世の中、3Kと呼ばれる仕事がある。
キツイ
汚い
危険
この頭文字を取って3Kと呼ぶ。
皆もいつかの授業で聞いたことがある言葉だろう。
そしてこう言う仕事は基本的に誰もやりたがらないので、大抵は貧乏人やお金に困っている人などが行うものだ。
だが、そういった仕事には時に例外も存在している。
「…」
現代的な建物が多く立ち並ぶ大通り、一般人や乗用車が走る大通りの路地裏。フードを被った一人の少女が通りを見ながらインカムを付け、ガムを噛んでいた。
『こちらD班、準備完了』
「ん、了解」
インカムから通信が入り、少女は耳に手を当てて返すとさらに別の通信が入る。
『監視班、目標視認。現在ポイントαを通過』
「オッケ」
そして視界の先に右折してくる一台黒いセダンを視認する。
「んじゃあ、始めようか」
そう呟き、彼女はポケットから
カチカチッ
二回レバーを握った直後、道路下の地下道に仕掛けられた含水爆薬に引火、マンホールが勢いよく吹き飛んで通過したセダンを貫通する。
宙に舞い上がったマンホールの蓋はクルクルとコインを回す様に回転した後、再びセダンの直上に降って車を潰した。
「よしっ、仕事完了。引き上げるよ」
『『了解』』
燃え盛るセダンを見て少女は言うと、インカム越しに返答が来る。
周囲では既に爆発したセダンに人々が集まっており、燃え盛る車に必死に消火器を掛けていた。
私達の生まれは分からない。
ただ一生は闇に生き、闇に死ぬ。そう言う運命だ。
自分達が陽の元で暮らせる事はあり得ない。
「椿小隊、ただいま帰還しました」
「全員の生存を確認しています」
とある古いアパート、その一室に数名の私服姿の少女達が集まる。
その身なりから素行の悪い少女のように見える彼女達は、そこで部屋のソファに寝そべって頭に雑誌を被っていた少女に報告すると、彼女は聞いた。
「尾けられた?」
「いえ、相手が相手なだけに。向こうも動いていなさそうですよ」
そう言い見せた新聞には『麻薬カルテル幹部の暗殺か?!』と書かれた英語の見出しを見る。
遺体は燃え盛ったセダンの中、マンホールの下敷きになって発見されたらしい。
「…そうかい」
眼鏡を付けた少女に雑誌を取られながら言うと、寝ていた茶髪のセミストレートの少女は雑誌をどかした黒髪ロングの少女を見上げる。
「じゃあ、今日の仕事は終わりね」
「えぇ、そうですよ」
そう言い部屋に集まった六人の少女達は各々好きなことをし始める。
「よっしゃ〜!」
「新作ゲーム出ているんだ。誰かやらない?」
「パス」
「ウチやるよ」
テレビの前で四人が集まって新作のレースゲームをやり始め、それを見ていた茶髪の少女は呆れた目で言う。
「あのさぁ、ここはシェアハウスじゃないんだけど?」
言うと、少女達はそんな少女にジト目で言う。
「だったら隊長が上に掛け合って下さいよ」
「そうだそうだ」
そういって口を溢す彼女達に少女、山田浅美は少々疲れた表情で答える。
「面倒だなぁ…上に掛け合うのは苦手なんだよ?」
「でも部屋が狭いのはなんとかして下さいよ」
「そうですよ。冷蔵庫すらないなんて最悪なんですけど」
そういって文句を溢す彼女達に山田浅美は少し考えていると、彼女の持っていた携帯のバイブ音が聞こえた。
「はいはいもしもし?」
相手を見ずに電話に出た彼女はたちまち顔色が悪くなる。
「ねぇ、もしかして」
「噂をすればって奴ね」
そんな彼女に二人の少女は小声でそう言い合う。
自分たちが所属している部隊の隊長の苦手なものの一つの上司。そんな人物と電話を終えた山田は一言、
「帰って来いだって」
「「「「はっ?」」」」
突然の命令に少女達は驚く。
「帰国って事ですか?」
「そう言う事だね」
聞いて来た金メッシュ入りの少女、草生津ユウミは聞くと少し落胆する。
「まじかぁ…」
海を超えた遠い国で仕事をしていた自分達に慣れきったが故に、帰国命令にややゲンナリしていた。
「何かミスでもしましたか?隊長」
「さぁ?私もいきなりの帰国命令で驚いていんだよね」
山田も首を傾げていると、
「さぁ、荷物をまとめますよ。自分のセーフハウスに移動して準備して下さい」
そう言い二回手を鳴らして帰宅準備を促す先ほどの黒髪ロングの少女、三条ゆいは同じ仲間を見る。
「酷いなぁ、副隊長」
そう言いながらゲームを中断して立ち上がるのは小塚原マキ。
「帰国かぁ、何年振りかな?」
「三.四年振りくらいじゃない?」
「うわぁ、懐かしいねぇ」
納谷はると柊アオイの二人も部屋から出ていくと、残った山田と三条。
「はぁ…やだなぁ、帰るの」
「そもそも、こんな何年も私達みたいな人間が海外にいるのが可笑しいんですよ」
ぼやく山田に三条は言うと、言われた彼女はため息を漏らす。
「分かっているんだけどね…」
「…そんなに帰りたくないんですか?」
「いやぁ、そう言うわけじゃないんだけどね…」
山田はなんとも言い難い表情を浮かべており、そんな彼女に三条は少々皮肉混じりに言う。
「散々汚れ仕事をして来たんです。たまには世界一平和な国で休暇を取るのも悪くないんじゃないんですか?」
「…」
彼女が言うと、山田も苦笑して返した。
「それもそうかもね」
『Direct Attack』。通称『DA』と呼ばれる組織がある。
それは日本において非常に特殊な立ち位置に存在する特務機関であり、あらゆる権限を超えた超法規的機関である。
「日本よ!私は帰ってきた!!」
成田空港到着ロビーでいい表情を浮かべながらサムズアップを一人でする山田に三条達五名はやや呆れた表情を浮かべる。
「隊長…」
「ちょっと恥ずかしいよ、それ…」
「ムゥ…君たち、辛辣になりすぎだよ」
そんな彼女達の反応に少し不満げになりながら黒い制服にキャリーケースを引いている彼女達。
胸元には椿のピンバッチが刺され、腕にはワッペンが縫い付けられ、ぱっと見ではどこかの留学から帰って来たかの様な雰囲気であった。
「んで、迎えが来るって話だったんだけど…」
そこで山田は少し探すそぶりをすると、彼女達の前に一人の黒スーツを身に纏った大型な男が現れた。
「迎えに来た」
「お名前は?」
「禁じられている」
男はそう答えると、山田は言う。
「あー、そうかいそうかい」
慣れた雰囲気で山田達は男を見ると、彼女達はそのまま着いて行く。
その後、成田空港から都内某所に到着した彼女達は山田を除いて別の場所に移動していた。
「椿小隊、只今アメリカより帰国致しました」
山田はとある部屋に敬礼をしながら入ると、そこではマッシュルームカットの中性的な容姿をした人物が座っており。山田を出迎えた。
「久しぶりだな。山田」
「えぇ、何年も海外に飛ばされていましたのでね」
言うと目の前の人物、楠木はフッと薄く笑みを見せる。
「上層部からの命令とはいえ、リコリスの常時海外派遣など私は反対だったのだがな…」
「汚れ仕事は汚れた人間にやらせるべき…そうでしょう?」
山田は慣れた様子で返すと、楠木は言う。
「君たちはリコリスの中の犯罪者だ。本来であれば国内に入れる事すら憚られる人間だ」
「でしょうね」
皮肉混じりに返す山田は楠木に言う。
「リコリスの中でも私達は嫌われ者です」
仕事内容故に自分たちは同じ仲間内からでも特異的な目で見られている。主に嫌な方の目で。
「まぁ、まさか帰国命令が出てくるとは予想外でしたが…」
彼女が隊長を務めている椿小隊は特殊任務部隊として五年前に設立された部隊であった。
「ここでは息苦しい生活になるぞ」
「えぇ、承知の上ですよ」
山田達の小隊メンバーは彼女含めて六名。外れ値部隊としてあだ名されており、リコリスの左遷先の一つであった。
「そうか…」
彼女の返答に楠木は軽く息を吐くと、山田に封筒を渡す。
「お前達を帰国させた理由だ」
「…了解しました」
封筒の中身の命令書を携え、山田は司令室を出て行った。
「よぉ」
司令室を後にし、本部を歩いていた彼女はある赤い服を着た少女に話しかけられていた。
「何だ、フキか」
赤いファーストリコリスの制服を着ている春川フキ。
彼女とは昔からの幼馴染であった。
「海外旅行はさぞ楽しかったんだろうな?」
「…ふっ」
そんな人を試すような目線を向ける彼女に山田は不敵な笑みを見せると、
「あぁ、実に刺激的な海外生活だったさ。そうだ、一つ摘み話をしない?」
言うと、黒いリコリスの制服に気付いた数名のサードリコリスが山田を見てヒソヒソと話し出していた。
「まぁ、私はあんたと違って忙しいんだ。ここら辺でお暇させてもらうぜ」
フキはそう言い消えていくと、残った山田の制服を知っているリコリスの話に耳を傾けた。
「ねぇ、あれって…」
「そうよ、椿小隊よ」
「何で日本に帰ってきたの?」
悪意に近い自分達を排斥する声、もはや慣れてしまった事だが。自分達はリコリスの中でもはぐれ者だ。
「時代で言うなら、穢多非人かな?」
山田はそれほど気にしていない様子で本部を後にする。
「我ら椿小隊、人にして人に在らず。
さぁ、思う存分下である私達を蔑んで貰ってやってください。
「…あぁ、そうだ」
折角日本に帰って来たのだから、フキ以外の顔馴染みにも会いたいのだが…。
「フキ〜、千束を見かけないんだけど〜」
『だからって今電話をかけてくんな!馬鹿野郎!!』
電話で容赦なく先ほど別れたフキに掛けた。因みに彼女はこれからある任務に向かうブリーフィング中であった。
「何処にいるの〜?」
『無視すんなゴルァアッ!!』
フキの怒号なんぞ目にも暮れない様子で山田は聞いた。
『あぁ…チッ。彼奴は今、別の場所だ』
舌打ち混じりでも返してくれるフキちゃん優しい、と口には出さなかったが、そう思いながら彼女は昔馴染みのある知り合いの居場所を聞いた。
「まじか…」
東京は錦糸町近くの下町、私服姿でその場所を訪れた山田は軽く唖然となる。
「彼奴、こんな場所に移動したのかいな…」
そこは和風で小さな喫茶店、店名は『LycoReco』と書かれていた。
「本当にここなの?」
少し猜疑心を抱きつつゆっくりと扉に手を当てて中に入った。
Do you want a happy end?
-
Yes
-
No