「ーーしかし、今更なぜ閉山前の炭鉱を?」
その日、都内某所で食事会が行われていた。
部屋の中には複数のスーツに身を包んだ面々が円卓を囲んでいた。
「用心のためです」
「我々はあなた方の要望を認めます。しかしその約束として必要なのです」
座っていたのはいずれも日本を代表する重工業メーカーの役員だ。ネット上でも顔が映り込むほどの重鎮達がここには集まっていた。
彼らは招待した高級中華料理屋の一室で密会を開いていた。
「分かりました。ではそのように」
「はい」
その直後、一人が異変を訴えた。
「…少し失礼」
そこでその男は腹に違和感を感じると、直後に気を失ったように机に倒れた。
「如何した?」
「おい、客人の前だぞ!」
そこで軽く役員が叱責をすると、その直後に料理を運んでいたウェイターが持っていますトレーの下から麻酔銃を取り出した。
「うっ!?」
「かっ!!?」
そして他にもウェイター全員が部屋にいた面々に麻酔銃を放つと、全員が倒れて机に突っ伏した。
『隊長、周辺に盗聴の類は確認できません』
そして隠していたインカムから連絡を受けて彼女は頷く。
「…始めて」
「了解」
そして合図を送ると、次々と眠っている役員や役人を配膳カートの下に押し込んでいく。そして上から白いシーツを被せた。
「某国への技術移転ですか…」
「実質的な売国って事よ」
そして次に部屋にスーツを纏った面々が入ってくると、彼等は黙々と席に座った。
「あとはお願いします」
ウェイターが言うと、彼等は財布を受け取ってから頷いて談笑を始めていた。そして何も無かったようにウェイター達は部屋を後にするとそのまま店の裏口から出る。
『パペットが出ました。作戦を続行してください』
「ツバキ-1、了解。対象は拘束した。車の方は?」
浅美が聞くと、そこで納谷は停車していた自動車を前に言う。
『ツバキ-5、大丈夫です。自動運転できます』
「了解。役人を乗せるわ」
そこで彼女は回収した某国の役人を取り出して無人運転で目の前に停車したのを確認すると、ドアを開けて中に乗せる。
「…薬剤の効果はバッチリね」
「当然、このツバキ-2の謹製ですので」
浅美の一歩後ろで三条が旨を張って答える。彼女が食事に紛れ込ませた薬物の効果でこの某国の役人は酩酊状態で顔を真っ赤にして眠っていた。
「役人を乗せた。始めちゃって」
『了解しました』
そこでしっかりと役人にハンドルを握らせてからドアを閉じると、そのまま車は納谷の操作で走り出して行く。
「役員の方は如何するんですか?」
「このまま別班だか公安だか、内調だかが引き継ぐらしいから、拘束をしたまま放置して」
「了解しました」
そう答えると彼女達はそのまま裏路地から音もなく霧のように霧散して消えていった。
そして走り出した車は、そのまま加速を続けて街中を走る。
「なんだあの車!!?」
「おい!避けろ!!」
その時、横断歩道を歩いていた一人のスーツを纏った男に逃げた通行人の一人が叫ぶが、間に合わずにその男は急加速した車に跳ね飛ばされた。
そして車はそのまま店に突っ込むと、そのまま漏れ出したガソリンに引火して火災を発生させた。
その朝、ニュースで報道がされていた。
『今日午前二時頃、中国大使館所有の公用車が暴走し、通行人一人を巻き添えに店舗に衝突しーー…』
そのニュースを見て千束は言う。
「ひぇ〜、酔っ払ってんのに車運転してんじゃないよ」
どうやら泥酔状態で運転をしており、法定速度の二倍以上の速度で店舗に突っ込み、偶々諸用で出かけていた親中派の議員を轢き殺しながら店舗に突っ込んだと言う。
「酒飲んで運転なんて信じられんわー」
「あんたが一番怖いわ!」
「失礼ね、私は一度も捕まった事ないわよ!」
そこでミズキの言い放った一言に二人は罵り合いを始める。
「お前達、余り騒ぐんじゃない」
そんな二人のやりとりを前にミカはため息混じりに諌める。
「ちーっす、やってますか?」
そこで店のドアが開いて店内に浅美が入ってくる。今日は何の任務もないので彼女は私服を纏っていた。
「へぇ、ニュース?」
「飲酒運転だって。乗ってた人は全員燃えて死んじゃったって」
「怖いねぇ…」
報道されていたニュースを前に彼女は店のカウンターに座るとコーヒーを注文する。すると早速千束は話しかけて来る。
「ねぇ、今日はヘルプ無いの?」
「残念、昨日仕事があったから今日は無いわよ」
「えぇ〜、つまんねぇ〜」
その反応に千束は不満げに口元を尖らせていた。
「千束、浅美も疲れているんだ。あんまりいじめるな」
「え〜、先生まで浅美の味方かよ〜」
千束は不満げに文句を垂れていると、ミカはそんな彼女を宥める。
「ねえねえ、いつになったら制服着てくるんだYO!」
「着ないって。リコリスつったって私は正気のリコリスじゃないんだから」
そう言いながら彼女は店の戸棚に貼られたたきなと千束の描いた真島の似顔絵を見る。
相変わらず似てないなぁ、と思いつつも実に味のある絵の書き方に微笑ましくもなる。
「何だよ〜。いっつもそれじゃねえか〜」
「それが規則だつってんだろう?」
彼女はそう言って押し問答に引き問答でのらりくらりと交わしていた。だが以前に彼女達の制服を見たミカは、その喪服のような制服を前に彼女が感じている事を理解していた。
長い間少女兵として世界中を駆け回っていた彼女は、常に作戦の旅に誰かが死んでいた。死んだ死体の見分けをするために同じ柄の制服など必要ない。彼女達の戦闘記録は一切残ることはない。そもそもが国籍を持っているとはいえ、そもそもパスポートの出国記録が残らないのだ。
真っ先に作戦前に彼女達は処分するのが旅券だ。そのため、彼女達は帰国をする際は大使館に寄り道をして緊急旅券を交付して帰国することになる。
「待たせた」
「ありがとうございます」
そんな二人のやりとりを見ながらミカはコーヒーを提供する。彼女の好みの深煎り、細挽きのコーヒーだ。
「そういえば浅美の部下。なんか凄いことになってたね」
「ああ、ゆい?まあね」
そこで千束に言われ、完全に茫然自失となってしまっていた三条を思い出す。
「三条が惨状になったって?」
「うははははっww!!」
浅美はそこでダジャレを披露すると、それに千束は大爆笑してカウンターを叩いていた。
そして一杯コーヒーを飲み終えてから浅美は会計を済ませる。
「んじゃ、ご馳走様でした」
「おう、また来いよな〜」
千束は店を出る時に手を振って見送ると、彼女はそのまま錦糸町駅に向かって列車に乗り込んだ。
「…」
彼女は外で色の濃いサングラスをかけてからキャップ帽を目深く被って列車に乗り込み、都心郊外の住宅街まで列車を乗り換えてから簡素な公共住宅の立ち並ぶ施設まで移動をしてその中の一室に入る。
「よぅ」
そして何も物が置かれていない部屋の中で一人の男が床に座り込んで手を上げて挨拶をしてきた。
緑色の天然パーマ、鋭い目つき、危険な笑み。
「待ってたぜ?」
「…はぁ」
その人物を前に浅美はため息を吐く。
「今日は客人を呼んだ覚え無いんだけど」
「今日
「失敬な。私にも『友達』がいるんでね」
呆れて彼女背負っていたショルダーバッグを床に置く。
「しっかしあれだな。何もねえんだな」
「生憎ね。ここは寝る時以外使わないの」
彼女はそう言い、台所の戸棚を開ける。
「どうする、このまま帰る?」
「いや、もう少し居させてもらうぜ」
「やれやれ、初対面なのに随分と馴れ馴れしいのね。真島」
浅美は言うと、どうやってここを調べたのか真島はニヤッと笑って浅美に言う。
「ここでは久しぶりって言おうぜ?同業者」
「…」
真島はそう話すと、改めて再度浅美は溜息をつく。
「アフガニスタンでは散々世話になったんだ。カメリア・プラトーン」
「あら、気がついていたの?」
「ははっ!あの動きを見ていてピンとこなかったら、そいつは素人だぜ」
真島はそう話して目の前の少女を見る。
彼は先の千束への襲撃の際、救助に駆けつけた彼女達の動きを見てすぐにピンときていた。
「まさかリコリスだとは思わなかったがな」
「…」
その瞬間、浅美は眉を動かす。
「あら残念。間違い見たいね」
その仕草と反応を見て真島は意外な反応を見せた。
「ほぉ…リコリスじゃねえのか?」
「生憎。目的のお相手じゃなくて残念?」
「いや、会えて嬉しいぜ。『血華の戦争屋』」
真島は言うと、浅美はそこでティーバックを取り出す。
「紅茶しかないけどいいかしら?」
「ああ、紅茶は嫌いじゃないぜ」
そこで安物のティーバックを湯を沸かした湯と共にカップに注いで真島の前に用意する。
「おいおい、直置きかよ」
「言ったでしょう?ここには寝に来るだけだって」
「硬い床かよ」
そこで真島はティーバックを取り出すと、浅美は微笑む。
「これでも特上よ?夜襲も砲撃音も、ロケット砲の音も、ドローンの音すら聞こえない」
「はははっ、確かにな」
彼女の反応に真島は大いに納得しながらカップを傾ける。
「で、わざわざ何をしにきたの?」
「お前と一度話をしたかったんだ」
真島はそう話すと、その言葉に嘘は無いと理解する。
「ったく、この家には映画どころかテレビも無くてつまんなかった。もっとバランス取れよ」
「無理に決まっているでしょう?」
彼女はそう話すと、服のポケットからショートピースを取り出して火をつける。
「おいおい、煙草かよ」
「このために喫煙室選んだのよ?」
「未成年喫煙は良くないぜ」
「ふふっ、これ吸ってないとやってられないの」
千束に会う前は匂いに気をつけているためまだ気が付かれていないが、日本製の故郷を彷彿とさせる煙草だ。
「今時都内で吸う所なんて少ねえだろう?」
「まあ、こんなボロい団地じゃなきゃ無理ね」
そう言うと、彼女は携帯灰皿を取り出して灰を落として行く。
「タバコはお嫌い?」
「ああ、健康のバランスが取れねえからな」
そこで真島と面と向かって話していた浅美。
「しかし、お前は全然バランスが取れていねえな」
真島はそう言い、胡座をかいて座っていた浅美の足を見る。
「その足は何だ?カメリア・プラトーン」
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