ゆらゆらしないで布瑠部ちゃん!   作:柚李白

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布瑠部由良と乙骨颯太①

 

 

 

 かつて。2018年に起こされた大規模な呪術テロにより、非術師も呪霊の存在を知ることになってしまった。もはや呪術界は隠された世界ではなくった。が、その当時は呪力を一定以上持たぬ者は非術師と呼ばれ、彼等は特殊な状況でなければ呪霊を視ることは出来ない。呪霊を視ることが出来るのは、呪術師(及び呪詛師)のみだった。それ故に、徐々にではあるが人々の意識は呪術界から離れることとなり、詳しく調べれば知ることが出来るが、呪霊や呪詛師に呪われでもしない限りは関わることは殆ど無い。そんな程度に、一度は落ち着いた。

 

 が。約80年前に超常時代が始まり、個性が出現。世界は一度、滅茶苦茶になってしまった。民衆を扇動し世界を牛耳ろうとした、今では都市伝説扱いの巨悪の手によって。加えて、万人によって様々な形を為す個性(異能)。個性を持った非術師全員が、ハッキリと呪霊を認知してしまうようになった。これが民衆の不安と恐怖を必要以上に煽り、呪霊の数が激増してしまい呪術師達は十数年の多忙を極める。

 

 やがて、ヒーローと言う制度が出来る頃。呪術界は、これに関わった。巻き込まれたと言っても良い。個性を得た人類は呪霊を認知することは出来るが、呪霊を祓うことまでは出来ない。個性では呪霊・呪詛師被害を止めることは出来なかったからだ。故に、新たに生まれるヒーロー界には呪術界の協力がどうしても必要だった。

 これにより。個性を発現した非術師は、呪術界に呪霊について指導されることになる。彼等には、通常のヒーロー業務とは別に呪霊の発見や報告。それまでの呪術界に有った『窓』の役割を担うようになった。呪術師達は相変わらずの多忙ではあるが、感知系個性を持つ者達と連携することで、呪霊への対処をよりスムーズに行うことが出来るようになった。呪術界が人手不足であることは変わりない。が、ヒーロー達の尽力によって新たな体制が確立し、呪術師への負担は確実に減り始めた。

 

 超常時代が始まって、約80年。現代の呪術界にて。どうにも人相が悪い十七歳の呪術師、乙骨(おっこつ)颯太(そうた)は苛立っていた。その原因は、目の前に居る透明人間の少女にあった。正確には、透明人間が着ている制服の影に隠れた、布瑠部由良こそが彼の苛立ちの原因なのだが。

 

「こ、こんにちわ〜〜……。今日も眉間の皺がスゴいね、乙骨さん……!」

「こんにちは葉隠さん。半分は、そこに隠れてる馬鹿のせいだ」

 

 ひとまず布瑠部由良の自宅に向かって歩いていた透の目に入ったのは、長い筒を背負い電柱に寄り掛かっていた眉間の皺が目立つ長身の男子高校生。彼が何処の学校に通っているのかは知らないが、彼の通う学校が昔から布瑠部由良をスカウトしていることだけは知っている。由良本人がどうしてもこの話をすることを嫌がるので、透は人伝に聞いて回るしかなかったのだが。

 とにかく。乙骨颯太と葉隠透は顔見知りだ。布瑠部由良がそうであるように、彼もまた葉隠透の姿をシルエットで認識出来る。彼曰く「いくら透明人間でも君以外の全てが視えてるんだから、それは透明人間が視えてると同義なんだ」とのこと。彼が何を言ってるのかは透にはさっぱり分からないが、ひとまず由良のように輪郭だけは視えているという事だけは分かった。

 

「おい、布瑠部由良。隠れてないで出て来い」

 

 低く、重く。颯太が由良に声を掛ける。が、由良が影の中から出て来る気配は一向に無い。過去の経験から男性不信となった由良にとって、颯太はもっとも関わりたくない人間の一人だ。彼が放つ威圧感は、とてもとても十七歳の男子が放つものとは思えない。実際、自分が怒られてる訳でもないのに透は身が竦んでしまう。今日も怖いなぁ乙骨さん、と透は思いながらも、これからどうしたものかと考える。

 依然として影の中に隠れている由良に、外に出て来て貰うように説得するのは難しい。彼女は男子不信だし、人に叱責されるのが嫌いで直ぐに逃げてしまう。しかし、颯太に対して同情もしている。もう何年も、時折由良の前に姿を見せては、悉く由良に無視されている姿が可哀想に見えてならない。どうにか間を取り持ってあげたいと思う反面、幼馴染みに男性と向き合うことを強要することは出来ない。

 

 まぁつまり、葉隠透は乙骨颯太と布瑠部由良の間に挟まれて苦労している。

 

「え、えーっと! ごめんね乙骨さん……! 布瑠部ちゃん今日は調子が悪くって、そっとしておいて欲しいな……っ!

 で、伝言があるなら、後でちゃーんと伝えておくからっ!」

 

 見えない両手、と言うよりは腕をブンブンと左右に振って、透はこの場を収めようと必死になった。そんな彼女を見た颯太は頭を掻いて、項垂れる。それから盛大な溜め息をひとつ。

 

「……。……はぁ……。ごめんね葉隠さん。いつも君を巻き込んじゃって」

「いやいや、布瑠部ちゃんは大事な幼馴染みですから! 乙骨さんも、いつも大変だね……!」

「誰かさんが話を聞いてくれれば、直ぐに済むのにね。お詫びに家まで送るよ、いったん布瑠部由良の家で良い?」

「えっと、うん。じゃあ、それでよろしくっ」

 

 怒った時の颯太は刺々しくて怖い。が、普通に話している時の颯太は柔らかくて優しい。そんな彼のギャップを知る透は、見えない顔で苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 乙骨颯太の目的は、布瑠部由良を東京都立呪術高等専門学校にスカウトすること。及び、呪術界に属そうとしない布瑠部由良の監視だ。

 

 ―――布瑠部由良。彼女は十一年前、通っていた幼稚園にて術式に目覚め、それを顕現させた。幼稚園中を大量の式神で埋もれさせて、堂々と昼寝を楽しんだのである。この大騒動に、呪術界は飛び付いた。飛び付かない理由が無かった。

 

 何せ、彼女に刻まれた術式は十種影法術。かつて、一度は滅んだ御三家のひとつ禪院家に伝わる相伝の術式。それを非術師の家系である少女が持って生まれたのだから、是非呪術師として迎え入れたかったのだ。

 しかし。現実はそう上手くいかない。布瑠部由良本人が、どうしても呪術界から遠ざかろうと逃げるのだ。呪術師をサポートする補助監督が初めてスカウトに行った時、由良は全力で逃亡を図った。式神を使い呪力を使い呪術を使い、とにかく全力で逃げ回ったのだ。これには補助監督ではどうしようもない。

 それから間を置いて何度も訪問してみたが、やはり布瑠部由良は出て来ない。これではスカウトどころではない。だが、御三家相伝の術式を持った少女を放置しておくわけにもいかない。途中から由良に逃げられないよう呪術師も訪問に同行したのだが、そしたらそしたらで影の中から一向に出て来ない。下手に干渉しようとすると、二匹の玉犬が唸りを上げて威圧して来る。事を大きく荒立てたくないので、大人しく引き下がるしか無かった。何より。

 

 あの式神には敵わない。と、スカウトに同行していた二級術師が断言したのだ。倒すとなると最低でも一級が必要だと、呪術総監部に報告した。これにより、呪術界から布瑠部由良に対する警戒度が跳ね上がる。

 ただ術式に目覚めた子供だと思っていたら、二級術師が戦慄する程の実力を式神越しに伝えたのだ。益々、布瑠部由良を放っておくことは出来なくなった。

 

 更に。

 

 布瑠部由良は、東京都に存在する呪霊を式神の遠隔操作にて片っ端から祓ってしまった。どうにか葉隠透越しに、どうしてそのような真似をしたのかと聞いた時、返ってきた返答は「透が取り憑かれそうだったから」だった。

 つまり。布瑠部由良は幼馴染み一人の為に、東京中の呪霊を十一年かけて根絶やしにしたのである。幾ら十種影法術が相伝の術式とは言え、単独で。

 

 この事実を前に、総監部は酷く戦慄した。式神を東京中に派遣し、呪霊を祓う。式神の操作精度や行動範囲が桁外れだ。もしこれが呪霊ではなく、人へ向けられたら……。そう考えたら、恐れ慄くしか無かった。

 故に。布瑠部由良を、要監視対象として見るしかない。場合によっては最悪の呪詛師になりかねない、と。

 

 総監部にとって幸運だったのは、布瑠部由良自身が無気力で自堕落な少女で在ったこと。学業には消極的で、プライベートでは屋外室内問わず寝てることが多い。時には式神を枕や布団代わりとして熟睡している。呪術総監部に反逆しようなどという不穏な動きは一切見せない。

 

 そんな布瑠部由良に対し、総監部が決めた方針は。

 

 呪術高専へのスカウト、及び敵対勢力ならないか監視。この二つだった。

 

 

 尚。スカウト役に呪術高専二年、十七歳の乙骨颯太が任命されたのは、彼が乙骨憂太と禪院真希を祖先に持つからである。

 颯太は颯太で、その血筋と才能に苦労しているようだ。

 

 

 

 

 

 

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