数日後、機関銃を発砲し。同時に武器商人全員を射殺したセカンドリコリス、井上たきなに処分が降った。
「転属…ですか。楠木司令」
一枚の紙を手に取って鸚鵡返しをする彼女に楠木は淡々と話す。
「司令を無視して作戦を台無しにした責任は重いーー」
楠木は彼女が発砲した事により、武器商人は全員死亡。
それによる弊害も出ていた。
「我々DAの存在が世間に知られる危険もあった」
今の所、あの発砲事件はガス爆発事故と処理され。表向きに事故となった。
「配属先にもリコリスが一人いる。優秀な奴だ、得られるものもあるだろうーー生意気だがな」
部屋を出るたきなにそう締め括って出すと、彼女はDA本部の廊下を歩く。
「あっ…」
その途中、フキと彼女に助けられたセカンドリコリス、蛇ノ目エリカが声をかけようとしたが、彼女はそのまま廊下をスタスタと歩いて行ってしまった。
「たきな…」
自分には目もくれず、彼女の処遇を聞いていた彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「良かったのですか…?あのような…」
「当面はたきなのスタンドプレーという事にしておく。命令無視は事実だしな」
秘書官の意見に楠木は椅子を回す。
「ですがあの時の通信障害は…」
「組織を守る為、と言う奴だ」
仕方ない、と楠木は思いながらたきなの処遇に軽く吐息する。
「しかし彼女の能力であれば、椿小隊に配属した方が良かったのでは?」
「無論、それもあったが…」
椿小隊の仕事を知っている彼女は何とも言えぬ表情を見せる。
「椿小隊の行動はリコリスの中でも隠蔽する必要がある。海外に派遣される以上、これ以上増員する必要も無い」
リコリスを統括している彼女から言われ、改めて彼女達に対する上層部の考え方に秘書官は少し危険視しながらも、たきなが転属する場所の資料を読む。
「この配属先のリコリスと言うのは…?」
「DAの支部の一つだ。表向きは下町にあるカフェだがな」
そう言い、秘書官は持ってきた資料を読んでいると、
「毒には毒…では無いが」
楠木は思う。
「お互い、良い刺激となってくれると良いのだがな…」
「だぁぁ…やられた〜!!」
「くそーっ!!」
テレビの前、ゲームをしていたがタイムアップで試合が終了したので浅美達は勝敗が決した。
「負けた〜」
拠点には何も無かったが、荷物の整理や家電を仕入れたのでシェアハウスのように改造されていた。
「さて、今日の昼ははるとマキね」
「えぇ〜やだなぁ…」
面倒くさがる小塚原を納谷が引っ張る。
「しかた無い。ほら行くよ」
「あっ、待ってよぉ〜」
そう言って拠点から出ていく二人を見送ると、浅美は軽くため息をついた。
「はぁ…何で私が叱られるんだ…」
「無理に決まってんでしょうにね」
草生津が頷くと、部屋にいた彼女達は上の照明を見上げる。
事の発端は数時間前、浅美の携帯に楠木から掛かった電話にあった。
「え?武器が無かった?」
浅美は聞き返して驚いた。
『そうだ、タレコミのあった武器千丁の行方は不明だ』
「どうして?」
『それを調べるのは我々の仕事だ。君達は必要に応じて武器の押収を行え。元はと言えば完全に防ぎきれなかった君たちの責務もある』
「…分かりましたよ」
全くと口には出さず電話を切ると、彼女は相変わらずな楠木に少しため息を漏らした。
「武器が無かったという事は、取引はそもそも無かったのでは?」
「さぁね、あるにしろないにしろ無いにしろ。うちらの今後は決まってる」
拠点のソファに寝転がって浅美は三条に言う。
「しばらく彼方は日本に留まるって事」
「…やれやれ、仕事が増えそうですね」
三条は呆れ混じりに、少し嬉しそうに薄く笑みを見せる。
「整備はしっかりね〜」
「えぇ、分かっていますよ」
彼女はそう答えると彼女は一つ下の作業台がある部屋に向かう。
浅美もそれについて行くと、同じ作業台でそれぞれクロスボウとサプレッサー付きPP-91の整備を始める。
三条のクロスボウは連射が可能なオリジナルであり、特製の矢が使えるようになっている。
ポンプアクションで装填を行う横幅のある散弾銃の様な見た目をしていた。
「しかし、まだクロスボウを使うの?」
「えぇ、音も出ませんし。何より列車に持ち込めるので」
「普段から銃は隠しているでしょうに…」
少し呆れながら浅美は三条を見ると、そこでふと思い出したように彼女は言う。
「そう言えば聞きましたよ。あの時の事件で機関銃を撃ったリコリスの処分」
そう言い持ち出した話題はあの時に浅美を撃ちかけた独断専行を行ったあのリコリスだ。
「あぁ、何だっけ。セカンドリコリスのね」
「てっきりうちに来るものだと思っていたんですが…」
外れ値部隊としてリコリスの流刑地とも評されている椿小隊。
リコリスの権限を剥奪された外郭部隊故に仲間からは良からぬ噂がよく流れていた。
「まぁ上にも考えがあるんでしょう?」
「異動先は錦糸町にあるカフェだとか…」
「あそこねぇ…」
自分と同期の自由奔放なファーストリコリスの住まう場所。
硬い子ほど振り回されて苦労するだろうなと予想しながら、今度挨拶してみるかとも思った。
「ただ…」
銃口からサプレッサーを取り除いてコッキングレバーを触る彼女は呟く。
「あの時、明らかに異常事態が起こっていた」
「え?」
その時、同じくクロスボウの弦を確認していた三条の手が止まった。
「どう言う事です?」
「教官が言っていたのさ。『通信障害で彼女達と連携ができん』ってね」
「え?それってラジアータに…?」
まさか、と言う表情をしながら作業の手を進める三条に
「かもしれないね〜」
まぁ見ざる聞かざるだよ〜、と軽い口調で言う浅美は銃の点検を終えた。
その後、昼を終え。仕事が入るまで暫しの休憩をする椿小隊。
「んじゃ、」
玄関でショルダーバッグに必要な物を詰め込んで浅美は濃いサングラスにキャップ帽、前の空いたフード付きパーカーを羽織ってドアノブに触れる。
「ちょっと出かけてくるわ」
「えぇ、夕方までには帰って来てくださいよ」
「おうよ」
黒色のカーゴパンツを履き、白いシャツを見に纏い。椿のピンバッジを片耳のイヤーカフに付けて彼女は背中にショルダーバッグを下げて拠点を出て行く。
「今日は荷物が届く日だったね」
「えぇ、人手が欲しいので帰って来てくださいね」
三条は念を押すように言うと、浅美は頷いて出て行った。
「〜♪」
耳にイヤホンを付け、口笛を軽く吹いて街を歩く浅美。
新木場から列車を数回乗り換えて目的地の錦糸町駅に到着する。
「やっぱアクセス悪いよ…新木場」
今更ながら、DAが用意してくれた拠点に不満を漏らしながら千束にメッセージを送った。
帰国した直後に出会った時に新たな連絡先を交換していたのだ。
『今錦糸町に居るんだけど、今から会えない?』
聞くとすぐに既読がつく。早いなおい、任務中のうちらかよ。
『いまここに居るよ!!』
そう言ってスクショされた地図にピンが刺されていた。
やけに赤文字で強調しているのは気にしないでおこう。
「…公園ね」
場所を確認した浅美は携帯をしまうと、『上を向いて歩こう』をかけながら目的地に向かった。
「あの…」
「なに〜?」
その時、井上たきなは困惑していた。
転属先にいたリコリス、錦木千束と言うファーストリコリスと喫茶リコリスという支部に。
配属されてまだ数時間しかたっていないのだが、いきなり彼女に連れ出されて多くの場所に向かった。
最初は幼稚園、次に日本語学校、組事務所…てっきりDAに関連したものかと思えば全く関係がない様子。
「この部署は一体何をするところなのでしょうか?」
「…んお?」
彼女の問いに千束は首を傾げていた。
その後、事情を把握した千束は二人で公園のベンチに座った。
「…ごめん、先生から聞いてると思ってたよ」
自販機で買った飲み物を片手に千束は軽く謝る。
千束はまだ知らなかったが、たきなは転属直後にいきなり街に連れ出されていたので何が何だか分からなかった。
「何をする所か…改めて聞かれると考えちゃうな…」
返答に困る千束にたきなは今まで巡って来た場所を思い返す。
「保育園、日本語学校、組事務所…共通点が見出せません」
「困ってる人を助ける仕事だよー」
「個人の為のリコリス?」
「そう」
たきなの端的な答えに千束は頷く。
「大きな事件がなくたって、人がいる限り色んな問題が起こるからね」
公園では実際多くの人々が遊具で遊んでおり、長閑な景色が広がっていた。
「ん?」
するとその時、千束の携帯から通知音が鳴り、彼女はその相手を見て少し嬉しげに地図アプリを開いていた。
「仕事ですか?」
「違う違う、私の友人が近くに来てるんだって」
「?」
首を傾げるたきなであったが、千束は嬉しそうにメッセージを返していた。
「今から来るらしいから、紹介してあげるよ」
「しかし…」
「大丈夫だって、会う子はリコリスだから」
警戒するたきなを軽く宥めると、彼女は軽くため息を吐いて先ほどの続きを言う。
「私たちリコリスは国を守る公的機密組織のエージェントですよ?」
「…けど凶悪犯を殺して回っている殺し屋って言われたりも…ねぇ?」
少し自分たちの存在を皮肉のように返した千束。
「…ああ言う事が起きる時代ですから。…私たちが必要です」
「そうねぇ…そうなんかもねぇ…」
視線の先には傾いた旧電波塔があり、それを囲う様に無数の鉄骨が支えていた。
「んまぁ、とにかく!」
飲み終えた紙パックを潰し、千束は空を見上げる。
「DAが興味なくても、困っている人はいっぱいいてさ。助けを求めている」
そして横に座るたきなを見ながら言った。
「だからたきな、力を貸して」
「…今はそれが、私への命令ですからね」
言われ彼女は少々ため息混じりに答える。
「うんうん、頼りにしているよぉ」
千束は少し笑みを見せて彼女に返すと、
「よっ、お二人さん」
「「?!」」
突然、ベンチの裏から二人の肩を掴んで話しかけて来た人物にたきなは思わず銃を抜きそうになった。
「んふふっ、良い顔〜」
「っだあ、ビックリしたぁ…」
千束は驚きながら振り返ると、そこで風船ガムを噛んで膨らましていた彼女を見る。
「浅美〜」
「よっ、暇だから来てみたぞ〜」
少し呑気に答える彼女にたきなは目を白黒させて驚いていた。
Do you want a happy end?
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