椿の介錯人   作:Aa_おにぎり

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#30 Arming distance

千束の通信が途絶え、彼女の後を追いかけたたきなは配達先の組事務所に向かう途中の道に転がっているものを見つけた。

 

「千束のポンチョとスマホが…!」

 

携帯を片手に報告をすると、クルミがキーボードを叩く。

 

「街中のカメラもハッキングする!」

「お手伝いします」

「頼む」

 

その隣でリコリコに待機となった納谷が良い、補助で写真照合を始める。

街ではミズキと三条がアクセルを踏んで道路を走る。

 

「DAはまだ犯人の素性を掴んでいないの!?」

『それをする予定だったのが私達だったの!まだ転向訓練とかで準備段階だったのに、我慢出来なかった上層部の一部が囮出したって話だよ』

『それも返り討ちに遭ったらしい』

 

リアルタイムで情報を仕入れた浅美とクルミ。その無線を聴き、ミズキの後ろに乗っていたミカが呟く。

 

「暗殺が専門のリコリスに囮を…馬鹿な事を」

 

その杜撰な対応を前にミカは毒吐かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ってぇ…」

 

公園で倒れていた天パの男はそこでゆっくりと体を起こす。

 

「アンタが一連の襲撃犯?」

 

その時、男に銃口を向けて千束が聞く。その質問に男がゆっくりと千束に振り向きながら答える。

 

「ヒデーじゃねえか…」

「うわぁ」

 

その男は頭からどっぷりと血を流しており、箱乗りの車から弾き出されたことで目元が真っ赤に染まる怪我を負っていた。その見た目に思わず千束も同情の声を漏らしてしまう。

千束はその男の背中を取る位置にこまめに移動しながら警戒し、銃口を向けたまま静かに拘束用のワイヤー銃を取り出した瞬間、

 

「っ!!」

 

千束に男が襲い掛かり、そのまま銃のスライドを拳でしっかりと握り、そのまま口に溜まっていた血液を千束に吹きかける。

 

「!?」

 

至近距離で、尚且つ銃をしっかり握られて、吹き付けられた血は広範囲に広がっていたので千束はその攻撃に目を瞑って防護しかできず、体を背けてしまう。

その瞬間に男は足を蹴って体勢を崩し、拳を握って右ストレートで千束の頬を殴る。

 

「ぶはははっ!」

 

男はそこで盛大に吹き出すと、その背後から横転したのと同じ車種のバンが公園内に停車をすると、中から同様のつなぎを着た男達が降りてくる。

 

「っつー」

 

目元を血で潰された千束は嫌な鉄臭い香りに右往左往していた。

 

「ヒューウ!」

「やっちゃってくださいよ!」

 

その光景を前に、バンで取り囲んだ公園で男達が叫んだ。すると一人の声に反応して緑の天パの男は左ストレートで目をつぶした千束を正確に殴った。

 

「いいぞ!」

「やれやれ!」

「真島さーん!」

 

車で囲んで擬似的なリング場のようになった光景を、ドローンでクルミは発見した。

 

「いた!」

「千束だ!ナビに現在位置を送る」

 

すぐにクルミと納谷はそれぞれの車に位置情報を転送する。

 

「急いでください。嬲り殺しにされています」

 

納谷が言うと、移動中の車内で浅美は消音器付自動拳銃(マカロフPB)に弾倉を装填する。

 

「OK、何発必要?」

「おお怖」

 

その声色に隣に座っていた小塚原が口に漏れてしまった。

 

 

 

一方、千束は一方的にやられていた。

ストレートで倒された後、鳩尾に膝蹴りを受けて声を漏らす。

 

「ぐっ…」

 

その時、男の的確な蹴りに千束も顔を歪める。

 

「(不味いかも知んない…)」

 

一瞬意識が飛びかけたことに危機感を覚えると、髪の毛を掴まれて体を持ち上げられる。

 

「ゴム弾じゃあなくて…実弾にしておけば、よかったなぁ!?」

 

そして男はそのまま髪を掴んで持ち上げた千束を顎の下からアッパーをかけて突き上げる。

 

「ごふっ…」

 

そのまま後ろに倒れて叩きつけられる彼女に、周りの男達は歓声を上げている。今までの被害を鑑みれば彼らにも思う部分があったのだろう。

 

「ぐぅ…」

 

千束はそこで今自分を殴った男を見上げると、彼は地面に落ちていた自分の銃を拾い上げて銃口を千束に向けた。そして徐に問うた。

 

 

 

「…お前の使命は何だ?」

 

 

 

「…?」

 

その問いかけに、千束は答えられなかった。すると男は胸元に指を当てる。

 

「ソレ…」

「…!」

 

その瞬間、千束はいつも胸から下げているフクロウのチャームを反射的に掴んでしまう。

 

「アランのリコリスか…」

 

そのチャームを見た男は興味深く千束を見る。

 

「面白いな、お前」

 

彼はそこで千束を面白い玩具を見つけたような笑みを見せた直後。

 

ギィンッ!「っ!?」

 

男の持っていた拳銃が弾き飛ばされた。

 

「「!!」」

 

その弾道を見ていた千束は弾道の元を辿り驚き、男は弾かれた拳銃を見て驚く。

 

ッ!ッ!ッ!ッ!

 

しかし彼らが驚く間も無く続いて銃弾が囲んでいた男達に襲いかかる。

 

「ぐわっ!!」

 

その銃弾は実弾で、命中をした箇所から男達は血が滲んだ。

 

「…」

 

襲撃した正体は森の低木に潜んだたきなだった。彼女の手元には巨大な消音器の付いた自動拳銃(S&W M&P9L)が握られている。

 

「…」コク

 

弾道を辿り、たきなの姿を確認した千束はすぐに飛び出して自分の落とした銃の元まで駆け出す。

 

「チッ」

 

男は軽く舌打ちをして千束を視線で追うと、彼女は落とした自分の拳銃を持って引き金を引く。

 

「クソゥ、見えずらい…!」

 

千束は先ほどの攻撃で視界にやや問題があり、照準が狂うことがあった。

 

ブォォオオンッ!

 

その時、公園にエンジンの唸る音が聞こえる。

 

「うおっ!?」

 

公園の丘から一台のバンが飛び出すと、ドリフトをしながらスライドドアが開いた。

 

「大丈夫?!」

「ナイスタイミング」

 

そしてすぐさま車内から防弾盾を装備した浅美が飛び出して千束の前に盾を置き、同時に持っていた発煙手榴弾を投げる。勢いよく吐き出される煙を前に男達は驚愕し、首謀者の男は反射的に耳を塞いだ。

 

「制圧しろ!」

 

すぐに確認をして浅美が指示を出すと、車内に乗っていた他の面々が持っていた消音器付自動小銃(SIG MCX RATTLER LT)の引き金を引く。

 

「うおっ!?」

「ぎゃあっ!」

 

すると自動発射された亜音速小銃弾(300BLK)によって被害を受ける。重い弾頭の亜音速弾は一撃で対象を無力化する十分な威力を持っていた。

 

「車に乗って」

 

片手で拳銃の引き金を引いて援護を行う浅美。

 

カンカン

 

軽快な音と共に防弾盾に命中した拳銃弾が弾かれる。

 

「防弾!?」

「拳銃弾でグレードⅣが抜かせるかぁ!」

 

浅美はそこで反撃で発砲すると、一人が倒れる。

 

「ああもう!上手くいってたのに!!」

 

その光景を前にロボ太は両手をあげて叫ぶ。

すると視界の反対で一台の乗用車が飛び込んできた。側面には『喫茶リコリコ』の看板があり、運転しているのはミズキだった。

 

「たきな!」

 

そこでドアが開き、ミカが叫ぶと攻撃を集中的に受けていたたきなは茂みから動けなくなった。

 

「あっち攻撃!たきなちゃん車に載せて!」

 

浅美がソレに気がついて指示を出し、甲高い銃声が一斉に聞こえると、たきなを攻撃していた面々が一瞬だけ怯んだところをすぐに彼女は車に飛び込んだ。

 

『全員乗った!』

「出して!」

「了、解!」

 

たきなが車に乗ったのを確認すると、三条はアクセルを踏んで走り出す。そのままスキール音を立てて走り出す二台の車に銃が向けられる。

 

「チッ、邪魔なんだから!!」

 

バンのサンルーフから消音器付短機関銃(PP-91-01)を取り出して発砲する浅美。

 

「逃がすかよ!アランリコリス!!」

 

その時、千束を襲った緑髪の天パ男の声と顔を視認する。

 

「っ!?」

 

その姿に一瞬目を見開いた浅美だったが、逃亡を図る白いバンの目の前に一台のワゴン車飛び出して来たことに意識を持っていかれる。

 

「目の前!」

「自爆!?」

 

飛び出してきたワゴン車には運転手がいなかった。

 

「ここまで来て逃がすなよ!!」

 

それはロボ太のハッキングで操縦をされた使い捨て用のワゴン車だった。

 

「うお!やばいっ…!!」

「直前で右に切れっ!!」

 

慌ててハンドルを切り、その方に銃を向けて引き金を引く。

 

「タイヤは!?」

「撃っても止まらない!映画じゃあるまいし!」

 

乗り込んだ千束にほぼ怒声で返すと、重いバンは突っ込んできたワゴン車とギリギリ掠って避ける。

 

「っ!」

 

その直後、運転席に向かって短機関銃を連射する浅美。すると突っ込んできたワゴン車は運転席のナビやハンドルがズタズタに穴が開く。

 

「くそっ!壊しきれない…!」

 

そう言いエンジン部分を破壊できなかったこと悔やんで新しい弾倉を装填する浅美。突っ込んできたワゴン車はそのまま公園のアーチに激突して停車した。

 

『くそっ!』

「ハッカー!その車俺が使う!」

 

舌打ちをするロボ太に男が叫ぶと、逃亡中の二台の車に男達は拳銃(マカロフ)を向ける。

 

「逃がすな!撃て撃て!」

 

目標は白いバンに乗ったことは報告されており、ゆえに集中的に狙われていた。

 

「集中狙いにされてる…!!」

「不味いな…」

「もう弾がありません」

 

ソレを見ていたミカ達は渋い顔を浮かべた。自分たちも撃たれているが、集中的に千束の乗り込んだ車の方が狙われていた。

 

「どけ!」

 

その時、男達はいくら撃っても効果の見えない白いバンを相手にある物を取り出す。

 

『ヤバいので狙われているぞ!』

『不味い!隊長!ランチャー!』

「ヒィイ!!」

 

ロケットランチャーが出て来たことに千束も悲鳴をあげて拳銃で応戦する。

 

「チッ、あと残っているのは?」

「小銃無し!」

「あとこれだけ」

 

そこで短機関銃を使い切って車に視線を送ると、そこで柊は片手に単発式拳銃(パックマイヤー ドミネーター)を渡してくる。

 

「…チッ、しのごの言ってらんないわね」

 

単発というのと、この拳銃の持つ意味合いを前に少々表情を歪めるが、装填済みのソレを手に握る。

 

ッーー!

 

「うわっ!キタァアア!!」

 

その瞬間、一人が肩から対戦車ロケット発射器(パンツァーファウスト3)から弾頭を発射した。

 

「当たるか祈れぇっ!」

「っ!!」

 

浅美はそう叫んで両手でそのロケット弾に照準を合わせると、引き金を引いた。

 

ッ!

 

単発式拳銃から放たれた7.62mm小銃弾(.308 Winchester)はそのままロケットに近づくと、展開した安定翼の根本を貫通する。

 

「…マジか」

 

その弾道を見ていた千束が呟く。その瞬間、安定翼を飛ばされてあらぬ方向にロケットの推進剤が吹き出してバンの真横を掠めて行くとその後ろで車に乗り込もうとしていた男の方に飛んで行った。

そしてそのまま弾頭は事故って止まっていた車に命中すると大爆発を起こした。

 

「ぬおっ!?」

 

その爆風でバンの後ろのガラスにヒビが入ってしまい、サンルーフから顔を出していた浅美はその熱気を感じ取った。

そしてその爆発の勢いはそのままに、一目散に二台の車は公園から飛び出して行った。

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