マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》 作:グラタン二世
「さぁ、湖行くか…!」
「はい!」
朝。ここ最近はこれでもかと晴れていているが今日は1段と太陽が光り輝いている。本日の予定は湖に向かい交代で監視。魔獣がもし出てきたら戦闘。そういう予定だ。
トップバッターはカイトとライチ。大体2時間置きにベアの人を交代していって飽きが来ないようにすると今先ほど決めた。
「あれ、2人共どこ行くの?もしかして…」
「今から湖だよ」
カイトとライチが宿を出たところでキーナと遭遇。彼女は彼らがどこに行くのか疑問だったようだが昨日のカイトとの会話を思い出したのか見当がついたように顔を上げる。
「そう。魔獣が出るんでしょ?気を付けてね?」
「あぁ…」
キーナは心配したような顔をしながら言葉を紡ぐ。これを心配したライチはある事を思いつきそれを口に出す。
「心配だったらよぉ…そこの宿にメガロ達居るからよぉ…話し相手にでもなっていてやれや」
「え…いいの?」
「どうせあいつら暇だろうしなァ…!」
「じゃあお言葉に甘えて…行こっかな」
「おぅ。俺らは行ってくるわ…!」
「いってらっしゃーい」
キーナと別れ数分で湖の敷地内に入る。湖の周りはやっぱり手入れはされておらず道らしきものはない。少し歩くとそれなりに大きいが美しいかは微妙なティベリアス湖が現れる。
今日は1日ここで過ごす。できれば何も起こらないでほしいとライチは願った。仕事が無いという事は平和である事だから。
───1時間経過。
「最近は良く魔獣が現れるんだよなァ…」
「そうだな」
ここ最近は魔獣の出現頻度が高く、大勢の人が魔獣関連の仕事に追われていて、特にWALLは顕著で様々な村、街から依頼が来るので全ての場所回りきれないことがしばしばある。
「俺はよぉ…魔獣のいない平和な世界を作りてぇんだ」
「俺も同じようなもんです」
「そうかァ…?なら同じ夢を持つもの同士頑張らねぇとな」
ライチは湖を細めた目で見ながら言う。カイトは近くに同じような夢を持っている人が居たのを知ってちょっぴり嬉しかった。
自分のやっている事は間違っていない事だと大きな自信を持てるようになった言葉となった。
時は流れ、カイト達はメンバー交代の時間がやってきたので1度、宿近くまで戻る。その間に湖前に椅子を置き、メガロ達はじっと待つ。今頃、カイトとライチはキーナの話し相手になっているだろう。
「現れないな」
「だな〜。せっかく待ってるんだから現れて即、討伐したい」
なんとかメガロ、ヒョウの会話は続いているようだ。時たま話題が無くなる事もあるけれどその場合はヒョウがなんとか繋げている。今度は珍しくメガロから会話を振るようだ。
「そういえば、ヒョウはなんでWALLに?」
「お、聞きたいか?」
「まぁ…聞きたくはあるっすね」
メガロが聞きたかったのはヒョウのWALL加入理由。ヒョウはメガロ目線特に魔獣を恨んでいる訳でも無さそうに見えたのだ。
WALLに所属する多くの職員は魔獣に対する恨みを待った者が多い事は新参のメガロですら分かっている事だ。
「オレはキタのクニで産まれたんだ。けど、本当の親には捨てられてさ」
「え…」
「割と多いんだぜ?捨て子ってヤツ。オレはそんな気にしていないけどな」
現在この世界で問題となっている、捨て子。それが目の前にいるとメガロは思いもしなかった。キタのクニだけでなく他のクニにも多くいる。特にミナミのクニは広大な土地のため、捨てられた事に誰も気付かない事もある。
「で、オレは拾われたんだけどそこの家が熱心なネオ教信者だったんだ。色々あって嫌になったから面白そうなここに入ったんだよ」
少しだけ、ヒョウの表情が曇る。余程の事があったのだろうか、それを聞くのはあまりに不躾がすぎるのでメガロは口をギュっと閉じた。
「オレは宗教なんぞ興味ないからさ。だってオレは神なんかよりも世界で1番カッコいいし」
「はは、ブレないんだな」
「神なんてカッコよくないさ。オレが神なんぞ全て否定する」
ヒョウはきっと拾われた時、いや、産まれた時からこうなのだろう。神なんぞどうだって良い。自由にオレがカッコいい事を世に知らしめる。それがヒョウの動く理由だった。
あと、ついでに魔獣を討伐して自身をカッコいいと言ってくれる人を守るため。
「逆にメガロはなんでWALLに入ったんだ?」
「単純明快。故郷を滅ぼされたからだよ」
「あーなるほど?結構大変なタイプだね」
WALLに所属する過程はかなり違っているが、理由としては大体このような感じだろう。嘘は言っていない。ただ、諸々仕組まれた結果入るしかなかったなど言ったら説明するのが面倒臭いのでメガロは詳細を話さなかった。
「とりあえず魔獣が現れるまで待機だな」
「了解」
ここから数時間、夕方頃になるまで特に何も起きず、ダラダラと話すだけの時間が続いた。そろそろ交代だと身体をストレッチしていると、ようやくそれは訪れた。
「来たか」
カイト、メガロペアが湖を見張っている時、魔獣が複数体森の中から現れる。この程度なら彼ら2人だけでも問題ない。──そう、思っていた。
「え、キーナ…?」
つい先ほどまで宿で話していたキーナが何故か森の中にいた。何故、ここにいる。彼女は湖なんて近づかないと言っていたじゃないか。焦る表情が2人に現れる。碌に声も張れない状況で先に声を上げたのはカイトだった。
「キーナ!逃げろ!」
カイトはただ逃げろと叫ぶことしか出来なかった。なんの力も持っていない彼女は魔獣達にとって格好の的だ。既にキーナの近くには魔獣がゆっくりと近寄って来ている。
──駄目だ、動け。
声が上げれなかったメガロは、動く事を決断。彼はキーナのいる場所まで走る、走る。間に合わないと本能的には悟っている。けれど、救うために動かないと、駄目なんだ。
「…!」
キーナの側にいる魔獣に愛銃を向け、銃弾を放つ。それに当たった魔獣はびくともせず、彼女に更に近づく。近くに魔獣がいるというのに彼女の顔はとても笑顔で、儚かった。
そんな彼女の顔をかわいいと思ったと同時に身の毛のよだつような恐怖をメガロは感じ取った。それを感じた瞬間、キーナは口の大きな黒い異形型の魔獣に飲み込まれた。
「キーナ!!」
キーナを飲み込んだ魔獣はメガロに目もくれず、湖に走り出す。それを止めるためにメガロはもう1度、玄の精霊を使役して技名を叫ぶ。だが、それは全くもって効いていない。
有効打を与える事が出来ないまま魔獣は、湖へと一目散に走る。かなりの巨体だが、速い。それに加えて身体も固い。
「カイト!キーナが!」
「あぁ!分かってる!」
複数体現れていた魔獣は未だ残っているが、キーナの救出が優先だと一部始終を見てカイトは判断した。まだ彼女は飲み込まれただけ。噛み切られてはいない。不安を抱えながらもカイトは技を繰り出す。
「『剣軌創生』!」
振り払った剣の軌跡が実現し、それが吹き飛んだ後、数発が魔獣の腹に刻まれる。まだ彼女は飲み込まれただけなら魔獣の胃の中に残っているはずとカイトは信じて、そこに当たるように調整した。もし上手くいけばそこからキーナが出てくるはずだと。
「傷だけかよ…!」
そんな攻撃も虚しく、軽微なダメージを与えるだけに終わる。これだけで終われるかと、もう1度の攻撃をするため、玄の精霊を使役し、技名を叫ぶ。今度は出力も更に上げる。
「『剣軌創生』!!」
湖の方へ走り続けているキーナを飲み込んだ魔獣の近くには、それとは無関係なはずの野良魔獣もいる。それはカイトの剣軌創生に巻き込まれ、身体が真っ二つになる。しかし、件の魔獣は少しだけ血が出ただけで止まる気配などない。
「クソッ…!」
そのままキーナを飲み込んだ魔獣はカイトを押し退けて、湖の中へ勢い良く飛び込む。数秒待っても浮かんでは来ない。中で泳いでいる気配も無い。
魔獣が飛び込んだ湖を見ている間に、メガロはこっちへ帰って来て、そのまま声を荒げる。
「カイト、キーナは!」
「駄目だ。あの魔獣、湖の中へ行きやがった」
「潜るか?」
「いや、先に他の魔獣を倒そう」
あの魔獣で頭がいっぱいになっていたが、他にも複数魔獣は現れているので、そちらも危険と判断しそれらを湖に潜ったヤツよりも先に討伐することにした。
討伐には対して時間もかからず、2人が次に顔を合わせた時にはキーナをどうするかの言葉が出てきていた。
「湖に潜るのは流石に厳しいな…」
「じゃあどうするんだ!」
「とりあえずメガロの攻撃を湖の中へ──」
このまま時間が経つのを待っても意味が無い。無駄に時間を消費すればするほどキーナの救出は難しくなる。危険を侵してでも湖の中へ行く選択肢が出てもおかしくは無い。
だが、その選択はあまりにも危険である事は2人共理解している。湖中や海中での戦闘は呼吸など気にしなくても良い魔獣側が有利だ。精霊の力も碧以外は弱まってしまう。他の精霊を使役する者は水中での戦闘に向いていない。
「あ…?」
どうキーナを助けるかをカイトとメガロが話し合っていると、突然湖が揺れる。そして水飛沫を上げなからゆっくりと巨体を動かす。
「これは…」
「これ…さっきと同じ魔獣か…?」
そこに現れたのは先程、キーナを飲み込んだ魔獣。あれもかなりの巨体だったのだが、それよりも更に大きく成長したような身体に成っている。パッと見だと同じ魔獣には見えない程大きくなっている。それが同じ魔獣だと判断出来たのは、腹にカイトが付けた傷が残っていたからだ。
「なんだよ、これ」
2人は茫然とそれを見つめることしか出来なかった。その巨体の魔獣巨体すぎる故か湖から出るのに苦戦している様子だ。
──今なら、倒せるか?いや、今さっき攻撃は1度も─
どうすれば良いのか、何も分からない。行動しなくてはいけないのに行動が出来ない。分かっている。動かなければ彼女を助けることなど出来ない。けど、俺達だけではどうしようも無いと諦めるしかなかった。けれど──
──それは、間違いだと理解するのはたった数秒先だった。
「どんな状況だァ…!」
「なんだあのデカい魔獣!カッコよくねぇな!」
「ライチ!ヒョウ!」
「帰って来ねぇから湖まで来たらこんな状況だ。何があったァ!」
「キーナがあの魔獣に飲み込まれた!まだ死んではないからアレを討伐して彼女を助けたい!」
「…?キーナが?……詳しくは後で聞くよ」
ライチとヒョウは時間になっても交代しに帰って来ないカイト達を心配し、湖まで戻ってきた。最低でも数体魔獣が現れた程度だと思っていたライチ達は謎の状況に困惑するが、やる事は1つだと分かった。
「とりあえずそこの魔獣、ぶっ倒すぞァ…!」
「だね!」
2人は攻撃態勢になり、自身達の使役する精霊を呼び起こした。