目的地に到着した千束達。そこで彼女達は受付で名前を聞かれた際に『山葵のりこ』『蒲焼太郎』と言う名前で答えており、普通ではありえない名前にミズキがクルミのおふざけに顔を青くさせていた。
彼女はその名前を決めたであろう駄菓子を齧っており、ミズキに頭を叩かれていた。
「そんな偽名があるかぁ!」
「平気だって」
ミズキは『失敗したらどうするんだ!?」とでも言いたげな様子であり、そんな不安にクルミは対し的にした様子も見せていなかった。
『確認致しました。蒲焼太郎様、山葵のりこ様。ご案内します』
そこで受付の監視カメラを見ていた二人は、すんなりと通されたことにミズキは驚いていた。
「データしか信じない人はドンドン阿呆になるなぁ」
そんな様子を見ていてクルミはそう言うと、駄菓子を齧ってその後の動向を見ていた。
『ねえねえ、浅美達は?』
「まだ連絡は付いていないぞ。まあ、もう潜入しているだろ」
ウェイターとして潜入すると事前に聞いていた彼女は軽く監視カメラを切り替えて店内を見るが、それらしき姿は見当たらなかった。
「ん?画像検索にもかからない…?」
クルミはあらゆる顔の可能性を生成して照合を行わせたが、合致する人物は見当たらなかった。
「どうせ厨房とかにいるんじゃないの?」
ミズキはそう言い、バー店内で見つからない浅美達に首を傾げつつも対象のミカを探す。
そして現地では千束とたきなは少し離れたテーブル席に座ってウェイターからシャンパンを提供されていた。
『ごゆっくり、お寛ぎください』
ウェイターはそう話すと、次に彼女達に話しかける。
『それから、先ほど食いそびれたうどんなどおすすめです。お客様』
「「え…?」」
その言葉と突然変わった声に千束達は思わず驚いて顔を上げると、ボトルを持ったそのウェイターは明らかに自分の知る者の声であったが、顔と声が一致しなかった。
『え?浅美…!?』
『マスクよ。顔の形変えてるから』
「なるほど…」
通りで引っかからないわけだと納得するクルミ。彼女達は浅美の見事な変装術に舌を巻いていた。
「スパイ映画かっつーの」
そこで覆面を被っていた浅美にミズキは呆れた様子で呟いていた。
「!」
「店長来ましたよ」
そこで千束達は変装した浅美よりも入店してきたミカを見る。
「うわ…センセなんかめっちゃキメでんだけど…」
「?素敵だと思いますけど」
彼は白いジャケットに黒シャツを羽織っており、見るからにキメていた。
「いや〜、身内のあーゆー姿ちょい気恥ずかしいっていうか…」
そんなミカを前に千束達はそんなことを言う。
『ほら、やっぱ逢引きだ逢引き。楠木が来る前に撤退した方が良い』
そんな気合の入った服装、豪華な会員制バー、一人で来る。この状況でクルミは即座に理解して目的は果たしたと言う。クルミの言葉にミズキと千束は呟く。
『だって楠木は…』
「女性だし…」
「え?」
そんな二人の言葉にたきなは驚くと、察した様子で浅美は言った。
「あ、やっぱり?」
概ね予想通りの話に浅美は千束達に聞いていた。
「誰か来ました」
その時、たきなは言ったので浅美は少し距離を取って店内を俯瞰すると、ウェイターの案内を受けて店に入ってきた一人の男を見た。
「え…」
その男を前に千束は固まっていた。
「ヨシさん……?」
そこで店内に入ってきたのは、店の常連客である吉松であったからだ。無論、バイトをしていた浅美も彼のことは知っていた。
「(ああ、やっぱり…)」
浅美は彼を見て絶対的な確証を持てた。すると千束やミズキも同じことを思ったらしい。
「「逢い引きだな。こりゃ…」」
「『え?』」
そこでそんな二人の反応に首を傾げるたきなと、驚くクルミ。
「行こう、邪魔しちゃ悪い」
「千束?」
千束は登場した吉松を前に用件を済ませたと言った様子で
『待て、ミカは
「すまない。どっちが
『しらん!あとでお前がオッサンにでも聞け!!』
ミズキは純粋な浅美の質問にそう返すと、たきなはこの無線のやり取りに困惑している様子だった。うむ、君はまだセカイを知らないらしい。どうかそのままでいたまえ。
「愛の形は様々なんだよ。たきな」
「はぁ…?」
たきなは千束のなんとも言えない雰囲気にどう言うことだと首を傾げていると、ミカと吉松はカウンター席で隣同士に座って話した。
「急に呼び出してすまなかったな。君に尋ねたいことがあってね」
「改まってなんだ?」
彼らの話を前にその後ろで出口に向かう千束達。
「お店の常連ですし、挨拶しても…」
「いいから!あとで教えてあげるから!」
見知った顔を前に挨拶をしようとする無粋なことを思うたきなに、小声で二人は見つからないように退散をしようとする千束。彼女達はそこで二人の会話を耳に挟んでいた。
「手術後、私は君にあの子を託した。その意味を忘れたのかミカ?」
その瞬間、千束は目を見開くと、浅美は目元の視線を細めて鋭くした。
「ちょっと千束…?」
その時、固まって不意に顔面で追突事故を起こしてしまったたきなは身を少し浮かせた千束に首を傾げた。
「なんのために千束を救ったと思ってる?」
そこで吉松はその吉松の言葉を静かに、しかし信じられない様子で聞いていた。
「あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ」
その瞬間、彼女は思わず自分の胸元に下ろしていたあの梟のようなチャームを無意識に握ってしまっていた。
「え…ヨシさん……なの?」
その後、彼女は興奮した様子でたきなを見た。
「ヨシさんだよ!!」
「?そうですけど…?」
そんな急変した感情にたきなは困惑すると、彼女は立ち上がって二人の近くに歩み寄っていく。
「ちょ、ちょっと千束…?」
「あ、馬鹿っ…!!」
そこでたきなと浅美は彼女が何をしようとしているのかを察して驚いて声を出してしまう。
「おいおい、何してる?」
「あのバカ」
その様子を見ていたクルミとミズキも同じことを思うと、乗っていた車のドアを開ける。
「あ〜もぅ、ほら行くぞ」
そして事態の急変に合わせて彼女達もバーに向かった。
「ヨシさんなの?」
「!」
バーではドレスを纏っていた千束が後ろから話しかけていた。その声に二人は驚いた。
「千束!?」
意外な人物の登場に吉松は次にミカを見た。
「ミカ…!」
「いや、違う!」
そこで問い詰めようとしていた吉松に先に千束はここにいた事情を話して誤解を解かせる。
「ごめんなさい。先生のメールをうっかり見ちゃって…」
「司令と会うのかと…」
「お前達……」
タキシードを纏っていたたきなも諦めた様子で姿を見せると、ミカ達は驚愕した様子で見ていた。浅美は覆面を被って顔を変えてしまっていたので、ウェイターとしてやり過ごすことを決めていた。
「でも…今の話!」
千束はそこで吉松を前に彼女は言う。
「ちょっとだけ!ちょっとだけ、ヨシさんと話をさせて!!」
大いに目を煌めかせていた彼女に、吉松は少し沈黙をしてから聞いた。
「…何かな」
そんな二人の雰囲気を前にたきなは出ていく。
「先、出ていますね」
「うん……ごめん」
そこでたきなは別れると、静かに浅美も店を後にする。
「はぁ…やれやれな事だね」
「浅美さん…」
バーを抜け出していた浅美にエレベーターホールの前で合流をしたたきなと浅美。
「よっと…」
そこで浅美は胸元の蝶ネクタイとボタンを外すと、被っていた覆面を脱いでその下から見知った顔を覗かせた。
「…流石ですね」
「海外で潜入任務をした時にね、まあこの男でパスポートも持っているくらいだし、よく使うのよ」
そう話すと、二人は到着したエレベーターに乗り込む。
「他の皆さんは?」
「もう帰っているよ。今回の任務は私だけが担当になっているしね」
「そうなんですね…」
そこで扉が閉まると、息違えるように隣のエレベーターの扉が開いてクルミとミズキが降りてきた。
「しかし、千束の支援者があのダンディーな常連客とはね…」
「意外でした。でも千束の才能は…確かに、アラン機関の支援を受けるべき才能かもしれませんね」
「そう、殺しの才能…ってやつだね」
彼女はそう言うと、纏っていたウェイトレスの服をマジックテープの音を響かせながら脱ぐと、下から見知った毎回来ているあの私服が現れ、半分のシャツをひっくり返すと、いつも着ていたパーカーになった。
「…それ、いつもの服だったんですね」
「ええ、これでも変装は昔から得意でね」
浅美はそう言うと、たきなはそこで微かに嗅ぎ慣れない香りを嗅いだ。
「…煙草?」
そこでたきなは少し首を傾げて浅美を見た。
「浅美さん、もしかして喫煙者ですか?」
「あら、どうして?」
「僅かに煙草の香りがしたので、あの店内は禁煙でしたし…」
「あらあら、バレちゃうとはね…」
彼女は少々たきなの嗅覚の鋭さに驚きながらポケットから煙草の箱とライターを見せる。
「海外じゃあ、気分転換とか考える時にね」
「…未成年喫煙ですよ」
「一々気にすんなって」
浅美は半眼になったたきなに言うと、彼女は先ほど車の中で話していた千束から聞いた話をする。
「千束から聞きました。昔とは大きく違うそうですね」
「…どこでその話を?」
「ここに来る道中で千束が…」
「そう…」
二人はそこでエレベーターの中で話をする。
「まあ、十年も海外任務に放り出されていちゃあね、変わる所は変わっちゃうものだよ」
「千束が言っていました。電波塔事件の際、浅美さんの援護がなかったらもっと苦労していただろう、と」
「そう?そりゃあうれしいね。支援冥利に尽きるよ」
彼女は相変わらずの糸目で笑って朗らかに答えると、二人はロビー階を歩く。
ホテルのロータリーでは
「あの車かな?」
「おそらくは」
そこで二人は人気の少ない静かなホテルを出ると、そこで彼女はロータリーの近くに設置されていた灰皿の近くに立つ。
「ふぁ…任務中にコイツを吸っていると『生きてる』って感じがするのよね」
匂いが移ると後々面倒なので、なるべく迷惑をかけないように少し距離をとって浅美は煙草に火を付けた。
「…不健康ですよ」
「ふふっ、次の瞬間には死んでいる可能性がある世界で健康にいちいち気にかけてられないよ」
浅美は忠告にそう返すと、たきなはそこでホテルから出てくる足音を聞いた。
「出てきました」
「OK」
そこで彼女は灰皿に煙草を押し当てると、車に乗り込む直前の吉松に話しかけた。
「あの…」
たきなが話しかけると、そこで吉松は無表情でたきな達を見た。笑っているのか、警戒しているのか、一切の感情を読み取らせないその顔に
「先程は、お邪魔してしまって……でも千束…喜んでました」
そこでたきなはとても晴々とした笑みを浮かべていた千束を思い出す。
「またお店でお待ちしています。千束はずっと貴方を」
「君達ならわかるはずだ」
「!」
吉松は先ほど、千束と同じことを言ったたきな達を見る。
「千束の居場所は此処ではないと」
「…」
その言葉に浅美は眉を僅かに反応させた。
「君達には期待しているよ、たきなちゃん。浅美ちゃん」
その呼び掛けに浅美は答えた。
「…機会があれば」
吉松に浅美はそう答えると、彼は浅美を見つめてから車に乗り込んでドアを閉めて、車は走り去っていった。
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