椿の介錯人   作:Aa_おにぎり

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#21 Their secrets

この国では悲劇は美談に、事件は事故となる。

 

「よく成り立ちますよね、こんな事」

 

拠点で自分のクロスボウの引き金を弾いて射撃練習をする。

 

「ん?どしたのいきなり」

 

そんな彼女に浅美は話しかける。

 

「いえ…これほど重大犯罪が起こらない事を、国民が不審に思わないのがなんとも…」

 

そんな三条の呟きに浅美は言う。

 

「そりゃあ確かに不審に思う人もいるでしょうね。でも…」

 

彼女はそこで日本人であれば知っていなければならない憲法の話を持ち出す。

 

「それなら、平和主義を憲法に記述したこの国の根幹はどうなる?」

「それは…」

 

言い詰まる三条に、釈迦に説法のように浅美は言う。

 

「『日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。』有名な戦争放棄を宣言した我が国が世界に誇る条文よ?」

 

彼女は直後、軽く失笑する。

 

「日本は防衛義務を自ら放棄した…何とも極端だねぇ」

「所詮、第二次世界大戦なんて遠く昔の話ですからね。少なくとも、冷戦も終わった今の時代には合わないでしょう…」

 

そう言いコッキングして発射される鋼鉄の矢は25m離れた的のど真ん中を貫通する。

 

「そうね、少なくとも国外の状況はとても芳しくないし」

 

そう言い彼女は弾倉を挿し込んでスライドを引く。

 

「戦争になっても、今のアメリカが助けくれるとは到底思えませんし…」

「事実、アメリカは今は本土のことでてんやわんやでしょう?」

「その状況に引き摺り込んだ一端に噛んだ人が何を言うやら…」

 

やや呆れ口調で彼女はハンドガードを手前に引く。

 

「湾岸戦争やイラク戦争を経ても、世界は何も学ばないのでしょうか?」

「人の言語情報だけの伝達率は7%よ?二世代も経っちゃったらそりゃ戦争なんて分かる訳ないわよね〜」

 

そう言い浅美も引き金を引くと、静かな射撃音と共に薬莢が壁に当たって弾丸は的の真ん中に命中する。

 

「だから戦争は永遠に続くのでしょうか?」

「そうじゃな〜い?」

 

知らないって怖いよねぇ〜などと言いながら、浅美は真ん中に綺麗に当たる鋼鉄の矢を見る。

 

「ウヒョ〜全部真ん中。流石だねぇ」

「伊達に訓練を積んでいない…と言うより、隊長も全部真ん中ではありませんか」

「へへっ」

 

銃床で軽くこめかみを擦る彼女は弾倉を抜き取る。

 

「しかし、拠点によく射撃場の設置許可出ましたね」

「ふふんっ、私の努力を誉めたまえ」

「はいはい、お疲れ様です」

「雑だよ〜、ゆいちゃん」

 

そう言って軽く不満げにブーブーする彼女は言う。

 

「最悪リコリコの射撃場を借りるって言う選択肢もあったんだけどね〜」

「その場合、ミカさんにはご迷惑ですね」

「じゃあDAの施設借りる?」

「それは勘弁してください」

 

港の倉庫…コンテナフレートステーションと呼ばれる施設で暮らす椿小隊。

彼女達は現在はリコリスとして復帰して活動を行なっており、それ故に時折DAからの指示を受けて陣頭指揮を執る。

 

「戻りました〜」

「つ、疲れた…」

 

そして倉庫にヤリスクロスに乗って帰ってきた草生津と納谷。

 

「お〜、お疲れ〜」

「な、何で…私、ハッカーなのに…」

 

そう言って拠点のソファに倒れ込む納谷。確かの彼女の場合は後方でドローンを経由して指示を行う後方指示を小隊では担当していた。

 

「DA絶対配分ミスってるって〜」

「はいはい、今日は休んでいいからさ〜」

「あとでラジアータ改変してやろうかな」

「はいはい、うちらが消されるからダメよ〜」

 

そんな彼女を慰める浅美。すると射撃場から呆れた様子で三条が出てくると言った。

 

「隊長、銃を放り出さないでください」

「うい〜」

「はぁ…」

 

軽くため息を吐いて三条は浅美と彼女が介抱している納谷を見た後に射撃場に戻ると、彼女は浅美の分の拳銃を片付けた。

 

「でも不思議だなぁ…」

「ん?何が」

 

すると冷蔵庫から麦茶を出す草生津の呟きに浅美が首を傾げると、彼女は言う。

 

「錦木千束の事です。どうやったらあんな反射神経を出せるのか…」

「あぁあれ?」

 

それは前に訓練場で見せた千束が見せた驚異的な反射神経と動体視力。それはもはや人外の域に達していると言ってもいいかもしれない。

 

「まぁ先天的な能力だろうけど。根本的には…」

「根本的には?」

 

そこで草生津が首を傾げると、彼女は言った。

 

「彼女の心臓が機械だからかな?」

「「「えっ?」」」

 

その返しに部屋にいた四人全員が驚いていた。

 

「機械…?」

 

膝枕を受けていた納谷が仰向けになって聞くと、浅美は頷いた。

 

「えぇ、彼女の心臓。全部機械なのよ」

「嘘…」

「マジっすか…」

「そんなの…いや、」

 

三条は一瞬否定しかかったが、首を横に軽く振った。

 

「昔、先天的な心臓病を抱えていて…アラン機関の手で助けられたって話」

「アラン機関…」

「リコリスに…アラン機関?」

 

彼女達とも関わりのあるその名に全員が唖然となっていた。

 

「でもあの才能は確かにアラン機関の支援がありそうですが…」

 

浅美が言っていた目の前に銃を突きつけられても避けることの出来るあの動体視力。それは天賦の才と言えた。

 

「なんの才能を見出されたの?」

「さぁね。私に聞かれても分からんよ」

 

今頃は喫茶リコリコで誰かの依頼を…あぁいや、今日は東京観光の依頼を受けたとか言っていたか。

千束はベラベラと話してたきなに頭を叩かれていたはずだ。何でも殺し屋に追われているとか何とか…。

 

今頃何をしているのだろうかと、かつてのコンビ相手に想いを馳せながら下を向いて納谷に言う。

 

「はる〜、ごめん。足痛くなってきたかも」

「あっ、ごめん隊長」

 

言われ、彼女は体を起こすと今まで枕にしていた浅美の太ももを見ながら呟く。

 

「隊長の脚は相変わらず硬いなぁ…」

「はははっ、そりゃあね」

 

彼女は軽く笑って返すと、彼女は言う。

 

「さて、買い出しに出かけたマキ達が帰ってきたら行こうか」

「はい」

「了解です」

「はぁ…また行くのか〜」

 

頷く二人に軽くため息を吐く草生津。理由は再びあのDAの訓練場に向かうよう言われたからだ。理由はあるファーストリコリスからの練習試合の申し込みからだった。

 

『あたしと勝負しろ。椿小隊』

 

そう言ってきたのはお友達のフキだった。いきなりの果し状にどう言う事だと思いたいが、理由は彼女の事だから簡単だ。

多分散々千束とのペアでボコされたから、その腹いせと言ったところだろうか。

 

「今度の相手は私とゆいで行くから」

「本当ですか?」

「私がバックで、ゆいが先頭ね」

 

浅美が言うと、聞いていた草生津達の目元が少し鋭くなった。

 

「本気で行くんですか」

「じゃなきゃやられるよ〜」

 

実際、ゴキブリと散々言われ散らかした彼女の小さな体を使った高速移動は実に厄介だ。故に対策をしなければならない。

 

「小隊全員ですか?」

「そっ、果し状には何でも使って良いって感じだしね」

 

そう言い拠点のポストに投函されていた果し状を指で挟んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、規制線が張られて中に立ち入ることができなくなった北押上駅。

その構内でひっそりとふたつの人影がライト片手に瓦礫の山を漁っていた。

 

「電車が衝突して天井まで崩れるのか…?」

 

一人の警察官がそう言い崩落している駅構内を照らしながら呟くと、

 

「よしよし!あったぞ!」

 

その後ろで少々興奮して声を漏らした阿部がその手にある物を持った。

 

「えっ、弾丸?ここで?!」

 

それが一発の銃弾がめり込んだコンクリート片であった。

 

「お前に見せてやろうと思ってな」

 

そう言い阿部はタバコに火をつけると、

 

「じゃあこれも全部?!」

「他の弾はすでに回収されているよ」

 

すると他を照らすと、そこには丸くくり抜かれたコンクリート片や何かしらが貫通した跡などが残っていた。

 

「こんなのテロじゃないか!事故じゃなかったんだ…署長に言わなきゃ!」

 

その警察官は正義心が動いて溢すが、阿部は言う。

 

「違う、これは事故って事になってんだ」

「はぁ?」

 

驚く部下に阿部はタバコを一回吸う。

 

「旧電波塔テロ事件以降、事件がたくさん事故にされてきた」

 

そして煙を吐く。

 

「誰かが解決しているのか、隠蔽しているのか…」

 

どこぞの見知らぬ妖精のような人が隠しているのだろう。昔、同じ事をやって勘づいたそれ。

 

「所長が隠してる…?」

「いや〜、ありゃ命令されてるだけだな」

 

部下は所長が自分の出世のためにこの事件を隠蔽したと思っているようだが、少なくともこんな大々的な事件を東京都の一警察署長が揉み消せるレベルではない。

 

「黙ってていいんですか?!」

 

それに部下は軽く激昂するが、阿部も反論する。

 

「何でも隠蔽しちまう相手だぞ!?手出しなんかできるわけねぇだろ!」

 

するとその言い合いの声が聞こえたのだろう、反対から懐中電灯が照射される。

 

「おいっ!誰だお前らっ!?」

「だぁー、逃げろ逃げろ!!」

「何で刑事が逃げるんですか!?」

 

混乱しながらも二人の警官は慌ててトンネルを伝って逃走を計った。

 

 

 

「はぁ〜、不法侵入はするもんじゃないな」

 

少なくとも警察官の職務倫理を疑われるような行為ではあるが、あのような事件を隠蔽する上層部も同じだろう。

 

「俺は納得できないですよ…」

 

彼は車の側で直で見たあの景色を思い返していると、

 

「阿部さーん!!」

 

聞き覚えのある陽気な声が聞こえ、道路の反対を見ると

 

「やぁ千束ちゃんかぁ」

 

そこでは夏服仕様の赤い学生服に身を包んだ千束が手を振っていた。

 

「お勤めご苦労様でーす!」

 

いつも通り、変わらない彼女を前に阿部は近くにいたたきなと、彼女が推している車椅子の老人を見た。

聞くと今はその老人の観光案内をしているそうだ。

 

「いい子だろ?ああ言う子達が安心して暮らせるなら、誰が何を隠蔽していようと何だっていいよ…」

 

彼はそう言うと、車に乗り込んで署に帰って行く。

 

しかし彼は知らない。

その隠蔽している謎の組織は、千束達のような学生服を着た少年少女達を使ってあの地下鉄の事件の隠蔽に関わっているとは…。

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