地下の通路で浅美と上層部からの連絡員は話をしていた。
「先日、上層部はDAに指令を送った」
「ええ、おかげで小塚原は死にませんでしたよ」
それぞれ昨日の作戦の結果を報告しあうと、そこで連絡員は伝える。
「一応、リリベルの方でも同様に動きはない。リコリス、リリベル共に反乱の予兆は無い」
「…上層部の意向は固まったということで良いのですか?」
「ああ、概ねそのように考えてくれ。DAの一部職員で不満が出ている話もあるが、大抵は問題ない」
連絡員はそう話すと、浅美はその直後に呆れたため息を吐いて天井を見上げる。
「今までこれだけグダグダしていたのにですか?」
「冬のウクライナ侵攻でアメリカが役に立たないと分かったからだ。これでは日本の治安云々以前の問題となってくる」
「…そうすると上層部が政治に思いっきり口を出しますけど?」
リコリスやリリベルの存在が明るみになる可能性も孕む行為に少し疑念を抱いていると、連絡員は答える。
「そうも言っていられない。去年の秋の段階でロシアが本気で行くと分かった以上、これからの情勢は変わってくる」
「…」
現在勃発している軍事衝突の中の一つに数えられているロシアとウクライナの戦闘。今年の冬に始まったそれは今も苛烈さを増していた。
「アメリカがEUの突き上げに負けて支援を渋々したんだ。となると、我が方でも八〇年前の遺物に縛られている訳にはいかない」
その意味を誤解しなかった浅美は今度の指令を前にため息を吐く。
「…また仕事ですか?」
「ああ、主に国内のな。今はDAに預かってもらっている君たちは再度移動だ、我々の元に戻ることになる」
「りょーかいです。…ちなみに、リコリスの権限は?」
「今の所、上層部で審議中だ。だが国内で活動する以上は、リコリスの権限は持っていたほうが楽だろう?」
浅美は頷くと、その連絡員は浅美の目の前にトランプサイズのカードを見せてくる。
『各スポンサーからも期待がかかっている。存分にやってくれ』
とカードには書かれていた。
「…分かりました。お楽しみにでもしておいてください」
「ああ、楽しみにしているよ」
連絡員は良い笑みを見せると、浅美はそのまま何も返すことなく訓練場に戻っていく。
その後、新装備に全て交換を終えて車に戻った椿小隊の面々。
「新顔との訓練キチィ…」
「年?」
「バカ言うんじゃないよ。はっ倒すわよ」
訓練で腰を痛める仕草をした彼女にやや茶化して小塚原が言ったので軽く反論をすると、そこで柊が手招きをした。
「隊長、そろそろやる?」
「あ〜、お願い〜」
柊はそこで工具を持っていたので浅美は頷くと、そこで思いついた表情をする。
「ゆいちゃん、この後予定は?」
「特には。…リコリコですか?」
その表情からして三条はすぐに麻美がどこに行こうとしているのかを察すると、彼女はニヤッとして聞いた。
「行くかい」
「…他はどうします?」
彼女はそこで後ろに乗る四人に意見を求めた。
「行く」
「行きたい」
「行きまーす」
「どっちでも」
そして賛成多数であったので三条は小さくため息を吐いてナビの行き先を喫茶リコリコに指定した。
そして喫茶リコリコの前の一本道に白いバンは停車する。
「失礼。予約した六名でーす」
「いらっしゃい。注文は?」
私服に着替えた彼女達は店に入ると、そこで千束が出迎える。
「お〜、浅美ぃ。いらっしゃーい」
そこで彼女は出迎えると、その隣でどこぞの国民的アニメのような暮らしをしているクルミが浅美の声を聞いた。
「また来たのか」
「良いでしょう?私の友人なんだし」
「まあ、売り上げに出ればどっちだって良いんだが…」
彼女はそう言うと、浅美は近づいてきた。
「何してんの?」
「あぁ、この前のサード達のね」
「あー、なるほど」
納得をすると、浅美もクルミの開く画面を見る。そこには今までのリコリス襲撃事件のデータが詰まっており、残された死体や周辺から摘出された弾丸のデータが残っていた。
「地下鉄襲撃犯とリコリス襲撃犯は例の銃を使っているみたいだな」
「例の?」
千束が首を傾げると、手前で浅美が言う。
「ほら、前の取引」
「あぁ」
そこで写真を見せられると同時に千束は納得する。写真はだいぶトリミングがなされており、武器取引の現場を写していた。
「じゃあDAにハッキングしたのもこいつらか」
「っ!?」
その時、クルミは目を大きく見開いて驚く顔を浮かべる。
「あ〜、それは…どうかな…」
「?」「…」
その反応に千束は首を傾げ、浅美は少し目元を細める。
「にしてもどうやってリコリスを識別しているのかな?」
「あ〜、こっちはハッキングって話しだけど?」
「さぁな、まだ分からんけど…」
そこでクルミは千束の今きている服を見る。
「その制服でバレてるんじゃないか?」
「おぉ、なるほど!」
そこで千束は納得した様子で手をポンと叩くと、そのまま何かを取り出しに店の奥に消えてしまった。
「う〜ん…」
「どうかしましたか?」
店の方ではたきなが座敷席に座って唸っていたので、三条が話しかける。
「あぁ、いえ…その…」
「どったのアンタ?」
ミズキも質問をしたので、たきなはそこで悩みの種を打ち明ける。
「勝てないんですよ」
「え?」
その疑問に全員が首を傾げた。
「家事分担をジャンケンで決めているのですが、一回も千束に勝てないんです。統計的にどの手も勝率は三割なのに…」
「なるほど…」
三条はそこでたきなが京都支部出身と聞き、同郷の民として色々と話に乗ってあげたいと内心で思っていた。
しかしそんなたきなの悩みを聞いたミズキとミカの二人は、お互いに顔を見合わせると『あぁ…』と納得した顔をしていた。
「最初はグーでやってるでしょ?」
「それじゃ千束に勝てない」
「え?」
「…どう言うことですか?」
たきなと三条はそこで首を傾げて二人を見る。
「千束が相手の服や筋肉の動きで次の行動を予測しているのは知ってるだろ」
「最初にグーを見せてしまうと、次に来る手がグーかそれ以外かを知られてしまう」
彼女の動体視力の高さは見ての通りで、それはたきな達は重々理解していた。
「変えずにグーだと当然パーを出されるし、変えると分かれば千束はチョキを出しとけば絶対負けないでしょ?」
ミズキはそこで解説をする。
「つまりたきながアイコにできる確率が三割」
「勝つ確率はゼロだ」
ミカがそこでじゃんけんの勝利法を教える。
「千束にジャンケンで勝つには最初はグーをやめて最初の勝負で勝つしかない」
人外とも言える動体視力を有する千束だからこそできる技にたきな達は顔を顰める。
「アイコになったらもう勝てないし、ましてアイコから始まったら一生勝てないよぉ?」
ミズキが言うと、じゃんけん必勝法を前に三条は呆れた様子で呟く。
「それ…ほぼグレーよりの反則技では?」
「でも種がわかったらすぐに対策ができるわよ?」
「…何というか、こんな使いからでは彼女の才能を持て余しているような気がしなくもありませんね」
三条のぼやきにたきなは思わず小さく頷いてしまうと、
「組長さんとこ挨拶行くわ〜」
奥から千束が日々の配達のためにリコリスの制服姿で出てきた。
「………何よ」
その時、先ほどのジャンケンの話でグレー寄りのズルをしていたことでたきな達から一斉に白い目を向けられていた。
「いーえ、別に」
「え?なになに」
「いーから、早く配達行ってきな」
ミズキが言うと、そこで着物姿だったたきなが髪留めを取ったが、千束が制止させる。
「あ〜、今回は大丈夫。制服がバレてるんだろうって、クルミ達が」
「リコリス制服がですか?」
その時、たきなが制服の話を前に首を傾げた。
今起こっているリコリス襲撃事件に関して、制服が問題であると言った千束はそこで制服の上からポンチョを被っていた。
「そそ、これなら絶対分かんな〜い」
そこでお気に入りのポンチョをクルクルと回して見せつけると、ミカとミズキが言う。
「私服じゃ銃は使えないんだぞ」
「警察に捕まっちまえ」
「んなことわかってるから。ホレ」
そこでポンチョをめくって下に来た赤いリコリスの制服を見せる。
「それに私服ダメだったら浅美達はどうなるんだYO!」
そこでがっつり私服姿の三条を指さす。
「私たちはICカードみたいに反応する小隊のバッジがありますから」
「それか、このワッペン」
そこで小塚原が着ている革ジャンの上腕に縫い付けられた部隊章を示すワッペンを見せた。なお、その物騒な見た目の部隊章を見て千束は思わず言う。
「うわっ、すげぇ怖ぇワッペンだな」
感情がすぐに口に出たその反応に小隊全員が思わず『子供かよ…』と内心で思ってしまった。そんな話をしていると奥から浅美が顔を覗かせる。
「あくまでも仮説だから。あまり本気にするんじゃないよ〜」
「ほいほーい」
浅美にやや適当に返すと、そこでたきなが立つ。
「じゃあ私も…」
「だぁいじょうぶ」
そして千束について行こうとすると、千束は言う。
「それよりたきな!今日も夕飯、楽しみにしている〜」
それを言うと、そのまま『いってきまぁ〜す』と言って店を出て行ってしまった。
そして千束が出ていく頃、襖では浅美とクルミが話をしていた。
「でさ、ウォールナット」
「何だ?」
浅美はそこでクルミに一つ質問をする。
「DAハッキングしたのって、君?」
「んんっ!?」
その時、あからさまにクルミは驚いた表情を見せた。
「ふふっ、分かりやすい。感情豊かな子ね」
「な、何を…!?」
「いやぁね、私ってこう言う立場だから色々と情報を聞いちゃってるからさ〜」
彼女はそう前置きを置くと、話を続ける。
「前にDAがハッキングを受けた後、こっちのシステムから幾らか情報が抜かれた形跡があった」
「…」
「ハッカーである君の能力を少し誇張しているかもしれないが、その時抜かれた情報は千丁の銃の取引に関する情報だ」
「……」
浅美はそこでクルミにある推察をする。
「今回の四人のリコリス達の被害者の共通点は、全員がその現場に出動していたと言うこと」
「っ!!?」
「どう?調べられない?」
確信している眼差しを浅美は向けると、クルミはそこで恐る恐る冷や汗をかく。
「…殺しはしないか?」
「しないしない。君殺したら隊員に殺されるっての」
そこで彼女は今も座敷席でパソコンを開いている納谷を見る。彼女のデスクトップにはウォールナットのアイコンがデカデカと写されていた。
「…分かった。やってみる」
それに少し安堵してクルミはすぐに解析を始めた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No