敵の襲撃を退いた囮の椿小隊の面々は一旦の集合場所である羽田空港の駐車場に到着した。
「しくったなぁ…」
「えぇ、ミスをしました」
駐車場にレクサスとヤリスクロスを停め、それぞれのペアは反省する。
「今後はどうしますか?」
同じ着ぐるみを着た二人が互いに話し合うと言うシュールな光景だが、そこで浅美は言う。
「教官に一回連絡しよう」
「ですね」
そこでインカムでミカに繋いだ。
「…あぁ、教官?」
『どうした?』
彼は聞くと、浅美は言った。
「こっちの仕事はとりあえず終わりました」
『了解した、こちらでもプランBで行く事になった』
「分かりました。じゃあこっちの電源切っておきますね」
頷くと、浅美達はトランクの蓋を開けて中に詰まっていた大量のC4と起爆装置をみる。
「うぅ〜、見てるだけで肝が冷える」
「半分テロですからね。これ」
「半分どころか…」
小塚原はそう言うと、浅美と三条は繋がっていた電源コードを引っこ抜いて起爆装置を切った。
このプランはAプランで、ハリウッド並みの大爆発を幕締めにしてウォールナットを死んだように見せるための行為であった。
事の発端は数日前の事、
「…あれ?」
拠点で納谷がDAの情報を見ていた時にある事に気がついた。
「隊長〜!!」
「?」
近くにいた浅美に声をかけると、彼女はパソコンの画面を見せた。
「ウォールナット様がDAの抹殺リストに乗っているよ…?!」
「ウォールナットが?」
浅美は首を傾げた。納谷にしてみれば神様に近い扱いをされているウォールナット。そんな人物がDAの抹殺者リストに乗っている事に浅美は首を傾げた。
「どうしよう〜」
「どうしようっつたってね。うちらウォールナットから逃し屋依頼受けたわけじゃないし…」
そんな事言った後にウォールナットを逃す依頼をミカ経由で知ったものだから慌てて伝えてちょっと作戦変更をしていた。
「最初に分かれて逃走し、その後に敵の戦力分散」
「目立つ高級車と敵を街郊外のショッピングセンターに誘き出して本物が逃げるまでの時間稼ぎ」
そう言いながら羽田空港のカフェで四人は休憩する。
大勢の人々が出入りしており、そんな中でわざわざ私服姿の四人に注目がいくはずもなく。気にしていない様子で通り過ぎていた。
「そして死の偽装ですか…」
三条はアイスティーを飲みながら返す。
「じゃなきゃ、今後も安全かどうか分からないでしょう」
「そうですね」
「ハッカーなんてぶっちゃけろくな仕事じゃないし」
そう言うと、小塚原はふと思った疑問を口にした。
「でもどうしてウォールナットさんはDAの抹殺リストに入っているのでしょうか?」
「凄腕のハッカーだからじゃない?」
「さぁ…?」
浅美は分からないそぶりでアイスティーをストローで吸う。
「侵入したとか」
「ラジアータに?」
「流石に無理…なのでは?」
一瞬三条は思い当たる節があったが、口を噤んだ。
そして呆然と平話な日常を送っている空港を行き交う人々の顔を見た。
「平和だねぇ〜」
「全くです」
何も知らない日本国民や外国人。
八年連続の世界一安全な法治国家日本と言う話を高らかに掲げている。
「事件は事故に、悲劇は美談に…ですか」
「ウチらのモットーじゃないか」
「今じゃあ、最後の事件も平和の象徴ってね」
そう言い、空港からも見える旧電波塔を見る。
間も無く新たな延空木が完成し、新たな平和の象徴が東京に聳え立つ。
「ウチら、法治国家じゃない国にも行ったことあったよね…」
「あったあった」
「確かグアテマラに行った時かと…」
「そうそう、懐かしいねぇ…」
日本の平和を守る為に法の傘下から抜け出して世界中を飛び回った椿小隊。
「アマゾンでマラリアになったときは死んだかと思ったなぁ」
「病死なんて死んでも死に切れませんよ」
少し懐かしげに語る四人に、拠点で待機していた二人も会話に入ってくる。
『私は最初の担当がアフリカでしたよ』
『私は中央アジア』
元々海外に派遣されっぱなしだった椿小隊。その過酷な任務故に作戦毎に大量の死傷者を出していた。
「それももう昔の話ですね…」
そう言うと、徐に浅美は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
その写真は数十人の集合写真であり、全員が漆黒のリコリスの制服を身に纏っていた。
「あとは隊長、あなたのお仕事ですね」
「…えぇ、そうね」
その写真を見ていた彼女に三条が話しかけると、彼女は短く頷いた。
そして懐かしそうに彼女は写真に手を触れると、その時ちょうど携帯が鳴った。
「はいもしもし?」
『浅美、ウォールナットが死亡した』
ミカの報告に浅美は少し目元が鋭くなった。
「…了解しました。すぐに向かいます」
報告を受け、浅美は写真を仕舞って三条達に目線を送った。
「行くよ」
「はい」
四人は席を立つと、カフェを後にした。
救急車のサイレンを鳴らしながら中で千束とたきなは意気消沈していた。
逃げ込んだスーパーの先で襲撃者達を対処していたのだが、最後の最後でウォールナットは敵の乱射を受けて死亡していた。
「すみません…」
無数の銃弾を浴びて血だらけになって担架に乗せられたウォールナットを見る。
「たきなのせいじゃない」
下手にスーパーの裏口から出ていって死亡したウォールナットの景色は今も鮮明に覚えていた。
あの後、遺品と遺体を全て回収して救急車に乗せていた。
「…さっきはありがとね」
「…なんです?」
たきなは首を傾げた。
「私が飛び出すと思ったんでしょ?」
「いえ…ファーストであるあなたに余計な真似でした」
そしてたきなはあのスーパーで千束の行動に目を見開いて驚いていた。
たきなにはその景色も鮮明に記憶していた。
「それでも…ありがとうね」
護衛対象の死亡に落胆し、顔を俯かせていた時。担架の上で寝ていたウォールナットの遺体が上半身を起こして胡座をかいた。
そしてその動きを視界の端で捉えた二人は違和感を感じて同時に顔を上げた。
「「っ!?!?」」
突然の事に困惑していると、ウォールナットの着ぐるみの頭が取れて中からよく知っている人物が汗まみれで姿を現した。
「あっづ〜!」
ミズキが汗まみれで手を仰ぎ、息をしていた。
「ビールちょうだい!」
彼女はそう言うと、運転席からキンキンに冷えた缶ビールが一本飛んできてミズキの手の中に入った。
「え?」
「え?え?」
目の前の景色に困惑しているたきなと千束の前でミズキは缶ビールを開けていた。
「ミズキ?!な、な、な、なんで?!だって…」
「落ち着け千束」
言葉がしっちゃかめっちゃかになる千束に運転していたミカがマスクを取って話しかけた。
「えええぇぇぇ!?先生っ!?」
二人はただただ驚いていると、ミズキはビールをそれはそれは美味そうに一気に行った。
「ぷはーっ!うんめー!」
まるで地下労働から解放された時のような声をあげてミズキは言うと、
「あっ、これ防弾。派手に血が出るのがミソね。まじクソ重いけど」
そう言い着ぐるみを叩くと、空いた穴から血糊が吹き出した。
「あの…ウォールナットさん本人は?」
「そっ、そうだよ!どこ行った?!」
たきなは合同で作戦に当たっていた浅美達の方で逃げたのかなどと勘繰っていると、ミカは少し笑った。
『ここだ』
「うおっ!?」
すると着ぐるみの生首から声がして一瞬驚くと、スーパーでたきなが散々乱暴に扱ったスーツケースが開いた。
『追ってから逃げ切るいちばんの手段は、死んだと思わせること」
そしてその中から幼い声と共に一人の幼女が姿を現した。
「そうすればそれ以上捜索されない」
そう言うと、彼女はVRゴーグルをしていたので方向感覚が分からず、頭をぶつけた。
「ではわざと撃たれたんですか?」
「彼のアイデアだ」
「先生ぇ〜!」
千束は少し頬を膨らまして、不満げに叫んだ。
「あーあ、最後のハリウッド並みの大爆発は無駄になったかー」
「まぁ、早く終わっただけ良いじゃないか」
「…」
そう言って笑う大人二人にたきなは絶句していた。
「想定外の事態に対処して、見事だった」
そうウォールナットは言うと、困惑した千束は整理をした。
「ちょっと待ってね…それってつまり…
誰も死んでいない…ってこと?」
それに事情を知る者は頷く。
「そーゆーこと」
ミズキは言うと、千束は安堵のあまりへたり込んだ。
「よ、良かったぁ…」
「この子メッチャ金払い良かったからさぁ、命賭けちゃったよ!」
そう言い、千束は安堵のあまり抱きついていた。
しかしたきなだけは少しだけ表情が暗かった。
その後、浅美達とも合流し、喫茶リコリスに戻った千束は改めて不貞腐れていた。
「事前に教えてくれたって良いじゃないですか…」
彼女が不満を溢したのは、浅美達は全員作戦の概要全てを知っていたからだった。
「だって君、芝居下手じゃん」
「ひどい!」
横に座って笑いながら団子を食べる浅美に文句をつける千束。
「むしろあんたはたきなと一緒にいた方が自然体でいいわよ」
そう言いながらミズキは携帯の画面を見せた。
「こんな風にぃ〜」
「あぁっ!!」
それは千束の顔面が崩壊した写真であった。
「いつ撮ったの?!」
「ミズキさん、後でそれください」
「浅美ぃぃ!!」
そう言いわちゃわちゃしていると、そこでたきなが言う。
「…やっぱり、『いのちだいじに』って方針。無理がありません?」
「たきな?」
彼女の呟きに千束達は彼女を見ると、たきなは昼の一件を思い返す。
「あの時二人で動いていれば、こんな事にはならなかったんじゃかないかと…」
「でもそれをしなかったら、今頃こうはなっていなかった」
「それに目の前で人が死ぬのはほっとけないでしょ」
浅美と千束は言うと、彼女は反論する。
「私たちリコリスは殺人が許可されています!…今更敵の心配なんて」
彼女は言うと、そこで浅美は静かに言う。
「でもね、たきなちゃん」
彼女はしっかりとたきなの目を見ながら静かに言う。
「どこかで自分の本心に甘えないと、後戻りできなくなるよ」
「っ…」
その時にたきなが感じた言葉の重みは、まるで巨大な鋼鉄のように冷たく重たかった。
「まぁ、たまには自分の本心を向き合ってみなさいな」
そう言うと、彼女は座敷に移動してミカに聞いた。
「きょうか〜ん、団子追加で〜」
「何が良い?」
「みたらし〜」
そう言うと、ミカは次の団子を作り始めていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No