マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》 作:グラタン二世
「『
雷を纏った拳が巨大魔獣の身体に衝撃が走り、揺れ動く。雷撃は片方の拳に輝の精霊を纏わせ、殴打する技だ。付随する効果として、雷撃を受けた者は身体が少し痺れ、動きにくくなるというものがある。
「効いてる気がしねぇなァ…!」
ライチの使役する精霊は輝。彼はカイトのような小手先で使用する者とは違う。輝の精霊と契約している者の中では歴代でも5本の指に入るだろう。
そんな彼の攻撃でもその魔獣はビクともしない。それを見たヒョウは、自身の攻撃の出力を上げて放つ。白の精霊が彼に集まっているのが見えた。
「『アイシカル』」
複数の氷柱がヒョウの周りに現われ、それが魔獣の身体めがけて進んでいく。奴は巨体のため、どんな攻撃でも当たるが、余程の攻撃でないとダメージが通らないのだろう。
「うーん駄目だなぁ…」
WALL第2支部のエースでも攻撃が通らないとなると、絶望してしまう人間もいるだろう。だが、今、この場に絶望の表情を浮かべている者は誰1人としていない。
「腹の部分を重点的に攻撃!いいなァ!」
「分かってるよ!『クラレイル』!」
ヒョウが叫ぶと適度な氷の塊が出現。それが段々と形を変え、ハンマーのような武器となった。
「ふっ…!」
それを思いっきり魔獣の腹へぶつける。正直ダメージが通ったとは言い難い。だがそれを何度も続けていると、少しずつ腹に傷がついていっているように見える。
「チッ…!『クラレイル』!」
1度ハンマーが壊れてしまっても問題はない。この技は幽力の消費が少なく、何度も使えるのだから。
「『剣軌創生』!!」
「『ランドロスビート』!!」
「『雷撃』」
四者四様。様々な攻撃を魔獣にぶつける。こう何度も攻撃を食らうと流石にいくら固い魔獣でも堪えるようだ。力の無いうめき声が聞こえたかと思うと巨体を大きく翻し、地面に寝そべるように身体を倒す。
「全員!避けろァ!」
「うぉぉお!」
魔獣の寝そべりは周りの木々を破壊していく。その攻撃範囲は広く、避けれたのは比較的遠くにいたメガロだけだった。
「こいつァ、硬いだけかァ…?」
「今の、破壊だけを目的にしてないか」
「とりあえず態勢を…」
メガロ以外の3人は攻撃を食らったにもかかわらず、全員大きなダメージは無く、問題無く戦闘続行可能だ。さらには、敵の分析までする始末。
「もう1度、総攻撃だ。奴は身体が固いだけで攻撃力はねぇ!このまま続ければこいつはァ!ジリ貧!」
「よっしゃ!やるぞ!」
ライチの号令を聞き、他の3人ももう1度攻撃態勢に移る。そして、先程と同じような攻撃を撃ち込む。
「グ…ァ…!」
今度はそれなりに効いたのだろう。ようやく痛そうな声を魔獣は上げた。それでも身体には少しのかすり傷がついているだけ。これをずっと続ければ魔獣はジリ貧になるとライチは判断したが、実際ジリ貧になるのはWALL側になるはずだ。だが、そんなものを感じさせない熱気がここにはあった。
「まだまだ行くぞァ!」
4人全員の攻撃が、何度も何度も続く。何度も、何度も。幽力が枯れてしまうのではないかと思う程、攻撃は続く。いつの間にか魔獣の身体は血みどろになっていた。
「そろそろキツイんじゃねぇのかァ!」
「そろそろ倒れろー!」
ライチとヒョウは叫ぶが、カイトやメガロは淡々と攻撃を続ける。これはキーナを助けるための戦いだ。もちろん当初の目的であるグラウン村周辺に現れた魔獣も覚えている。だが、それよりも目の前で起きた事を認められないのだ。
──もう、誰も死なせたくない。
自分達と同じように、魔獣のせいで全てを失って欲しくない。苦しんでしまうのは自分達が最後で良いのだから。そんな思いをキーナが魔獣に飲み込まれた瞬間、2人はようやく自覚した。
「『剣軌創生』」
「『ランドロスビート』」
淡々と、淡々と、何度も、何度も、1人は剣を振るい。もう1人は銃弾を放つ。そして、ようやく彼らの攻撃が功を奏す。
「…!気絶した」
「押し切れァ!」
「「了解!!」」
魔獣が立ったまま動きを止めた。おそらく気絶であるとヒョウは断定。ライチはこのまま押し切るために出力を上げ、自身の使用できる技の中でもさらに攻撃特化の技を準備する。
「『イカヅチ』」
光で白く輝いている弓矢がライチの前に出現し、弦を思いっきり引く。数秒間。他の者が技の準備をしている中、その光の矢を放つ。
「ガ…ァ…!!」
それは勢いよく魔獣へと飛んでいき、脇腹を貫通する。同時に痛みか、それ以外かは分からないが目を覚ます。湖に血がドバドバと流れ、赤く染めていく。それに呼応するように魔獣は大きな叫びを披露した後、無駄に大きな口からビームのようなモノを吐き出した。
「ウォ゙ォ゙ォ゙!!!」
「ぐっ…!あァ!なんだよそれはよァ!」
「…これ、幽力か…!?魔獣が!?」
「なんだ、今の…?分かるかメガロ?」
「分からねぇ…何で魔獣が幽力を…」
それは対して強い攻撃ではなかったが、この場にいる全員に驚愕が走る。本来魔獣は幽力を使うことなどはあり得ない。
いくら突然変異体のような巨体の魔獣だからと言って、特別に幽力が使用出来るのはおかしい。幽力を使用することが出来る魔獣が現れたと本部へ早急に報告すべき情報だ。
「ウァォ゙ァォ゙ァ…!!!」
再度、魔獣が叫ぶ。もう既に満身創痍だろう身体を思いっきり動かし、また近くの木々が無惨に倒されていく。今度は誰もそれに当たらない。
「もうこいつはァ満身創痍だ!腹を裂くぞ!」
「了解!」
「メガロ!俺達はキーナを助ける準備だ」
「分かった!」
元々動きが鈍かった魔獣は、さらに動きが遅く遅くなっている。少し動くのにも時間がかかる程だ。異様に大きい身体は血に塗れ、傷が多く付着している。身体が硬く、何度も彼らの攻撃を受けたためだ。
「そろそろ終わらせようやァ!『ライトニング』」
「『剣軌創生』!!」
巨体な光の剣をライチは手に持ち、振るう。カイトは手に力を込めて、今回は剣を縦に振るう。その2つの軌道は見事に魔獣の身体を裂く事に成功する。
「ウォ゙ォ゙ァァァォ゙ォ゙ォ゙!!!!!」
「ヒョウ!」
「そのまま動かないでくれよ?『フロートル』」
魔獣は、湖の方へと倒れ込む。このままこの巨体が倒れ込めば湖の水が溢れ出し、村へと被害が及ぶ可能性を考慮して湖に氷を何重にも張り巡らせる。しかも、ガッチガチに凍ったヤツを使用した。
「よし!メガロ!中へ!」
「了解…!」
倒れた衝撃で何枚かが割れた音がしたけれど、結果的に水は溢れる事無かった。そこに倒れ込む魔獣へメガロは走り出す。キーナはまだ飲み込まれただけだと、死んではいないと信じて走る。
「キーナいるか!返事しろ!」
ようやく裂かれた魔獣の身体の中へメガロは入る。中はとても暗く暖かいが、何も見えない。
「クソッ…!何処だ…!」
魔獣が巨体だと言えど、探しても見つからないのはおかしい。返事がないのは意識を失っている可能性がある。それを考慮に入れた。それでもメガロは叫ぶ。返事が返ってくる事を願っている。
「ぅ…」
「…!キーナ」
探していた時間は1、2分程度だろうか。か細い声が奥の方から聞こえてきた。急いでメガロはヌルヌルと滑る魔獣の体内を走る。
「だい…じょうぶ…」
「そうか…良かった…」
彼女に大きな傷は無く、ただ魔獣に飲み込まれたショックで意識を失っていただけのようだ。しかしまだ、意識は朦朧としているのか会話が途切れ途切れになっている。
「とりあえず安静にしねぇと…」
メガロはキーナを背負い、魔獣の体内から出るためにもう1度滑る身体を走る。帰る時は探す人がいないのでものの数秒程度で地上に戻る事が出来た。
キーナを探している間は気付かなかったが、彼女以外には人のような影は見当たらない。あれだけの巨体なのだから他に飲み込んでいてもおかしく無いのに何1つない。
「臭ぇな…早く出よう」
少しの時間だから我慢出来たが、魔獣の体内は激臭が走っている。ここに1時間近く居たキーナは外傷が無いとしても何らかに傷がついているかもしれない。
「ヒョウ!キーナを見つけて背負って来た!引き上げてくれ!」
「カッコいいぞメガロ!今、引き上げる!」
「うぉっ…!」
人が乗れる大きさの氷の結晶がメガロのいる場所に現れる。それに乗るとすぐに地上まで上がる事が出来た。思ったよりも上昇する瞬間にグラッと来たので驚いたが、何とか落ちないように踏ん張った。
「容体は?」
「目立つ外傷はない。だが、まだ意識が朦朧としている」
「宿で安静にさせる。それでいいなお前らァ」
「異議なし」
キーナは宿で休ませる事をライチが提案する。それに異議を唱える者などはいなかった。彼女を背負っているメガロと護衛としてカイトが先に宿に向けて走り出す。湖に残ったライチとヒョウは魔獣の処理をするようだ。
「ヒョウ」
「ん?どしたライチ」
「魔獣沈めとけやァ」
「あ、了解了解」
ヒョウは『フロートル』を解除。張られていた何重もの氷が消失し、魔獣は湖の中へと沈んでいく。もちろんそれは巨体なので大きな水飛沫を上げてからだった。
「つめた」
「氷使うお前が言うかよ…」
本来、倒された魔獣の処理はWALL裏方の方が行うもので、それなりに費用と手間がかかる。処理された魔獣はWALL本部に持って行かれる場合や、その場に埋めるなどが分かる。今回は近くに湖があったので費用削減のためにライチは沈めるという判断をしたのだ。
「もう1回『フロートル』で湖凍らせとけよォ…」
「良いのか?」
「まァ…大丈夫なんじゃねえかァ…?」
沈めた後、もう2度と上がって来ないように、再度氷を湖に何重にも張り巡らせる。全く村長などに許可を取っていないが、緊急だったと言えばお咎めは無いだろう。それは勝手にライチが思っているだけだけれども。
「さて、戻るかァ…!」
「つっかれたぁ〜」
魔獣が現れてから、戦闘を終了するまで1時間と数分程度。かなりイレギュラーがあった割には素早く勝利を手にした。ヒョウがここまで疲れているのは少しの間に大技を連発したからだろう。
技の連発はそれなりに披露が溜まる。それは休めば解消されるはずなので、是非とも宿でゆっくり休んで欲しい。……まぁ、今回の件を報告するという仕事が残っているのだが。
「あー負けちまったか」
暗い洞窟の中、マフラーを巻いた男性は声を上げる。
「自信作だったはずだけどなぁ」
少しだけ顔を下に向けながら呟く。その男性の立っている場所は岩でも土でも無い。
「もっと強い
彼──エルは魔獣の改造ができる。魔獣の身体を完璧に理解する事で身に着けた唯一無二の技術。誰もこんな技術を持っていない。
「今回のは硬くしてみたから次は攻撃特化にしてみるか」
そう言うと黙々と近くに倒れている魔獣達をどんどん解剖し、身体を繋げていく。
「うーん、こういう風にすればっと」
ものの数分で骨組みが出来てしまう。彼はこうやって何百体もの改造魔獣を生み出しては没にしてきた。多くの魔獣を手に入れられているのはキーナのおかげだ。
エルは彼女に振り回されてばかりいるので感謝などしたくはないだろうが。もし彼女がいなければ改造魔獣という存在は産まれなかった。
「にしても、改造魔獣にすら好かれるってアイツおかしいな」
キーナは生まれつき魔獣に好かれやすく、多くの魔獣を従える事が出来る。それを見て誰かがポツリと言ったのだ。
──まるで、魔獣の女王みたい。
そろそろ感想でも何でも欲しい(切実)