「どう言う事でしょうか?」
A4サイズの封筒に入っていた紙に書かれていたのは、確かにリコリスとしての権限を与えるためのものだった。
「さぁ?上の方針が変わったんじゃない?」
浅美は封筒を開けるまでもなく片手にスプライトを入れた紙コップを仰いだ。
「ったく〜、ここのかりんとうとまた出くわす事になるとはね〜」
そう言いながら来客用に置かれていたかりんとうを手に取って一口で口に入れる。
「なかなか美味じゃありませんか。このかりんとう」
「そりゃそうだ」
ここの料理長は元宮内庁で働いていた人だ。
やんごとなき身分のお方に料理を出していたのだから、不味い訳がないのだ。
「でもね〜、毎日これよ?」
「それは…飽きますね」
「でしょ?」
三条はそれを想像して途端に顔が引き攣った。
「隊長、昔本部だったのが羨ましいですよ」
「よくこの転属に文句しませんでしたね」
そう言い柊と草生津は言う。
椿小隊は全国の支部から選抜されたリコリスが海外に向けて派遣されており、二人は東北と中国から来ていた。
「いやぁ、正直ここから出たかったし」
そんな二人に浅美は少々忌々しげに言って部屋にあった監視カメラを見た。
「しかし、これからDAの傘下に入るのかぁ〜」
「途端に動きづらくなりますね」
「気軽に私服で出歩けないよ〜」
そう言い浅美は少々苦しげに溢していた。
その頃、喫茶リコリコではミカがボードゲームを常連客達とやり合っている途中。休憩がてらパソコンの置いてある襖に入って検索していた。
「…」
彼女は無数のデータの山の中からあるワードだけを検索していた。
「やはり見つからないのか…」
彼女が検索をかけていたのは椿小隊であった。
リコリスにしてリコリスに非ずと自らを誇っていた彼女達の情報はインターネット上には全くと言っていいほど残っていなかった。
海外で優秀な逃し屋としてしか噂でしか聞いておらず。椿小隊というのでどこかの国の軍隊だと思っていた。
「どういう司令形態を取っているんだ?」
アナログと言う最強のハッキング対策を取っている椿小隊だが、活躍をしているのは世界。
日本のリコリスから派遣されたと言うのであれば、即応可能な何かしらの通信機能があるはずだ。
「…顔検索をしてみるか」
そう呟き、クルミは浅美と撮った写真で検索をかける。
丸レンズの濃いサングラスで顔を隠しているのだろうが、彼女の手にかかれば問題なかった。
輪郭や口や鼻の位置や形でも十分に検索は可能だった。
「うん?」
そして検索をかけると一瞬で数件の情報がヒットしたのだが…。
「紫雲イグナ?」
そこにはサングラスを付けた女性の顔写真とともに知らない名前が出てきた。
しかし写っている写真は彼女の顔であり、それがすぐに偽名であると彼女は理解した。
「成程、名前が複数ある訳か…」
ただ、千束も言っていたので浅美と言うのが本名なのだろう。
そして恐らく、椿小隊の全員が同じような状態となっている事だろう。
「海外で活躍している極秘部隊…やっているのは他国が抱えた爆弾の導火線に火をつける仕事か…」
彼女から聞いた仕事内容にクルミは椅子に深く座り直す。
「細かく何をやっているかは把握不可能だな…」
そう言うと、彼女は今の時間でやっている日本のニュース番組を見る。
『本日の天気は曇りのち晴れーー』
『今回の特集は昨年勃発したミャンマーでのクーデターについてーー』
『先月オープンした八王子のカフェのーー』
『現在も緊張状態が続くコソボとセルビアに関してNATOは慎重な構えを示しておりーー』
『間も無く完成する延空木のセレモニーはーー』
『アメリカ国防総省はメキシコとの国境沿いに新たに二個師団派遣を決定しーー』
無数のニュース番組を見ていたクルミは自分の知りたい欲望に従って動いていた。
「アナログで動いていても出来る事はあるんだ…」
少し不敵な笑みを浮かべると彼女はゴーグルを被った。
そしてアグレッサー部隊としてDAの仕事を受けている椿小隊。
「はぁ…はぁ…」
肩で息をして倒れかかっているサードリコリス達は訓練場の反対に立つ黒いつなぎ姿のアグレッサー部隊を見る。
「タフすぎでしょ…」
「今まで連続で何戦した?」
「多分…十一?」
「全員とやり合う気なの?」
サードリコリスは十人単位で訓練をしており、相手は最大六人である。
最少で二人であり、全ての試合において状況が違うので前の訓練を参考にできないようになっていた。
「ギャアッ?!」
額に吸盤型の弓矢を喰らってセカンドリコリスが後ろに倒れて死亡判定を受ける。
「クロスボウ?!」
「くそっ、音が聞こえない…!!」
暗闇の状況下、サード達は指揮官を倒されて驚愕していると
「っ!後ろ!!」
ッーーー!!
後ろから回り込まれて、持っていた
「状況終了…ってね」
面を被った浅美はその手に
「怪我は無いかい?」
照明が付き、死亡判定を受けたサードリコリス達の近くでは全員が消音器付きVz.65を持って居た。
「よっと」キュポッ
「いってててて…」
指揮官のセカンドリコリスの額にくっついた矢を外すと、綺麗に円形に赤くなった肌を見た。
「ぶふっ」
「何笑ってんだよ!!」
思わず吹き出してしまうとそのセカンドは反論したが、その顔を見た他のサードも肩を少し震わせていた。
その様子を見ていた楠木達。
「訓練は順調なようですね」
映像では双方勝ったり負けたりを繰り返している状況だった。
「結果を見ますと、部隊の能力はファーストに及ばないと言ったところでしょうか?」
「…それだけ良いアグレッサー部隊と言うわけだ」
楠木はそう言い、これから会議を行うために椅子から立ち上がった。
「ふぃ〜」
軽く手で仰いでベンチに腰をかける浅美達。
「次の試合は一時間休憩した後にやりますよ」
「「「「りょーかーい」」」」
三条は時計を確認して伝えると、周囲に居たリコリス達はそれを聞いてドン引きしていた。
「冗談だろ?」
「もう六連戦しているのよ?」
「今日だけで十二戦しているぞ…」
「朝っぱらからやっているのよ…?!」
六回訓練をやって、一時間休憩。そしてそれをもうワンセットこなして、恐ろしいルーティンで訓練を回している今回のアグレッサー部隊。楠木から為になると言われ、実力もサードやセカンドで組んだチームで五分五分といった具合だった。
ただ耐久力は桁違いだった。
「ん?」
その時、休憩していた浅美は視線の先に見知った人物達がいるのが見えた。
「あら、千束とフキじゃん」
両者ともに赤いファーストの制服を着ており、それを見た浅美は意気揚々と銃を持ったまま跡を追っかけ始めた。
「全く…」
そんな彼女に三条はや呆れながら浅美の後を追いかけた。
そして二人が向かったのは同じ訓練棟の射撃場であった。
その射撃場ではたきなともう一人の剃り上げた髪をしている別のセカンドが何やら言い合っていた。
「まぁ安心してくださいよ。先輩が抜けた穴は後任の私がしっかり埋めますから」
「後任?」
たきなに話しかけているセカンドは図に乗るようにたきなに言った。
「あれ?聞いてなかったっすか?自分がこれからフキさんのパートナーを務めるっす。あんたの席はもう無いっすよ」
鼻につく言い方でたきなを挑発する彼女に話を聞いていた千束が彼女の首根っこを掴んだ。
「ちょっと、黙れ小僧」
「あんた誰っすか?」
「そいつが千束だ」
そう言い声のした方に、フキ達がいた。
「フキ先輩。おっ、司令まで。…っと、あれ?アグレッサーの人じゃ無いっすか」
フキに楠木と秘書官。その一歩後ろにペイント弾塗れの浅美と三条の二人。
「おぉ、これが電波塔の…」
「これって言うな!!」
「いや、只のアホだ」
「アホっちゅうか、自由人」
「きぃぃ〜、揃ってアンタら!」
知り合い二人に言われ千束も反論できなかった。
ちなみにフキ達は仮面をつけている浅美達を声で判別していた。
「司令!私は銃取引の新情報となる写真を獲得し、提出しました。この成果ではまだDAに復帰出来ませんか?」
そんな時、たきなは楠木に近づいて聞く。
「復帰…?」
その言葉に楠木は当然のように首を傾げた。
「成果を上げれば私はDAに…」
「そんな事を言った覚えは無い」
たきなを前にそうきっぱり割り切って言い放った。
そして言われたたきなは絶望に満ちた顔をしていた。
「(悪いけど、私たちの噂と同じで、君のDA復帰も幻影に近いんだよ)」
DAに戻りたいと願うたきなの気持ちも分からなくは無い。基本的に全てのリコリスはDAの寮に住むことが目標であり、夢である。
ただ、ラジアータに通信障害が怒った事は事実であり、日本全国全てのインフラに対し、優先的に操作ができる権限を持つ中央ネットワークが何者かに侵入されたとなれば、超法規的権限を日本の治安維持組織から認められているDAにとって死活問題となる。
今後、満足に組織を動かすとなれば、たきなは独断行為を行ったとして処分し、生贄に捧げられたのだ。まだ処刑されないだけマシだったかもしれない。
「そんなにDAに復帰したいものなのでしょうか?」ヒソッ
「アンタも染まったねぇ〜」ヒソッ
三条も実を言うとたきなと同じ京都から選抜されたリコリスだ。
ただ選抜された直後に海外に向かい、担当は北米アメリカであったが…。
「諦めろって言われてんのまだ分からないんすかぁ?」
「おい!!」
煽るセカンド。確か名前は乙女サクラだったかな?よぅやるよ、後でぶっ飛ばされな言うように注意しなはれや。
「おーこっわ。流石は電波塔のヒーロー様。噂通り迫力ありますねぇ」
「サクラ、コイツら訓練の時間だ。行くぞ」
そう言いフキが浅美達を親指でさしながら行こうとした時、彼女の腕をたきなは反射的に掴んでいた。
「んだよ?」
「すみません…」
それに気づいて手を離すと、フキはそんな未練がましくしていたたきなに言い放った。
「理解してないなら言葉にしてやる。お前はもうDAには必要無いんだよ」
「やめろフキ!!」
それに思わず彼女の胸ぐらを掴んだ千束。
「まだ理解出来ないか?なら今から模擬戦でブチのめして分からせてやるよ」
しかしフキは止まらず言い放すと、売り言葉に買い言葉の勢いで千束は言う。
「おーおーおー、いいじゃん。たきな、やろう!!」
「…」
千束は聞くも、たきなは答えなかった。
秘書官は彼女らの行動に慌てて静止させようとするが、楠木はそれを黙って見ていた。
「あれ?ビビってんすか?」
「ビビってるダァ?うちのスーパールーキー舐めんな?」
そう言い、千束がたきなの肩を叩こうとした時、彼女はそのまま逃げるように走って射撃場を去った。
「あははははは!!逃げやがったよ!!」
「たきな!!」
「お前も逃げんのかー?」
そういいサクラは逃げたきなを追いかけた千束に言うと、その横で浅美はフキに話しかけた。
「相変わらず愛情表現下手ねアンタ」
「あ”っ?」
Do you want a happy end?
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Yes
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No