真島の疑問というのは意外にもそう複雑なものではなかった。
「うーん、足ねぇ…」
そこで浅美は真島から指摘された自分の足に触れる。
「義足か?」
「そうね」
素直に浅美は頷くと、真島は驚いた。
「よくそれで動ける」
「慣れれば行けるわよ」
そこで真島の耳が僅かに聞き取ったモーターの駆動音に驚いていた。
「そんな高性能な義足は見た事がない。どうやって手に入れたんだ?」
「さぁね。私にも分からないわよ」
彼女はそう言い首を回した時、部屋に差し込んだ太陽光が何かを反射した。
「っ…!!」
そこで彼女の髪飾りに混ぜ込まれて反射した梟のチャームを見て真島は驚くと同時に笑った。
「はっ…はははははっ!オマエもか!」
真島はそのチャームを見て笑い出すと浅美は言う。
「某国で軍事クーデターを見ていた時、足が吹き飛んだのよ」
彼女はそう話すと、この足を貰った経緯をゆっくりと話し出した。
その日もいつもの任務だった。
当時、椿小隊に与えられた任務は某国の軍事クーデターを誘発させる事だった。
日本にあるリコリスの存在を対外的な目から逸らす為に世界各地で戦争の火付け役を担う私達の部隊は、その日はとある人物の逃がし屋業務を担当していた。
基本的にDAで役目を終えたリコリス達は十分に教育を受けた諜報員として『出荷』される。戦闘面ではそつなくこなせる腕を持っている為、其方の人々からの評判は高かった。
「…」
その時、店の中で人目に付かない席の隅で一人の男が座っていた。
何度も貧乏ゆすりをし、視線も周りが気になっている様子で落ち着きがなかった。
「お待たせしました。注文のサラダです」
そこで女性の給仕が男の前に一つの料理を提供すると、それを見た男は言う。
「ああいや、私はそれを注文していない…」
男はそう言い、間違えて配膳をしていると給仕に言おうとした。
「っ…」
その時、男は白磁の皿にソースで『exit→』と書かれていたのを見て、その直後に顔を上げて女性の給仕を見上げる。
「追加で注文は必要ですか?お急ぎください」
「…」
そこで視線を動かして誘導すると、男はすぐに従業員専用の出入り口の方に姿勢を低くしてから店を出ていく。するとその直後に店に大きく荒げた声が響く。
「探せ!」
「この店にいるはずだ!」
そこで十名ほどの若い集団が店に現れ、その手にはナイフや拳銃を握っていた。
「…やれやれ」
そこでその様子を見ていた給仕はため息を吐くと、インカムを使って聞いた。
「対象は?」
『乗りました。もう出ていますよ』
「了解」
そこで簡単に通信が切れると、そこでその集団はこちらを指差してきた。
「あそこだ!」
「追え!」
そしてこちらに向かってくる集団を前に浅美は持っていた白磁の皿を投げつけると、先頭に立った若者の頭で粉砕され、そのまま気絶して後ろに倒れ込む。そして銀のトレーを縦にすると、直後にトレーの下に隠し持っていた
「ぐほっ!」
「ぎゃあっ!!」
そこで連射して撃たれたゴロツキ達は、無防備な上に防弾装備の類も一切無かった為、拳銃弾の連射を生身で受けて倒れた。
「…」
そして銃を撃ちながら最後に彼女は
「っ!?」
「うわっーー」
そして直後に手榴弾が爆発をすると、即座に浅美は店の裏口に走って店を飛び出す。
「どう?」
『問題ないです。無事に対象は送り届けました』
三条からの報告を聞いて浅美は頷くと、そのまま纏っていた服を脱いで下から別の私服を見せる。
「よし、そのまま送り届けて」
『了解しました』
そして他のギャング達が右往左往して探している中をフードを被って彼女は通りを歩く。店に手榴弾が投げ込まれた事で警察官のパトカーもサイレンを鳴らしており、その後にギャング達が逃げ出していた。
「…比較的簡単だったわね」
浅美はそんな事を呟いて煙草を取り出して火をつけた時、
ッーーー!!
突如視界が真っ白に染まった。
何が起こったかと思った直後、彼女は自分がかなり吹き飛ばされていた事を理解する。
「ゲホッ、ゲホッ…」
軽く咳き込んで彼女は今の光景が、自分が頭の前で何かが爆発したのだと理解する。その直後、キュラキュラと音を立てて道路を前進してくる戦車を見る。
「…」
その戦車は砲口からわずかに煙を漏らしており、あの戦車が砲撃を行ったのだと理解する。
「くそっ…」
その瞬間、彼女は軍事クーデターが始まったのだと理解する。前から仕掛けていた対外工作が無事に成功した証明であったが、その行動に巻き込まれてしまうとは何たる失態かと毒吐く。
そして立ちあがろうとした時、彼女は思わず口に漏れる。
「…は?」
その視線の先では、彼女の両足が太腿から下から大量に血を流していた。今の砲撃で彼女は両足が骨ごと吹き飛ばされてしまったのだ。
「っ…あぐっ!!?」
その瞬間、自分の足がないことにないする認識を脳が把握したことで痛みが感じられるようになる。
「あぁぁぁああああっ!!」
足が吹き飛び、その痛みで彼女は悲鳴が上がる。
その先では淡々と戦車や装甲車が通りを走り出し、中央政府の主要な施設の制圧を始めていく。
「くそっ!くそがぁぁああ!!」
まだ何も終わってはいない。何も終わらせられていない。
その事が何よりも彼女の悲鳴の中の怨嗟に含まれていた。激痛が走り、彼女は止血帯を取り出して足の止血を始める。
「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ…!!」
急速に血が流れ出ていく事に焦りと恐怖が脳を支配し、浅美はその恐怖が余計に心拍数を上げて血を垂れ流すこととなる。
血が流れ出ていることで彼女は激しい悪寒を感じながら止血帯ではどうしようもない出血をしている事に段々と意識すらも遠のいていく。
「お困りかな?お嬢さん」
その時、彼女を頭越しで話しかけてくる声が聞こえ、浅美はギョッとなって顔を上げた。
「あ、貴方は…」
「どうも。さっきは世話になったね」
その初老の男は帽子を外して挨拶をすると、そこで地面に倒れている浅美を見下ろす。その男は、先ほど逃がし屋業務で流したはずの男であった。
すると男は被っていた帽子を胸元に持ってきて挨拶をする。
「初めまして、山田 浅美さん。私は君の個人的なファンだ」
「っ!!?」
その男はそう言うと、足が千切れて吹き飛んだ浅美を見た。彼女はそこで自分の本名を知っていた目の前の男を前に目を見開いて驚愕をしていた。
「ふむ…砲撃で足を失ったか」
そこで男は浅美の両足の太ももから下がごっそりと失われたのを見て軽く診断をする。通りにまで流れている血や、足が無い状況からしてそう長くは保たないだろうと言うのは素人が見ても分かった。
「君のその才能を失う事は世界にとって大きな損失となる」
そんな状況を前に男は実に落ち着いた様子で浅美に話しかける。
「君に『足』を与えよう。世界中どこへでも駆け抜ける事ができる足を…」
男はそう言うと、その直後に視線を送ってその直後に彼女の近くにバンが停車して複数の人が降りてくる。
「…嫌」
その降りてきた面子を見て浅美は手を振るわせて逃げようとするが、足が無い彼女は丁寧に降りてきた人物達に鎮静剤と麻酔薬を打たれる。
「…嫌っ!!」
そして足を止血され、担架に乗せられてバンに乗せられる彼女は恐怖で涙を漏らす。
「嫌だっ!私は…私はっ!」
そこで手を伸ばすと、視線の先で先ほどの初老の男は淡々と彼女に言う。
「君は
彼はそう話すと、バンの扉が閉じられて走り出していく。
「…」
そして一人、この場に残った男は背後で起こる軍によるクーデターの軍靴の音を聞きながら溢す。
「…君は最高の腕を持っている。戦争と言う才能をね」
そう話すと、彼は静かにその場を去った。
その後、私はどこかも知らない医療施設で治療を受けた。
砲撃で吹き飛ばされた足は、骨からグチャグチャになり、神経もズタズタに破壊されていた事で股関節まで切除をして交換する事となった。
「っ!あぁぁぁあああっ!!」
交換された機械の両足は、奇妙な感覚で装着された当初の浅美は歩行訓練を受ける事となった。まるで底の無いスライムの上をずっと歩いているような感覚、と言えば想像がつくだろうか。
看護師が常に側について歩行訓練に付き添うと、私は死に物狂いでその足に慣れていく。
「くそっ…どうして生かした…」
そこで浅美は心底恨んだ眼差しで天井に向かって叫んだ。
「アラン機関!!」
新しい機械の足を前に彼女は床に倒れ込んで、実に惨めに彼女は悲痛に叫んだ。
その後、私はリハビリを終えて某国の日本領事館に戻った。
そこで死亡したと思われていた私を前に職員は驚いた様子で私を見ていた。その後すぐに椿小隊に復帰し、私は再び任務に従事する事となった。
あの男から与えられた機械の足は、その通りに私を世界中駆け巡らせた。
「はははっ!ソイツは最高だな、傑作だぜ」
「冗談じゃ無い」
事情を知った真島は大笑いしていた。
「しかしアラン機関か…」
そこで真島は問い掛ける。
「なぁ、この世はバランスが取れていねぇと思わねえか?」
「…」
その疑問に吸殻を携帯灰皿に押し当てながら浅美は真島を見つめる。
「連中は一方的な慈善事業だけを押し付けている。それなのにどうだ、アイツらの支援で幸せになった連中がいると思うか?」
真島はそう言い雄弁に語る。それは演説をしているようにも見え、アラン機関に対する憎悪のようなものを語っていた。すると浅美は言う。
「あら、貴方も『目』を与えられたのに?」
「…ほう?」
そこで真島は浅美の指摘に彼女を見る。
「どうして分かった?」
「目元に手術痕がある。よほど上手い医者なんでしょうけど、あと貴方は耳が良い」
彼女はそう言い、カップを傾ける。
「私の足のことを見ただけで気が付いたのは貴方が最初だわ」
「…なるほど」
そこで真島は何故彼女は自分の耳のことを知っていたのかを察すると、フッと笑った。
「ああ、だからこそだ」
彼はそう言い、浅美に話す。
「リコリスの次はアラン機関だ」
DAから手配を受けている彼は堂々と言った。
「どうだ、俺と一緒に来ねえか?」
そして浅美を見ながら提案を持ちかけてきた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No