるユメの方を見ると、彼女はどこか自信満々な顔で何かのケースを掲げていた。
「これなんだと思う?」
「トランプ、ですよね?」
「そう!さっき棚を見てたら見つけたんだ〜、折角だからホシノちゃんと遊ぼうと思って!」
ユメはトランプをケースから取り出しながらホシノへ半分束を渡そうとしてくる、だがホシノはそれを一瞥すると溜息を溢して口を開いた。
「いや、トランプ遊びをやっている暇はないですよね?結局この前残した予算管理の報告書だってまだ出来てないですし」
「うっ...で、でもたまには気晴らしもいいかなって...」
「それに二人で出来る遊びなんて限られちゃいますし、そこまでしてやる程では無いのでは?」
基本的に大人数で遊ぶものが多いトランプゲーム、だがこのアビドスの生徒会には自分とユメ先輩の二人しかいない為必然的にやれる事も少ない。
そう答えたホシノは席に着こうと壁にショットガンを立てかける、そんな彼女を見ていたユメはどこか不敵に笑って告げた。
「ふっふっふ...ホシノちゃん、もしかして私と勝負するのが怖いんでしょ?」
「はい?」
その一言に固まったホシノは思わずユメの方へ振り返る。
ユメはいつの間にか席につきトランプの束をいじっていた。
「私は昔”トランプのユメちゃん”って呼ばれてたくらいなんだよ!まあホシノちゃんが怖がる気持ちもわかるけどね〜」
「誰がそんなヘンテコなあだ名つけたんですか...まあでも...」
ホシノは溜息をつきながらそう言いつつも彼女の隣の席に移動し
「別に負けるのが怖い訳じゃないって証明をしてあげますよ!」
「やった!ホシノちゃんありがとう!」
こうして急遽ホシノとユメによるトランプ勝負が幕を上げた。
「といっても何をするんですか?」
「うーん、じゃあババ抜きなんてどう?ふふふ、私は昔”ババ抜きのユメ”って呼ばれてたんだ〜」
「さっきとあだ名変わってますよ」
ホシノのツッコミをスルーしつつ、ユメは手札を配っていく。
「いや二人しか居ないんですから3枚だけで良いのでは?配っても結局それしか残らないんですし」
「あ、そっか!ホシノちゃん賢い!」
「別に普通です」
そうして最終的に二人の手元に残されたのは合計三枚、ホシノにはハートのジャックとジョーカー、ユメにはもう一方のハートのジャック。
「とりあえず一回終わったら仕事を再開しますからね、じゃあ先輩からどうぞ」
ホシノはトランプをユメの正面に向けて提示する、ユメはむむむっと目を細めてそれを見つめていた。
恐る恐る手を伸ばしそのまま一気に左のカードを引っ張る...が、見事にジョーカーを引き当て勝負は継続に。
「むぅ、よしじゃあ次はホシノちゃんの番!」
そう言ってカードをシャッフルしてホシノにカードを突きつける。
「......」
(ババ抜きは運...でもそれだけじゃ無い)
ホシノは二枚のカードに交互に手をかけながら目の前のユメの様子を慎重に観察する。
僅かな目の動き、顔の硬直、その一つ一つを探る様に視線を向ける。
(先輩は言っては悪いですが顔に出やすい、そこをつけば対した問題じゃない)
「....」
「っ、こっちです!」
そんな中、右のカードに手をかけた一瞬目を逸らしたのを見逃さなかったホシノは勢いよくユメの手から抜き取る。
「先輩、これで勝負ありです。申し訳ないですが....」
彼女はそう呟きながらカードをチラッと見やる、そこには当然ジャック二枚が....
「じょ、ジョーカーっ!?」
無かった、あったのはジャックとジョーカー。
「やった!じゃあ次は私だね」
ユメは負けなかった事にガッツポーズをとってから、どっちにしようかな〜と呑気にカードを選んでいる。
(ま、まさか読み間違えた?でもあの反応は...)
そんな彼女を前にホシノは内心一人困惑していた。
あれは明らかに誤魔化そうとしている行動だった筈、だが事実自分が引いたのはジョーカーだ。
「うーん、また外れかぁ...」
その間にホシノからカードを引き終わっていたらしいユメ、しかし揃わなかった様で残念そうにまたシャッフルしている。
(落ち着いて...今度こそ読み勝つ!)
ホシノは深呼吸をすると先程同様にカードに手を這わせながら先輩の様子を見ようとする。
ユメはホシノの視線に気付きひゅーひゅーと出来もしない口笛を吹いて誤魔化しているが、そのせいで余計にホシノの考えが乱れ始める。
(くっ!妙にわかり辛い....この人、まさか本当にババ抜きが強いんじゃ...?)
「こっちです!」
ホシノは少し迷いつつも今度は左のカードに手をかける、そして急いでカードを裏返すと...
「あ、良かった〜」
「っ!?」
彼女が引いたのはまたしてもジョーカー、ホシノはまさか自分がここまで勝てないとは思っていなかったのか、顔には僅かに冷や汗が流れ始めていた。
(いや、落ち着け、大丈夫、ここで取られなければ次で勝負を決めればいいだけ...)
内心の焦りを誤魔化す様に咳払いをしてユメの眼前にカードを持ち上げる。
「むむむむ....」
「...何ですかその表情」
「ホシノちゃんの真似!何となくどっちが当たりかわかりそうな気がして」
ユメはそう言ってじっとホシノの顔を見つめながらカードに手を伸ばしていく。
その澄んだ瞳で見つめられたホシノは何となく気まずくなり僅かながらに目を逸らした。
「よし、ここ!」
その瞬間ユメが声を出しながらホシノからカードを引く、そして....
「なっ!?」
「やった〜!」
ユメの喜びと共に机の上には二枚のジャックが捨てられていた。
当然ホシノの手元に残ったのはジョーカーの一枚。
負けた、まさかこんなあっさりと負けるなんて。
ホシノはその事実に呆然としていた、正直先輩となら簡単に読み勝てると思っていた分その気持ちは大きい。
「へへーん!ホシノちゃんに勝っちゃった〜!」
一方のユメはホシノに勝てたことが余程嬉しかったのか、年甲斐もなく両手をあげて喜んでいる。
「ふぅ〜楽しかったねホシノちゃん!また今度遊ぼうよ、とりあえずそろそろ整理整頓を再開して...」
そうユメが言いかけた時、彼女の前に二枚のカードが差し出された。
「えっと、ホシノちゃん?」
「....です」
「え?」
「まだです、勝負は終わってません!大体一回だけでどっちが強いか決まる訳無いじゃないですか!」
「ええええ!?で、でもさっきホシノちゃんが一回終わったら仕事するって...」
「いいからもう一戦勝負です先輩!さっきは少し油断してただけですし、本気でやれば余裕なんですから!」
「ひぃん....ホシノちゃんがちょっと怖い...」
結局その日の仕事は何も進まず、それから生徒会室には何度目かになるホシノの絶叫が響き渡る事となるのだった