介錯人。
私をそのように言い出したのは誰だったか。
海外で活動していた時、その場所的な理由で私達椿小隊は満足な補給もできずに破壊工作活動を行なっていた。
その時、敵の攻撃で急所に当たったものの、死にきれずにただ悲鳴を上げていた先輩がいた。
満足な治療ができず、何日も悲鳴を上げて苦しんでいたその先輩はそのまま苦しんだまま死んだ。
無念だっただろう、苦しかっただろう。
だから、私は殺してくれと頼んできた頭の半分が砲撃で消えてしまった仲間に持っていたで撃った。
その後は止血できたが、まともに考えることも出来なくなっていた。
作戦を行うたびに誰かが死に、補給もままならない状態で次の任務に駆り出される。
海外という慣れない場所で隠密行動をさせようとして来たDA上層部は椿小隊に配属させたリコリス達を全て管理しようとしてすり潰して来た。
「どうか、あなたに安らかな眠りを」
撃った薬莢に名前と死んだ人、時間を掘って私はその人の命日を忘れない様にしていた。
同じ釜の飯を食べた仲間、たとえ世界が知らずとも私は覚えていられる様に。
「どうか、あなたに安らかな眠りを」
そして先日もまた私は、その引き金を弾いていた。
「ーー以上だ」
「はっ」
執務室で浅美は漆黒の制服を身に纏い、答える。
「先の作戦後、リコリスの一人に銃を向けた罪は。本来であれば重罪だ」
楠木はそう言いあの時作戦に参加していたサード達からの嘆願書を読みながら言う。
「だが当時の状況や、複数の嘆願書が届いていることからお前には三日の謹慎を言い渡す」
「はっ」
あの地下鉄での事故で一人のサードリコリスが死亡した。
その事で楠木は浅美に処分を下していた。
「その間、副隊長の速水キブシに指揮官を移譲しろ」
「はっ」
その当時の状況を事細かく記し、彼女の行動の正当性を書き連ねた嘆願書を楠木は読んで最後に彼女に言った。
「ここは法治国家日本だ。海外任務でお前が行ってきた行為は、ここでは規則違反に抵触する事を忘れるな」
「はい、ご迷惑をお掛けしました」
そう言うと彼女は頭に包帯とガーゼを巻いて180度体を回して部屋を出ていく。
そして部屋を出た後、秘書官は口にする。
「介錯人…ですか」
「そうだ、彼女は海外任務で死にきれなかった仲間を撃ってきた。故に付けられた名前だ」
介錯人と渾名された理由を淡々と連ねると、楠木は頬杖をついて溢した。
「あまり、海外の調子を持ち込まないで欲しいものだな」
浅美の去り際、楠木は彼女の肩に無数の影が見えた気がした。
「ねぇ、嘘でしょ?」
廊下を歩いていると、そんなヒソヒソと話す声が聞こえる。
「倒れたサードを撃ったって…」
彼女達はリコリスの中でも異質な漆黒の喪服の様な制服に袖を通している浅美を見て言う。
「死に掛けた子だったらしいけど…」
「ちょっとあり得ないよね」
「普通撃たないよ」
「ねぇ、あの人。海外で死んだリコリスの骨を持っているとか言う噂だけど?」
彼女の常識はずれな行動にリコリス達の間でも物議を醸していた。
「やったな…浅美」
「…」
「いや、今は紫雲イナグか」
廊下の壁に背を預けて彼女を待っていたフキは話しかける。
「ちょっと付き合え」
「…あら、デートのお誘いは勘弁よ」
「阿呆か」
そう言うと二人は休憩所に入り、そこのベンチで座り込んだ。
「ほらよ」
「どうも」
浅美の好みのメロンソーダの缶を渡しながらフキは浅美を見て、その後に背中合わせで座ると単刀直入に聞いた。
「どうして撃った?」
「彼女がそう求めてきたのよ」
フキは彼女の言う事を疑わなかった。
「…状態は?」
「下半身切断。出血多量による失血死寸前だった」
「そうか…」
フキは彼女が海外でどの様な仕事をしていたかは知らないが、彼女がしてきた行為はファーストの権限を使って知っていた。
「死者一、重軽傷者五…あれほどの被害でこの被害なのは、お前のおかげだ」
「慰めのつもりかい?」
「いや、純粋な感謝だ。お陰でリコリスの損害が減ったことへのな」
「…」
缶を傾け、口の中で炭酸が弾ける感覚を味わいながら浅美はポケットに入った一つの薬莢を取り出す。
「それか」
「えぇ…」
ライフル弾の薬莢には嵐木ヤナギの名前と、彼女が死亡した日時が彫られていた。
「器用だな…」
「器用貧乏なのが私だ」
「はっ、変わらねぇな。そう言う所は」
言うと浅美は一旦大きく息を吐いた。
「また私の部下が死んだ…」
「死んだのは命令を下したDAだ。それにリコリスはDAに殉じる事こそ使命だ。忘れたか?」
「…」
フキは浅美にそう答えると、背中合わせに座った二人。
「…笑ってたわ。あの子」
「そうか…」
薬莢を手に取りながら浅美は言う。
「取り敢えず、三日の謹慎で終わったわ」
「味方を撃ってそれだけなら、お前の行動の正当性が認められたって事だ」
「本当にそう思う?」
「私に聞くなよ…」
フキは少し苦笑すると、浅美は空になった缶をゴミ箱に放り投げて立ち上がった。
「浅美」
そして休憩室から出てくる時、フキは言った。
「呑まれるなよ」
「…」
彼女は答える事なく休憩室を出て行った。
喫茶リコリコではカウンターでミカが団子を作ると、店の入り方の扉が開いた。
「いらっしゃい」
入って来たのは頭に包帯を巻いた私服姿の浅美だった。
彼女は昨日にリコリス復帰が初めての仕事があったと聞いていた。おそらくその時に出来たのだろう。
「あら、浅美ちゃんどうしたの頭?」
「あぁ、ちょっと怪我をしてしまいまして」
「大丈夫なのかい!?」
「えぇ、傷は直ぐに消えるくらいですよ」
そんな彼女に常連達は心配げな眼差しを見せた。
「取り敢えず、ウインナーコーヒーを一杯」
「了解」
注文を受け、ミカはコーヒーを挽き始めてその間浅美はカウンターに座ってホッと息を吐く。
「どうしたらそんな包帯巻くのよ」
「いやー、バイト先で少し事故ってしまって…」
「危ないバイトでもしてたの?」
「いやぁ、ただの建設のバイトですよ」
適当に嘘を並べながら浅美は天井を見上げると、伊藤が聞いた。
「大丈夫?なんか、いつもに増して生気がないわよ」
「酷い言い方ですね〜、そんな死んだ様に見えます?」
そんな事を言いながらコーヒーが出てくるのを待っていると、
「はい、おまちどう」
ミカの淹れてくれたコーヒーが出てくる。
相変わらず美味しい味わいだが、今日ばかりは味が鈍く感じた。
「…あー、ダメですね。今日は疲れているのかな〜」
「少し長めに休憩すると良い。見るからに疲れているぞ」
「そーですねー」
浅美はそう言うと、ミカに聞いた。
「あれー?千束ちゃんは?」
「そろそろ帰ってくるはずだ」
そう言うと、店に騒音が響いた。
「ただいま帰りました」
「たーだいまーっ!!」
赤と紺のリコリスの制服を着た二人は陽気な声で突撃してくると、相変わらずだと常連達は話しかけた。
「相変わらずだね〜千束」
浅美はそう言うと、千束はカウンターで包帯を巻いていた彼女に一瞬驚きながらも普通に話しかけた。
「お?浅美、来てんじゃん!」
「どうしたんですか…!?」
包帯を頭に巻いてガーゼをしていた浅美にたきなはやや驚く。
「バ先で事故った」
彼女は端的に答えると、カップを傾けた。
「お陰で三日間出てくんなって」
「むしろその傷で三日とか正気っすか?」
千束はその意味を理解して、そう言いながらカウンターに入って奥に入る。
「何すんの?」
「ゴミ捨て」
そう言うと彼女は意気揚々と更衣室に繋がる部屋に行くと、その後たきなを見た。
「それで、下着選びはどうなった?」
「え?」
「色々回ったって聞いたよ〜」
浅美はそう話しかけると、彼女は少し困った表情を浮かべていた。
「何というか…本当に色々と巡りました」
そう言い彼女は下着の他に私服屋やカフェ、水族館を巡ったと言った。
「良いな〜、水族館か〜」
「それよりも私はあなたの傷が不安です」
「あら気遣ってくれるの?」
浅美はそう言うと直後、
「キャーーーーッ!!ハレンチィーーーッ!!!」
「っ!?」
店内にミズキの甲高い奇声が響いた。それに驚いて思わずカップを落としかける。
「…何があった?」
浅美は声のした方を見ると、
「コイツ、男物のパンツ履いてんのよ!」
「は?」
ミズキが千束を締めながら出て来て言い放つ。
「白状なさいっ!アンタ、オトコんところに泊まって来たな!越えてはいけない一線を超えたわね!私への当て付けか!」
「えっ、あっ、や、違う違う違う違う!」
千束は技を決められていると、ミズキは恨みを晴らす様に凄い形相で千束を見る。
「ガキの癖に不潔よ不潔ーーー!」
「だーっ違うって!!あっ、たきなの!たきなのだからぁ!」
彼女は言うとミズキはキラリと眼鏡を光らせてすかさずたきなに近づいて、彼女のスカートを巡った。
「…可愛いじゃねぇか」
「え?まじっ?」
それに思わず浅美も見ると、確かに女子らしい下着を履いていた。
「あらほんと。可愛い…」
いとも堂々としたセクハラ行為であるが、店の奥に居たので問題なし。
「いやだ〜か〜ら〜それを昨日買ったの!」
段々と顔が赤くなりながら二人に下着を見られたたきなは俯く。
「嘘つけぇい!いくらたきなでもトランクスを履くかい!!」
「いたセンセの指示で…」
「え?おっさんの?!それって…」
「えーい!ややこしい!!」
千束は弁明を図るが、ミズキは容赦無く言う。
「皆さーーん!このお店に裏切り者の嘘吐き野郎が居ますわよーー!?」
「離せぇ!!」
羞恥に曝される千束はミズキによって羽交締めにされ、クルミは調子に乗って扇風機を取り出して彼女の前に置くと、風に煽られて千束はたきなの履いていたトランクスを仰ぎ見られる。
「ほれ、お前らも」
そしてたきなと浅美にクルミは団扇を渡し、たきなは困惑していると浅美はこれでもかと仰ぎ始める。
あぁ、やっぱり千束は昔から面白い子だよ。ここにいるだけで何かと話題を呼ぶ。
羨ましいよ、君の才能含めて全てが。
「ほーれほれほれほれ」
「ぎぃぃぃやぁぁぁあっ!!もう殺してぇぇえええっ!!」
羽交締めにされたトランクスに目覚めていた千束は悲鳴を上げると、
「ふふっ…はははははははははっ!」
たきなは吹き出して笑い出した。
その顔がとても良いものであり、憑き物が取れたような顔をしていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No