マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》 作:グラタン二世
戦闘終了より1時間経過。宿に集合し、今後どうするかを話し合っていた。
「とりあえずこれは本部に報告すべき案件だ。分かるなァ?」
「まぁそりゃそうだよね〜」
戦闘は終わってもやる事が残っているのがWALLに入った者の宿命だ。報告書なりなんなり書くのが本当に嫌いで、戦闘しか出来ない者もいたりする。そんな人材はごく僅かだけれどれも。
「オレ達はヒガシのクニの支部に報告しておく。拠点だしな」
「お前達は本部に戻って司令達に報告を頼む」
「分かった」
案件が終わった直後だが、本部へ戻らなければならない。報告はスピードと正確性が求められる。もし効果範囲内であれば、全戦闘員にWALLから配布されている腕のリング──《コムニカ》を使えば良いだろうが、あいにくと範囲外だ。
「馬車の手配をしておくよ」
「ありがとう」
《コムニカ》は現在のWALL副司令カレイドがWALL技術室と共同で開発した通信機だ。紫の精霊の能力『ワープ』を結晶とし、それをリングにはめ、できる限り大きくならず、持ち運びできるようにと試行錯誤した結果、リング状のアイテムとなった。
これが開発された事により、格段に戦闘員との連携を取れるようになり、対魔獣戦に於いて必須になる。欠点は効果範囲が狭く、クニをまたいでの通信は出来ないという事。
だが、それも過去の話になるかもしれない。欠点改善の開発が今も進んでいるのだから。
「もう少しだけ休んでいくか」
「今日割と頑張ったし、良いんじゃない〜?」
今回は普通の魔獣狩りと違い、少々特殊だったので疲れてもしょうがない。カイト達はまだ数回の仕事しかしていないのに2回もイレギュラーな事象に当たっている。
初仕事は推定魔人と遭遇し、今回は幽力を持つ魔獣と出会った。こう何度も遭遇するとなるとカイトかメガロのどちらかが変な事象を引き寄せるフェロモンでも出しているのかと疑いたくなる。もしかしたらフラス達やヒョウ達が出しているかもしれないけれど。
「あと1時間程度したら馬車着くらしい」
「そうかァ?ならそれが来るまで待機。各々好きに過ごせやァ」
「了解〜」
馬車がヒガシのクニの中心部からグラウン村に来るまで、大体1時間程度。たった1時間程度の距離しかないのに中心部とは違い、この周辺はかなり田舎っぽさを感じる。中心が栄えすぎてよりそう見えるのだ。
「じゃあ俺は村もう1回散策してこようかな」
「あ、じゃあ俺も行く」
「よっしゃ行くか」
カイトとメガロは部屋で休まずに、村を散策すると言う。散策と言いながら、実際は少しの間世話になった人へ挨拶に行くだけなのだが。
「オレ達はここいるから時間までに帰ってこいよ」
「はいはーい」
適度な返事をして、カイト達は宿を出ていった。残った2人は今回の件について話し合うようだ。
「あいつらが居ねぇ内に話すかァ…」
「だな」
「あの魔獣はよォ…明らかにおかしかった」
「あぁ。あの巨体に防御力の高さ。それに加えて幽力まで使えるなんてな。ちょっとアレは盛りすぎだね」
今回彼らが討伐した魔獣は異常だった。大体ヒョウの言った通りだが、やはり幽力まで使えていた事が特におかしい。魔獣には本来、幽力を使えるだけの知性は備わっていない。理由は脳味噌があまりにも小さく、考えるだけの力は無いも同然だからだ。
これはWALLが設立されるより前、クニ間での戦争が多かった頃から知られているもので、魔獣を研究者が解剖して分かったことだった。
「普通に出現した魔獣とは思えないよなァ…?」
「魔獣の生殖が未だに不明だからな…もしかしたら新種かもしれないぞ?」
「それならもっと現れてもおかしく無いはずだがなァ…」
魔獣には謎が多い。簡単な事は分かっているが、どうやって産まれ、増えるのかが全く解明されていない。彼らには性器があるからそれを使っているはずだと2体程生け捕りにして、観察することもあった。
しかし、性行為をする事は無く、そのままネオ教の重鎮に「魔獣を嬲るのは辞めろ」と釘を刺され魔獣関連の研究は表立って出来なくなった。
「考察はするべきだがァ…情報があんまり無ぇよな」
「本体なら湖に沈めたしね」
「取り出すのは少し憚られるなァ…」
今更ながら、あの魔獣を湖に沈めた事に後悔するライチ。魔獣研究は裏方の者が今でも行っているが分かる事がやはり少ない。結局どの魔獣も同じような感じなのだ。
「やっぱりネオ教は邪魔だろ?オレが子どもの頃からだ」
「WALLには過激なネオ教信者は居ねぇが…普通のは少しいるからなァ…過激な奴は本当に面倒クセェ…」
WALLに入る者は魔獣に対して恨みを持つ者が大半だ。過激なネオ教信者はWALLに対して憎悪を持っている。普通の信者はそこまでだが、偶に居る過激信者は単なる異常者にしか見えない。
「
「あー確かに。過激な印象は無いけどな〜」
ヒョウを拾った者は過激なネオ教信者だった。かなり過激だったからこそ嫌気が差したヒョウはここに来たのだ。親では無い親に縛られ、好きでもない神を敬うなんてヒョウにはまっぴら出来ない。
「ネオ以外にだって神は居るけどよォ…全然信仰する人見かけねぇよなァ…」
「残念ながらネオが1強だな。ま、オレは神なんて気にしねぇけどよ」
ネオ以外の神、それはサンとルナ。2体の大天使のことである。ネオ側近の大天使とされており、こちらを信仰する人間もいるが、ごく少数となってしまっている。
「…そうだ。話す事があった」
「なんだァ…?」
「あの場に何でキーナがいたかだよ」
唐突に話が切り替わる。今の今までこれを話す予定だったのを忘れていたのかもしれない。
「偶然…近寄るはずねぇしなァ…」
「オレは、誰かに操られたと思ってる」
「その誰かってのはよォ…魔人かァ…?」
「きっと…ね」
ヒョウはキーナがあんな所に行くなんて思わなかった。あの時、家に帰ると言っていたじゃないか。何故ティベリアス湖に居たのか。彼女は湖を忌避していたはずだ。謎は深まるばかりだ。
「キーナの様子見に行ってみるか」
「そろそろ時間も来るしなァ…別れの挨拶だな」
そう言って2人は椅子から立ち上がり、キーナが眠っている隣の部屋へと向かう。
「お~い開けるぞ?」
「返事ねぇな。まだ寝てんのかァ?」
「しょうがない。このまま開けるか」
扉をノックし声もかけたが奥から応答はない。何が起きても良いように鍵はかけていなかったので、するりと扉を開ける。だが、彼女は───
「…いねェ」
「まさか連れ去られたのか…?」
「……カイト達に連絡を頼む。ヒョウ」
「分かった!」
彼女は部屋に居なかった。その部屋は窓が雑に開き、汚くなったカーテンが揺れていた。誰かに連れ去られた可能性もある。そう素早く判断したライチはヒョウに連絡を頼む。外にいるカイト達へ連絡をするためにリングに顔を近づける。
「──カイト」
「おい、聞いてくれ!」
「は?」
連絡しようとした瞬間、逆にカイト達から連絡が来る。あちらから何か来ると思ってもいなかったヒョウは、驚いた表情を見せながらもカイト達に聞き返す。
「どうした?何があった!」
「村の人達みんながこう言うんだよ!」
────キーナ?誰それ知らないよ。
────誰?その人。お前さんの嫁か?
────貴方の友達?そんな子知らないわ。
────知らない。
「いや〜助かったよ。ありがとうね」
「……今回だけだぞ」
「そう言って毎回やってくれるじゃんか」
「黙れ!」
グラウン村、ティベリアス湖。周りの木々は倒れ、湖は氷漬けにされている。見るも無惨な光景だった。そんな場所で男女2人──マキナとエルは合流していた。
「で、情報は得れたのかよ?」
「バッチリよ。彼らに
「そうか。肝心の情報は?」
「そんなのより前に言うことあるでしょ」
「あ?」
「いや、演技上手いって褒めなさいよ」
「お前を使って改造魔獣作ってやろうか?」
心底面倒臭いという風にエルは溜息を大きく吐く。しかしながら彼女は目的を達成しているので、これ以上はとやかく言う事は出来ない。
彼は彼女に気がある訳が無いけれど、ずっと一緒にいる仲間としては大切には思っている。正直本当に改造魔獣にしようと思った事があるがギリギリ踏みとどまった。
「そろそろ迎えが来る…ってもう来たわね」
「流石」
いつも通り空間が歪み、その空間から老人がゆるりと現れる。
「成功したか?」
「えぇ。完璧よ」
「そうか。とりあえず戻るぞ」
3人がその空間に入り、湖を後にする。そして彼らの根城である空間が現れ、アモンが帰ってきた者達に声をかける。
「よぉ。仕事は終えたか?」
「今から全部話すわよ」
アモンは今すぐにでも成果を聞きたいようだ。椅子に座りながらもワクワクしているのが発言と身体の動きで伝わってくる。
「とりあえず言うわ。前にベルが戦ったのは魔獣対策組織《WALL》。彼らは全部のクニに職員がいるらしい」
「なるほど。これからも戦闘は必須ということだな」
「そういう事になるわね」
「もっと作戦は練らないとだな。師匠?」
「あぁ。完全顕現するためにはまだ2箇所必要だからな」
「ヒガシのクニはちょうどマキナとエルがやってくれたしな。助かるぞ」
「もっと褒めなさいよ」
彼らの目的は未だに謎であるが、長い準備が必要な物である事は分かる。既に2つの箇所での仕事は達成しているようだ。目標には1歩ずつ確かに近づいている。
「次の目標は?」
ぶっきらぼうにエルはアモンに言う。彼らに明確な上下関係は無い。というか年齢だって老人を除けばほぼ同じだ。だが、1つだけ言える事がある。アモンには彼らが着いていきたいと思える程の信念が、覚悟があるのだ。
「次は──ニシのクニへ向かわせる。その間に次の段取りと配置決めるぞ」
「今回は誰が行くの?」
「そうだな…今回はレヴィに任せようと思う」
「あの娘大丈夫なの?」
「ここ最近は副作用も安定しているからな。ちゃんと身体を動かして貰いたいし」
アモンは今回──ニシのクニの襲撃にはレヴィという少女を使うようだ。マキナは彼女が諸々の事情で戦闘が出来るとは思ってなかったが、彼が断言するので問題無いのだろうと、これ以上は話さなかった。
「師匠。レヴィ呼んできてくれ」
「おーけー」
「ちゃんと手順を説明しないとな」
アモンがそう言うと、老人は席を立ちレヴィが居る部屋の扉をノックした。マキナとエルは自身の部屋へと戻ったのかいつの間にやらリビングから居なくなっていた。
今回、彼らは明確な
────これから戦闘は激化する。