たきな達が吉松と話している頃、バーではミカが戻ってきて隣に座った。
「なんで黙ってたの?」
そこでコツコツと音を立ててチャームでカウンターを小突いていた千束はミカに聞くと、彼は一度眼鏡を外して眉間に触れてからゆっくりと話し出した。
「……それが、君を助ける時の条件だった…」
それは先ほどの吉松との会話だった。彼女はそこで自分にこの機械の心臓を与えてくれた吉松に感謝をしていた。
「……約束を守ったんだ?」
そして今まで吉松やミカがこの事実を話さなかったことに事情があることを理解していた。
「ふふっ、その方が先生らしい」
彼女はそこでこの今までの付き合いから笑うと、次にミカを指差しながら見る。
「やるなぁ。千束を欺くとは」
「すまなかった、千束」
そんな彼女にミカは泣きかけると、千束は彼の背中を軽く叩いた。
「いいって、気にすんなよお」
「すまない…」
しかし今、彼はそれだけしか言うことができなかった。
吉松と話した後にたきなとホテルで別れて、一人東京の夜道を歩く浅美。
「大いなる権力には、必ず大いなる責任が伴う…」
彼女はそこで自分に与えられたあのチャームを天にかざす。今日は月がよく光り、その光に照らされてそのチャームは光を反射する。
「…ふふっ、これから面白いことになりそうね」
彼女はそこで微笑い、東京の夜道に消えた。
同じ頃、同じ月を見上げる真島。
「ーー俺たちには使命がある」
彼は指の上で綺麗なバランスを保って傾くそのチャームを見つめていた。
「フフッ、アイツらの使命はなんだろうなぁ?」
そう話す彼の横では、ビルの柵にこれまた綺麗なバランスを保って置かれた携帯からロボ太の声がする。
『警察署さ…あそこまで派手にしなくても…』
そこでロボ太は真島に指示をさせて行わせた警察署の襲撃を思い出す。
『やっぱり隠蔽されてたし』
その襲撃は事件として処理をされ、事実は隠蔽されていた。
『お、よし。接続できたぞ』
「オウケイ、よくやったハッカー」
そこで彼らは襲撃を行った警察署の所長のデスクの機械に差し込んだメモリから情報を取得していた。そして準備を整えていく真島は不敵に笑みを浮かべてビルの屋上を去る。
「次は…も〜っとド派手に行くぜぇ」
その背後には、完成間近の延空木の姿があった。
翌日、喫茶リコリコは通常通り営業を行なっていた。
「ありがと、たきなちゃん」
そこで阿部にコーヒーを提供したたきな。座敷席では阿部刑事達はボードゲームをしていた。
「千束ちゃんは?」
「今日はまだ…」
そこで他の常連客達も聞いてくるが、まだ出勤をしていない千束にやや不安になっていた。
今日は元々浅美達は別件の任務にあたっており、この店には来ていなかった。
「伊藤さん、参加しません?」
一人が仕切りを越して聞くと、その隣で伊藤はこの世の終わりのような表情で冷や汗をかきながら卓上の原稿と向き合っていた。
「ダメ…っ」
彼女は顔を青くさせてペンを握っているが、そのペンが動いている雰囲気はなかった。
「まだ…っ、ネームがっ。終わら…ない!」
そう悲鳴を上げる彼女は、携帯がバイブしていることにあえて気がついていないふりをしていた。
「さっきから携帯鳴ってんぞ、編集からじゃないのか?」
「鳴ってない!!」
クルミから指摘された彼女は、そこで思うままに携帯を叩きつけるとそんな荒んでいた彼女にたきなは注文の珈琲を提供する。
「どうぞ」
「アリガト〜」
「あ〜もう、結局これか」
クルミはそんな伊藤の荒んだ反応を見てネームがまるっきり追いついていないことを察して呆れていた。
「ねぇ、たきなちゃん。やっぱ悪人は殺すべきかな?」
「べきですね」
そこで伊藤の質問にたきなは即答すると、質問した側は苦笑していた、
「せ…せめてもうちょっと悩んでからでも…」
「……べきですね」
「たきなちゃん過激だね〜」
意見を変えなかった彼女に阿部が笑って見た。すると店の奥から妙に後光の差すキラキラとした雰囲気を感じ取った。
「…ミズキさん、おでかけ?」
「まぁね〜」
そこで派手なドレスを前にミズキは化粧も施された状態で出てきて常連客達を唖然と驚きに包み込む。
「何処へ行く〜?」
「もちろん昨日の高級BARよ」
彼女はそう言い、千束達が入店する際に使用した会員カードを取り出す。
「お〜、決まってるねぇ」
「お子様連れで入れなかったけど、私一人で行けば入れますから」
阿部に言われてミズキは勝利を確信した様子でそのカードを掲げる。
「このゴールドカードで!」
「そのIDならもう消したわ」
「なんで!?」
そこで端的にサクッとクルミが断頭を行うと、出鼻を挫かれたミズキは驚愕した様子でクルミに詰め寄った。
「高級バーよ?」
「お前が低級だからだ。いいから座れ」
「やだ!絶対行く!」
クルミがデータを消したことであの会員制バーにはもう入れないことを知ったミズキは錯乱しながら店を駆け足で出て行った。哀れ売れ残り…。
「…遅いですね」
「…」
そんな二人のやり取りを横目にたきなは昼時になっても出勤してこない千束を心配していた。
「今日くらいは休ませてやろう」
ミカは昨日の一件を思い出しながらサイフォンを加熱して珈琲を作ると、ドアが開いた。
「千束が来ましたーーー!!」
そのまま蝶番も吹っ飛んで壊れてしまいそうな勢いでドアを開けた彼女は、店内にいた客全員を一瞬驚かせていた。
「ねぇねぇ、ミズキがすごい格好でダッシュしてたけど、あれ何?」
そこで相変わらずの元気一杯な様子の彼女に、たきなやミカは唖然となって聞いてきた彼女を見つめてしまう。
「おお、千束ちゃん」
「千束!早く早く!」
昼頃になってやってきた千束に阿部は手をあげて挨拶をしてくると、伊藤は原稿を振って手招きをしてくる。
「おー、最新話できました?読む読むぅ」
そんな伊藤に早速店に来た千束は近寄ってネームを仕上げている伊藤の原稿を読んでいく。
「千束ちゃん。ゲームしよ、昼休み終わっちゃうよ〜」
「千束ぉ、スペシャルパフェ〜」
「ダメッ!こっちは遊びじゃないんだぞ!」
千束が来たことを皮切りに阿部やクルミ達は次々と話しかけると、伊藤がそんな彼らに叫んだ。
「え〜、殺しちゃったの?ダメだよ殺しちゃ〜」
「え〜、でもたきなちゃんが…」
そこで原稿を見ていく千束がやや怪訝に答えており、制服のままの彼女にたきなはため息を漏らす。
「千束、営業始まっているんですから、早く着替えてください」
「はぁい!」
たきなに千束は答えると、着替えるために原稿を置いて離れようとする。
「待って!千束が見てくれないと〜」
「すぐ戻りますって、たきなに怒られちゃうから〜」
そこで抱きつかれたので、いつもアドバイスなどを送ってアシスタントみたいなことになっている現状に苦笑しながら更衣室に入った。
そして更衣室で赤い着物に着替えた彼女は、自分のロッカーに吊り下げられたあのチャームを前に二拍をして祈るような仕草をとった。
「……よしっ!」
そして気を取り直したようにいつもの着物に着替えた彼女は、ロッカーを閉じて働き始めた。
その時、人混みの中を一人の少女が走っていた。
「っ…!!っ!!」
その息は荒く、顔には無数の皮脂が溢れていた。彼女は私服姿で市街地を走っており、その顔は恐怖を押し殺した様子で平然と、しかし早足で歩道を歩いていた。
「いてっ」
「おい、気をつけろ」
そこで横断歩道を歩くときも対抗人とぶつかってしまい、そのことを軽く指摘されているにもかかわらず彼女は無視して人混みの中に消える。
そして私服姿で人混みの中に消えようとした彼女は、その中で彼女は首に腕を回された。
「ういっ、久しぶり!」
「っ…!!?」
そこで話しかけてきた少女は纏っていた漆黒のリコリスの制服。その制服の袖に縫われた徽章は首から椿の花を咲かせる兵士の姿。
「(椿、小隊…!!)」
その少女はその部隊が意味するところを誤解しなかった。
「どう?近くにおすすめのカフェあるんだけど」
腕を組んできた彼女はそこでサングラスの奥からその瞳を見せると、その後に少女は周囲にいつの間にか同様の制服を纏っていたリコリスが集まっていることを理解した。
「…」
少女はそこで腕を組まれて誘われて動揺していると、その直後に彼女は後ろにいた三条から首元に針なし注射器を当てられて薬剤を注入される。その直後に即効性のある特性の催吐薬を打たれた彼女は、たちまち顔を青くしていく。
「おっと、大丈夫かい?」
そこで吐きそうになった彼女を解放するように浅美は彼女を歩道脇に誘導していく。
周りの市民も乗り物酔いを起こした程度にしか認識していない様子で解放される少女を一瞥して去って行くと、彼女はふらついた様子で道端で彼女は嘔吐して倒れ込んだ。
「あらあら…」
そんな彼女を解放すると、直後にその目の前で止まっていた
「はい。回収しました」
そこで浅美は無線で連絡を行うと、東北管区の司令部から連絡を受け取る。
「…分かりました。ではこちらで」
そして車内には他にも複数の私服やリコリスの制服を纏った少女達がワイヤー銃などで拘束されており、全員が頭から麻袋をかけられていた。
この車内にいた全員がリコリスからの脱走を計画・実行したリコリスであった。
リコリスというのは、親友の言葉を借りるのであれば『孤児である自分たちを救い、育ててくれたDAに対しての感謝』をモットーに命をかける必要がある。しかし人間の生存本能というものは、時にこうした刷り込みを突き破ってしまう。
特に日々の過酷な訓練や、人を暗殺し、命の危険すらある状況に晒され続けば尚のこと。
浅美は視線を送って合図を出す、麻袋を被せられた少女達の首元にチョーカーが装着される。
懲罰と証拠隠滅のために部隊内で小道具製作を担当している柊が開発した自爆機構の付いたチョーカーである。こうしてリコリスやリリベル相手に今まで多くの懲罰を敢行していた。
「っ!っ〜!!」
猿轡をされていた少女は心底怯えた様子で、失禁すらしてしまう者もいて車内は酸っぱい香りとアンモニア臭で地獄絵図が出来上がっていた。
「安心しなさい。君たちは私の部下になって働いてもらうだけよ」
耳以外の全ての感覚を塞がれた状態の彼女達は、浅美から告げられた事実についには失神してしまっていた。
Do you want a happy end?
-
Yes
-
No