老いたりせども、愛は変わらず。   作:高山典子

2 / 3
第2話

――あっ、もしかして、そこのベージュのコートを来た奥さん、私の熱烈(ねつれつ)なファンでしょ?奥さんぐらいの世代じゃないと、私の若い頃の事を知っている人なんていないですよぉ』

 TVカメラの向きが、俳優の田上から観客席の方へと移り、しどろもどろするスタジオの観客の姿に、田上も司会者も他の観客も、笑いの(うず)に大きく巻き込まれた。

「やぁね〜、私だって、そんな事、知らないわよぉ。面白いわね、この人」

 手を(たた)きながら、TV画面の中で笑う、田上と、おせんべいをかじりながら笑う良子。

 その二人を見て、雅美は、なぜか、あるものが共通していると思った。

 それは、顔つきや(しゃべ)り方といった外見上のものでも、考え方や感性(かんせい)といった中身の問題でもなく、――そう、確実な「老い」だった。

 年を取った人が笑うと、顔にシワが出来る。そのシワから、今、雅美は一言(ひとこと)では言い表せない、その人の人生の苦しみや、やがては訪れる「死」が感じ取れたのだ。

『――はい、それでは一旦(いったん)CMに入ります――』

「あー、本当に愉快(ゆかい)な人ね。もっとドラマ、見ておけば良かったわ。それに――」

「――ねぇ、母さん」

「何よ、雅美。急に改まったような顔して」

「その、――何か、()けたね」

 前もって連絡なしにいきなりマンションに訪れて、高級なおせんべいをバリバリと遠慮無しに(くち)へと運ぶ母を見て、本来ならもっと気(づか)う言葉でも()ければ良かったのかもしれないが、いつも穏やかな母とは違う「何か」を見た気がして、そんな、やるせない声の()け方になった。

「やぁねぇ〜、今更(いまさら)。雅美に小学生の息子と娘がいるのだから、当たり前でしょ。むしろ母さん、『若いお(ばあ)ちゃん』なんて呼ばれているのよ、その二人から」

 雅美は25才の時に、良子は20才の時にそれぞれ最初の子を産んでおり、良子は比較的「若いお(ばあ)ちゃん」といえた。

 ところが、その明るい口調(くちょう)とは裏腹に、良子はすっかり、おせんべいを取る手の勢いを()めて、黙り込んでしまった。

『それにしても田上さんと言えば、ホームドラマで父親役を演じられている作品が多々ありますが、プライベートではどんな風に、ご家族と過ごしていらっしゃるんですか?』

 ドラマではしっかりしていて頼れる役柄、バラエティーなどでは少しハメを外してコメントをする姿が印象的な田上は、その質問に、

『うーん、そうですねぇ……』

と、一旦(いったん)言葉を止めると、

『私って、家では亭主関白(ていしゅかんぱく)で、頑固(がんこ)な父親だって家族によく言われますねぇ。あと潔癖症(けっぺきしょう)な所もありますよー』

と、家族の話題になると、彼は少し(けわ)しい表情になった。

                    (つづく)            

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。