提督が元ブラック鎮守府に着任しました   作:bottomless swamp

2 / 2
ウォースパイトは着任早々の提督を何とか追い出そうとしたが、今まで前の提督から受けていた仕打ちの反動のためか、高熱を出して倒れてしまった。ここから着任した提督は嫌われているであろうウォースパイトに対して・・・。


第二章 思い出の味は程遠く、思い人の面影はすぐそこに

「木登りだけは得意なんだ」

 

「それにしてもここ四階よ。万が一怪我とかしたらどうしてたわけ?」

 

「どうもしない。そのまま病院送りになるだけだ。難しい話じゃないだろ?」

 

そう他人事のように言って目の前の青年は歳相応の笑顔を見せる。私は朝から具合が悪く、他の皆は演習がありこの宿舎・・この部屋には私と彼しかいない状態だった。

それにしても私と彼はお互いの宿舎の場所を知らなかったはずなのにどうやってここまで来たのだろうと疑問に思った。

 

「どうしてここに?」

 

「この間、証明書落としていっただろ?これを届けに来たって言ったらこの建物を教えてくれたってわけ」

 

「それでなんで入り口から入らないで窓の方から来たのよ・・・?」

 

そう言い終わる前に身体がふらつき倒れそうになった。それをすかさず彼が抱きかかえてくれたため、地面に倒れずにすんだ。

頭が酷く熱くいつものように思考が及ばない。若干、身体にも寒気が出てきた。

彼が心配そうに顔を覗き込んで、頭と頭をこつんと合わせる。その動作に驚いたものの身体は思うように動かない。

 

「すごい熱あるな。薬はもう飲んだのか?この袋空いてるタオル使うぞ」

 

「うん、解熱剤と風邪薬飲んだわ」

 

彼は私を抱きかかえてベッドまで運んでくれた。友達が私にと買ってきてくれたタオルを濡らして私の額にかけてくれた。

 

「朝食は?」

 

「食欲なくて・・・水分はとってるんだけど」

 

「何か腹に入れないと体力もたないぞ。おかゆくらいなら食えるか?」

 

「うん・・・そのくらいなら」

 

「よし!ちょっと調理場借りるぞ。ウォースパイトは大人しく寝ててくれ」

 

そう言って彼は調理場で何やらし始める。いつも会っている彼が料理をしている姿はとても新鮮で。

 

(こんな体の状態じゃなければ手伝いたいのにな・・・)

 

少し悔しく思いながらも冷えたタオルが熱を帯びた頭を心地よく冷やしてくれて、先ほどまで息が荒かったのが嘘のように落ち着いてきた。

トントントンと包丁がリズムよく音を奏でるのを聞く。そういえば、昔お母さんが看病してくれたことを急に思い出す。

夢心地にウトウトしているところに肩を優しく揺さぶられる。ゆっくり瞳を開けるとそこにはおかゆを持った青年が少し申し訳なさそうに立っていた。

 

「ああ、おかゆが出来たんだけどちょっと待たせちゃったみたいだな。これ食ったらもうゆっくり寝ていいから」

 

私は体を半分だけ起こして、彼が作ってくれたおかゆを見る。おかゆの中には卵とねぎと定番のものが入っていた。

今の私からは彼が作ってくれたというのもあって何よりのご馳走に見える。彼はテーブルにあった椅子をベッドの近くまで持ってきてそこに腰かける。

 

「あー、一人で食べられるか?」

 

「どうかしら。さっきまで意識が朦朧としてたからお茶碗ひっくり返すかもしれないわ」

 

「そりゃよくない。じゃあれんげで口元までおかゆ運ぶからゆっくり食えよ」

 

「あら、フーフーはしてくれないの?」

 

その言葉を聞いた彼は少し恥ずかしそうにしながらも「火傷したらたいへんだもんな」と口を尖らせてレンゲに乗せたお米を冷まさせてくれた。

 

「ほら、あーん」

 

口元まで運んでくれたおかゆをそのままレンゲごと口の中にいれる。幸い口の中で火傷することもなくおかゆの卵とねぎが合わさり、ほんのりカツオの出汁がきいている。

普通の料理より薄味なのは私の身体に合わせてくれたからで。気づいたら彼が作ってくれたおかゆを全て鍋にあった取り置き分も平らげてしまった。

 

「食欲ないってさっき言ってたが」

 

「し、仕方ないじゃない。貴方が作ってくれたおかゆが美味しかったからつい全部食べちゃったの!」

 

「まあそれだけ食欲あるなら大丈夫そうだな」

 

気付いたら、時刻はもう13時近くだった。寮の皆が帰ってくるのはあと四時間後くらいだろう。

 

「そういえば貴方今日仕事じゃないの?」

 

「俺は今日は非番だよ。昨日まであっちこっちに物資を運んでたからな。さすがに休めって皆に言われた」

 

彼は冷凍庫に冷やしていたであろうアイス枕を私の枕の上にタオルを巻いて載せる。

 

「それじゃあみんなが帰ってくるまでの間、ちょっとここにいてもらえるかしら」

 

「いいよ。今日くらいはゆっくりしよう。ウォースパイト」

 

もっと色々な話をしたい。もっと彼と一緒にいたいのに。食欲が満たされたら今度は睡魔が自分の身体を支配していく。

 

「おやすみ、ウォースパイト」

 

意識が朦朧とする中でもなんとか彼に傍にいてほしいと思い、彼の手を握りしめていた。

 

「あのさ、誰かの手と間違えてないか?いい加減離して欲しいんだが」

 

目を覚ました時にはさっきまで夢で見ていた彼と似ても似つかないぶっきらぼうな提督が口をへの字にしてジト目で私を見ていた。

 

「あ、貴方!!さっきの提督!!」

 

さきほどまで彼と思っていた手をすぐさま振りほどき上半身を無理に起き上がらせる。

 

「お姉ちゃん、体大丈夫?急に倒れたりして・・・!」

 

「大丈夫よ、心配かけたわね。ジェーナス」

 

ジェーナスが心配そうに私の顔を覗き込んできた。妹に心配かけまいと彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ところで、ジャーヴィスは?」

 

「えっと、ジャーヴィスは・・・」

 

気付いたら先ほどまで椅子に腰かけていた提督の姿がなかった。代わりに聞こえてきたのはジャーヴィスの楽しそうな声と提督の談笑。

 

「こら、ジャーヴィス。卵はいきなりどばっと入れたら汁に混ざっちまうんだ。もっとゆっくり入れろ」

 

「そうなの?おかゆづくりって難しいわね」

 

「難しくはない。料理の手順をしっかり守ってれば大体は形にはなる」

 

ジャーヴィスとともにおぼんを持った提督が現れる。お盆の上には暖かそうなおかゆがのっていた。それに私は少し驚いた。

しかし中身を確認すると卵と人参と椎茸を細かく刻んだものが入れられている。夢の中で彼が作ってくれたものとは別のおかゆだった。

それを見た自分は心の中で残念がっている。

(そんな都合のいい話、あるわけないのに)

 

ジェーナスは提督が持ってきたおかゆを興味津々そうに眺めていた。

 

「うわぁ、美味しそう!!私も食べてみたい!」

 

「ジェーナスもそう思うでしょ?Darling(ダーリン)ってお料理も出来るのね。凄いわ!」

 

二人がおかれたおかゆを見て美味しそうと騒いでいると提督がやれやれとため息をついて話し始める。

 

「まずは倒れた彼女が食べるのが先だぞ。結構沢山作ってあるから、お前らも欲しいならまだ鍋にいっぱいあるぜ」

 

確かに美味しそうではある。おかゆの香りが漂い少し疑問を抱く。

 

「・・・・あなた」

 

「ん?」

 

私はおかゆと提督を交互に見て、提督に質問を投げかけた。

 

「どうして私が和風のおかゆの方が好きって分かったの?普通、私のこの容姿を見たら皆洋風のスープとか出すのに」

 

「本当だ!お母さんがお父さんのためによく作ったおかゆの香りそっくり!」

 

ジェーナスとジャーヴィスも驚いたようにまじまじとおかゆを見つめる。

実際、私とジェーナス、ジャーヴィスはイギリス人の血を引いてるが、父親はれっきとした日本人である。

私達はイギリス人の母方によく似ているためか、容姿からよく"外国人"とみられ、"誰か"と一緒に食事に行くとなると決まって洋食系のレストランが多かった。

そのため初対面でこの人のようにおかゆを出すのはとても珍しいことだ。まず初対面のイギリス人に対してソウルフードを作る際、味噌汁を出す日本人はいない。

 

「-------あっ」

 

提督はしまったと言わんばかりに少し動揺していたが、すぐに落ち着いて話し始める。

私から視線を逸らして。

 

「和風のおかゆしか作れないから作っただけだ。あんたがおかゆを食べられるかとかってのはあんまり考えてなかった」

 

「そうなの?でも・・・・」

 

「と、とにかくそこに置いとくから食うなら食う、食わないなら食わないで好きにしろ、じゃあなっ」

 

提督は早々に立ち去り、私達、姉妹三人が部屋に取り残された。着任早々一体なんなのよと少し頭を抱えるが先ほどまであれだけ彼を追い出そうとしていた気持ちがいつの間にかどこかに吹き飛んでいた。

 

「あんな夢を見てたせい・・・かしらね」

 

「え?なあにお姉ちゃん。身体まだどこか痛いの?」

 

心配そうに顔を覗き込んできたジャーヴィスの頭をなでながら微笑む。

 

「ううん、なんでもないわ。心配かけてごめんね、ジャーヴィス、ジェーナス」

 

「お姉ちゃん、久々に笑ったね。ここに来てそんな表情見たの初めてかも」

 

「そう・・・ね、そうかもしれないわ」

 

ジャーヴィスとジェーナスがここに着任してからは兎にも角にも二人を守ることに必死だった。誰も頼ることも出来ず、誰かに助けを求めることも出来なかった。

いつも切羽詰まった気持ちでいたらいつの間にかそれが当たり前になっていた。あんな夢を見るくらいだ。

もう、私の心は限界だったのかもしれない。

 

「だからってあの提督を信用したわけじゃないけど」

 

出会って早々少し優しくしたからといってすぐに提督を信じられるほど自分はお人よしじゃない。あの人だって心の奥底では何を考えているか分からない。

 

「お姉ちゃん、このおかゆ私と提督が作ったんだけど・・・食べる?」

 

「ええ、いただくわ」

 

さきほど提督が置いたおかゆをおそるおそる食べてみた。

 

「美味しい・・・それに凄く懐かしいわ」

 

けれど思った通り昔彼と一緒に食べたおかゆとは別の味がした。それなのに

 

(まあそれだけ食欲あるなら大丈夫そうだな)

 

一口食べる度に彼とのひと時を思い噛みしめていた。

 

数時間後、少し身体が自由に動けるようになったので執務室に再度向かうことにした。中から提督の声が聞こえてきた。

 

「なあ、足りないものってこれだけか?もっと他にも買ってくるぞ」

 

「あの・・・ジュースとか買ってもいいの?前の提督からは水で十分だみたいに言われてたんだけど」

 

どうやら駆逐艦の陽炎が提督に質問しているようだった。

 

「?もちろん。変にエナドリを大量に買うとかは却下だけどな。ガキが飲むものじゃないし」

 

「私もコーラとか買おうかしら。そういえば昔食べたプリンも毎日食べたかったのよね。フレッチャー姉さんも提督に頼まない?」

 

「ジョンストン、あまり大量に頼んでも・・・一度に買い切れないかもしれませんよ」

 

アメリカ駆逐艦フレッチャーの言葉にパースがならばと声をあげる。

 

「それなら私が同行しましょう。ここの艦娘達はまだ提督に対して警戒心が強い子も多いし、あまり大勢で行くと今度はここの警備が手薄になるので」

 

その言葉にどうしてだろうか自分でも分からないけど、気づいたら私は執務室の扉をあけて、こんなことを言い出していた。

 

「待ちなさい。パース」

 

提督とパースが並んでいるところを見て、何故か少し心が騒めいて落ち着かない。提督が私の視線に気づいたため、すぐさまパースと向き直る。

 

「貴方がここを出てはここの警備が手薄になります。私と同じくらい銃を扱えるのはあなただけなのよ?」

 

「ですが、ウォースパイト。提督一人に買い物を行かせるにはさすがに量が多すぎます。最低でも一人は同行しないと」

 

「・・・私が行くわ。先ほど解熱剤も飲んだし買い物くらいなら問題ないでしょう」

 

その言葉に全艦娘がざわつき始める。

 

「ちょっとウォースパイトさんと提督を一緒に行かせるのはまずくない?」

 

陽炎の言葉にジョンストンはうんうんと頷く。

 

「最悪、あの提督ウォースパイトさんにハチの巣にされちゃうかもね・・・」

 

彼女たちの言葉を聞いたパースはすぐさまに私に対して反論を唱える。恐らく着任したばかりの提督を私が何かしないか心配しているのだ。

そんな彼女を少し内心笑った。パースだってここの提督に色々酷い事をされてきたのにどうしてまた"提督"を信じられる?

また裏切られるかもしれないし、見捨てられるかもしれないのに。何故そんな簡単にこの人に絆されるのか。

 

「そんなの許可出来ません。以前の貴方がここに来た提督に何をしたか覚えているでしょう」

 

「ええ、忘れてないわ」

 

「そんな貴方が・・・提督と一緒に買い物に行くって・・・どういうおつもりですか?」

 

「別にどうも何もないわ。ただこの提督に興味があるだけよ」

 

私ははちらりと提督を見て、軽く微笑む。彼もこの笑みが好意的なものじゃない事は十分に理解している。

 

「勿論、この提督が私に手を出そうものなら額に銃弾を入れることにはなるでしょうけど」

 

私は無言の提督の前まで近づく。

 

「ご存じ?Admiral.私は多少貴方を怪我させても大した罪にならないのよ。この世界では提督より酷い目にあった艦娘の人権が優先されるの」

 

「ウォースパイト、貴方って人は・・・!」

 

「よせ、パース。もういい」

 

私の言葉を聞いた提督は軽く鼻で笑う。

 

「なるほど。確かに俺にとって理不尽な話だな。パース、悪いがここの留守番を頼んだ」

 

提督の言葉を聞いたパースはいつもの冷静な口調に戻ったものの怒気を帯びていた。

 

「わかり・・・ました」

 

提督に近所に大きなスーパーがあると教えて私は車でそこまで連れて行ってもらった。車の中ではお互いほとんど無言で六に視線も合わせなかった。

(あんなことがあったばかりだもの。仕方ないわよね)

スーパー内でメモに書かれた物を次々とカートに入れていく。最近のスーパーでは大家族を標的とした食料品が売られているので非常に助かる。

しかし、私達女性だけではあまり大量に買い込んでもその荷物を持ち帰るのは至難の業。そもそも今はここの鎮守府内の治安が最悪なのだから。

女性だけで出かけたら何をされるか分からない。

 

「なあ、ウォースパイト」

 

カート係の提督はカートに上半身を少しもたれかけながら話しかけてきた。私は目も合わさず、食品棚の調味料を吟味していた。

 

「いきなり馴れ馴れしいわね。貴方」

 

「ふむ、それでは見目美しいウォースパイト様に至っては今日もご機嫌うるわ」

 

「却下。前置きが長すぎるし、人目に付くからやめて。それでなに?」

 

提督がどうしたものかと頭を掻いて、少し気まずそうにしながら質問してきた。

 

「なぁ、なんで俺と一緒に買い物に行こうと思ったんだ?」

 

今まで食品棚を見ていた自分はその言葉に提督の方に身体ごと振り返る。

 

「提督が嫌いなんだろ?いくら解熱剤を飲んでるからってまだ身体は本調子じゃないんだ。嫌な人間に付き合う事はないと思うが」

 

言われてみればその通りである。私は散々酷い目にあってきたし、姉妹以外の艦娘を守る余裕なんて今までなかった。パースがまた提督を信じてまた裏切られても知ったことではない。

自分の行動の不自然さに少し動揺したものの、いたって冷静に答えた。

 

「・・・別に。買い物には行きたかったし、それに今日来たばかりの貴方とパースが一緒に買い物なんてそっちの方が気が気じゃないと思っただけ」

 

「おーおー、言ってくれるね」

 

「それとも、私と一緒じゃ嫌かしら?」

 

「え?なんで?」

 

着任早々、私に対してあまりいい印象は持ってないだろうと。少し、皮肉もこめて言ったつもりだったが、とうの提督はきょとんとした表情で自然に反応する。

 

「嫌じゃないよ。たまには日常生活に溶け込んで娑婆の風景を眺めるのも楽しいよな」

 

「変な人、ねえ、ちょっと紅茶の葉も切らしちゃってるからそっちのコーナーも付き合ってくれる?」

 

「ああ、別にいいよ」

 

私もきっとパースに感化されたのかもしれない。男といるだけであんなに嫌だった自分がこの提督といる時だけそんな嫌悪感が全くないのだから。

えっと・・・提督・・・うーん・・・。

 

「どしたウォースパイト?」

 

「提督、貴方名前は?」

 

「ああ、まだ言ってなかったっけ。本日、この鎮守府に配属となった喜佐見 陸(きざみ りく)大尉だ。よろしく」

 

彼は「なんてな!」と少し照れ臭そうに頬を掻いて笑っていた。何故かその姿に彼の面影が見え隠れしたような気がした。




ようやく提督の名前が判明しましたね(実は五年間考えてなかったとは言えない)
ウォースパイトと提督がイチャコラしてる話を単品で出していく予定だったのですが、
どうも長編になりそうだったんで潔く名前を出すことにしました。
単品はまた別の機会にやりますか。もうちょっと提督とウォースパイトをいちゃいちゃさせたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。