ある日のこと、
『ホシノちゃん!今日は少しだけ遅めにきて欲しいの』
朝目が覚めていつも通り校舎へ向かおうとしたホシノは、不意にユメからそんなモモトークが届いていたことに気がついた。
突然のそんな連絡...わざわざ遅れる必要があるだなんて訳のわからないお願いの内容に不思議に思うホシノだったが、きっとまた何かどうでもいい事を企んでいるのだろうと考えつつ彼女はゆっくりと家を出た。
そこから普段よりも遠回り気味に歩く事一時間、そろそろいいだろうと校舎に入り靴を履き替えたホシノは生徒会室までの階段を登っていく、すると部屋の中からはゴソゴソと明らかに何かをしているような物音が聞こえていた。
「ユメ先輩おはようございます、いったい何を...」
そして中にいるであろう先輩へ挨拶しながら扉を開き
「あ、おはようホシノちゃん丁度よかった!タイミングバッチリ!」
「.....」
何故あんな連絡をしてきたのかを尋ねる為口を開こうとしたホシノだったが、そんな事よりも目の前に広がる生徒会室の変わりようを見て思わずポカンと固まってしまった。
ホシノの方を振り返りニコニコと元気に声をかけてくるユメ、そんな彼女の周りは現在可愛らしい装飾で彩られていた。
ピンク色の折り紙で作られた桜の花、それらが机や壁一面に丁寧に貼り付けられている。
「....どこからツッコめばいいのかわかりませんけど、これは?」
「凄いでしょ?ホシノちゃんが来る前に綺麗に飾り付けられたんだよ」
「いえ、そういう事を聞いている訳では無いんですけど」
変わり果てた生徒会室をキョロキョロと見渡しているホシノにユメは続ける。
「今日はホシノちゃんと一緒にお花見しようと思って!」
「お花見、ですか?」
まだユメの話す言葉の意味を理解できていないホシノは首を傾げるが、そんな彼女に対してユメはどこか誇らしげな態度で説明し出す。
「この前ホシノちゃんとお花見してる夢を見たの、それで折角だったら現実でもやってみよう!って思って...でも桜はもう散っちゃったでしょ?だから雰囲気だけでも楽しむ為に昨日色々準備してたんだー」
「昨日突然買い物行ってくると言い出したのはそれが理由だったんですか」
「そう!他にもレジャーシートとか沢山あったから買っちゃった。ほら見てこれ、可愛いでしょ?」
そう言ってユメは机の上に置いていた袋からなんとも言えない鳥の姿が描かれたレジャーシートを取り出し床に敷く。
「ほら、ホシノちゃんも座って座って!」
「え、まさか本気で今からここでお花見するんですか?」
「勿論!ほら、ホシノちゃんと食べようと思ってお弁当も作ってきたんだよ」
「ほ、本当に作ってる...それに沢山....」
ユメが自信満々に見せてきたお弁当箱にはおにぎりやそれに合わせたおかずがぎっしりと詰められていた。
相変わらず変に思い切りのある彼女の行動にただただ動けずにいたホシノだったが、小さく首を傾げながら座っているユメはポンポンと自身の正面を叩いて待っている。
「.....まあここまで用意されたのなら断るのもアレですしね」
「ふふ♪ホシノちゃんとのお花見、スタートだね」
そんな様子にとうとう諦めたホシノは上靴を脱ぎレジャーシートの上に腰を下ろしたのだった。
「はぐっ....もぐっ...」
それから15分程、生徒会室には一心不乱におかずを頬張る音が響いていた。
「ホシノちゃん凄い勢いだねぇ」
「んぐ....美味しいですし、朝はあまり食べてなかったので」
「もう、ダメだよホシノちゃん!ご飯はちゃんと食べないと」
”気合を入れて作りすぎちゃった”と話す程大量に詰められたおかず、最初は二人で食べ切れるのかと不安もあったが今ではその半分以上がホシノのお腹に消えていた。
「私は別に食べれれば何でも良いので...それにしてもユメ先輩って料理出来たんですね、てっきり謎の物体を作り出すタイプかと思ってました」
「えぇ!?そ、そんな風に思ってたの!?」
「まあ普段の行動を見ていれば尚更...」
「でもでも!ホシノちゃんから見てこれで私の印象も立派な先輩に変わったでしょ?」
「あくまで料理が出来るだけで全体が変わる訳ないじゃないですか」
「ひぃん....」
手厳しいホシノに落ち込むユメだったが、それから少しして彼女は小さく笑い声を漏らす。
「ふふっ」
「...どうしたんですか?いきなり笑って」
「んー?ホシノちゃんが喜んでる所が微笑ましいなって」
「なっ!そ、そんな訳ないじゃないですか!大体そんなの見ただけでわからないでしょう」
「ううん、わかるよ。だってさっきまでのホシノちゃん嬉しそうに口元が笑ってたから」
その指摘に思わず顔を片手で押さえてしまうホシノ、無意識のうちに自分がそんな表情を浮かべていた事に頬を赤らめてしまう。
「良かった、ホシノちゃんが楽しんでくれて!お花見大成功だね」
「ぐっ....た、確かに楽しかった事は否定しませんけど...」
もはや言い逃れできないと察したホシノは少し顔を背けながら何個めかのおにぎりを頬張る。
「ホシノちゃん、いつか本物のお花見もしようね。今日だけでこんなに楽しかったんだから、実際のお花見はもっと楽しくなるよ!」
「....まあ、機会があれば付き合ってあげなくもないですよ」
「やった!約束ね!」
そう言ってニコニコと笑顔を浮かべながら何を作ろうか考え始めたユメ、そんな彼女を横目で見て小さく微笑見ながらホシノは残りのお弁当箱に手を伸ばした。