真島と呼ばれる男に襲撃をされ、千束の負った傷も治った頃。
カリカリカリ…
卓上で千束とたきなが見合って何かを懸命に描いていた。
ここはDA関東支部の有する施設、都内に構えられている司令部である。
彼女のそばには楠木司令とその秘書が立って二人を見下ろしていた。そして書き終えたところで千束が言う。
「せーの!」
そして同時に楠木に二人は司令を受けてその真島の似顔絵を見せる。
「……それが真島か」
「「はいっ!」」
二人は聞かれ、大いに頷く。
「「これが真島です!」」
そう言い、堂々と似顔絵を見せた二人。
「…………っ」
「〜〜〜〜っ」
しかしお互いの絵を二人は見合った時、たきなは顔を青くし、千束は必死に笑いを抑える。
「ブハハッ!それはねーわ!」
「漫画じゃないですか!」
それを見た二人はそれぞれ爆笑して指摘をすると、お互いを否定しあった。
「んぐっ」
それを見ていた浅美も飲んでいたお茶を吹き出しかけた。フキもその提出された似顔絵を見た瞬間、目元を暗くした。
「…お前ら」
そして彼女はプロの描いた似顔絵を見せつけながら叫ぶ。
「全然違うじゃねーか!!」
その顔は二人の絵と違い、もっと現実の人らしい顔をしていた。
「だってソレ似てないし…」
「似てない…」
「そう言うから描かせてんだろうが!」
フキはそう言うと、千束は反論する。
「ならフキが描けよ〜」
「お前らしか見てないんだから描ける訳ないだろ!」
そうしてフキと千束の言い合いに発展した中、ソレを見ながらスケッチブックに鉛筆を走らせる。
「楠木司令、こんなもんでどうです?」
「…確認する」
浅美もこの似顔絵を描くように言われていたのでそれを提出する。
「…お前達」
「「?」」
その似顔絵を見た時、楠木は千束とたきなに聞く。
「今し方提出されたモノだ」
「おぉ…!」
「これは…」
その絵を見て二人は満足げに頷く。
「これです!今までで一番いいかも」
「ですがもうちょと垂れ目のような気がします。そしたら、概ね正解かと」
「了解した」
楠木はその似顔絵を描いた作者に視線を向ける。
「情報提供に感謝する」
「そりゃあどうもです」
浅美は楠木に軽く返事をすると、彼女は秘書と共に部屋を出て行く。
「それから椿小隊は、次からは制服で来るように。いいな?」
「は〜い」
『反省してまーす』並みの返事をすると千束が言う。
「ありがと浅美〜」
「そりゃよかった」
参考になる程度の似顔絵を描ききった浅美にたきなも安堵していると、
「どっちにしても、リコリスは絵を必修にすべきっすね〜」
サクラは二人の絵の腕前を見てやや呆れていた。
そして似顔絵を描き終えて帰り道の途中。
「しかし不思議です」
「ん?」
たきなは後部座席でふと口にする。
「椿小隊は事前にクルミ…ウォールナットが犯人であると突き止めていたんですよね?」
「あぁ〜、そうなの?」
その時、現場にいなかった千束はハンドルを握る浅美に聞くと彼女は頷いた。
「ウォールナットから依頼を受けた時、抹殺をしなかったのはなぜですか?」
「たきな?」
そのド直球に質問をした彼女に千束が少し含んだ目で見ると、バックミラーを確認した浅美は答える。
「そう簡単に抹殺できるならよかったんだけどね…」
「「?」」
ハンドルを握る彼女は、少し難しい表情をする。
「ほら、あの依頼って私たちが個人で請け負った依頼だから…正式な依頼じゃないでしょう?」
「…」
「だからウォールナットをあそこで抹殺してても怒られることはないんだけどさ…ただね、ウォールナットて今まで何度も死亡しいるから、確証を持った死亡確認ができる状況じゃないとね」
彼女はハンドルを切って交差点を曲がっていく。
「うおっと…」
その時、横断歩道を一人の若い男が走って行き、急ブレーキを踏む。
「あぶねえだろが。ボケェ」
「…」
飛び出してきた男に向かって暴言を千束が吐くと、運転手の浅美は足元を見つめる。
「浅美?」
「あっ、すぐ出す」
そこで曲がり角の途中で止まっていた車をやや慌てて走り出させると、そこで先ほどの話の続きを言う。
「では、クルミの正体を暴いた時点で動けばよかったのでは?」
「私に子供の容姿をしたあの子の手出せねぇよ。隊員に殺させる未来しか見えないっての」
「あぁ、そっちのハッカーね…」
そこでパソコンの待ち受け画面からシールから、ウォールナットを尊敬している納谷はるの顔が思い浮かぶ。
「部下から殺されたくないし、色々と役立っているしで…まあ殺す必要はないよね?ってことになったってオチかな」
「なるほどね〜」
車を走らせていると、彼女はため息を付いてブレーキを踏む。
「全く嫌になっちゃうよ。この前の滅多撃ちで白バン廃車確定になっちゃったし」
真島達から集中砲火を受け、帰り際には穴だらけになってしまった
「そういえば新しい武器を使っていましたね。あの時」
「まだ支給されたばっかの新品よ〜。今度から、緊急時は全員あれで武装するって話」
「え〜、羨ましいな〜」
そう言い、新しい武器と聞いて羨ましそうにする千束。
「おかげで転向訓練で忙しくなるわよ?」
「うへぇ、面倒くさ」
千束は明らかに増える仕事を前に顔を歪めてしまうと、喫茶リコリコの駐車場に車を停める。隣には喫茶の社用車が止まっていた。
サイドブレーキスイッチをつけて車を停車させると、そこで千束達は車を降りる。
「んあ〜、疲れた〜」
「お疲れ〜」
そこで三人はそのまま店に行く途中、千束は言う。
「あっ、そうだそうだ。浅美、今度からはリコリコには制服で来なさいよ?」
「は?」
その突然な提案に驚愕する浅美。
「あんたねぇ、いつも店に来る時私服で来てるからね。制服があるんなら、そっち着なさいよ」
「こっちの方が着慣れるって。制服なんて肩っ苦しいもんでわざわざ移動なんてできるかい」
彼女はそう言って反論する。
「どうせ色違いで制服を揃えたいだけでしょ?」
「分かってんなら着てきてよ〜」
「ヤダ」
そう言いながら店に入ると、そこではミカが接客を行なっていた。
「たっだいま〜!」
「ただいま戻りました」
千束とたきなはそこでいつもの挨拶をすると、最初に入った浅美に常連客達が反応した。
「おっ、浅美ちゃんだ」
「いらっしゃい」
「どうもどうも、皆さん」
彼女はそこで軽く挨拶を済ませると、そこでくるりと回ってミカを見る。
「では教官。今日からお世話になります」
「ああ、ここでは店長と言ってくれ」
そう言うと、浅美はそのままカウンターの奥に入っていく。
「ん?」
その動きに千束は首を傾げた。
「ちょいちょい、そっち従業員用だぞ〜」
今までお客としてこの店を訪れていた彼女に軽く言うと、浅美は答える。
「あら失礼?今日から合法的にここに入れるんすよ」
「ほ?」
「え?それって…」
たきなはその意味を理解すると、ミカが言う。
「今日から不定期で入ってくれる事になった。アルバイトでな」
「え?うっそ〜!今日から働くの?」
「そゆこと」
彼女はそう言うと、それに聞き耳を立てていた常連客が驚いた声を上げる。
「え?浅美ちゃん働くの?」
「ええ、ですのでちょっと着替えてくるっす〜」
「マジか、こりゃあ驚きだな」
新しい戦力として浅美が来ると聞いて常連客達は一斉に沸き立つ。
「先生〜、なんで教えてくれなかったんですか?」
「サプライズにしたいからだそうだ。だから彼女が出てくるまでは更衣室は使用禁止だ」
今日からバイトに入る彼女の唐突な話に千束は驚きながら隣に座ったたきなに聞く。
「ねぇねぇどんな制服かなぁ?」
「私に聞かれても…」
ミカから禁止令が出たのでしばらくどうしようもできない二人は、そんな話をしていた。
「…随分と時間かかってますね」
「そりゃたきなの早着替えには敵わんて」
そこで中々出て来ない彼女を前にたきなが着替え室の方を見ると、ゆっくりと着替えた浅美が出てきた。
「よっ…と」
「おぉ…!」
着替えた浅美は千束達と色違いの着物を羽織っていた。
「どう?今日から新人のヘルパーっす」
彼女は黒い着物の制服を羽織っていた。
「可愛い〜!」
「おっと。そりゃよかった」
その格好を見た常連客は声を上げた。
「ちょっとやだ。黒って喪服みたいじゃないのよ」
「失敬な!黒はかっこいいでしょうが!」
水を刺すように言ったミズキにガッと視線を向けて反論する。
「初めは紫だったんだが、私と被ると言ってな…」
「え?紫?それも似合うな〜」
「いやいや、流石に教…店長と被るのは…」
黒い着物を羽織った彼女を見て、常連客の一人。漫画家の伊藤は黒い着物姿の浅美を見てピンときたようにメモ書きを始めた。
「黒い着物…これは予想外だわ!」
浅美は段々と伸びてきた髪を後ろにまとめ上げており、首の後ろで団子を作っていた。
「なるほど、黒い着物モノってのは盲点だったわ!」
「いいアクセントになったみたいで」
その反応を見てやや満足げに他の常連客達を見る。
「と言うことで、今日からよろしくお願いしまっす〜」
正式に喫茶リコリコのバイトとなった浅美を出迎える。
「いやぁ、こんなに行く理由ができたら、いよいよ破産しちゃうね〜」
そんな新しい店員を前に阿部が少々困った表情で見る。相変わらず、パトロールの為にこの店に巡回しに来ていた。
「そうです?」
「ああ、おまけに襲われないか心配だよ。最近は何かと物騒だしね」
阿部が言うと、それに徳田や伊藤が頷く。
「この前の中国人看護師の事件からこっち、色々と危ないですしね」
「外国人への暴行事件もあるって話ですし…」
「ネットだと、いろんなデマも流れているしで…あんまり一人で出歩けなくなりそうで怖いですね」
北村もそれに頷いて最近の世間の不穏な空気に不安視している。
「ここ最近、外国人の取り締まりをするように上からもよく言われていてね」
「あら、警察でもやっぱりそうなんですか?」
「まあ、動けるだけまだいいかもしれませんけどね」
阿部はそう言って刑事として本心を漏らす。
「治安を守る上では仕方のない事ですけどね。流石に暴行事件になったら止めようがありませんよ」
「最近は物騒っすもんね」
「政治部から聞いら噂だと、国会で外国人の就労を規制する法案が出されるって話も聞きましたよ」
「その方がウチとしては安心できるんっすけどね」
徳田がそこで雑誌編集者として出版社で聞いた話を口にするとミカが言った。
「浅美」
「ほ〜い」
彼女はそこで注文の入った甘味を取りに向かった。
Do you want a happy end?
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