三日の謹慎と言っても、その三日間で仕事の依頼は無いので実質的にお咎め無しと言った結果である。
「今頃、上層部はドン引きしているかな?」
「さぁね、興味ないし。そもそもうちらの事、忘れてたんじゃない?」
拠点で武器弾薬を梱包している納谷と小塚原。
世界中の犯罪者や敵対勢力の拠点を潰した時に大量に押収した武器弾薬、それを新品と言って詐欺同然の価格で支援する組織に横流しする。
何せ小さな武器屋なのでそれ相応の組織からの注文しかなく、コンポーネント化された武器を販売する事で部隊の活動資金を得ていた。
「自由すぎるよね」
「本当ほんと」
今日も今日とて出荷されて行く武器弾薬。仕入れは犯罪組織からの押収で賄っているので問題はないとはっきり答える。
完全に詐欺ではあるが、一応銃器は全てレストアして発送しているので相手からは贔屓にしてもらえる関係であった。
「だからって押収品を押し付けてくるのはどうかと思うけど…」
そう言いながら絶賛整備して新品同然に磨き上げた
ちゃんとしっかり弾薬までまとめて送られて来ており、楠木司令の新たな嫌がらせか、はたまたこちらの事情を知っているが故の愛情なのか。
「これもう訳わかんねぇな」
そんな在庫処分同然に大型トラック五台分パンパンに詰められた、武器で汚くなった拠点を見る。
「こっちの弾は?」
「ちゃんと確保してるよ〜」
そう言い、ロシアの造兵廠謹製のマカロフ弾の新品の箱をまた一つ積み上げる。
そして多様な武器の中でも犯罪組織のリーダーも大好きな
「よくジャムるわ、止まるわ、重いわでろくに動かないのによく買うわね」
「大人のおもちゃってやつですよ」
そう言い二人は倉庫で出荷されて行く荷物を見送ると、ふと納谷が呟く。
「意外と出荷した武器が回ってたりしてね」
「んな馬鹿な…」
ラジアータには特別に見逃されている状態の今の私達、元々法の外の人間の更に外を歩く自分達。日本における全ての方を犯しているのではないかと思う部分があった。
「そもそも武器の内訳は拳銃が多い。出荷した武器が回っていることは少ないだろう」
「おぉ隊長。おはよう」
髪の毛が纏まっていない状態で出て来た浅美に納谷が言う。
「おはよう御座います」
「謹慎二日目だよ馬鹿野郎」
そう言い浅美は軽く欠伸をする。
「あぁ〜、ちょっと出かけてくるわ」
「あら、出て良いんですか?」
「どうせ御咎められないわよ」
やや適当に言うと、彼女は続ける。
「それに今日はお客さんに会う予定だから」
「あぁ…」
「なるほど、そう言うことですか」
「ちょっとお相手して来るわ」
納得した二人は私服姿で出て行く浅美を見送る。
「いってら〜」
「気を付けて」
そう言うと新木場駅から列車に乗るとそのまま京葉線に乗って東京駅に向かった。
そして東京駅では新幹線に乗り込んでそのまま向かうは熱海駅。
国内外から観光客が押し寄せる有数の温泉地であり、太平洋を拝みながらの食事もまた最高と言えるだろう。
「紫雲イグナだな?」
「…えぇ、そうです」
駅のベンチ、浅美は隣に座った冴えない私服姿の地元民の様相のその男はサングラスを付ける浅美と一つ距離をとって話しかけて来た。
「まずは帰国を祝ったほうがいいだろうか?」
「ふっ、貴方達からしてみたら不味いんじゃないんですか?」
「まさか、年はのいかぬ少年少女達にしか頼めない現状を憂いているよ」
「…リリベルの奴らですか」
少し苦笑しながら彼女は言う。
男版リコリスとも称されるリリベル、椿小隊の結成に合わせてリリベルからも同様の部隊が派遣されており、時折交流することもあった。
「何かありました?」
目の前を通過して行く新幹線の風圧を感じながら二人は話す。
「先月からリリベルから通信が途絶えた。カシミール地方での任務中にな」
「インド軍と中国軍の対立が激しくなっていますよ。あそこは」
そう言うと二人の認識は共通した。
「大使館には?」
「何方の国にも来ていない。…痛ましいことだ」
「本当に思ってます?」
浅美は監視カメラの死角となっているこの場所を指定して来た先方にやや苦笑しながら目線を向けた。
「無論だ、君たちリコリスやリリベルには基本的人権を与えられる必要があり、死亡した際に墓は作られるべきだ」
「毎度の如く言いますけど、アンタらやゼロが自分達より立場が上な非公認独立組織に腹を立てているだけでしょうに」
そう言うと彼女は立ち上がる。
「まぁ、また後で続きを話しましょうや」
「そうだな…」
その直後、また新幹線が通過すると二人の姿は消えていた。
ラジアータのシステムだとここはまだ関東支部の範囲である。富士川を超えた先で東海支部に権限が代わり、対応を行う。
「…」
熱海の観光を交えてみたらし団子を買いながら近くの神社に入る。
ここは殆ど人の出入りしない静寂な神社であり、地元民しか来ないような場所であるため、監視カメラの類も一切なかった。
「やぁ」
故にラジアータによる監視も行われない。
「また会いましたね」
その境内のベンチでは先ほど出会った男が待っており、浅美は持っていた団子をその男に一本譲って食べながら座る。
「しかし、DA上層部に良心があったのが驚きです」
「今の上層部は改革派と保守派に分かれている。いつの時代も繰り返されて来た行為だ」
男はそう返し、軽く呆れたような息を吐く。
「裏で政治家が手を引いているんじゃないんですか?」
「そもそも君たちの情報は、政治家達は噂程度にしか知らない」
その男の言葉に浅美は少し呆れながら言う。
「みんなラジアータに殺害されるのを恐れている訳ですか…」
「皮肉なのは、そのほうがよっぽど清廉潔白な政治が送れると言う事だ」
「逆に海外から怪しまれていますよ?」
「故に、カカシを作らねばならん」
彼はそう言うと携帯の画面を開き、そこには税金の汚職で追及される与野党の税調政党会長の姿があった。
「ラジアータのシステムには行きすぎたくらい厳重な防御と平等性が課されている」
「八年連続の治安ですからね。今まで何人が犠牲になったやら…」
浅美は内心、この前ハッキングされて大惨事でしたけどねと思いながらそう言うと、その男は軽くため息を吐きながら溢す。
「あまりに漂白されすぎた社会というのは逆に犯罪を生む。今回の事件のようにな」
「…えぇ、酷い目に会いましたよ」
「その頬の傷を見ればな」
哀れむような目で浅美を見たその男に彼女は言う。
「いつもの事です。三日もあれば治りますよ」
「強いな…君達は」
「よっぽど自衛官さん達よりは死に近い仕事してますからね」
その言葉にお言葉一瞬反応し、彼女はそう言うと食べ終えた団子の竹串をゴミ箱に放り込んだ。
「それで、今日呼んだのはただ無駄話をするためじゃないんでしょう?」
「君達は少しくらい余裕を持って話をできんのか…」
せっかちな浅美にやや苦笑しながらその男は浅美に封筒を渡した。
「君達が行ったアメリカへの工作の結果と、今後の方針だ。リコリスに復帰した君達を我々は非常に危惧している」
「バレたら殺すんでしょう?」
「それを出来る勇気がある人間が我々にいると思うかい?若き戦争屋」
彼はそう言うと浅美は封筒の中身を見る。
「アメリカ連邦政府はメキシコ駐在大使に対し最後通牒を突きつけ、返答を待っている…ですか」
結果を読み上げるとその男は関心げに言う。
「相変わらず君達は仕事以上の結果を持って帰って来る。印中対立、米墨緊張、アンゴラ内戦、チェチェン紛争、ミャンマークーデター…全て君達のおかげだ」
「諸外国の諜報機関のリソースを日本から遠避けさせているだけですよ」
賞賛するように言った彼に浅美は自傷するように返した。
「DA上層部から派遣されている身としては、一部君達を恐れている人間もいると言っておくよ」
「千束と同様に…ですか?」
「…」
それに彼は答えず、浅美から返された封筒をライターで火をつけた。
「あの事件以降、リコリスの権限はDAの中でも強まった」
「同時に、DA上層部は過度に事件を恐れるようになった…」
「皮肉な物だな…」
「おかげで仲間が大量に死亡したんですが?」
少し浅美は男を睨みつけて返す。少なくとも目の前にいる男よりは確実に実践経験豊富な彼女を前に男もやや気圧される。
「まぁ、リリベル上層部にはそれを気に食わないと思う連中も当然いる」
「それ以前はリコリスの方が権限弱かったですしね」
故にリコリスは千束に手を出さない。彼女自身がリコリスの立場を挙げた張本人であり、リリベルにとってみれば自分達の力が弱まった根源。
故に彼女がDAを抜けた際、彼女にこれを好奇と言わんばかりに刺客を送りつけたと言う。
「本当に仲悪いっすね」
言うとその男は苦笑する。
「戦前の陸軍と海軍のようなものだ。同じパイを食うもの同士、より多くのパイを食いたいものだろう?」
「その末、両方潰される事がないようにしないとですね」
古事になぞらえて彼女は返すと男は言う。
「我々としては、潰れてくれた方がありがたいのだがな…」
「そうなったら多分もっと人が死にますよ。主にリコリスとリリベルが」
言うとその男は勘弁と言った様子で答える。
「それは勘弁だ。君たちの様な人材は貴重だからな」
「やっぱり人材目当てじゃないですか」
浅美は少し苦笑しながらそう言うと、そのまま神社を後にしていた。
そして帰りの新幹線の中、浅美はふとDA本部で見た景色を思い返す。あの事件で生き残ったサードリコリス達から尊敬の目線と感謝を伝えられた時、
「ありがとうございました」
「我々がここに立っていられるのも、あなた方のお陰です」
自分は一人仲間を射殺したにも関わらず、私は感謝されたのだ。
生存して、被害を最小限に抑えられたこの功績とサードの射殺で中では賛否両論だったのだが、彼女達は転属願を出すほどだったようだ。無論、全て断らせてもらったが。
「君たちが思うほど、私達は美しくないよ」
純粋に一滴の墨汁が垂れれば、その水は汚れる。
リコリスと言う日本という安全な揺籠の中で暮らす彼女達にとって、あまりにも自分達の世界は残酷すぎる。
「DAを敵視しながら、その部下をこき使わざるを得ない…か」
皮肉なものだ、と彼女は嘯く。
これほど醜く酷い二律背反があったものかと問いたくなる。
知らない事は言い訳にもなるので、時と場合によっては幸せをもたらすのだ。
「いつの時代も、大量殺人を殺して来たのは狂人ではなく、行き過ぎた正義心よ」
そう呟くと一人東京に帰って行った。
Do you want a happy end?
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