浅美が新隊員を迎え入れて教育をする中で、たきなによる営業改革が行われていた喫茶リコリコ。
「気をつけて」
「はい」
その日、バイトとしてビルの窓拭き清掃を行なっていた浅美は新隊員を引き連れていた。
高層ビルの窓拭きのためにクレーンを操作して清掃を行なっていくと、洗剤を吹き付けて水をかけて窓を丁寧に拭いていく。
「でも意外ですね」
「何が?」
彼女達はヘルメットを被り、清掃業者の格好をして清掃を行なっている最中でつぶやいた。
「もっとこう、この部署は暗いことばかりしていたかと思っていましたので」
「何、そう言うのをお望み?」
そんな印象を言われ、浅美は少し肩をすくめた。
「いえ、そんなことは…」
そこで微笑んだ浅美に、肩透かしを受けたような印象のあった少女は首を横に振る。
懲罰部隊としても名を馳せ、悪名高き部隊に転属が決まったそのリコリスは覚悟をしていた。
まあそもそも脱走を企てた際に先に拘束をされてしまっていたので、彼女は生きていての物種と考えて黙々と与えられた仕事をこなしていた。
「まあね、殺人には慣れているだろうけど…」
そこで水切りで洗剤を丁寧に落としていく浅美はその新しい隊員に先輩として教える。
「私たちの仕事は脱走するリコリスやリリベルを受け入れ、海外で武力衝突を煽る。その依頼を行う国の諜報機関の実働部隊として動く…」
「え、それって…」
「まあ私たちは攻勢を専門に、海外で使用される新型兵器の情報収集と現物の奪取。それを日本に送って…武力衝突の誘発はその副次的任務といったところね…」
彼女は新隊員である彼女にそう話していくと、少し笑って仕事の内容を話していく。
「あと麻薬組織を襲撃してお金と武器を奪ったり、逃し屋やったり、主要人物の暗殺だったりってところかな」
「…随分と多岐に渡って任務があるんですね」
「ええ、別班に公安の依頼とあればね…」
彼女はそう話すと、丁寧に窓を拭いていきながらその総合商社で行われている会議を見ていく。
「目標到着」
『…確認しました。撮影を行います』
そこで納谷率いて組成されたハッキング部隊は、目標の会議室で行われている取引に対して違法に高純度の人工蛍石の製造技術の売却を考えている商社の人間の人物照合とデータの引き抜きを行う。
「ファイヤーウォール抜けました」
「了解。こっちにデータ回して」
教育も兼ねて行わせているハッキングはラジアータの演算機能を一切使うことなく、一〇カ国以上のサーバーを経由して行われていた。
『こちらリリウム-1。現着した』
すると今度は別の場所から無線で連絡が入った。別働隊で動いていた百合小隊であった。
彼らは都内で
『了解。部隊は別命あるまで待機』
そこで指揮官の浅美が告げると小隊はバスの中で待機となった。
「宜しいのですか?」
同車種で運転席に座っていた三条が聞くと彼女は頷く。
『問題ない。まだ誰が主導しているのかも、どこの国に売り渡そうとしているのかも考えた上で気をつける必要があるし…』
自ら最前線に立って情報収集を行なっていた浅美はそう話していると、清掃業者に一瞬警戒をした一人をARで見ていた三条が言った。
「奥の列の右から二番目の男。至急調べて」
「了解」
そこでその視線の動きに勘づいた三条に言われて納谷は調べると、即座に結果が出る。
「新渡戸伴蔵、近辺の監視カメラの動きは…」
画像検索を行い、一瞬で彼の過去一ヶ月に渡って行動履歴が表示される。
「ビンゴ」
そこで人気の少ない場所で、明らかに監視カメラを避けて動こうとしている仕草を見て三条は指を弾いた。
「うーん、確実に黒だけど誰に会っていたかまでは分からないですね」
そこで納谷は監視カメラの映像に顔が映っていない映像を前に軽く歯噛みしていた。
「至急、携帯を調べられる?」
「ちょっと待って…」
そこで納谷は他の隊員と共にIPアドレスを辿るが、彼のアドレスはすぐには見つからなさそうであった。
「これは直接差さなきゃ無理だと思うよ」
『了解。至急で人を送って中で調査。オフィスに清掃員か社員で入れられる?』
「もちろんです」
納谷は自信を持って頷くと、そこで百合小隊に連絡を行ってトラックからパリッとしたスーツを纏って隊員がそのまま荷物を片手に会社の中に入ると、IDカードを使って会社のゲートを平然と通過していく。パッっと見は新人のサラリーマンのような風貌をしていた彼は、そのままARに映り出される画像を見ながら誘導に従ってエレベーターに乗り込んで上に上がる。
『対象のオフィスはその先です。オフィスに秘書はいません』
「了解」
そこで先に社内システムをハッキングしていた納谷は予め控えていた秘書に緊急でメールを送信して席を離れさせてから平然とオフィスに侵入してから部屋の中のパソコンに接続をすると、瞬時にデータのダウンロードが開始されていく。
「…」
最新の処理能力を持った通信端末が若干熱を帯びてデータのダウンロードが行われると、直後に監視をしていた納谷が告げる。
『警戒してください。そろそろ会議が終わります』
「了解」
そこで会議が終わっていく様子を見て周囲喚起を受けてから全ての情報のダウンロードを終えてすぐにコードを抜いて回収をしてからオフィスを出る彼。その後にエレベーターを降りて歩いてくる一人の恰幅の良い、白髪の老人を見た。
『監視カメラで彼が会議後に後ろポケットに携帯を入れていました』
「了解」
万全なバックアップに心底信頼をしながら彼は片手にバインダーに挟んだファイルを持って話しかけた。
「新渡戸総務。至急、サインをしていただきたい資料が…」
「ん?」
そこで彼はオフィスに向かう途中で話しかけてきた見慣れない顔に怪訝に思いつつも書類に目を通すと、その正式な書類を読んでいって簡単にサインを行なっていく。
「…」
歩幅を合わせて歩くその男は携帯の位置を再確認すると、その直後にオフィス全体に警報が鳴った。
「何だ!?」
その音に全員が驚くと、直後にスプリンクラーが作動した。
「火災です!至急避難を!!」
「ええい、くそっ!」
そこで役員は急いで携帯を取り出す。このスプリンクラーで壊れていないかを警戒した様子でエレベーターホールで待っていた。
「おっと」
その瞬間、彼は他に逃げる社員に肩を勢いよくぶつけられて携帯が弾け飛んでいってしまった。
「気をつけろ!」
その社員の後ろ姿に役員は軽く怒鳴ってから人混みの中で弾け飛んだ携帯を慌てて探すと、床に転がっていた携帯を先に一人の社員が手に取った。
「これですか?」
「っ!」
そこで携帯を拾った社員に男は叱責しながら携帯を奪うように回収する。
「勝手に私のものに触れるな!」
「し、失礼いたしました…」
軽い叱責に彼は驚いて逃げるように閉まりかけたエレベーターに乗り込んで消えていった。
そしてそのエレベーターが一階に到着して社員たちが一斉に逃げ出していくと、その中で先ほど役員にサインを求めたり携帯を拾っていたその男はつぶやいた。
「仕込み終わりました」
『了解。すぐに戻って』
無線でビルの屋上からエレベーターに乗り込んだ浅美からの連絡を受けて東京の人混みの中に消えた。
「起動した」
そして簡易的に対象の携帯にウイルスを仕込んだことでアドレスを判明させた部隊は一瞬でログにあった連絡先を照会していく。
「あった」
「OK、相手は…ははーん、アメリカとはね」
アドレスを瞬時に検索していき、それが偽のアドレスであろうと『ウォールナットの弟子』を自称する納谷はすぐに看破してその正体を突き止めた。
「出ました、アメリカの領事館員です。所属は
『よろしい』
マイクロバスの車内ですぐに情報を得た彼女たちは日本での実習を着々と進めていく。
『撤収して』
「了解しました」
必要な情報収集を終えた彼らは人員を回収してくと即座に撤収作業をしていく。
「それから襲撃準備。対象は泥酔させておくのよ」
「了解しました」
やり方を教えられると、彼らは手慣れた様子でその手にマカロフPBを握って大きな消音器を取り付けていく。
別日の夜、都内の某ホテルで男女がベッドで横になった。
「相変わらず、君は美しいね…」
シャツを着たままのその男はベッドでドレスを纏っていた美しい女性にそう話しかけてから腕を掴んで押し倒した。
「ふふっ、ちょっと待って」
そこで女性は軽く男の口元で近づけた顔を押し返してからベッドを離れると、その後にシャワー室に向かった。
「一度シャワーを浴びさせて?不快な気持ちにさせたくないの」
彼女はそう言うとシャワー室に消えていった。
「…」
その後、男は目の前の女性が卓上に置き去りにしていた携帯電話を見た。
彼女とは数ヶ月ほどの付き合いがあったが、彼女に対して警戒をしていた男はそのままシャワーの音を聞いてしばらく出てこないことを察してから徐にその携帯に触れる。彼女は携帯に鍵をつけていないことは事前の付き合いで分かっていたので、彼は電源ボタンを入れた。
パンッ!
その直後、電源の入った携帯の起爆装置が作動すると、仕込まれた爆薬を炸裂させて放たれた無数の小球が男の頭を弾け飛ばした。
「かはっ…」
男はそのまま部屋に鮮血を撒き散らしながら倒れると、首から上が消えた死体となっていた。そしてその音を確認すると、シャワー室からタオル一枚で女性が出てきて彼女は耳に手を当てた。
「終わりました」
『お疲れ様』
ハニートラップの実践訓練を終えたその少女は、被っていた変装用のマスクを脱いでその素顔を見せた。そして次に心底蔑んだ様子で男を見下す。
「飛んだエロ親父ですね、こいつ」
『訓練されてる五本目は元気ってことよ。少なくとも初めては守れたでしょ?』
「別に気にしちゃ居ませんよ。八歳の頃に襲われて以降は」
『あらそう。そりゃあ御愁傷様』
浅美はそこで任務を終えて、着替えていく隊員と軽口を話していく。
『あとはこっちでやるから、休憩してもいいわよ?』
「いえ、最後まで付き合わせてください」
そこで死体となって顔面が崩壊した男に向けて少女は
「…大当たり」
さらに血を流すなと怒られるかもしれないが、彼女はとりあえず自慢の一本槍をへし折った快感に浸っていた。
Do you want a happy end?
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Yes
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No