新木場の椿小隊の拠点を訪れた千束とたきな。
「おぉ〜」
「すごい…ですね」
部屋はテレビやソファ、テーブルや冷蔵庫といった生活に必要な装備が諸々備わっていた。ただ、天井から洗濯物がぶら下がっていたりあちこちに使い掛けタオルが散らかっていたりして若干汚かった。
「お?喫茶リコリコペアじゃん。いらっしゃい」
「お客ですか?」
そこでゲームをしていた草生津と納谷が顔をあげて入ってきた二人を見る。
「ええ、一晩泊まるから」
浅美はそこで二人に宿泊の話をすると、そこで草生津がやや苦笑する。
「えぇ?人泊める用意なんてないんですけど…」
「お客さん優先でくじ負け雑魚寝ね」
「…まさか日本で雑魚寝を経験するとは」
とほほ、と納谷はため息を吐いた。するとそんな彼女に浅美は言う。
「ギャングとカルテルに追われて砂漠のど真ん中で寝るんじゃないから大丈夫よ」
「そりゃそうですよ」
実際に経験してきたのであろう、そんな様子でさっくりの言う物だから聞いていた千束達は驚いていた。
「すごい経験ですね」
「ヤバすぎるよ〜」
まともな人間の感性ではないと二人でもわかる話を前に千束は頭を抱えてしまう。
「さて、他にも色々と案内するから着いてきて」
「ほいほ〜い」
そこで千束が返事をして浅美の後を着いて歩く。
「しかし広いですね」
「六人が暮らすからね、どうしても広いよ」
港の倉庫を改造したこの拠点は椿小隊全員が暮らす上で充分な設備を有していた。
「代わりに拠点はココ一個しかないんだけどね」
海外で活躍していたので、それゆえに多くの拠点を持っていたが今はそれら全てを引き払っていた。
「いざとなったらウチに来るかい?こっちは三つあるんだ」
「そうならないから安心しなさいって」
リビングを出ると、いくつかの小部屋があった。
「ここが風呂と洗濯とトイレ。こっちが寝室」
「ほうほう」
部屋の案内を受けながら相槌を打ち、短いルームツアーは最後になる。居住区から螺旋階段を降りて一つ下の海抜がマイナス値になる場所に出る。
「で、この先が工房」
「工房?」
二人は首を傾げたが、見ればわかるといった様子で扉を押し開ける。
「おぉ…」
そしてその先の景色に驚く。
「マジ工場だ」
「工作機械とウチらが使う武器は全部ここにまとめてあるの」
そこには切削や研磨を行える機材が取り揃えられていた。
「ここなら本格的な銃のメンテナンスができるよ」
彼女はそう言い、分解された銃のパーツを摘んだ。
「じゃあ今度、ウチとたきなの頼んでも良い?」
「持ってきてくれたらね。改造もお手のものよ」
彼女はそう言うと、卓上に分解されて整備中の六丁の
他にも卓上には浅美の使用する単発式拳銃やサタデーナイトスペシャル、短機関銃、防弾盾が置かれていた。
「おぉ〜」
真新しいその銃を前に興味津々で千束は小銃を見る。
「あら、お客なんて初めてじゃない?」
すると奥からつなぎ服を着た柊が出てきて話しかけてきた。
「お世話になります」
「良いよ良いよ、ここら辺のは好きに見て良いから。あっ、触る時は一言言ってね」
たきなは挨拶をすると、柊はそれだけを言って機材の前に座った。
「すごいですね。こんな設備、何に使うんですか?」
「押収した銃って撃針が死んでたりするから、それを作ったりで色々とね」
「銃のパーツを自作ですか?」
「そそ、工業力が低くても製造できるカラシニコフ系列の強みよ」
そう言い、彼女はそうした銃器の修理に使用するパーツを見る。
「壊れた銃をニコイチ、サンコイチで直すことも結構ザラだから。消耗品以外は全部こんな感じ」
「で、直したそれを売り飛ばして利益を上げると」
「そうそう、予算が足りないからね。どうしたって」
「もう完全に銃器店ですね…」
たきなはそこで棚の籠に入れられた銃のパーツの山を見る。少なくともラジアータが発狂しそうなほどの量の武器が詰め込まれており、本当に行方不明の千丁の銃がもみ消せそうなほど潤沢にあった。
「それでドル払いで利益を出して、修理費元々パーツもバラ売りでしたりでね…」
「うわぁ、大変だこれ」
工房に並べられた工作機械は簡単に移動出来ないものばかりで、確かにこれなら逃げる時間を稼ぐ構造になると納得した。
ここには銃のパーツの他にも、椿小隊が潜入任務で使う小道具や毒物を管理する戸棚も用意されていた。
「これは…」
そんな中、たきなは見覚えのある物を見つけた。
「携帯型指向性対人地雷、私たちはスマホクレイモアとかって呼んでるやつ」
「やっぱりそうですか」
何枚も用意されたスマートフォンを見てたきなはその隣に置かれた色違いの見覚えのないピンク色の同じ物を見る。
「浅美さん、これは?」
「ああ、試作で作った鉄球を入れてない爆薬だけのヤツ」
それを見てすぐにそれが何なのかを説明する浅美。
「沙保里さんの一件で鉄球の飛び出さない物を試作したんだけど、爆音のする爆竹になっちゃった失敗作」
「なるほど」
たきなはそこで数ヶ月前に対応したあのことを思い出す。派遣初日に対応したあの事件ではこの指向性地雷が車のエンジンブロックを破壊していた。
しかし車内にまで被害が出ていたので、任務遂行時に危険になる可能性を考慮して爆薬のみで作ったのだろう。
「これ、貰ってもいいですか?」
「いいよ〜、使い方は覚えている?」
「はい」
そんな試作で終わったそれを数個貰い受けたたきなはそれを制服のポケットの中に入れた。
「…?」
そしてポケットにお土産を入れた時、たきなは棚の一番下の見えにくい場所に入れられていたアタッシュケースを見た。
『紫雲専用(何よりも大事!)』とシールの貼られたケースに聞き覚えのない名前にたきなは首を傾げた。
「(誰の荷物でしょうか?)」
見覚えのない名前と重厚な見た目の鞄に何だろうかと浅美に聞こうかと思った時、
「たきな〜?」
「すぐ行きます」
工房の入り口で千束が声をかけてきたので彼女はすぐに答えてから工房を出る。
「あれ、浅美さんは?」
「工房でやることがあるんだってさ。先に風呂入っててだって」
工房の外には千束しかおらず、事情を知ってたきなは振り返るとそこで柊と話していた浅美を見た。
「(あ…がわ…い…?)」
その時、わずかに見えた彼女の口元を見て読唇術を試みたが、何を言っているのかさっぱりだった。
「たきな〜」
続きを聞こうとも思ったが、千束に呼ばれたので彼女は切り上げて工房を後にした。
先に千束達を送った浅美は、工房に残った柊と相談をしていた。
「急ブレーキの反応が遅かった?」
「そう」
そこで彼女は柊に昼間の一件のことを伝えると、作業を中断して彼女は軽く頭を掻いた。
「じゃあちょっと診てみますか。そこに座って」
柊はそこで浅美に言うと、彼女は開いていた台の上に座ると、足元に椅子を敷いて柊は棚の中のあの『紫雲専用(何よりも大事!)』と書かれたアタッシュケースを取り出す。
「どこか壊れた?」
「んな馬鹿な、この前自分でメンテナンスしたばかりでしょうが」
首を傾げる浅美に柊は言うと、浅美は常に履いている腰まで覆う真っ黒なタイツを脱いで肌を見せる。
「ん〜、見た目に異常はないからカバーの変形とはではなさそうだけどね」
そこでアタッシュケースの中身の特殊な工具を取り出すと、柊はそのまま浅美の足に工具を当てる。するとその工具に合わせて皮膚から極小のネジが飛び出てくると、それを丁寧に掴んで一つずつ取っていく。
そしてネジが全て外れると、小さな吸盤を脛に当ててカパッと皮膚が外れて下からゴツゴツとした金属が姿を現した。
「え〜?どこも異常なさそうだけどね」
ライトを持って浅美の足を観察する柊。彼女の足から見えた金属の中には幾つかコードも通っており、小型のCPUがいくつも張り巡らされた重々しい見た目の機械が足になっていた。
「おかしいわね、昼間に反応が遅かったからどこか緩んだかなって思ったんだけど」
「右足に異常は無いわよ?」
「じゃあ左は?」
そう言うので柊は今まででの手順を巻き戻すように作業を行い、今度は左足を先ほどと同じ手順で確認する。
「…どこも壊れてないし、緩んでもいないけどね」
「え〜、そうか…」
問題なしと判断されて浅美は自分の足を確認すると腕を組んで考えてしまう。
「じゃあ反応が遅かったのって別の理由?」
「もっと根本…股間部かも知れないけど…」
「流石にここで股開く訳にもいかないしなぁ」
彼女は腕を組んで悩む仕草を取った。
「機械なのは下半身だけだからね」
「いわゆる脚と足の部分」
浅美は言うと、自分の股関節沿って円を描く金属光沢をするリングを見る。常にそこはスカートやズボンで隠れているので見えない上にタイツを履いていることでまずバレることは無い場所だった。人工筋肉と人工皮膚で作られた機械の両脚は明らかに異質そのものであった。
「まあ特に問題はないけど、心配なら本格的に調べるけど?」
「流石に今から飛ぶのはなぁ…」
彼女はそこでしばし悩んだ後、黒いタイツを履いていく。
「まあ、今度にする。どうせ海外に飛ばなきゃならなくなるし」
「オッケ、こまめにメンテナンスの予定は組んでおくよ」
「頼むわね」
彼女はそう言いズボンを履くと、外から見えなくした。柊は確認を終え、アタッシュケースに工具を戻して片付ける。
「こうやってみると、隊長って錦木千束と状況は似ていますね」
柊はそう呟くと、それを聞いた浅美は小さく舌打ちをした。
「チッ、心外よ」
「おっと、これは失敬失敬」
柊も軽く地雷を踏んだような様子で浅美に対応をする。
「でもバレてないからいいんじゃないんですか?」
「まだね。でも隠し事はいずれ表に晒されるのが歴史の定めよ」
「その分、気をつければいいんです。事実は歴史に埋もれさせればいい事ですしね」
柊はそう言うと浅美が工房を出るのを見送る。
「くれぐれも充電忘れないのよ」
「分かってるわよ〜」
忘れたら死活問題となる常識を前に浅美もわかりきった様子でやや適当に答えると、階段を登って工房を後にした。
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