初めてアルバイトをすることとなった浅美はオーダーを受けて注文品を取りに行く。
「おはぎセット、テーブル三番に」
「はーい」
ミカに言われておはぎセットを配膳していく浅美。
「おはぎセットお待ち〜」
黒い着物に身を包んだ彼女は注文を受けていた甘味を提供していく。
「浅美ちゃ〜ん」
「はいは〜い」
今日からアルバイトとして働くと言うことで、初日から多くの注文を捌いていた。
「エスプレッソ4、モナカ2、宇治抹茶かき氷ミント追加〜」
「ほいよ〜」
多くの伝票に注文を書き入れて厨房に渡していく。
「ほい、宇治抹茶かき氷。手慣れてるね〜」
千束はそこで注文の入った宇治抹茶かき氷を出すと、それを受け取った浅美は言う。
「そりゃホテルのウェイター紛れて仕事したことあんだから」
「おぉ、すっげ」
他人が聞いていても違和感のない範囲で答え、その意味を誤解しなかった千束は驚く。
「は〜い、宇治抹茶かき氷ミント付きで〜す」
「わぁ〜っ!」
浅美に対応された客は総じて喜びながら甘味を受け取る。
「大盛況だね。普段からは考えられない」
常連客の一人としても数えられる浅美は一通りの注文を終えてカウンター席に座り込む。
「浅美フィーバーってことだよ」
「…バブルの間違いでしょ」
千束と浅美はカウンター越しでそう話すと、それを見たたきなが一言。
「二人とも、サボらないでください」
「サボってないよ?次の注文が来るまで休憩しているだけだから」
「それは屁理屈って言うんです!」
たきなは反論をすると、そこで腕時計を見る。
「まだこんな時間か…」
「おやつ時だよ〜」
今の時間を確認して浅美達は次の注文を待つ間に彼女は耳打ちをした。
「千束、後で地下の荷物の搬出手伝ってくれない?」
「ほ?いいよいいよ。そうだ、この際全部持ってってよ」
「それは無理なんだけどさ」
浅美はそこで店の地下の射撃場に積み上げた各種武器箱の搬出を依頼する。
「なんかスゲェ注文入ったから持っていくわ」
「何を?」
「対物火器。接収したバレットM82」
「うへぇ、そんなものまで預けてたんかい」
呆れるほど多彩な武器を地下に運んでいたと千束は呆れた。
「こりゃたきなにもヘルプ出さないとな」
そこで彼女はたきなにも同様の事情を説明してからヘルプを要請すると二つ返事で頷いてくれた。
「と言うより、よくそんな武装を持ち込めましたね」
「うまくやる方法があるの」
彼女はそう言うと店が終わった後にミカに伝えて作業をすることを伝えた。
「あまり無茶はするなよ?」
事情を聞いたミカはそれだけ言って注意を促した。
そして数時間後。
「んん〜っ!」
「気をつけて。四二キロぐらいあるから」
三丁の
「なんで、こんな馬鹿でかい武器を持ってんのよ…!!」
「六年前、グアンタナモの麻薬組織を潰した時に丸ごと接収したの」
「こんなものが…麻薬組織の資金力には、目を見張りますね」
たきなは千束と共に箱を引っ張っで持ち上げる。
「正直、国軍よりも質の高い装備で固めているから厄介なことの方が多いよ」
麻薬組織というのは常に莫大な利益を上げているので、硬い装備で固めていることが大半であった。
「だから、麻薬組織を叩くときは必ず敵から武器を奪うのが常識」
「うっわぁ、スッゲェ」
「壮絶ですね…」
さっと話された衝撃的な話に千束達は苦笑してしまう。
「他にも色々とやることがあってね。まあ詳しくは言えないんだけどさ」
そこで三人で苦労しながら駐車場まで運び終えると、そのまま地面に置いた。
「だぁあ…重かった」
「まだまだ数はあるんですから、ここで倒れないでくださいよ」
「えぇ〜」
千束はやや疲れた様子をすると、そんな彼女にたきなが言うので悪態をついた。
「まあまあ、でも一番重いのはこれで終わりだから。千束は先に乗って休憩していてもいいわよ?」
「ほんと?ラッキー!」
浅美はそう言い千束を先に車に乗せる。
「良いんですか?」
たきなはそこで先に休憩をする彼女にやや怪訝な眼差しを向けると、浅美は言う。
「あんまり無茶をさせるわけにはいかないからね。昔、心臓が弱かったし」
「…」
その返事を聞いた時、たきなは少しハッとなった。
千束と浅美は十年前の旧電波塔事件でタッグを組み、それ以前は殿堂入りをしてしまうと言うほど強かったとされている。当然、タッグを組む過程で二人の仲というのはどう言ったものだったのかは今の対応から想像ができた。
「まだ私と知り合った直後くらいに彼女は人工心臓を得たから、詳しい経緯は知らないけどね」
「そうなんですか…」
地下室に歩きながら浅美とたきなは話す。
「それに、あんな実用的な完全置換型の人工心臓なんて初めて見た」
「そうなんですか?」
「ええ」
たきなの疑問に彼女は頷く。
「ほら、私って仕事柄、世界中を走り回っていたんだけど…十五年にアメリカで臨床試験前に実験が打ち切られたこと以外で、そう言う実用的な人工心臓って聞いたことがなくってね」
「…知りませんでした」
「普通知らないのよ。リコリスなんだから」
私だって、千束が人工心臓を装着していなかったら調べなかった。と彼女は言う。
「で、その時にいろいろなところを走り回って人工心臓は誰が作ったのかを聞いてみたのよね」
「…それで、わかったんですか?」
たきなが聞くと、浅美は両手を広げて首を横に振った。
「ぜーんぜん?個人でやっているのか、医療関係とは距離を置いた人が作ったのか、誰かが隠しているのか、そのアメリカの実証事件以降の音沙汰はなかったわ」
「…貴女でもダメだったんですね」
全く分からない。と答えた彼女に少したきなも残念がった。
「まあね。仕事の傍で調べていたものだから、どうしたって限界があるってことよ」
彼女はそう言い、
「よっと」
「おぉ…」
一気にその箱を持ち上げた浅美の筋力に思わず声を漏らしてしまうたきな。
「たきなちゃん。その近くの黄色い箱持ってくれる?」
「わかりました」
浅美の指定した箱はこの銃の弾倉であり、中身は空っぽだった。
「ふんっ!」
しかし弾倉とはいえ何十個も入っていたので重量がある代物で、足に力をこめる必要があった。
「気をつけて」
「はい」
そこでたきなは余裕そうに銃を収納している箱を二個も運ぶ浅美に力持ちにしてはいささか外れ値な気がすることに疑問を感じつつも、自分のことが手一杯なまま車まで空弾倉の山を運び終える。
「お疲れ。ありがとね」
「いえ、これくらいは…」
そこで車のトランクに先ほど運び出した銃の箱を載せていく。
「これ、中身なんです?」
「H&K G3自動小銃が一〇丁」
「…よくそんな重たいものを一人で運びましたね」
「昔から力仕事は得意でね」
彼女はそういうと、一番上に最初に運び出した対物火器とたきなの運んだ物を載せる。しかしそこで問題が起こった。
「うーん」
「バレット、横に入りませんよ?」
車のトランクルームの横幅よりも対物ライフルを収納した箱の方が大きかった。
「仕方ない、椅子倒すか。悪いけどたきなちゃん、助手席乗って」
「わかりました」
たきなは頷くと、そこでドアを開けて椅子を倒す準備をする。
「くかーっ」
すると後ろ座席で横になって寝る千束を見た。
「何寝とんじゃ」
「あだっ」
そこで先に休憩をして居眠りをしていた千束をデコピンで弾き起こした。
「んお?積み終わった?」
「まだ、今から椅子倒すからどいてくんろ」
「ん、おっけおっけ〜」
ゆるい雰囲気で千束は答えて体を起こすと、そのまま手慣れた作業で椅子を倒して対物火器を一番上に乗せ、倒した椅子の上に黄色い箱を置いた。
「よし、全部載った」
「よくもまあこれだけ運ぶ」
「注文が多いのがいけない」
浅美はそう言うと運転席に乗り込んでエンジンをかける。
「うっしゃ、出すよ〜」
「はーい」
助手席でたきなが乗ったのを確認すると、車は新木場に向けて走り出す。
「んひひ〜、今日はお泊まりだ〜」
千束はそこで楽しみな様子で窓の外の景色を眺める。彼女達はこれから浅美達の住居で一泊する約束をしていた。
「手伝ってもらったからね。おまけに警戒体制も解除されたし」
「良いんですか?DAに申請をしておかなくて」
「こっちでやっておくから安心しておきな」
不安な様子のたきなに浅美はそう言って安心させるように言うと、車は錦糸町から都道306号線に入って南下を続けて数十分。新木場にある埠頭の一つの倉庫の前に到着をする。
「ここですか?」
「そそっ」
そこで少し待っていると、倉庫のシャッターの一つが開いて車が中に入って停車する。中は倉庫であり、コンテナフレートステーションと思われる施設だった。
「前は一瞬だったからなぁ」
「あれはノーカンじゃない?」
そう言って前に突撃してきた時のことを話すと、車から降りたたきなは施設内に積み上げられた装備品の数々を見る。
「これ…全部武器ですか?」
「そうよ。触らないでね」
浅美は言うと、唖然とした顔でたきなは積み上げられた荷物の山を見る。それらは全て武器弾薬であった。同じ武器が一箇所に集められており、その種類は多種多様であった。
「げっ、RPGまであらぁ」
「手榴弾、地雷、なんでもござれよ」
今まで接収・押収をして集めまくった多種多様な武器の山に苦笑しながら歩く。
「どう?一個分隊が一週間戦えるセットも売っているけど?」
「遠慮させていただきます」
二人はそう話すと、倉庫の管理室の扉を開ける。
「部屋はこの先」
そう言ってドアノブを掴んで部屋を一定のリズムでノックすると鍵が開いた。
「指紋?」
「あと監視。カメラが仕込んである」
そう答え、管理室の扉を押すとそこは管理人の休憩室があった。
「あれ?」
「こっちこっち」
六人が住むには狭すぎるし、何より生活感が全くない部屋に首を傾げると浅美は二人を非常階段に案内する。
「うぅ〜、冷える〜」
ここは海が近く、夜になれば冷たい空気が場を支配していた。
「随分しっかりした防犯ですね」
たきなは階段を登りながら千束の家のような複雑さを持っていると思った。
「ここにバレたらやばい物を纏めてるでしょ?だから逃げる時間を確保するためにね」
そう言って階段を一番上馬で登り切った後に再び階段を降り始める。
「また降るのかよ〜」
「安全の為だから」
そう言って階段を降りるとそこで非常階段を覆うケージに隠れて見えなくなっていた二階あたりにある扉を開けると、一気に生活感がある空間が広がり、そこに五足の靴が並んでいた。
「お帰りなさい。隊長」
すると玄関で三条が帰ってきた浅美を出迎えた。
「そしてようこそ。錦木さん、井上さん」
「あっ、どうも。お世話になります」
「おっ邪魔しま〜す!」
出迎えられ、二人は挨拶をすると靴を脱いで部屋に上がった。
Do you want a happy end?
-
Yes
-
No