写真を撮った千束達はそこで確認をすると、たきなは浅美をじっと見ていた。
「…何か?たきなちゃん」
浅美は聞くと彼女は昨晩の一連の行動に聞いた。
「貴方の指示は的確でした。おまけに対象から情報を引き出す能力も…」
「うんうん」
そう言いたきなは昨晩の彼女のアイコンタクトや車を止めた罠。依頼人に対してすぐに作り出した別の顔。
さらにはたきなを現場に向かわせるのにごく自然な様子で促した彼女にたきなは聞く。
「貴方はそれほどの実力がありながら、どうして椿小隊なんかに?」
彼女は聞くと、一瞬店内が静寂に包まれた。
「たきな…」
ミカは聞いたたきなに軽く言おうとすると、先に浅美が口を開いた。
「その答えは私たちの小隊の仕事に関係している」
「海外での任務ですか?」
「そうだね」
頷くとたきなに聞く。
「たきなちゃん、私たちはどんな仕事をしているか聞いてる?」
「え?えっと…海外での非合法任務で…」
たきなはその先が出て来なかった。
リコリスの間ではもっぱら捨て駒扱いで、海外でマーダーライセンスもなしに活動していると言う大まかなイメージしかなかった。
「ふふっ、意外と分からないものでしょう?」
「…」
リコリスではないので彼女達は全員が私服を主に着用しており、海外を中心に活動するので勝手に海外で殺戮を行なっている無意味な無駄飯喰らいのイメージしかなかった。
「いやぁ、人って噂だけでストーリーを作るから面白いわよね」
「そんな…」
途端にたきなの顔は青くなっていく。
つまり、リコリスの間で広がっている椿小隊の評価というのは…。
「そっ、勝手に妄想が膨らんでできた幻影だよ」
「っ…!」
本人から言われた事実にたきなは手が震えていた。するとそこで三条が割って入る。
「私たちの仕事は諸外国の情報機関から日本への防諜対策として、海外で情報工作活動を行うために組織された部隊です」
小難しく言った三条に浅美は困惑しているたきなを見る。
「まぁ分かりやすく言うなら…
諸外国の抱えている爆弾の導火線に火をつけて爆発させる仕事ってこと」
彼女は誇りを持った様子でそう言った。
「つまり…」
状況の把握ができたたきなは浅美達を見ながら言う。
「あなた方は海外で、日本の国益の為に他国で事件を引き起こすための部隊って事ですか?」
「そゆこと〜」
そう結論づけたたきなに他の小隊面々も感心していた。
「わぁ、理解早いね君」
「転属組だもの、優秀なはずよ」
しれっと彼女が転属組であると言う事を把握していた椿小隊だが、たきなは今はそれどころではなかった。
「あぁーっ!!」
すると店をつんざく様に千束が叫んだ。
「コンニャロー、やっぱり隠し持ってやがった」
「おい、なに人のカバンを勝手に漁っとんじゃ阿呆」
「阿呆なのは貴様だ!」
浅美は自分の鞄を見て叫んだ千束の頭を軽く叩くと、彼女は鞄の中から一丁の銃を取り出した。
「ぶふっ」
そしてミズキは鞄の中から出て来た
ガムテープで二つの弾倉がぐるぐる巻きにされて纏められていた。
「なんちゅうもん持ち歩いてんだ」
「しょうがないやん、うちらには要るし」
「阿保かっ!とりあえず持ってるもの全部出せや!」
そう言い千束は浅美の身体をこれでもかと触ると、フードの下から出て来た
「ん?何これ…」
ミズキは何個も出て来た携帯を手に取ると、座敷で座っていた柊が言う。
「あぁ、それ私が作った携帯型指向性対人地雷です」
「ひっ!?」
ミズキは安易に触った携帯が地雷と知って思わずカウンターに落としてしまった。
携帯自体は頑丈にできているので何ら問題はなかった。
「これが地雷ですか?」
そんな落とした地雷を興味深そうにたきなは手に取る。
見た目は至って普通のカバー付きの携帯で、後ろには着脱できるスマホリングが付いていた。なるほど、スマホリングを使って携帯を立てかける事である程度の方向を示せるのか。
「どうやって使うんですか?」
「ん?ここの通知音を消すボタンが電源で…」
「使い方を教えんくって良いわ!」
千束は突っ込むと、彼女は他に鞄から次々と出て来た物を見せて聞く。
「これは何だ!」
「ナイフ、暗殺をするときに使う」
「これは!?」
「ピッキングツール、対象の家に侵入するときに使う」
「これは!!」
「ウィッグ、変装する時に使う」
「これはっ!」
「自決用の毒、問い詰められたときに使う」
「それはっ?!」
「イヤーカフ型ジャミング装置。ドローンが接近すると勝手に堕ちるようになってる」
中に入っていた弾薬や拳銃に関してはスルーしており、隠していたサタデーナイトスペシャルはバックアップ用に装備していると言う。
「しれっと猛毒持ち運んでんじゃないよ…」
身体中に様々なものを仕込んでいる浅美にミカ達は苦笑していた。
「あれ?」
そこでたきなはふと首を傾げた。
「ポケット何にもないのですか?」
「えぇ、弾倉しか入ってないわ」
こう良い彼女はパーカーの内ポケットに入っている
「えっ?じゃあ…」
何度目か分からない驚きに浅美は笑う。
「ハッタリをハッタリと見抜けないとね〜」
その後、他のメンバーとも交流を深めた椿小隊は表に止めていたキャラバンに乗り込む。
「ああそう、千束」
「お?」
キャラバンに乗る直前、浅美は言う。
「そっちの依頼の援助する代わりに、ちょっとこっちの荷物置かせてくんね?」
「荷物?」
「そそっ、ウチらの拠点に入りきらないだろうからさ」
「オッケー、任せろ!」
二つ返事で答えた千束に浅美は感謝すると車に乗って去って行った。
後日、この荷物の一件でちょっとした騒動が起こるのだが。それはまた別の話であった。
ある日、都内のとある高層ビルの駐車場に一台のキャラバンが止まる。
「点検来ました〜」
「おう、お疲れさん」
男の声で警備員と挨拶し、全員ツナギ服に工具箱や袋に入った梯子を片手に持っており、ここによく出入りしている点検業者であった。
従業員用エレベーターに乗り込み、一番上の階に登る。
五人のビルの点検作業員たちは一般客は入れないビルの機関室に入り、そこで一人が置いた梯子入りの袋を開けると中から折り畳まれた銃床と消音器付きの太い銃身が現れる。
「始めるよ」
「了解」
機関室の更に奥の階段を上り、扉を押すとそこから風が入り込んだ。
「うほっ、風強いね〜」
「感心している場合じゃないでしょ。隊長」
そう言い、横で帽子を取った草生津が片手に大きめのスコープや延長の消音器の付いた
「んじゃあ、始めましょうか…」
両手に軍用のレーザー測距儀、風速・湿度観測器を持って屋上の掃除用クレーンのレールを跨いで柵に手を置く。
「対象はメキシコ大使館員。今日、ここでアメリカ大使館員と会合する予定です」
「今のアメリカとメキシコは緊張状態だからねぇ…」
両国の国境線沿いに国軍が配備され、その数は年々増加している。
両国の緊張状態は高く、アメリカ国内の銃乱射事件や薬物依存症の増加の原因とされているメキシコに対し、アメリカ連邦政府は非難の声明発表。
対策をするよう要請したが、メキシコ政府は応じない為。先々月に合衆国政府は国内に住まう不法移民やメキシコ国籍の住民に追放令を発していた。
「その為の今回の仕事ですか」
「そっ、上層部からの命令」
機材を設置し、観測を始める浅美に狙撃銃を構える草生津。
「ゼロインは?」
「もう済ませましたよ。後は微調整するだけです」
事前に狙撃地点からの測距や角度の情報は受けているが、その為の試射は既に拠点の新木場から海に向けて発射していた。
「距離は?」
「直線423m、風向き南南西0.7。湿度48%、気温22度」
「了解」
コッキングレバーを引いて銃弾を装填すると、スコープで窓を覗き込む。
「あらあら、上層階だからってカーテン開けてるよ」
そう言い反対のホテルの一室でスーツに身を包んだ男二人が窓の近くの椅子で座って話をしていた。
「ウチらも部屋から撃てば良いのに」
「ここのビルにそんな窓あると思う?」
「…かぁ〜、換気窓ないのか」
軽く愚痴りながら草生津はスコープを覗く。
「殺します?」
「ん〜、取り敢えず良いかな。そこは自由で」
「了〜解です」
散々やって来た仕事なので慣れた様子で彼女は引き金に手を掛ける。
「ゆい〜、準備できた?」
インカムに手を当てて聞くと、返事があった。
『えぇ、問題ありません』
「んじゃ、始めるよ〜」
『了解です』
機関室からは既に二人は撤収し、一人はエレベーター、一人は車で待っていた。
「やって」
「はい」
命令すると草生津は引き金を発射し、.338ラプアマグナムと言う大型の弾丸を使っているにも関わらず比較的ビル風で掻き消される音の銃声が響く。
ピキッ「「っ!?」」
そして窓を突き破った弾丸はそのまま移動していたメキシコ大使館員の太腿を貫通すると、部屋で鮮血を撒き散らした。
「狙撃だ!」
「伏せろっ!」
「どこだ…?!」
護衛の数名が撃たれた大使館員に驚いていると、穴の空いた窓から空気が抜けるように風が吹く。
「あそこにいるはずだ!」
「急げ!」
窓に開いた穴を中心に数箇所のビルの屋上を指差し、無線で連絡を取る彼らは慌てていた。
エレベーターの中、軽く浅美は鼻歌を唄う。
「〜♪」
予め待たせていたエレベーターに乗って地下駐車場まで一気に降りていく浅美達は、帽子を被り直して軍手を手につけていた。
そして地下の警備員に点検業務を終えた書類を書き終えると、そのままキャラバンに荷物を積み込んで撤収する。
「お疲れっした〜」
「お疲れ様で〜す」
少し適当な部分のある警備員はやや適当に返して若い男の声を演じた浅美は最後に車に乗り込んで駐車場を後にした。
そして駐車場を出て行って数分後、同じ場所に数台の乗用車が止まると降りてきた数名の男達が走ってホテルのエレベーターに向かって走っていた。
「おーおー、公用車まで持ち出してら」
「よほど焦っているんですね」
その様子を納谷がハッキングして見せてくれた監視カメラの映像を見ていた。
「相変わらず隊長は多才ですね」
「ふふっ、有難いわ」
変声術や観測、作戦立案を一括して行なった浅美にいつもながら称賛していると、
「今日のお仕事は誰からの依頼です?」
「…私の上司」
「ほほぅ、そうですか…まぁそうでしょうね」
納得した様子で助手席に座っていた三条は言う。
「気をつける事ね」
「分かっていますよ」
草生津はそう言いリクライニングシートに座り込むと、そのまま一仕事を終えて軽く眠っていた。
Do you want a happy end?
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