椿小隊は日本に帰国したばかりの部隊。元々の作戦が特殊すぎたが故に日本国内での伝手というものがほぼ存在していない。
しかし椿小隊はDAから独立しているので部隊の経営を独自で行わなければならない。一応資金提供は受けているが、任務に応じてなのでどうしても私生活を行うには少し足りないのだ。
なので同郷の誼と言うことでリコリコから副業を少し分けて貰う事になった。
「よいしょ…っと」
段ボールを両手で抱えて荷物を運んでいる浅美。
「隊長〜、こっちリコリスに送るんですか?」
「そうよ〜」
拠点に送られてきた大小様々なダンボールや木箱、その量は拠点が荷物で埋まりそうになる程だった。
「なるほど、なんで拠点が海沿いか分かりやすい理由ですね」
少し息を吐いてスポーツドリンク片手に休憩している小塚原は今までガラ空きだった倉庫に積まれている荷物を見る。
「ウチらが集めた物を集約する為ですか…」
「お上からとは言え、あまり良策とは思えないんだけどね…」
少々苦笑しながら有無も言わさず運ばれてくる荷物。
港に接岸された貨物船から直接コンテナで降ろされた中身をそのまま倉庫に突っ込んでいた。
「えーっと、コンテナはあと一個で終わります」
リストを確認し、納谷が言うと草生津はぼやいた。
「なんでウチらがこんな事せにゃならんのだ…」
それに三条が答える。
「仕方ないでしょう?ここにある物は一応、私たちの所有物扱いなんです」
「…やれやれ、金にならなかったらこいつら海に捨ててたわ」
「海に捨ててもこいつら動くでしょう?無駄口を叩かないでください」
「へいへい」
コンテナのロックを外して扉を開けると、そこには雑多に積み込まれた多様なダンボールやプラスチックケース、木箱が置かれていた。
「ゲェッ、また雑に積み込みやがって…」
「せっかく整理したのに…」
「仕方ない」
六人は無条理に運ばれてきたコンテナの中身の整理だけで数日掛かり、箱の種類ごとに分けてコンテナに入れ直していた。
「えーっと、この箱の中身は…」
ダンボールのガムテープを一回剥がして中身を見ると、オリーブドラブ色の金属箱に7.62と印刷されたシールが貼られていた。
「「「「「「お疲れ〜!」」」」」」
その後、片付けを終えて一息吐く六人は大きめのちゃぶ台を囲んで乾杯する。
グラスに注いだ飲み物で今日の祝杯をあげる。
「あとはリコリコに運ぶだけですね〜」
非常にやり遂げた顔で草生津は天井を見上げる。
「それは後で私がやっておくよ」
「あっ、すみませんね隊長」
倉庫の一角に長方形の木箱が積み上げられ、リコリコに運ぶ予定の荷物をみる。
「隊長、私も手伝います」
「あぁ、助かるよ」
三条を見て返すと、浅美は出前ピザを食べる。
「さぁ、明日は副業よ〜」
「皆さんは明日に備えて早く寝てください」
三条が言うと草生津は少し苦笑する。
「ウチらは子供かよ…」
「実際未成年ですしね」
「そうだ〜、未成年はまだ子供なんです」
「そうだそうだ、車運転してっけど」
そう言う仲間に浅美は突っ込む。
「その前にウチら銃を撃ってるやないかい」
「それはもう当たり前ですから」
柊が言うと全員が軽く笑っていた。
「一応連絡はしておいたから、教官が待ってくれていると思う」
「分かりました」
深夜、キャラバンに二人係でリコリコへの配達物を載せる。
他の小隊メンバーは明日の副業の為に就寝しており、起きているのは二人だけだった。
「序でに明日の調整もするつもりだから」
「分かりました…今夜は徹夜ですね」
「悪いね」
「いえいえ、メキシコで麻薬カルテルの反撃を受けた時よりはマシです」
「ははっ、そんな事もありましたなぁ」
浅美は笑ってキャラバンに最後の木箱を載せるとそのまま運転席に乗る。
「今日は貴方が運転ですか?」
「えぇ、偶にはさせてもらっても良いんじゃない?」
「…事故らないのであれば」
「じゃ、決定ね」
浅美はそのまま運転席に座るとそのままエンジンをかけた。
「夜分遅くにすみません教官」
「何、構わないさ」
深夜に灯りを最低限まで落とした喫茶リコリコの前、浅美達とミカは顔を合わせる。
「んで、」
深夜にミズキが出てきてキャラバンに積まれた荷物を見た。
「何これ?」
「秘密で。あと『絶対中開けるな』って千束達に言って貰っても良いですか?」
「あぁ、分かった」
特に聞かずに承諾してくれたミカ、おそらく中身もすでに察してくれたのだろう。何も言わずに頷いてくれた。
「置くなら射撃場横の倉庫に置いてくれ」
「分かりました」
「階段だから、滑って事故るんじゃないよ」
「はい」
「了解です」
そう言うと、ミズキは店の奥に消えて行った。
言っちゃあなんだが、面倒見は良いようだ。ただ結婚できるかと問われると…お相手の理想像が高すぎる上に、既にあの歳で結婚相談雑誌を読んでいる時点でねぇ。
「結婚相談所でボラれないと良いですね」
「そうね」
「聞こえてんぞコラァ!!」
店の窓を開けてミズキが怒鳴ると、そそくさと二人はキャラバンから荷物を下ろして行った。
荷物を下ろし終え、そのまま地下にある比較的小さめの射撃場に荷物を全て下ろし終えるとカフェのカウンターに二人は座る。
「制服とは珍しいな」
ミカはコーヒーを淹れてくれながら二人に話しかける。
彼女達はリコリスにしてリコリスではないので、制服の着用義務は求められていない。故に初めてたきなと出会った時、彼女は私服姿で銃を持っていた事に非常に驚いていた。
一応、ラジアータの方でも彼女達はリコリスとして顔登録されているので、最近は誤射による事故死は無い。
「えぇ、一応偶には着ておこうかなと思って」
そう言い、自分達の漆黒のリコリスの制服に手を当てる。
襟元には椿のピンバッジが挿され、自分達は椿小隊である事を誇りに思っていた。
「千束には見せないのか?」
「…えぇ、この格好で千束に会うのは憚られますよ」
「そうか…」
ファーストリコリスである彼女の制服は赤、自分は黒。どのリコリスの色でも無い自分達は、本来であれば会うことすら叶わない。
「自由って、怖いですね」
「そうだな…」
ミカはそんな浅美の呟きに納得してくれると、少し彼女は微笑んだ。
「相変わらず皆に優しい教官ですね」
「ははっ、何。教え子には優しくありたいだけさ」
ミカは返すと、三条は横で渡された明日の予定を確認する。
「なるほど、依頼主はハッカーですか…」
「あぁ、ウォールナットと言うハッカーだ。命の危険があるからと、相場の三倍の価格を提示してきた」
名前を聞き、浅美と三条は同時に軽く吹いた。
「な、なるほど…」
「そ、そうですか…」
「ん?どうした二人とも」
突然吹き出した二人にミカは首を傾げると、三条は訳を話した。
「いえ、ウォールナットは…その、はるが非常に尊敬している人物でして…」
「お御影をノーパソのデスクトップにしてるから、どっちかと言うと信仰対象じゃない?」
「かも知れませんね」
そう言い合う二人にミカはやや驚いていた。
「知っているのか?」
「えぇ、ほぼはるがストーカーしているというか…」
「その…すごい人だと思われます」
そう知りミカは納得した後に二人に聞いた。
「ではそのハッカーに合わせた方が良いか?」
「「絶対にやめておいた方が良いと思います!」」
「てか黙っておいた方が良いです」
二人は口を揃えてミカに進言すると、彼は二人の対応にやや苦笑しながら理解すると二人に明日の詳しい作戦を聞いていた。
翌日、浅美達椿小隊はハッキング担当の納谷と、後方支援担当の柊を残して全員出動する。
「私とマキ、ゆいとユウミのペアで行くよ」
「「「了解(です)」」」
ペアで移動する二組はそれぞれ私服姿で移動を始める。
千束達とは完全別行動をしており、作戦終了後に落ち合う予定であった。
「んで…」
ややジト目で草生津は浅美と三条の二人を見る。
「なんですか?その格好」
「知らんよ、教官から朝渡されたものだし」
そう言い、どこかのテーマパークに出てくるような着ぐるみを被る二人。その手には黄色いスーツケースが用意され、準備完了であった。
声が少し曇ってはいるが、ちゃんと会話は聞こえるのでインカムで浅美は聞く。
「はる〜、こっちは準備できたよ」
『分かりました。今から全員に別々のルートをお渡ししますね』
「りょ〜か〜い」
すると端末に地図が渡され、それぞれのペアで違うルートが示された。
「じゃっ、状況開始〜」
浅美は言うと、二組は別々の方向に向かって歩き出した。
「ウォールナットが死んだ?」
楠木はその情報に耳を疑った。
「ダークネットの噂です。ですがここ30年で奴は何度も死んでいますし…」
「抜かれた情報諸共消えてくれたなら大助かりだが…得体の知れん奴でもある」
信憑性は薄いと苦言した秘書官に楠木は少し考える仕草を取る。
「それと、リコリコから提供のあった例の写真の解析結果が出ました」
秘書官はウォールナットの死亡を他所に次の話題を持ち出す。
「やはり…作戦開始前の三時間前だそうです」
「偽の取引時間をつかまされるとはな…」
そう言い、報告の上がった写真を受け取る。
篠原が撮った写真に入り込んだそれには、確かに朧気ではあるがビルの中のやり取りを捉えていた。
「結構ボケてるな…特定できるか?」
「まだ時間はかかりますが…必ず」
秘書官はDAの威信にかけて頷いていた。
「おも〜い」
その時、街中を歩いていた浅美はぼやいた。
「隊長、大丈夫ですか?」
動きもやや遅く、少し鈍足な様子に小塚原が聞いてくる。
「いやぁ、クソ重いよ?なんか液体入ってるしさぁ。中に防弾板ついているしさぁ」
そう言いながらも小塚原と歩幅を合わせて普通に歩いている浅美は体力も豊富といえよう。
「でもその動物、なんだか可愛いです」
「そう?こんなカピバラもどきに?」
「カピバラですか?私にはハムスターに見えますが…」
そんな事言いながら二人は歩いている。無論着ぐるみであるので周囲からの目線も集めていた。
普段はこういった注目を集めてはならない仕事ばかりやっていたので、なんとも言えない感情を抱えていた。
「…はる」
「はい、分かっています」
二人はアイコンタクトを取らずに、スーツケースを握ったまま少し小走りに走り出した。
Do you want a happy end?
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