「遅いですね」
時間帯は昼...窓から陽の光が生徒会室を照らす中、椅子に座っていたホシノは一人静かに呟いた。
普段であれば彼女の傍には生徒会長であるユメが居るはずなのだが今は不在、その理由は一時間程前に遡る。
――――――――――
「ホシノちゃん、今からちょっとだけ買い物に行ってくるからお留守番頼める?」
「買い物?何か必要なものでもあるんですか?」
「学校に残ってる銃弾とか備品とか最近足りなくなってきたでしょ?それの補充に行こうかなって」
「成る程、なら私も一緒に行ったほうがいいんじゃ」
「大丈夫!すぐそこにあるお店だし、ホシノちゃんは私がいない間この学校を守ってて!ほら、万が一泥棒とかが来たら大変だから」
「わざわざうちに泥棒に入る奇特な人なんていないとは思いますが...まあ先輩がそこまで言うなら」
「うん!じゃあちょっとだけ待っててね、すぐ戻ってくるから」
――――――――――
と言って出て行ったのが一時間くらい前の事。
ユメが向かった先はここから十分そこらの距離の為、遅くとも三十分くらいで戻ってくる筈...が、実際その倍以上経っても彼女はまだ戻ってきていない。
「まあきっと何処かで寄り道でもしてるんでしょう」
普段からよくズレまくる行動をしている先輩の姿を思い浮かべて溜息をつく、だがそれと同時にどこかモヤモヤとした不安も抱いていた。
もし本当にそうなら何かしら連絡をしてくるのでは?そう考えるが現状モモトークには何の通知もない。
....まさか、何か事件に巻き込まれたんじゃ。
一抹の不安、その燻りがゆっくりとホシノの胸中を支配していく。
「やっぱり少し様子を見に...」
そして立てかけていた武器を手に取り部屋を出ようとした瞬間、パタパタと廊下の方から何者かが走る音が聞こえくる。
「ただいま〜ホシノちゃん!」
そしてちょうど手を伸ばしかけていた扉がガラッと開くと同時に、満面の笑みを浮かべるユメが大きな袋を抱えて現れた。
「ゆ、ユメ先輩...!」
「ごめんね〜ちょっと他のお店にも行ってて....あれ?ホシノちゃんどこか出かけるつもりだったの?」
「え、あ、いえ!これは別に...下から物音が聞こえた様な気がしたので見に行こうと」
ユメに尋ねられたホシノは何とか誤魔化した。
戻ってこないユメが心配だったからとは口が裂けても言えなかった彼女は咳払いをしつつ席に戻り、そんなホシノの姿にキョトンとしつつもユメは買ってきた物の報告を始める。
机に並べられる様々な物資の数々、これだけあればまた暫くは持つだろう。
話を聞きながらそう考えていたホシノだったが、その時まだ袋に入っているものがある事に気づいた。
「先輩、それは何ですか?」
「え?あ、そうだった!ふふ、これを見たらホシノちゃんきっと驚くよ」
指摘されハッとした表情を浮かべたユメは、焦らす様にゆっくりと袋を開いていく。
「じゃーん!見てこれ、気になってつい買っちゃった!」
「これは....」
袋から取り出された瞬間ホシノの目の前に現れたのは巨大な箱、その表面に書かれている文字を見て彼女は思わず固まってしまった。
『人生ゲーム-inキヴォトス、億万長者を目指せ!-』
「人生ゲーム?」
「帰ってくる時に偶然見つけたの!それに凄く安かったから、折角だからホシノちゃんと遊ぼうと思って」
「え、まさか先輩が遅れた理由はこれを買ってたから何ですか!?」
「うん、他にも色々見てたらつい時間かかっちゃって...あれ、ホシノちゃん何か怒ってる?」
「...別に怒ってません」
まるで当然の様にニコニコと笑いながら返事をするユメ、そんな呑気な彼女に自分がさっきまで心配していた事実がしょうもないやら恥ずかしいやらでホシノはつい顔を背けてしまう。
「でも私はそんなに興味は...」
「ええ!?そんなぁ...お願いホシノちゃん!一回でいいから!ね?きっと楽しいよ?」
「っ!わ、わかりました!その代わり終わったらちゃんと仕事してくださいよ」
縋り付く様に手を掴みお願いしてくるユメ、そんな彼女の姿にホシノは断りきれなくなり結局遊ぶ事に。
「やった!じゃあ早速準備しなきゃ」
そう言って嬉しそうに机の上を片付け始めるユメ、そして箱から取り出したボードを置き二人分のコマを車の様な模型に乗せるとスタートの位置にセットした。
その後の順番決めではユメが先行に、
「よーし、えい!」
気合いの入れた掛け声と共にルーレットを回していくユメ、カラカラと音が室内に響き出た目は四。
「四進む...迷子の猫を助けてトリニティの子にお礼をされる、三百万貰うだって!」
「ええ...何なんですかこの適当なイベント」
「ほらほら、次はホシノちゃんだよ」
「わ、わかりましたよ」
急かされルーレットに手を伸ばすホシノ、少し力を込めて回した結果出たのは七。
「七....バスで移動中バスジャックに巻き込まれる、二百万失う。え、いきなり借金なんですけど!?」
幸先悪い始まりに嫌な予感がしてくるホシノ。
(トランプの時も思ってましたけど、この人こういうゲームの運だけは何故か良いんですよね...いや、流石に最初で決めつけすぎですね)
「じゃあ次私だね、それ!えーっと...六進むから、あっ、脱走したロボットに目をつけられて百万失うかぁ....」
「これまた変なイベントですね、絶対この人生ゲームを作った人適当に決めてますよ」
そう言いながら、ホシノはどこか安心していた。
やはり流石に全て良いマスに止まるという豪運は無い様だ、それならまだやりようはある。
どうせ遊ぶのなら勝ちを目指したい。
....それからどれだけ経っただろうか。
「ブラックマーケットで不良に不意を突かれて気絶、四百万盗まれる!?何で警戒してないんですか!」
「発射された砲弾の爆風に巻き込まれる、治療費として二百万払う...ひぃん、お金がどんどん減っていっちゃう....」
「銃弾が尽きて喧嘩に負ける、五百万払う。そこは隙をついて肉弾戦に持ち込むべきでしょう!」
「百鬼夜行で美味しいお菓子を食べて幸せな気分になる、百万払う...百万円のお菓子かぁ、どんな感じなんだろう」
まさに理不尽と思えるほどのイベントマスの数々、初めは順調だったユメも今ではすっかり所持金を減らしていた。
ホシノに至っては借金から何とか脱した後にまた借金という負のスパイラルに陥ってしまっている。
明らかにテストプレイしていない、そう確信できるほど悪いイベントマスがボード上に散りばめられていた。
(ユメ先輩は値段が安かったと言ってましたけど、これなら納得ですね)
それからまた暫く経ち両者ともようやくゴールへ。
「....一応集計しますか?あまり意味ない気もしますけど」
「う、うん。私が所持金百万円で、ホシノちゃんが....ま、マイナス千六百万円....」
「何が億万長者を目指せですか、こんなのタイトル詐欺ですよ」
「うぅごめんねホシノちゃん、見た時は凄い面白そうだったんだけど...」
箱を叩くホシノに、予想外にも半分騙された形となったユメが謝る。
「まあ別にいいですよ、今回は先輩が悪かった訳じゃないので」
「よし、じゃあ次に買う時は楽しめるやつを選ぶね!」
「駄目です、先輩に任せたらどうせまた変なものを買ってきそうなのでこれからはやめてください」
「ひぃん....ホシノちゃん厳しい...」
だがふと何かを思いついた様な顔をするユメは、ほんのりと笑いながらホシノに問いかける。
「ふふふ、ならお買い物の約束しよ?」
「約束?」
「そう、私だけで選んじゃ駄目なんだよね?つまりホシノちゃんがいる時なら良いって事でしょ?」
「え、いやそれは...」
「だから約束、今度一緒にお買い物しに行こう?ホシノちゃんがいればもっと楽しくなるだろうし」
そう言って無邪気に笑いかけるユメに、ホシノは何も言えなくなってしまう。
「.....ま、まあ時間があれば良いですよ」
「やった!はいホシノちゃん」
ユメは分かりやすく喜びながら小指を差し出す。
一瞬躊躇ったホシノだったが、それから頭を振り息を吐くとゆっくり自身の小指を彼女の指と絡ませた。
「「ゆーびきーりげーんまーん...」」
生徒会室にはそんな二人の少女による声が響き、どこか暖かい雰囲気で満たされていたのだった。