「し、失礼しま〜す…」
噂の場所は喫茶店で、恐る恐る扉を開けて中に入ると、
「いらっしゃい」
黒肌にロングヘアの大柄な男性が流暢な日本語で出迎えると、片手にコーヒーミルを回していた。
「あら?」
紫色の和服を見に纏うその男性に浅美は少々驚きながらカウンターに座った。
店内には数名の客が座敷や窓際のテーブルに座っており、静かなものだった。
「ご注文は?」
「あっ、じゃあこの特性コーヒーを…」
メニューを見て、彼女はコーヒーを注文すると店には畳の座敷やステンドグラスの窓、二階席などがあり、和洋折衷した様な内装であった。
「…」
店内を見回し、浅美はコーヒーミルを回して豆を挽いている。
挽いた豆から香るコーヒーを余興として楽しみながら沸かせた湯使って淹れられる。
「はい、お待ちどう…」
「あぁ、どうも」
その男性から渡されたコーヒーを手に持って傾ける。
「しかし、教官がこんな場所でコーヒーを淹れてくれるとは…」
「久しいな、浅美」
「お久しぶりです。教官」
濃いサングラスにフードを被った私服姿と言う特殊な格好でもすぐに理解してくれた彼に彼女は微笑む。
「君が帰ってきたのは驚きだ」
「楠木司令に呼び出されたんです」
「そうか…」
知らなかったそぶりの彼、皆からミカと呼ばれて慕われていたその人は周りには聞こえ無い程度で浅美と話していた。
「ところで、ここは何なんですか?」
そこで彼女はこの小さな喫茶店を見ながら彼に聞くと、ミカは少し笑って言った。
「お前さんが日本から離れた直後に作ったんだ。一応、DAの支部の扱いだ」
「へぇ〜、これで支部ですか」
セーフハウスの間違いなんじゃないんですか?と問う彼女にミカは少し笑った。
「はははっ、セーフハウスにお客は来ないよ」
「お客…」
外の立て看と言い、この内装と良い、マジでカフェをやっているのかとやや驚く彼女にミカは
「あぁそうだ。ここは本物のカフェで、君はお客だ」
「…」
言われ、浅美は改めて唖然となる。
教官がなぜこんなところでカフェを、しかも一般客が出入りするような場所で平然とDAの支部をしているのか。
色々と聞いてみたいところではあるが、今日は無理だろう。
「ところで、今日は千束に会いに来たのか?」
「えぇ、帰国したので。会いに来ました」
彼女はそう言い、ミカの淹れたコーヒーを一口頂く。ミカはそんな彼女を見て、時計を見た。
「ならもうすぐ…」
その直後、店の扉が勢いよく開いた。
「看板娘の千束!ただいま帰りました〜!!」
耳を劈くような大きな明るい声と共に店の出入り口から一人の少女が入って来た。
「…あり?」
その赤い着物を着た少女はカウンターに座っていた一人のフードを被った客を見て首を傾げた。
「千束、お前にお客だ」
「え?私に?!誰々?!」
ミカが言うと、彼女は目を輝かせて聞いた。
聞かれた彼は目線を下に下げると、少女もそれに釣られて目線を少し下に下げる。
「あり?ドナタでっか?」
千束は見慣れない格好の後ろ姿に首を傾げると、彼女は振り向きながら苦笑する。
「酷いなぁ、千束ちゃん」
「?」
振り向いてフードと眼鏡を取ると、少し考える仕草をとった後にピンと来たのだろう。少し恐る恐る聞いた。
「もしかして…浅美?」
問われて浅美は頷く。すると千束は直後、彼女に抱き付いた。
「久しぶり〜!!」
「おっと、相変わらずお元気だよ。千束ちゃん」
そう言い抱き付いて来た千束に浅美は軽く頭をポンポンと叩いた。
「いつ帰ってきたの?」
「今日の昼ぐらい」
「うわぁ、大きくなったよ〜」
三つ編みで、少しくすんだ茶髪の二房お下げをする彼女に千束は嬉しそうにしていると、店にいた客達がやや驚いた表情をして千束を見た。
「千束ちゃん、その子はお友達だったのかい?」
「そう!海外に行ってたの…えっと…」
千束は思い出そうとして苦労している所を浅美は囁いた。
「九年よ」
「九年間だって!」
「へぇ〜」
フード付きのパーカーを着ている彼女に興味ありげなお客達。
「千束ちゃん、この人たちは?」
「ん?あぁ、うちの常連さん達だよ〜」
千束は説明すると、浅美はほうほうと軽く頷く。
「初めまして。山田浅美と申します。いつも千束がお世話になっている様で」
「おぉ、礼儀正しい子だ」
すぐに状況を把握し、常連達に挨拶をした彼女に常連の一人の米岡が言う。
「千束ちゃんと違って落ち着いている子だな」
「ちょっと!なんて事言うんですか!?」
千束は軽く反論をかますと、そんな彼女に浅美は少し微笑んだ。
「変わらない…ねぇ」
「んふ〜、そう言う浅美もね〜」
千束はにこやかに笑みを浮かべて彼女の手を取って座敷に向かえる。
「さぁさぁ、再開を祝してパフェを奢ろうぞ!」
「ふふっ、ありがとう」
そんな彼女に笑みを見せると、浅美は大きくなっても変わっていない彼女に薄く笑みを見せていた。
「へぇ〜、留学でアメリカに」
「はい、九年間。お願いして色々な国で勉強をさせてもらっていました」
その後、座敷で他のお客達に囲まれながら浅美は次々と質問に答えていく。
「凄いなぁ…」
「あんたも少しは見習ったらどうだい?」
「何だとっ?!」
常連客達は千束の友人と言う浅美に興味深そうに聞く。
「ねぇねぇ、他はどんな国に行ったの?」
千束が聞くと、彼女は言う。
「色々ね〜、まずメキシコでしょ?あとコソボとかイギリスに…あとロシアや中国、アメリカとか…」
「うわぁ〜」
多様な国々を巡って来た彼女に千束は唖然となり、常連客達は感心していた。
「いろんな国を巡って来たのね!」
「素晴らしい探究心だ」
「いやぁ、とても俺じゃあやる気にもなれんよ」
そう言い浅美の留学を感心しながら称賛していると、時計を見た浅美はハッとなった。
「あっ、もうそろそろ帰らないと」
「おや、そうなのかい?」
「えぇ、何せこの後に用事があるものでして…」
失礼すると言い彼女は席を立って代金を支払うと、そのまま店を後にした。
帰り道の途中、浅美は細い舗装された道を歩いていると。
「さっきは息を吐くように嘘を吐いたな?貴様…」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには千束が着物姿で立っていた。
「はて?何の事やら」
浅美は首を傾げながら掌を広げる。
「惚けんじゃないよ。あたしゃ驚いたんだから」
そう言い、過去に忽然と消えた友人を思い返す。
「…ふっ」
「おぅおぅ鼻で笑うなや」
浅美の対応に千束は言うと、彼女に聞いた。
「じゃあなんでパーカーの内ポケットに拳銃を入れているんだね。おぉ?」
言い、内ポケットに沿うように仕込まれていた
「制服着てないのに銃持っちゃダメでしょうに」
「生憎、そう言う環境じゃなかったの」
「椿小隊のお仕事?」
千束が聞くと、浅美は少し笑って答える事なく千束に背を向けて歩き出す。
「偶にはウチに来いよ〜!」
そんな彼女に手を振って見送ると、彼女は手を振り返して去って行った。
その後、浅美は地下鉄に乗って海辺の方に向かう。場所は新木場。
「あっ、隊長帰ってきた」
その倉庫の一角、倉庫の管理部屋で彼女達は帰って来た浅美に声をかける。
部屋にいる面々は全員私服姿であり、あの黒い制服は脱ぎ捨てていた。
「お帰り〜」
管理部屋を相部屋で六人で使うその状況に浅美は溢す。
「やれやれ、相変わらずの扱いですなぁ」
「まぁ、慣れっこでしょう」
危機管理の分散という面ではこの状況は極めて芳しく無いのだが、生憎とDAは自分達をリコリスと
「上に掛け合いますか?」
三条が聞くと、浅美は首を横に振りながら鼻で笑った。
「無理に決まっているでしょう」
そう言い彼女は楠木から受け取った封筒を取り出す。
「あっ、新しい指令ですか?」
それを見て漫画雑誌を読んでいた草生津がソファから起き上がると、浅美は頷く。
そしてその命令書の封を切って中を見ると、そこには日本に仕入れられた銃器の追跡を行う様命令が下されていた。
「うわぁ…」
「サード達と組むって事ですか?」
「いや、その様には書かれていない」
命令書には約千丁の銃火器が持ち込まれたとタレコミがあったそうで、最後の一文には一言。
『君たちの職務を全うしてくれたまえ』
と印刷されていた。
「散々汚れ仕事をしてこの仕打ちとはねぇ…」
「うちらが生き残っている時点で十分じゃ無いんですかね?」
そう言い納谷は軽く笑うと、浅美は部屋を見回して一人足りないことに気づく。
「あれ、アオイは?」
「あぁ、アオイなら多分下の武器庫だと思いますよ」
「そう…」
小塚原に浅美は頷くと、彼女はそのまま部屋を出る。
「…」
薄暗い階段を一階分降りると、そこでは大量の武器の入ったプラスチックの箱や弾薬箱を見る。
「アオイ〜」
「っ?!」
部屋の奥でハンダゴテを使って何か作っている様子の一人の少女は、浅美の声に驚くとハンダゴテを作業台に置いて振り返った。
「どうしましたか?隊長」
作業台で仕事をしていた少女、柊アオイは浅美がここに来た用件を聞く。
「新しい指令を上に貼ったから、後で見ておいて」
「あぁ、そういう事ですか」
用件を聞いた彼女は短く頷いた後に再び作業台に視線を戻すと、そこで彼女が作っていたものを見て浅美は呆れた。
「また携帯型クレイモアかいな」
「これが一番使っているじゃ無いですか」
カバー付き携帯程の分厚さに爆薬と散弾と同じ鉄球を一面に敷き詰めた小型のクレイモア地雷である。
自分達が暗殺などでよく用いた手法であり、電源ボタンを一回押すだけで爆発する仕様である。
「ここは日本じゃ。そんな危なっかしいもん作ってんじゃないの」
「あでっ」
近くにあったタブレットで軽く頭を叩くと、アオイは叩かれた部分を軽くさすっていた。
「不満か?」
夜、店を閉めた後にカウンターで頬杖を付く千束にミカが話しかけた。
「そりゃそーだ」
千束は頬を膨らませてぼやく。
「だっていきなり居なくなったと思ったらあんにゃロー、勝手に海外に行きやがって…」
「それが彼女達の仕事ってものだ」
「…」
千束は少し悲しげにカウンターに腕枕を敷いて顔を乗せる。
「まぁ、俺も教え子が陰口を叩かれるのは嬉しく思わないがな」
ミカも千束の思いに同情すると、彼は同じカウンターで眠る緑の着物を羽織る一人の女性を見る。
彼女は片手に墨字で『泥酔』と書かれた一升瓶をカウンターに置いており、いびきをかいて寝ていた。
「椿小隊…。リコリスにしてリコリスでは無い対外工作部隊…か」
ミカは帰国した特異的な部隊の名前を呟いていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No