リコリスには国籍が存在していない。
かつて中国では無国籍児が社会問題となったことがあったが、この日本においては法律や憲法が出来る以前より、国籍の存在しない者達が存在していた。
「…」
明るく照明が照らされる訓練区画を歩く二つの人影。
「…」
その手に握っているのはグロック21、.45ACP弾を使用する拳銃である。装弾数は最大十四発。
亜音速の拳銃弾は消音器との相性はとても良いので、騒音の多い東京や関東地区ではこちらの方が環境に合っていた。
「っ!」
直後、その気配を感じた赤色のリコリスの制服を見に纏う少女は、持っていた引き金を弾くと、そこでは一つの黒い影が瞬足でT字角を通過していた。
「チッ!逃すかぁ!!」
そこでサクラは追いかけようとしたが、
「待てっ!」
そこでペアを組んでいたフキは制止させる。
「離れて動くな。必ずペアを組め」
「は、はいっ!」
前に散々に痛い目を見ていた彼女はフキの言う通りに従うと、その場を離れずにフキは言った。
「離れ離れになった所を襲うのがアイツらの常套手段だ」
「りょ、了解!」
そこでサクラはセカンド・リコリスのペアが瞬殺された一つ前の訓練試合を思い返す。
「慣れているんっすね」
「…あぁ」
そこで背中合わせに警戒するフキに言うと、彼女は苦虫を潰したような表情を浮かべた。
「アイツの得意分野は…ペアの支援だから…なっ!!」
そこでフキは持っていた拳銃の引き金を弾く。
ッ!ッ!ッ!ッ!
発射された銃弾は飛び出した一つの影の真上を飛ぶと、そこをサクラが抑えにかかるが
「っ!!」
その滑り込んだ影に隠れていたもう一人が片手にマカロフPBを握って射撃体制を整えていた。
ッ!ッ!ッ!ッ!
発射された銃弾をフキとサクラは咄嗟に角に隠れてやり過ごすと、
「そこは普通なら壁付けで死ぬわよ」
「あぁ、普通はな!!」
話しかけてきた浅美にフキは言って持っていた拳銃の引き金を手首だけを出して乱射する。
ッ!ッ!ッ!ッ!
そして銃弾を打ち切って弾倉のリロードをしていると、
「来るぞ!」
「はい!」
フキは叫んでサクラが警戒するが、
「…?」
弾倉を交換した隙に飛び出してくるかと思ったが、その様子はなく首を傾げていると、
「っ!上だ!」
「えっ…?!」
フキの声にサクラは首を傾げた瞬間、二人のいる空間が一瞬暗くなって上を見上げると、そこでは漆黒のリコリスの制服を着た三条が両手に
「っ!しまっ…」
予想外の攻撃位置にサクラ達は唖然となっていると、彼女は拳銃の引き金を引いた。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!
六発の無造作に発射された弾丸はフキ達を頭上から襲った。
『訓練終了!照射、速水・紫雲ペア』
ブザーが鳴り、上から観戦していたリコリス達は唖然となっていた。
「嘘でしょ…」
フキとサクラのファーストとセカンドのコンビを倒した結果にすでに倒されたセカンド含めてリコリス達は驚愕する。
「椿小隊がファーストを倒したの?」
「実力があるってこと?」
「フロックって可能性は?」
漆黒のリコリスの制服は自分達リコリスにとっては嘲笑の的と言える存在であった。
「ってか、訓練場の壁って飛び越えていいの?」
「一応今回のルールにそんな情報はなかった気がするけど…」
そう言って困惑気味にファースト・リコリスに勝利したペアを見ていた。
「お疲れ〜」
訓練場を後にし、そこで黒いリコリスの制服に身を包んだ三条は浅美に言う。
「相変わらず、人を補佐するのは得意ですね」
「影でも輝けるって事よ」
そう言い、彼女はリコリスの休憩室でコーラ缶を購入すると、蓋を開けた。すると、
「相変わらずだな」
そこに訓練でやられたフキが汚れたペイント弾を落として現れた。
「やぁやぁ、ご招待どうもファースト・リコリスのフキさん」
「僻みか?」
鼻で笑うような仕草をとった彼女に飄々と浅美は言う。
「いやいや、流石ゴキブリと言われるだけあって倒すのには苦労致しましたとも」
「ちっ…お前までそれを言うか。イナグ」
懐かしい名前で呼ばれた浅美は薄く笑みを貼り付けた。
「んで、そっちのは?」
「速水キブシよ」
「速水キブシ…か」
そこで名前を聞いたフキは三条を見ると、
「楽だったか?」
「…えぇ、紫雲イナグさんですから」
すぐにその言葉の意味を察した三条は目を閉じて頷くと、そこでフキは提案した。
「んじゃあ、次はウチのサクラと交換だ」
「うえっ!?マジっすか?!」
そこでサクラは驚いた様子でフキを見ると、次に浅美達を少し訝しんで見ていた。
「でも椿小隊の人と組むんすか?」
「そうだ、イナグ。それで良いな?」
「えぇ、どうせ私のやる事は変わらないわよ」
浅美も了承すると、サクラと三条を交換して新たにペアが組まれる。
「サクラ、今回はお前がペア長だ」
「えっ…!?」
フキはそこでサクラに言うと、彼女は喜んだ。
「まじっすか!やったー!」
ペアを組んで指示を取れると言う経験。サクラは経験が積めると喜んでいると、フキは浅美に言う。
「浅美、今回は全力で行け」
「…はいはい」
そこで頷くと、彼女は背中の鞄から
「セカンドのペアだ。イナグ、行けるか?」
「いつでも」
するとそこでサクラは言う。
「宜しくっす、イナグ!」
「…一応歳上なんだけどなぁ〜」
浅美はそう返しながら立ち上がると、三条は一言フキに言った。
「なかなか酷なことしますね、ファーストさん」
「これで気づかなかったらペア交代だよ」
その短い会話はサクラの耳にも届いており、その意味に首を傾げていた。
『試合開始!』
そして待っていた蛇ノ目エリカ・篝ヒバナのセカンドリコリスのペアの二人は訓練場の入り組んだ施設を走る。
「相手は強いよ」
「うん」
二人はそこで一番最初の練習試合で瞬殺されたセカンド・リコリスの試合を思い出す。
「敵は平気で壁を超えてくるから上にも注意しないといけないなんて…」
「でも今回は室内戦を想定しているから壁越えは禁止になっている」
そして走って曲がり角を出た時、
「っ!!」
そこでサクラと浅美が現れて持っていた武器にエリカ達は一瞬驚いた。
ッッッッッ!
消音器を取り付けた短機関銃が発射され、壁が一瞬でペイント弾で塗りつぶされた。
「短機関銃持ちか…」
「…」
拳銃二丁に向こうは短機関銃と拳銃、純粋な正面火力では向こうのほうが圧倒的に上であった。
「…」
エリカはそこで様子の確認のために出ようとすると、
ッ!
目の前を銃弾が掠め、反射的に手を引いてしまう。
「…」
しかし射撃はそれだけで終わり、そこでエリカは直ぐに勘付いた。
「っ!来る!」
「うぉぉぉぉおおおっ!!」
そこで側面から飛び出したサクラが拳銃を持って突撃してくると、
「っ!」
ヒバナは持っていた拳銃の引き金を弾くが、サクラは自身の持つ射撃技術でヒバナの急所にペイント弾が当たった。
「あっ!」
しかしヒバナの乱射した銃弾の一発が足に命中して脱落判定を受けた。
「あっ!」
エリカはサクラの突撃に驚いた隙にそこで咄嗟に拳銃を向けると、そこで短機関銃を持って浅美は仰け反ってはみ出たエリカに射撃を加えていた。
『試合終了!勝者、乙女・紫雲ペア!』
そして一試合終えると、短機関銃を下ろす浅美はヒバナとエリカに近づいて聞いた。
「大丈夫?」
「はい…」
「大丈夫です」
そこで上々な結果にサクラはやられたが、上機嫌であった。
「良い援護でしたっすよ、イナグ!」
「そりゃどうも」
そこで浅美はそんなサクラに優しい目を向けると、エリカ達はその目の裏に別の感情が籠っているような気がしていた。
幸いにも、その意味は直ぐに理解できた。
「ぬぁああっ!」
視線の先で一旦休憩を挟んだ後に行った乙女・紫雲ペアと春川・速水ペア。そこで乙女はフキと三条にボコボコに瞬殺されていた。
試合開始直後に飛び出したフキに浅美は持っていた短機関銃で射撃を加えたが、姿勢を比較して地を這うように走ったフキの至近距離の射撃を加えられて撃破。
途中で格闘戦となってフキと浅美は腕を交差させていたが、足で蹴飛ばされて撃破された。
その後、即座にサクラは二人に挟まれて袋叩きにあって試合が終わった。
「あぁ〜負けちまった〜!!」
少し悔しげに叫ぶサクラにフキが仁王立ちで言った。
「上手くイナグを使えていなかったな」
「え?」
するとフキはペイント弾で塗れた浅美を見た。
「本当の使い方ってもんを教えてやる」
すると彼女は諦めた様子で苦笑気味に言った。
「酷使しすぎ〜」
「前にドン引きスパンで練習していたんだ。これくらいでへばるな」
「あーん、フキちゃんの鬼ぃ〜」
そう言いながら短機関銃を片付ける浅美。
「悪いけどこっちの銃使い切った」
「問題無い。始めるぞ」
そう言い、今度はフキ・浅美のペアがセカンドとサードで構成された十五名の部隊と練習試合をする。
「人数差おかしいでしょ」
「二対十五?幾らファーストが居るにしたって…」
そんな事を言いながらも、訓練なので気を抜かずに今まで参加した三人のセカンドを隊長に三つの小隊に分かれた彼女達は試合が始まるのを待っていた。
「あーあー、とんでもない数用意しちゃって…」
そんな光景に上から見ていた草生津は苦笑気味に呟くと、同じく見ていた小塚原と柊、そして戻ってきた三条が言う。
「どうする?賭ける?」
「どうゆう奴?」
「隊長ペアが勝つかどうか。この後の訓練出てる人で」
「乗った」
「じゃあ私隊長ペア」
そんな話をしていると、試合が始まり。フキと浅美は拳銃を持って走り出す。
「お前がアイツと組んで何度倒されたか…」
「ははっ、懐かしいねぇ。いけすかない先輩達をボコボコにしてたかなぁ」
そんな事を言いながら浅美は扉に肩を当てて破壊しながら飛び出すと、その先にいたエリカ率いる小隊のど真ん中に飛び出して引き方を引いた。
「っ!?」
その後ろにいたフキが目の前のサード達に照準を合わせて一気に三人を倒した。
「くっ…!」
「がはっ!?」
サードの二人は足音もなしに飛び出してきた浅美の拳で鳩尾を殴られ、そのまま気絶して地面に倒れた。
「…容赦ねぇな」
「大丈夫、任務に支障をきたさないように力抑えたから」
そう言うと、二人は直ぐにその場から離れて訓練場を走った。
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