ふと、思い出す。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!
支給されたグロック21を両手にもってリアサイトを合わせて発砲する一人のベージュの制服を着た一人のサードリコリス。
「うほ〜、君。すごい腕前だね〜」
「っ!?」
射撃場の端で一人射撃練習をしていたら、いきなり声をかけられた。
「君、名前は?」
「えっ、えっと…貴方は」
赤色のファーストリコリスの制服。自分と同じくらいの年齢でその制服を着ているのは一人しか居なかった。
「私?錦木千束!」
「…」
「君の名前は?」
「えっと…山…じゃなくて。紫雲、イナグ…です」
その時、私はこの制服に袖を通した時にもらった名前を言うと、彼女は少し嬉しそうにしていた。
「すごいね、君。もうサードの制服なんだ」
「…そんな、ファーストの貴方に言われても…」
嫌みにも消えたが、彼女から悪意は感じられなかった。
「宜しくイナグ!」
「よ、宜しく…お願い、します」
「もう、固いな〜イグナ」
そう言いながら彼女は私の手を握った。
そしてその後、コンビを組んで早くからリコリスで活躍していた時、私たちはあの事件に遭遇した。
「千束?」
扉の前で私は彼女に話しかけると、彼女はいつも通りにその手にデトニクス コンバットマスターを握って、教官に作ってもらったばかりの赤い弾頭の特殊弾を装填していた。
「大丈夫?」
足元には数名の大柄な男達が倒れており、血を流したりしていた。
「うん、イグナは?」
「私も、大丈夫」
グロックを握り、新しい弾倉を装填する。
「じゃあ、援護頼んだよ」
「うん、気をつけて」
この歳で紺色のセカンドに袖を通し、最強のコンビと周囲からは持て囃されていた。
少々それが煩かったが、千束の明るさがそれを相殺してくれていた。
「っ!!」
千束が扉を蹴破り、そこからすかさず私は銃の引き金を弾く。
そして飛び出した千束の援護をするように射撃を加えていた。
「次の貴様の配属先だ」
楠木司令から下命された命令書を読み、新しい部隊の名前を呟く。
「椿小隊?」
「そうだ、来月から海外を拠点に活動する事になる」
「それって…」
察しの良かった私に司令は頷いた。
「そうだ、お前はリコリスの権限を失うことになる」
司令はそう言うと、千束に別れを告げるように言った。
当然、この命令に千束やフキは文句を溢していたが、私がそれを宥めた。
「イナグは強い。だから約束して」
涙まじりに千束は私に抱きついた。
「私じゃない、他のリコリス達をできるだけ守って」
「守る…?」
彼女はそう言うと、私は少し首を傾げた。
「そう、私たちを援護していた時みたいに。みんな守るの」
「…分かった」
「約束だよ?」
その後、二人で指切りをして私は黒いリコリスの制服を袖に通す。
「ねぇねぇ」
「ん?」
出発直前、千束は聞いた。
「イグナって、名前変わっちゃうんでしょう?」
「え?うん、そうだね」
新しい部隊はリコリスではないので、私は名前を変える必要があった。それを千束は聞いたのだろう。
「どんな名前になるの?」
「えっと…」
その時、一瞬だけ私は言うのを憚ってしまう。まさかの名前をもう一度名乗ることになるとは思ってもいなかったからだ。
だが、どんな名前なのかワクワクしている彼女を前に私はその名前に罪悪感を覚えながら口にした。
「山田、浅美」
「あさみ?どう言う漢字」
「こ、こう…」
そう言い私はベッドのシーツの上でなぞると、千束はそれを真似して覚えた。
「分かった!これから浅美って呼べばいいね?」
「うっ、うん…」
彼女から言われ、私はさらに罪悪感を覚えてしまった。本当は捨てたかったのだが…。
「第二分隊!?第二分隊!!…くそっ」
無線で叫ぶ先輩、私たちの部隊長。
「他の部隊とも連絡がつきません!」
「ちっ…撤退するわよ!」
そう言い燃え盛っている工場から私たちは無線の繋がらない仲間を置き去りにして撤退する。
「あぁぁっ…」
「痛い、痛いぃぃいいいっ!!」
身体中に血のついた包帯を巻きつけて横になったり、座り込むみんな。
「くそっ!」
先輩、一昨日分隊長になった先輩がセーフハウスの壁に殴りつけて嘆く。
「今日何人死んだ?」
「四人」
片手に敵から奪ったコルトM4を握って二人の小隊の仲間が言う。
「もう一人増えるわよ」
医療担当の先輩が言うと、さっきまで日本に帰りたいと掠れた声で言っていた先輩が何も言わなくなった。
「私達、いつまでこんな事を続けるんだろう」
「さぁ?」
そしてあまり美味しくないレーションを取りながら横に座っていた一人が呟く。
日本のDA本部で出ていた料理がとても美味しいんだって、私はつくづく感じる。
千束と約束した、みんなを守ると言う約束は早々に守れず。私の隊長をしていた先輩が、最初の任務で死亡した。
「…」
広大なアフリカの酷く匂うビルで私は、ボロボロになった黒いリコリスの制服を脱いでボロボロの普通のシャツを着た。
そして作戦があるたびにバタバタと死んでいく椿小隊のメンバー達。
毎週のように部隊再編が行われ、新しい子がやって来ては死亡していく。
「日本に…帰り、たい…」
「大丈夫、私が必ず返してあげます」
包帯を身体中に巻いてベッドで横になる一人の後輩の手を握って言う。
チベットの武装勢力との戦闘に巻き込まれてこの子は片足を失った。
「ありがとう…山田、隊…長…」
するとその子は涙を流しながら力を失って私の握った手から滑り落ちた。
「お疲れ様でした」
その後、その子から小指を切って、骨だけにして丁寧に包んで、容器代わりの名前と日時を掘った薬莢に入れて、その子の体は山の中に埋めた。
色が変わった土の前で手を合わせて他のみんなも手を合わせる。
「これで残ったのは私達だけですか」
みんなで合掌をして、私の後ろに立っていた草生津が言う。
途中、私がエジプトにいた時に前にいた小隊が壊滅したことで一緒になった子だ。
「そうだね…」
私は立ち上がると、生き残った他の五人を見る。
「あぁ〜、良い子だったのになぁ…」
「良い子から死んでいくんだよ」
柊に小塚原が言うと、私達は山を降り始める。
「足元に気をつけて」
「は〜い」
三条と納谷はそう言い、下の道路に止まっている四駆を見る。
「じゃあ、次の仕事に行きますか」
常に死が横で寝ていて、毎度の作戦で大量に死者を出していた私達に仲間の死を悼む暇なんてなかった。
上層部には忘れられた存在となり、命令書も届く度に雑になっている。
椿が咲く首の無い骸骨の兵士の部隊章を取り付け、コンバットスーツに身を包んで多様な武器を持って車に乗り込む。
私達は椿小隊。
リコリスにしてリコリスに非ず。
人にして人に非ず。
「…んぁ」
そこで浅美はゆっくりと目を開けて、視界に明るい照明が見えた。
「ここは…?」
見回すと、そこは見た覚えのある景色。
見ると自分は敷布団の上で寝かせられていた。場所は、おそらく喫茶リコリコの裏の休憩室だ。
「…」
何があったと思い返すために頭に手を当てて考えると、
「起きたか。浅美」
「?」
横を見ると、そこでは開いた襖からクルミが作業をしていた。
「全く、いきなり倒れるから苦労したぞ」
「…私は、倒れたのか?」
「そうだ、あの後な」
そこで浅美はゆっくりと思い返すと、だんだんと思い出した。
確か、トランクスを履いた千束に団扇を仰いでひとしきり遊んだ後に座敷に座って漫画家の伊藤の相談に乗った時まで覚えていた。
「伊藤と話をしている途中でいきなり倒れて驚いたんだからな」
「…そうか」
そう知り、浅美は敷布団から出る。
「もう大丈夫なのか?」
「えぇ、最近の勤務で疲労が溜まっていただけよ」
そう言うと、彼女にクルミは言う。
「そんな心臓なのにか?」
「…なんだ、気づいていたの?」
浅美は少し笑ってクルミを見る。
「ミカ達は知っていたらしいがな」
すると彼女は浅美を見る。
「心臓が止まった時は死んだかと思ったぞ。一体どんなトリックだ?」
彼女は聞くと、平気な様子で浅美は言う。
「偶に暴走する発作よ」
「そんな仮死状態が頻繁に続くのが発作だとは思えないがな」
そう言い呆れたようにクルミはパソコンの画面を見る。
「私の能力の一つよ」
「仮死状態の再現と自己蘇生…と言ったところか」
軽く呆れるように彼女はため息を吐く。そりゃそうだ、こんな芸当を真似できる人間は私以外まだ見たことがなかった。
「大丈夫ですか?!」
すると部屋に入ってきたたきなは起きていた浅美に駆け寄って聞いた。
「えぇ、ちょっと立ちくらみしただけよ」
そう言うと、たきなは普通に立っている浅美に少し驚愕していた。
「心配ありがとうね」
「いえ…その…」
着物姿で安堵していた彼女は浅美を見た。
「脈が止まっていたので…死んでしまったのかと」
「はははっ、悪かったわね。言ってなくて」
すると千束が入ってきてピンピンしている浅美を見た。
「お〜、復活したよ」
「えぇ、この通り」
そう言い彼女は平気な様子を見せると、ミズキが入って来た。
「脈が止まった時、店で初めて死者を出したかと冷や汗かいたわよ」
「おや、良かったんですよ?死者」
「アホか!」
浅美の軽口に彼女はそう反論すると、千束は少しムッとした様子で浅美に近づいて言った。
「自殺しちゃダメでしょうが」
「…」
顔を近づけていう千束に浅美は軽くため息をついた。
「悪かったって、冗談だよ冗談」
「冗談でも言っちゃダメだかんな!コンニャロー」
「はいはい、まだ死ぬわけにはいかないから大丈夫だって」
説得力ありすぎるお言葉に浅美は千束を宥めた。
「ウチらが知っていたから良いけど、街中でこれやったらニュース物だからな?」
「分かってるってば」
「全く、たきなが大慌てで葬儀屋に電話しかけたんだから」
「…」
そう言い、浅美はたきなを見ると彼女は少し俯いていた。意外と常識ある子じゃん。
「ねぇ、今すごく失礼なこと考えてない?」
「いやいや、そんな訳」
浅美はそう返すと、時計の時間を見た。
「あぁ、もうこんな時間でしたか」
覚えている時間から四時間ほど経っており、かなり長い時間寝ていたようだった。
「送ってってやろうか?」
「いえ、一人で帰れますよ」
ミカにそう言い簡単に支払いだけ済ませると、彼女は店の入り口のドアに手を当てると、
「浅美」
「なんです?」
「暇なら、ここでバイトをしないか?」
三日間の謹慎を与えられた彼女にミカは聞くと、少し考える仕草をした後に彼女は言った。
「考えておきますよ」
彼女はそう答えると店を後にした。
Do you want a happy end?
-
Yes
-
No