その後、千束達で急遽模擬戦が組まれる事になり。浅美達の休憩時間は伸びることになった。
「なんかエライ事になりましたね〜」
「模擬戦ですか…」
「それもファースト同士の…」
先ほどまで自分たちが使っていた訓練場で立つ二組…あれ?
「あら、たきなちゃんは?」
そこではフキ・サクラペアに対し、千束・たきなペアは一人しかおらず。しかもその二人は何やら言い争っていた。どうせくだらない事で言い争っているに違いない。
昔ならあの時に両成敗で拳骨を落としていたのだが、今はできなかった。
「成長しているといいけど…」
「あれ隊長?」
「何処に行くんです?」
訓練場から離れる浅美に草生津達は聞くと、彼女は軽く手を振りながら言った。
「ちょっと散歩してくるわ〜」
そう言うと他のリコリス達が集まる中、彼女は一人その場を後にしていた。
そしてキルハウスブースと呼ばれる室内戦に特化した訓練場で模擬戦が始まり、その様子を一人のセカンドが不安げに見ていた。
彼女は蛇ノ目エリカ、たきなが移動となったあの事件で人質となっていたリコリスであった。
「お〜、いたいた」
「…」
DAの寮に設置されている噴水は、リコリスにとっては憩いの場でもあり。リコリス達の心の支えともなっている、礼拝堂のような存在である。
そんな噴水の横のベンチで静かに座り込んでいた一人のセカンド、井上たきなを見つけた。
「隣失礼」
ベンチに座り、たきなは座った浅美に聞いた。
「どうして貴方がここにいるんですか」
「バイト」
両手を後ろに置き、少し上を見上げる浅美は付けていた仮面を取る。
「もう模擬戦始まっちゃったよ?」
「…」
静かに話しかけるが、たきなは答えない。
思い悩んでいる彼女にこんなことをするのも不粋と思いつつ、浅美は話しかける。
「千束になんて言われた?」
「…今は次に進む時。と…」
「なるほどね〜」
浅美はそこで今までの経験から彼女に何を言ったのかすぐに理解できた。
「ねぇ、たきなちゃん」
「何でしょう?」
「君が撃った後、どう言う気持ちだった?」
「…」
聞かれ、たきなは沈黙する。
「君は一人の命を救い、あの事件現場では一人も味方に死者を出さなかった」
「…」
「それはとても褒めたいよ」
彼女はそう言うと、その後少し視線を下げて言う。
「私には、できなかったから…」
「…」
彼女は言うと、たきなはその意味をすぐに理解した。
海外での任務中と言うものは非常に危険だ。その間、多くのリコリスが死亡したと言う事だ。
「撃った事、後悔している?」
「…いえ」
たきなはそう答えると、浅美は微笑んだ。
「なら、君は立派だ。ただ少し視野が狭いだけでね」
「…一言余計ですよ」
「ふふっ、ごめんね。こう言う性格だからさ」
少し笑って浅美は言うと、たきなは天井から差し込む光を見上げる。
「…」
そして徐に立ち上がると、彼女は浅美を見た。
「行ってきます」
「…うん、一発決めて来い」
「はい」
浅美は微笑んで返すと、彼女は走って消えていった。
「闇雲に撃っても奴には当たらない」
「射撃には自信あるっす!!」
「だから余計にダメなんだよ!!」
その頃、訓練場では千束とフキ・サクラペアは拮抗していた。
通路の角に隠れて好奇を伺っていると、
「忘れ物ですよ〜」
と言って銃が転がってきた。
「舐めやがって!!」
「よせ、サクラ!!」
静止させるが、彼女は頭に血が登って銃を無茶苦茶に発砲した。
「なっ?!」
しかし発砲した銃弾は紙一重とも言うべき動きで千束には一発も当たらず。
そして彼女は銃弾が抜かれていると言う事実を忘れ、装弾数と発砲回数が合わないことに困惑した隙を突かれた。
ペイント弾が撃ち込まれ、最初のうちに見逃されたのを含めれば三回死んでいた。
そしてペアをやられたが、千束が後ろを向けた隙にフキは照準を合わせて発砲しようとした。
が、
「うぉぉおおっ!!」
彼女の後ろから叫び子が聞こえ、それにフキは驚いて後ろを見ると。そこでは拳を握ったたきながゴーグルをつけて突っ込んできた。
そしてそのままの勢いでフキの頬を殴ってから一回転した。
その時、フキとたきなはほぼ同時に銃口を向けたが、お互いの間に千束が入っていた。
「(この…デカ尻がぁ…!!)」
反対にたきなは千束と目線が合うと、二人はアイコンタクトを行って直後にたきなが撃ち、得意の弾除けで脇下を通過したペイント弾はそのままフキに命中した。
「クソッ…」
そしてそのまま畳み掛けてたきなは発砲すると、フキに複数ペイント弾が命中した。
「おー…」
その様子を見ていた千束はたきなを見てにこりと笑った。
「やるじゃん」
その後、模擬戦を終えてやられたフキ・サクラペアは洗面台で顔を洗っていた。
「すいませんでした…自分の射撃が甘いばかりに」
「寧ろ避けやすかったんだよ。お前の射撃正確だからな」
「え?あいつ弾避けてんすか?そういうの舞台とか小説だけっすよね!?」
サクラは驚いていると、フキは軽く歯軋りさせる。
「そう言うところがムカつくんだよ…っ!!」
直後、彼女はトイレのドアを叩きつけた。
「次はぜってぇ負けねぇ!!」
「あ〜、ちょっと待ってくださいよ〜」
サクラは彼女を追いかけた。
「改めて見るとすごいですね」
「だろう?」
その頃、ベンチに座った椿小隊は先ほどの模擬戦にそう答えた。
「何で避けられるんですか?」
「簡単さ、相手の筋肉の動きをみて銃弾が飛んでくる場所を予測するの。んで撃ってくる瞬間を予測して避ける」
「恐ろしい動体視力ですね…」
そう言うと浅美は手で銃の形を作って前で立つ草生津の眉間に向ける。
「この距離で彼女を撃っても当たらないよ」
「…マジっすか」
「実際やって見たからね。…ただまぁ、」
浅美は腕を下ろすと少し笑みを見せた。
「それ以外はただのクソガキだよ」
そう言うと、遠くに右頬に湿布を貼ったフキがズカズカと現れた。
「よぅ」
「あっ?なんだ」
話しかけるとカリカリした表情で浅美を見た彼女に浅美は油をぶっかけた。
「派手にやられたねぇ〜」
「っ…!!」
今にも殴って来そうではあったが、それを軽く流す。するとフキはそんな彼女に聞いた。
「大体、何でお前がこっちにいるんだよ」
「バイト〜…って、言いたいんだけど」
そこで彼女は楠木から受け取ったあの紙を取り出す。
「うちら一時的にリコリスになる事になったから、そのご挨拶」
「何っ…?!」
その意味にフキは目を少し見開いて驚いていた。
その後も多くの訓練を終え、相変わらずのドン引きスパンで訓練相手をこなした浅美達は良い顔で休憩する。
「おい」
「ん?」
紙パックのリンゴジュースを吸い上げていた浅美にフキが一人で話しかける。
「手、抜いているな?」
「…はて?」
インク塗れのつなぎ服は、新品が真っ黒だったとは思えないほどカラフルになっていた。
それほどの訓練を永遠と続けており、今日だけで既に二四戦はやっていた。
「海外で九年もやって来てあの実力か?弱すぎんだろ」
そう言って鼻で笑うと、彼女は浅美の横に座る。
「良い訓練は、良い相手からってね」
「…相変わらず気にくわねぇな」
軽くウインクした彼女にフキは毒吐く。
すると浅美は飲みかけのリンゴジュースを机の上に置いた。
「私はね、あんた達に憧れてたのよ」
「何だいきなり、気持ち悪りぃ」
フキはそう言うと、浅美も少し笑った後に続ける。
「ふふっ、でも本当よ?ゴキブリさん」
「この野郎…」
フキに付けられたあだ名にガッとなって睨んだ。
「私には、千束のようなずば抜けた動体視力や、貴方みたいなすばしっこさは無かった…」
「…だが、お前のサポートはいつも完璧だ」
フキはフォローするように浅美に言うも、彼女は少し光のない目で溢す。
「十年前もそうだった…」
そう言って思い出すのは旧電波塔事件の時。
あの時、早くもファーストの赤い制服に袖を通していた千束をセカンドだった自分が援護しながら主戦場に向かわせた。
「思うと、あいつとお前がペアを組んだのが最初で最後だったか」
「そうね、あの後すぐに椿小隊が結成されたから…」
旧電波塔事件以降、武器や犯罪に使われる物品を根本から締め上げるために組織されたのが椿小隊だ。
ただ海外に出てからと言うもの、その任務の種類は武器輸入の締め上げのみならず、多岐に渡る事になった。
「お前さんはどこにいたんだ?」
「私はヨーロッパの後に東アジア配属だったわ」
「広いな…」
そのままゆっくりと二人は話す。
「でもそのあとは転々といろんな国を回った」
「…どんな事して来たんだ?」
「秘密」
「機密扱いか…」
フキは彼女が消えた椿小隊の事は名前以外ほぼ知らなかった。
ただファーストの権限で、普段から噂に聞いている事は嘘であると言う事は把握していた。
「あの様子じゃあ、楠木司令はお前達に指示を出していないんだろう?」
「おっ、鋭いねぇ君〜」
ここはまま人が通る場所、監視カメラはあるが何を話しているかは分からない。
故にフキは切り込んだことを聞いていた。
「仮面はつけっぱなのか?」
「いやぁ、明日には外すよ」
彼女はそう言い机に顔を置いた。
「機関銃を持ち込みやがって…」
「あら、うちらじゃスタンダードなの」
「海外のノリを日本に持ち込みやがって…」
ちなみにフキ達のチームは最後に訓練を行なっており、さすがのファースト。椿小隊はフルボッコにされていた。
「それ以外は消音器付きの短機関銃と拳銃装備か…」
「あとクロスボウね」
「居たな…銃声がないから暗闇では厄介だな」
鋼鉄の矢は容易にヘルメットや人体を貫通する。
おまけに三条は毒物の使い手であるので、そこに毒物を仕込んでおけば相手を確実に仕留めることができた。
「帰って来たのはお前達だけなのか…」
「そうね、でも違うとも言える」
「?」
フキは首を傾げると、彼女は言った。
「ちゃんと私が全員連れ帰って来ているから」
「…そうか」
フキはそれに納得した表情を見せると、そのまま立ち上がる。
「お前の噂は聞いてるぜ。『介錯人』」
「…そりゃどうも」
浅美は出ていくフキを少し笑って見送ると、去り際に一言。
「リコリスへようこそ」
彼女はそう言うと、少々不敵な顔で浅美を見ていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No