「いでででっ…手ぇやった」
軽く捻った浅美が患部を保冷剤で冷やしており、ソレを見て小塚原が言う。
「流石に今回は消耗しましたね」
公園から脱出し、その足で喫茶リコリコに戻った彼女達。
「新品に変えていきなり実践かいな」
「流石に用意した弾丸を一気に消費しちゃいましたね…」
そこで彼女達の手元には昼に更新したばかりの武器が並べられていた。
「で、今はこの状況…と」
浅美は視線を移すと、そこでは店の中央で正座をしているクルミの姿があった。
「うぅ…」
「…」
そして彼女を見下しているたきなとミズキ。
「つまり…全部コイツが原因ってこと」
「なんだよ!助けてやっただろ!?」
片手にジョッキビールを持ってミズキが言うと、クルミは反論をした。
「たきなは被害者なんだから、言ったれ言ったれ!」
クルミがハッキングをしていたという事実を知り、あの事件でたきなが降格をされる直接的な原因ともなった彼女を前にミズキが囃し立てる。
「どうすんのぉ、たきな?やっちまうか?」
ミカに包帯と湿布を巻かれながら千束が言う。
「千束ぉ…」
これほどの怪我をしたと言うのに何処か楽しげな余裕を見せる彼女に、クルミは弱々しく声を絞り出していた。
今の状態として、たきなが降格させられることとなった直接的な原因が目の前で正座をしており、彼女への生殺与奪の権利を持っているのはたきな。と言った具合である。
「っ…ごめん!たきな!」
クルミはそこでたきなに向けて土下座を行う。その姿はただただ許しを乞う謝罪一心の姿だった。
店中によく聞こえる声が響き、ソレがまた静寂に戻る頃にたきなは小さくため息をついて口を開いた。
「…あれは私の行動の結果であって、クルミのせいじゃありません」
その返事にミカと千束は顔を見合わせて笑みを見せる。初めからこうなるとわかっていた様子だった。
後ろではミズキがたきなの思っていたよりも早い許しブー垂れていたが、それを浅美達が宥めていた。
「でもアイツは捕まえる。最後まで協力して貰いますよ」
「勿論だ!」
たきなに許しを得たクルミは大いに頷くと、そこでタブレットを持ち出した。
「早速だが、奴の名前が分かったぞ!」
彼女はそう言うと、タブレットに先ほどの事件の一場面の映像を見せる。それは男たちの歓声を録音した物だったが、ソレをトリミングした様子だった。
「ほらここ。ま〜じまさ〜ん」
トリミングを行ったことでよく聞こえるようになったその名前。
「真島…」
「先生知ってる?」
「いや…」
千束が聞くと、ミカは首を横に振った。
「浅美達は?」
「さぁ?」
「初めてお見受けする方です」
「取引先にいたっけ?」
「いや?」
「知らないっすね」
「真島?」
今度は椿小隊に振ってみたが、彼女達も知らない様子だった。
バンッ!「またドァアアッ!!?」
その時、ロボ太の部屋に真島という男を先頭に屈強な男婦二人がまた部屋に入ってくる。
「えっと…皆さんご無事で…」
真島はロケットランチャーの爆発によってそのまま運河に投げ出されており、体は濡れたままであった。ロボ太の部屋に入った真島はそこでゆっくりと口をひらく。
「よぉハッカー」
「はいっ!!」
すっかし彼に怯え切ってしまっているロボ太は声を張り上げて堪えると、真島は言う。
「見直したよ」
「…へ?」
てっきしまた要望に応えられずに叱られるのかと思っていたのだが、予想外の言葉に変な反応を見せてしまう。
「面白いやつを見つけたなぁ!!あれじゃなきゃ俺とはバランスが取れねぇ!!」
「へぇ…!?」
その時、ロボ太は真島に圧倒されてしまい、真島はロボ太に最大限の感謝と興奮を見せつけて言う。
「これから忙しくなるぞ!?あのリコリスのことをもっと教えろハッカー!!」
「へえぇーーーっ!?」
ロボ太は依頼主の真島の興奮と変容ぶりに唖然となりながら驚愕した。
「先ほど真島達が錦木千束を襲撃しました」
都内某所にて、女性が報告をする。
「あのハッカー、
ワインボトルを片手にその女性が言うと、報告を聞いていた吉松が続きを聞いた。
「ほう…それで?」
「錦木千束は軽傷。後に喫茶リコリコと椿小隊が回収しました。一方で真島達側の重軽傷者は10名を超えます…が」
そこでワインを注ぎ終えた彼女は、少々鋭い目で伝える。
「死者はゼロです」
深刻な眼差しで彼女は報告を終えると、聞いていた吉松は目を閉じる。
「またしても…か」
ほんの小さなため息をついてしまうと、女性は今まで得た情報からまとめた推察を伝える。
「不殺はやはり、錦木千束の意思と思われます」
ワインを提供し、受け取った吉松は女性に話す。
「君にも動いてもらうことになるかもしれないな。姫蒲君」
吉松は部下である姫蒲に今後の予想次第での動きを予測して少し考えてしまう。
「一応、主にしている方の動きは順調に進んでいる。まあ、君が動く前に終わることを願うばかりだ」
彼は意味ありげにそう語ると、ワインを傾けた。
「畜生、パンツァーファウスト3って持ち込まれた武器じゃん」
「現場に落ちていたマカロフも回収されて残っていなかったそうです」
現在、病院の駐車場に停めた車の中で浅美は頭痛がしてきていた。
「頭痛くなってくるって…」
「ロキソニンいる?」
「まだそこまで行ってない」
現在、怪我をした千束の送り迎えのために
怪我をした千束に念のために、と言う理由で病院まで来ていたのだ。
「いいねぇ、このまま二人は暮らすのかなぁ?」
「同棲?」
「あるいはシェアハウスか…」
そこで今病院にいるであろう二人に対し、どこか羨望のような眼差しを向ける浅美に同乗していた草生津がやや悪い顔をした。
「あっ、もしかしてヤキモチ?」
「んなわけ」
「でも錦木さんと井上さんの仲は日に日に深まってってまっせ?」
「まあね…」
たきなの左遷辺りから見て来ている二人の関係。次第に打ち解けて行っていることは目に見えて分かっていた。
「羨ましくないんですか?」
「ん?ん〜、そうだねぇ」
片手に先の武器取引で入ってきた武器の明細にボールペンで印を付けながら答える。
「羨ましいけど…逆に安心できるんだよね」
「ほ…?」
少々予想外な返答に草生津は驚いた返事をしてしまう。
「私が海外に行くってなった時、正直一人で千束を残していくのが不安だったの。ほら、あの子って子供っぽいでしょう?」
「それは…まぁ」
草生津も今までの彼女のと付き合いからも薄々分かっており、彼女の子供らしい奔放さは時に目につくこともあった。
「だから、誰かの目がないとどこかに行っちゃいそうな気がしてね…」
「…」
「その点、たきなちゃんには感謝しているよ。おかげで千束もいい人生を送ってもらえそうだから」
そんな願望のような彼女の呟きに、聞いていた草生津の手が止まった。
「…あの、隊長」
「ん?」
草生津はそこで少し恐るような様子で聞いた。
「隊長も、どこかに行ったりしないでくださいね?」
「…」
彼女はその時、浅美を見ずに言った。
「…ふっ」
そんな彼女の表情を見て浅美は短く笑った。
「大丈夫よ。安心しなさいって」
彼女はそう言ってドライバーの草生津を安心させるために肩を二回軽く叩いた。
「私は最後まで椿小隊の隊長として職務を全うするつもりだから」
彼女がそう言い切った時、車が二回ノックされた。その瞬間、二人は表情を変えてドアロックを外してたきなを車に乗せた。
「お〜、お疲れ〜。あれ?千束は?」
乗り込んだのはたきなだけであり、行きに乗せた千束の姿が見当たらなかった。するとたきなはその訳を伝える。
「定期検診です。後で迎えにくる予定です」
「あ〜ね、了解」
「じゃ、出すよ」
そこで草生津がアクセルを踏むと、病院の駐車場から車は出ていく。
「何?やけに笑顔だけど、どうしたの?」
その時、浅美はやけに嬉しそうな顔をしたたきなに声をかけると、彼女は言った。
「千束にじゃんけんで勝ったので」
「おぉ〜、すごいじゃん。早出し?」
「はい、店長とミズキさんが」
それだけで粗方の事情を察した浅美はたきなに言う。
「ははは、じゃあもうじゃんけんで負けることはなさそうね」
「はい。あいこにならない限りは」
「…ずるいよねぇ」
「ええ、でも対処法を編み出せましたから」
その時、一瞬だけ声のトーンが落ちたことにたきなは気が付かなかった。
その後、喫茶リコリコまで車を走らせると、店先に見覚えのある顔を見た。
「あら?」
そこには赤いファースト・リコリスと紺のセカンド・リコリスの制服を纏った二人。
「先ぱ〜い、入るんならさっさと入りましょうよ?」
「い…いま忙しいかもしれない…だろ」
「この店が忙しいところなんて見たことないっすよ…」
店の前で文字文字とした雰囲気をしていた彼女達に窓を開けて浅美が顔を出す。
「お〜い、フキ〜」
「ん?」
「あっ」
声をかけると、そこでフキとサクラは車に乗る浅美やたきなを見た。
「随分と派手にやりやがって…」
「いやぁ、流石にあれは想定外だって」
喫茶店の前でフキはベンチに座って助手席に乗ったままの彼女に話しかける。たきなはここで降りてフキの隣に座っていた。
「ま、どっかの誰かが花火で騒いだってことになるだろ…」
「そうですか…」
そこでたきなが反応し、毎度の如く証拠隠滅を行うラジアータの腕前を確認する。
「それで…その真島って男が首謀者で間違いないんだな?」
「はい、サードの四人が襲われたのはあの取引現場でドローンに撮られたせいです。その画像が真島の手に渡り、顔を知られてしまった…。流出元は不明です」
一連の報告の誤差が無いように改めてたきなはフキに伝える。そして事前に聞いていた情報との差異もないことを確認した彼女は握り拳を作る。
「くそ…一人残らず殺してやる!」
「「…」」
その時、たきなと浅美はその流出元の顔にクルミが出てくるが表には出さなかった。
「まあいい…真島の顔は見たんだろう?モンタージュ作るのにお前達も協力しろ。近々本部から迎えがくるはずだ」
フキはそれだけ言うと満足した様子でベンチを立つ。
「それだけですか?」
「あん?」
言うだけ言って帰っていく様子のフキにたきなが首を傾げた。
「いえ…それを伝えるためにわざわざ店まで直に?」
「…」
こういう場合、彼女の性格からして警戒らかの連絡だけで止める気がしていたたきなは首を傾げると。サクラが言う。
「おいおい察しろよオメーよぉ!」
彼女はやや茶化すような、面白がるような様子で言う。
「フキ先輩はーーーーうごふっ!?」
サクラが何かを言おうとした時、フキは容赦なく鳩尾に肘鉄を喰らわせた。
「ま…まだ何も言ってないす…」
「言ってからじゃ遅いんだよ」
悶絶をするサクラを他所に浅美が少し笑って言った。
「フキちゃんは教官に尊敬以上のアツ〜い眼差しを送っているのよ」
「っ!?テメェ!」
その直後、顔を真っ赤にして車の浅美を掴もうとしたが、一瞬遅く車は走り出してしまった。
「チッ、アイツ…!!」
過剰に反応するフキに首を傾げながらも、たきなは言い忘れていたことを思い出す。
「あ、千束なら大丈夫です。数発殴られはしましたが、腫れももう引きました」
「んなこと誰も聞いてねーよ。…ってか、アイツいてよくそれで相手皆殺しにならなかったな」
フキは軽くため息をついた後に路地を歩き出す。
「はぁ…お前もあんま調子に乗ると痛い目見るぞ。行くぞサクラ」
「えーー!せっかく来たんだから何か食っていきましょうよ!?先輩もそれ目当てで来たんじゃないんスか〜!?」
その行動に驚くサクラは慌てて後を追いかける。
「フキさん?」
「あ?まだ何か…」
その時、たきなはフキに手を差し伸べる。
「ジャン!ケン!ポン!」
そして唐突にじゃんけんをすると、それに反応をしてフキ則なはグー、たきなはチョキを出した。
「…」
「…」
お互い沈黙が過ぎり、その後静かにたきなは結果だけを見て店に入って行った。
「なんすか、アレ…」
その行動にサクラは唖然となる後ろで、フキはじゃんけんで勝ったことに、それ以上の意味合いを持つようにグッとその勝利を噛み締めていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No